日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
Print ISSN : 0385-7883
ISSN-L : 0385-7883
45 巻, 3 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
手技・機器の開発
  • 松下 公治, 大橋 直樹, 多賀谷 信美, 星野 明弘, 松村 勝, 根岸 真人, 三原 良明
    2020 年 45 巻 3 号 p. 203-208
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    鼠径ヘルニアに対するtransabdominal preperitoneal approach(以下TAPP)法による腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術において,プログリップメッシュ(以下PG)を用いることで,ステイプルによる固定が不要となる.疼痛を軽減し,メッシュのmigrationを防ぎ,コストを削減できるものの,PGを腹腔内に挿入するには,径10mm以上のポート留置が必要であり,ポート挿入部の疼痛および整容性の低下が問題であった.今回われわれはこの欠点を改善するため,PGを5mmのポート創から腹腔内に挿入する方法を考案した.5mmポートを一旦抜去し,ペンローズドレーン内に入れたPGを,5mmのポート創から腹腔内に挿入することができた.それにより,3ヶ所の5mmのポート創のみでPGを用いたTAPP法(以下TAPP-555)を施行することが可能になったので,その手技と成績を報告する.

症例報告
  • 長内 孝之, 上平 大輔, 村形 綾乃, 田波 秀朗, 中川 剛士
    2020 年 45 巻 3 号 p. 209-213
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例60歳女性.20年前左乳癌に対して他院にて乳頭乳輪温存皮下乳腺全切除同時筋皮弁再建(広背筋皮弁).術後補助ホルモン治療5年実施.術後9年目に温存乳輪部に局所再発をきたした.局所再発部位広範囲切除実施後,患者の希望にて,抗がん剤治療,放射線治療,再発一次ホルモン治療を実施したが,3年後に同側腋窩に転移をきたした.腋窩転移部位を広範囲に摘出し腋窩および鎖骨上,内胸リンパ節領域に放射線治療実施および二次ホルモン治療実施した.3年後さらに腋窩領域に再発をきたし三次ホルモン治療へ変更した.三次ホルモン治療開始後1年後,患側鎖骨上リンパ節の増大を認めた.四次ホルモン剤にて治療後1年で腋窩に再度の転移病巣を認めた.五次ホルモン治療としてmammalian target of rapamycin(以下mTOR)阻害剤であるエベロリムスおよびexemestene(以下EXE)による併用治療を開始した.内服開始後1年6カ月cPRを維持できた.mTOR阻害剤/EXE開始後10カ月で息切れと頻脈出現.胸部単純レントゲン検査にて心拡大を認めた.心臓超音波検査にて著明な心囊水貯留を認めた.mTOR阻害剤内服中止し症状は軽減した.

  • 前澤 毅, 小池 綏男, 柘植 善明, 麻沼 和彦, 福島 優子, 森本 圭介, 土屋 眞一
    2020 年 45 巻 3 号 p. 214-220
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は90歳,女性.主訴は左乳房腫瘤.半年前から左乳房の腫瘤を自覚していたが放置.1カ月前から急速に増大したため受診した.初診時所見は左乳房に28×23cm,皮膚が薄赤紫色を呈する腫瘤を触知した.超音波検査では腫瘍は液状成分で占められ,一部に充実性部分を認めた.CTおよびMRI検査:左乳房に境界明瞭な囊胞性腫瘤を認め,囊胞壁の一部に隆起性病変が存在していた.穿刺吸引細胞診では確定診断が得られなかった.確定診断および治療目的で乳房全切除を施行.病理診断で非浸潤性乳管癌(DCIS),エストロゲンレセプター陽性,プロゲステロンレセプター陽性,HER2陰性,Ki-67:2.8%.年齢を考慮して,術後補助療法はしない方針としたが現在まで再発は認めていない.

  • 鈴木 幹人, 松谷 毅, 萩原 信敏, 野村 務, 吉田 寛
    2020 年 45 巻 3 号 p. 221-227
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は56歳男性.胸部中部食道癌,右肺癌に対し,術前化学療法後に胸腔鏡補助下右肺中葉切除,胸腔鏡下食道切除,3領域リンパ節郭清,胸骨後経路で胃管再建術を同時に行った.切除標本の病理学的検査では,食道癌(高分化型扁平上皮癌,pT2N1,pStage Ⅲ),肺癌(浸潤型腺癌,pT1aN0,Stage ⅠA1)であった.術後12カ月目に左下腿背側に弾性硬で圧痛を伴う腫瘤を触知するようになり,超音波検査にて同部位に2.5×1.5cm大の低エコー腫瘤を認めた.CEA,SCC値の上昇を認め癌の転移を疑い,局所麻酔下で腫瘍摘出術を施行した.術中所見では,腫瘍は左下腿三頭(腓腹)筋の筋線維内に存在していた.境界は明瞭で筋線維への浸潤はほとんどなく周囲の筋線維とともに比較的容易に腫瘍を摘出しえた.摘出標本の病理組織検査では,骨格筋細胞に覆われた腺癌を認め,TTF-1陰性,PE-10(±)の免疫組織染色から肺癌からの転移と診断した.術後約1カ月目で局所再発を認めた.CDDP/PEM併用化学療法,放射線照射は治療抵抗性であった.Nivolumab(計10コース施行)で腫瘍サイズは著明に縮小し,疼痛などの病状を制御しえた.食道癌,肺癌ともに他の臓器転移は認めなかったが,初回手術後2年3カ月目に突然の急性肺塞栓に伴う呼吸不全にて死亡した.食道癌,肺癌同時重複癌術後に肺癌の孤立性骨格筋転移を認めた1例を経験した.

  • 小竹 将, 谷口 清章, 芹澤 朗子, 伊藤 俊一, 鈴木 和臣, 山田 卓司, 山本 雅一
    2020 年 45 巻 3 号 p. 228-232
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    Brunner腺過形成は上部消化管内視鏡検査において観察される機会が多い,十二指腸の粘膜下腫瘍様病変である.一般に良性腫瘍のため経過観察されるが,内腔を占有する腫瘍や増大傾向のもの,出血を伴うものなどは切除の対象となる.腫瘍の主座は粘膜深層から粘膜下層であることより内視鏡的切除が行われるが径30mmを越えるものは合併症が多くなり,開腹手術や腹腔鏡による十二指腸切除が行われてきた.今回十二指腸球部を占拠する径40mm大の有茎性Brunner腺過形成に対し,球部内での内視鏡操作が困難であったため,腹腔鏡を用いて十二指腸壁外より圧排することで腫瘍を経幽門輪的に胃内へ誘導し,EMRを施行しえた症例を経験したので報告する.

  • 佐藤 豪, 池永 雅一, 上田 正射, 太田 勝也, 加藤 亮, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 松山 仁, 玉井 正光, 山田 晃正
    2020 年 45 巻 3 号 p. 233-237
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は77歳の男性で腹痛を主訴に当院を受診した.外傷歴はなかった.腹部全体が硬く,腹膜刺激兆候を認めた.腹部造影CTで腹腔内遊離ガス,腹水を認めた.消化管穿孔と診断し,緊急手術を施行した.開腹時,汚染腹水を認め,回腸末端から40cm口側の腸間膜対側に15mm大の穿孔部を認めた.その他に異常所見を認めず,小腸部分切除および腹腔内洗浄ドレナージを施行した.病理組織学的所見では,穿孔部周辺の粘膜に異常を認めず,特発性小腸穿孔と診断した.また,穿孔部辺縁に限局性の筋層欠損領域を認めた.術後は合併症なく経過し,16日目に退院した.比較的稀な特発性小腸穿孔の1例を経験した.消化管穿孔の原因として,腸管筋層の部分的な欠損が報告されている.本症例においても腸管筋層欠損による腸管穿孔の可能性が示唆された.

  • 小畑 真介, 小林 泰三, 廣野 靖夫, 呉林 秀崇, 五井 孝憲
    2020 年 45 巻 3 号 p. 238-243
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性.SLE,高血圧の既往あり,発熱・上腹部痛を主訴に当院受診した.血液検査では炎症反応高値を認め,腹部CT検査では右側結腸の壁肥厚および辺縁血管に沿った線状石灰化あり,肝彎曲部周囲の脂肪織濃度上昇がみられた.受診時は虚血性大腸炎による急性腹症と診断し,保存的治療により症状はすみやかに軽快した.加味逍遥散の服用歴もあり,腸間膜静脈硬化症(Mesenteric Phlebosclerosis:MP)が疑われた.経過中に施行した下部消化管内視鏡検査で肝彎曲部に狭窄を認めたため,結腸右半切除を施行した.病理所見では静脈壁の線維性肥厚および石灰化,粘膜固有層の膠原線維の沈着を認めMPと確定診断した.今後は早期診断および漢方薬の適正使用により,MPにより重篤な症状に至る症例は減少するが,急性腹症の原因疾患として念頭に置く必要がある.

  • 坂東 俊宏, 池内 浩基, 堀尾 勇規, 桑原 隆一, 皆川 知洋, 内野 基
    2020 年 45 巻 3 号 p. 244-249
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,男性.35歳時に肛門病変が出現しクローン病(Crohnʼs Disease;以下CDと略記)の診断となった.痔瘻に対しInfliximab(以下IFXと略記)を開始するも効果が減弱しAdalimumab(以下ADAと略記)へ変更.腸管病変も増悪し腸閉塞を繰り返すようになった.3回目の入院時にイレウス管挿入となり,精査で回腸末端の狭窄および,内瘻形成を認め,手術目的で当科へ紹介となった.手術所見では回腸末端の病変が一塊となり瘻孔形成し口側腸管の器質的な拡張が認められた.回腸末端の瘻孔病変を含む回盲部切除術を行った.術中定型的にトライツ靭帯より病変がないことを視診,触診で確認しつつ,イレウス管を抜去し手術を終了した.

    術後第4病日まで排便がなく嘔吐もみられるようになり,術後の腸閉塞と診断し,イレウス管を再度挿入し減圧した.腹痛などは認めないものの,排便がなく腹部膨満を認めたため腹部CT精査を行った.CT所見より,腸重積と診断し緊急手術となった.重積腸管の解除をこころみるも困難であり,約60cmの小腸部分切除を施行した.再手術後の経過は良好で第37病日に軽快退院となった.CD術後早期に腸重積を発症した稀な1例を経験したので報告する.

  • 前田 健一, 田中 千弘, 國枝 克行, 河合 雅彦, 長尾 成敏, 仁田 豊生, 杉本 琢哉, 小森 充嗣, 浅井 竜一, 林 弘賢
    2020 年 45 巻 3 号 p. 250-256
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の女性で,10年以上前に便秘の原因検索で直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;以下MPS)と診断され,保存的治療を施行してきた.しかし,徐々に隆起性病変が増大し直腸の狭窄が悪化したため,手術適応と判断した.繰り返し施行した生検では悪性所見は認められなかったが,腫瘍マーカーも基準値を超えており,直腸癌の合併が否定できず病変切除が必要と判断した.低位前方切除術(low anterior resection;以下LAR)を施行し,また虚血性腸炎の既往もあるため,縫合不全を懸念し回腸人工肛門造設術も施行した.下部消化管内視鏡検査(colonoscopy;以下CS)にて再発のなきことを確認し,LAR6カ月後に人工肛門閉鎖術を施行した.その後も保存的治療を継続していたが,CSでMPSの再発を認めた.しかし,術前ほどの隆起性病変を認めず保存的治療を継続した.LARはMPSの一時的な改善,切除による組織診断には寄与するものの根本的治療とはいえず,LAR術後も保存的治療の継続は必須と考えられた.

  • 塩崎 弘憲, 後町 武志, 佐藤 峻, 大木 一剛, 矢永 勝彦
    2020 年 45 巻 3 号 p. 257-262
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の男性.他院で肝障害精査中,肝外側区域に60mm大の肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)を指摘され治療予定であったが,仕事中にターレット式構内運搬自動車の操作中に転倒し心窩部から左側腹部にかけてハンドルに強打し当院に救急搬送された.来院時血圧109/61mmHg,脈拍数64/min,Hb12.9g/dLと明らかな貧血所見は認めなかったが,腹部造影CTにて肝左葉に7cm大の造影不良域を認め既知のHCCと考えられた.腫瘍内に造影剤の血管外漏出を認め,周囲に腹水も見られたため外傷性HCC破裂からの活動性出血と診断し,緊急transcatheter arterial embolization(TAE)を施行し,止血が得られた.血管内治療後,全身状態の安定を確認した時点で肝予備能評価を行い,受傷後19日目に開腹血腫除去術および肝外側区域切除術を施行し,合併症なく術後11日目に退院となった.肝切除術後12カ月の現在再発所見なく外来経過観察中である.外傷性HCC破裂に対してTAE後に肝切除を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 鈴木 崇之, 園田 至人, 前田 慎太郎, 新村 兼康
    2020 年 45 巻 3 号 p. 263-269
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳男性.胃癌にて腹腔鏡下胃全摘術を施行されたが,術後3カ月より原因不明の発熱・菌血症を繰り返すようになった.症状出現から12カ月後に黄疸を発症したため精査を行ったところ,胃癌手術時より指摘されていたHepatic peribiliary cysts(HPBC)が増大,左肝管起始部に圧排・狭窄所見を認め,一連の発熱の原因は胆管炎であったと考えられた.胆管チューブステントを留置し,狭窄の原因と思われる囊胞の穿刺なども行ったが,最終的に胆管炎の制御が困難となり左肝切除を施行した.術後は胆管炎の再燃を認めていない.

    HPBCは無症状であれば通常経過観察とされるが,黄疸や胆管炎の原因となる場合は何らかの治療が必要となる.本症例は胃全摘を契機に増大し,肝門部胆管狭窄を引き起こしたため手術治療を行った稀な症例であるので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 船水 尚武, 峯田 章, 尾崎 貴洋, 五十嵐 一晴, 大村 健二, 若林 剛
    2020 年 45 巻 3 号 p. 270-274
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は16歳の男性.修学旅行中に上腹部痛を認め,搬送先の病院で急性膵炎と診断され入院となった.その際に腹部CTで膵頭部に8cm大の腫瘤を認め,膵炎治療後に精査加療目的で地元の病院へ紹介となった.超音波内視鏡下穿刺吸引法で膵神経内分泌腫瘍G1と診断された.手術を勧められたところ,ロボット手術を希望され,当科へ紹介となった.ロボット支援下膵頭十二指腸切除術を施行し,合併症なく術後25日目に退院となった.病理組織学的には非機能性膵神経内分泌腫瘍G2であった.膵神経内分泌腫瘍は比較的高齢者に多く,10代発症は稀である.今回われわれは急性膵炎を発症した若年性膵神経内分泌腫瘍に対し,根治性・整容性を兼ね備えたロボット支援下膵頭十二指腸切除術を施行した1例を経験したので報告する.

  • 高山 慶太, 酒井 健司, 大橋 朋史, 野呂 浩史, 山崎 芳郎
    2020 年 45 巻 3 号 p. 275-280
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は80歳女性.左肺下葉肺癌に対して左下葉切除術と大動脈外膜切除術を施行され2年後の腹部CTにて脾臓に腫瘍性病変が出現し,その6カ月後の腹部CTにて腫瘍の増大傾向を認めた.FDG-PET/CTにて脾腫瘍に集積を認めたが,他臓器への集積は認めなかった.肺癌の孤立性脾転移と診断し,腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.摘出標本の病理所見は肺癌の組織構造と同様であり肺癌の脾転移と診断した.術後36カ月現在,外来経過観察をしている.原発性肺癌は様々な臓器に多発転移を引き起こすが,孤立性脾転移をきたすことは非常に稀である.今回われわれは原発性肺癌術後に孤立性脾転移を認め,腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した症例を経験したので文献的な考察を加えて報告する.

  • 船水 尚武, 峯田 章, 尾崎 貴洋, 五十嵐 一晴, 大村 健二, 若林 剛
    2020 年 45 巻 3 号 p. 281-286
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,男性.10カ月前に肝細胞癌(T2N0M0 StageⅡ)に対し当科で開腹肝左葉切除術後,経過観察中であった.その5カ月後に腹部CTで右副腎腫瘍を指摘された.再度行われた3カ月後のCTで増大傾向を示し,当院泌尿器科で精査が行われた.肝細胞癌副腎転移が疑われ,当科で切除する方針となった.前回の手術による癒着が想定されたため,ICGによる腫瘍蛍光染色法を用いて腫瘍の位置を同定し,腹腔鏡下に摘出した.病理組織学的にはHepatocyteが陽性で形態学的にも前回の摘出標本と矛盾しないことから肝細胞癌副腎転移と診断した.今回われわれは肝細胞癌副腎転移に対する腹腔鏡下副腎摘出術を施行にあたり,肝細胞癌のICG蛍光を利用した1例を経験した.ICG蛍光法は転移性病変の同定を容易にし,また切除範囲の決定にも有用と思われた.

  • 堺 貴彬, 上田 正射, 池永 雅一, 加藤 亮, 家出 清継, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 太田 勝也, 松山 仁, 山田 晃正
    2020 年 45 巻 3 号 p. 287-290
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は80歳代,老人ホーム入所中の女性.一日前からの発熱,倦怠感,腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部所見は平坦・板状硬であった.認知症があり不明瞭であったが,下腹部を最強点に全体に圧痛があり,反跳痛も認めた.血液検査では炎症反応の上昇を認め,腹部CTでは下腹部骨盤腔内にfree airを認めた.穿孔部位は明らかではないが,消化管穿孔による腹膜炎疑いと診断し,試験開腹術を行う方針とした.下腹部正中切開にて開腹したところ,腹腔内には便塊や便汁の漏出はなく,Treitz靭帯から直腸まで観察を行ったが穿孔部位はみられなかった.膀胱壁に握雪感,浮腫状変化を認めたため,気腫性膀胱炎と診断し,閉腹し手術終了とした.術後は泌尿器科に転科し,尿道カテーテルの留置,および抗生剤投与にて感染徴候は改善したが,経過中に誤嚥性肺炎を併発し死亡した.今回われわれは,消化管穿孔と鑑別が困難であった気腫性膀胱炎の1例を経験したので報告する.

トピックス
feedback
Top