日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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45 巻, 2 号
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原著
  • 小笠原 康夫, 上田 倫夫, 南 裕太, 松山 隆生, 國崎 主税, 遠藤 格
    2020 年 45 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    当教室および関連施設を含めた12施設で2009年1月~2011年12月に施行された腹腔鏡下胆囊摘出術(LC)1,618例につき臨床病理学的因子と胆道損傷との関連を後ろ向きに検討した.開腹移行は72例(4.4%),胆道損傷は7例(0.43%)に認められた.胆道損傷発生は急性胆囊炎の既往ありと有意に相関していた(P=0.002).年齢,性別,BMIや術中胆道造影施行有無など他因子との相関は認められなかった.胆道損傷7例の損傷様式は離断2例,穿孔5例,損傷部位は総胆管2例,総肝管3例,右肝管1例,後区域枝1例,修復は全例開腹により行われ,縫合閉鎖4例,胆管空腸吻合2例,胆管胆管吻合1例であった.LCによる術中胆道損傷の発生因子は急性胆囊炎の既往があることが危険因子の1つであることが示唆された.そのようなハイリスク例を術前的確に抽出することが重要と考えられた.

臨床経験
  • 宇高 徹総, 山本 澄治, 中村 哲也, 黒川 浩典, 宮谷 克也
    2020 年 45 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    高度リンパ節転移を伴う進行胃癌に対する術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy,以下NAC)は有効な治療法の一つである.対象は2015年より2019年までに当院で経験した術前にS-1,オキサリプラチン併用療法(SOX療法)を施行した高度リンパ節転移を伴う切除可能cStage Ⅲ進行胃癌の8例である.結果は,SOX療法施行後のRECIST version1.1基準による臨床的評価ではPRが6例,SDが2例でPDは認めなかった.病理組織学的病期はⅠBが3例,ⅡAが1例,ⅡBが2例,ⅢAが2例であり,downstagingになった症例は8例中7例(87.5%)であった.病理組織学的効果はGrade 1aが3例,Grade 1bが2例,Grade 2aが2例,Grade 2bが1例でGrade 3の症例はなかった.CTCAE基準によるNACの副作用はGrade 1の貧血,嘔気,末梢神経障害が1例ずつ,Grade 2の貧血が2例で,Grade 3以上の副作用は認めなかった.術式はD2郭清を伴う幽門側胃切術が3例,胃全摘術が5例であった.術後合併症は認められず,全例無再発生存中である.

    今後,SOX療法によるNACが高度リンパ節転移を伴う切除可能Stage Ⅲ進行胃癌に対して治療の選択肢の一つになる可能性があると思われた.

症例報告
  • 長内 孝之, 上平 大輔, 村形 綾乃, 田波 秀朗
    2020 年 45 巻 2 号 p. 109-113
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は,50歳女性.43歳時に右乳癌(サブタイプ:ホルモン感受性陽性,HER2陰性:Luminal B)対して術前化学療法(レジメ:アルブミン懸濁型パクリタキセル(以下nab Paclitaxel)3週毎投与を4回投与し,その後5FU・Epirubicin・cyclophosphamide,以下FEC)3週毎投与を4回投与した.術前化学療法後温存術を実施した.その後温存乳房への放射線治療と内分泌療法(LHRHアゴニスト製剤と抗エストロゲン製剤tamoxifenの併用)実施した.内分泌療法終了後1年目に手術部位に腫瘤と両側腋窩リンパ節腫大を認め,精査にて局所再発および両側腋窩リンパ節転移と診断した.内分泌治療としてLHRHアゴニスト製剤とAromatase阻害剤にて治療したが,10カ月で局所腫瘤の増大と両側腋窩リンパ節の増大,右上肢のしびれと前腕から手指の動きに制限が出現しており,進行progressive disease(以下PD)と診断した.CDK4/6阻害剤,選択的エストロゲン受容体抑制薬,LHRHアゴニスト製剤へ変更したが,6カ月で局所再発の再増大にて臨床的PDとなった.同時期に嘔気と嘔吐症状が増悪し,腹満感も出現した.精査にて腹膜播種による腸閉塞と診断した.CDK4/6阻害剤および内分泌治療から化学療法に変更した.化学療法としては,エリブリンメシル酸塩を2週に1回投与(以下Biweekly)にて行うこととした.1サイクル終了後には,経口摂取可能となり,画像診断では部分奏効(partial response,以下PR)を維持しており上肢のしびれも消失した.

  • 髙橋 優太, 田中 則光, 橋田 真輔, 松田 直樹, 岡田 尚大, コルビンヒュー 俊佑
    2020 年 45 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は66歳男性.検診で胃腫瘤を指摘され,近医で上部内視鏡検査を施行した.胃前庭部後壁に潰瘍を伴う隆起性病変を認め,潰瘍部周辺からの生検で分化型腺癌と診断された.進行胃癌の疑いで精査加療目的に当科紹介となった.病変の隆起部分は表面平滑で,クッションサイン陽性であり,胃粘膜下腫瘍の合併を疑った.超音波内視鏡検査と超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引生検にて粘膜下の成分はGISTと診断された.胃GISTの同一部位に合併した早期胃癌と診断し,幽門側胃切除,D1+リンパ節郭清を施行した.病理組織学的検査では,粘膜下層まで浸潤した中分化型胃腺癌と低リスクGISTと診断され,2つの腫瘍の間に正常組織を含んでいることから,それぞれ独立して発生したものと考えられた.2つの異なる腫瘍が同一部位に存在することで,今後の胃癌の発育や進展形式について非常に興味深い症例であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 中山 湧貴, 信藤 由成, 笠木 勇太, 辻田 英司, 石田 真弓, 隈 宗晴, 大賀 丈史, 江崎 卓弘, 藤田 綾
    2020 年 45 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は47歳女性.2018年10月に腹痛で当院救急外来を受診した.造影CTで回腸終末部の壁肥厚を閉塞起点とした機械性腸閉塞を指摘され,保存的加療で改善した.2018年11月,同様の症状で再度当院を受診し造影CTで先の入院時と同じ所見を認め,再入院となった.下部消化管内視鏡検査で回腸壁の肥厚部の生検を行ったが診断に至る所見は認めなかった.腸閉塞症状を繰り返すことより手術適応と判断,2019年2月に手術を施行した.腹腔鏡にて腹腔内を観察すると回腸漿膜面の赤色結節と強く屈曲した腸管を認めたため,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術後経過は良好で合併症なく退院した.標本の病理検査で異所性子宮内膜症の所見を認めたため回腸子宮内膜症に伴う腸閉塞と考えられた.子宮内膜症はしばしば腸管に生じ腸閉塞などの症状をきたしうるが,回腸に発生した腸管子宮内膜症は比較的稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 廣岡 紀文, 小川 淳宏, 森 琢児, 小川 稔, 丹羽 英記
    2020 年 45 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は65歳男性,2014年3月に肛門痛と排便時に出血を認め近医より紹介になった.肛門部に有痛性の硬結を触れた.下部消化管内視鏡検査で,肛門縁より歯状線を越えて,左半周領域に隆起性病変を認めた.左鼠径部には,約2.5cmの硬結を触れ,この部位の生検で神経内分泌癌(Neuroendocrine carcinoma,以下:NEC)と診断した.鼠径リンパ節転移を伴う肛門管NECに対し,術前chemoradiation therapy(以下:CRT)後の腹会陰式直腸切除術を計画していたが,CRT後のPET検査で傍大動脈リンパ節の転移を認めた.肛門管,鼠径部に追加照射を施行後に,肺小細胞癌に準じた化学療法を施行した.傍大動脈リンパ節,鼠径リンパ節の転移はともに消失し,治療後5年も無増悪生存中である.肛門管NECの予後は極めて不良である.本邦の報告例では,腹会陰式直腸切除術または局所切除術が施行されている症例がほとんどであるが,自験例ではCRT後の追加照射および化学療法が著効し,良好な経過を得た症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 奥山 隆之, 新木 健一郎, 山中 崇弘, 石井 範洋, 塚越 真梨子, 五十嵐 隆通, 渡辺 亮, 久保 憲生, 播本 憲史, 調 憲
    2020 年 45 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    【はじめに】腹腔鏡下胆囊摘出術(LC)における術中胆道損傷は約0.6%と報告され,近位胆管損傷や肝動脈損傷合併の場合は適切な処置を要する.今回われわれは,LC時の胆道損傷に対して肝右葉切除を要した症例を経験したので報告する.

    【症例】66歳,男性.前医にて胆石性胆囊炎に対してLCを施行.術直後より胆汁漏を認め胆管を切断したことが判明,左葉B3より経皮経肝胆道ドレナージを施行した.当院紹介後,精査により左右胆管泣き別れ,右肝動脈合併損傷も確認され,右葉動脈血流は左肝動脈から肝門板を介してのみであった.

    【経過】近位胆管と右肝動脈の合併損傷であり,肝右葉切除+胆道再建術を施行した.手術所見は,肝門部を剝離すると胆汁漏と左肝管断端が露出した.右葉切除を行い左肝管と胆管空腸吻合を行った.術後合併症なく術後16日で退院.術後4カ月で胆管炎を発症したが保存的加療で軽快し,以降は肝胆道系酵素異常を認めない.

  • 松本 尊嗣, 岡林 雄大, 須井 健太, 木村 次郎, 秦 康博, 岩田 純, 岡崎 三千代
    2020 年 45 巻 2 号 p. 140-145
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    50歳台,男性.急性膵炎の診断にて前医入院.Dynamic CTにて膵腫大,膵周囲の脂肪織濃度上昇と液体貯留を認めた.MRCPで膵体尾部主膵管の途絶と尾側主膵管の拡張を認めるものの,腫瘤は明らかでなかった.ERCPで膵体尾部移行部に硬い狭窄を認めた.膵液細胞診を6回施行したが陰性であった.膵癌を強く疑い,膵体尾部切除術を施行した.膵全体が炎症性に硬化し腫瘍は視触診で不明であったが術中超音波検査にて腫瘤を認識できた為,術前計画通りの切除が可能であった.病理学的に腫瘍は膵内に限局する14mm大の中分化型腺癌で,明らかな脈管侵襲像は認めなかったが,2個の郭清リンパ節に転移を認め,pT1cN1sM0 fStage ⅡBであった.術後合併症なく第12病日に軽快退院,術後第30病日より術後補助療法を導入された.

  • 東松 由羽子, 吉岡 伊作, 田中 伸孟, 渋谷 和人, 平野 勝久, 渡辺 徹, 澤田 成朗, 奥村 知之, 長田 拓哉, 藤井 努
    2020 年 45 巻 2 号 p. 146-153
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は61歳の男性で,高血圧などで近医通院中であった.以前より主膵管拡張を指摘されており,定期フォローの腹部CTにて膵頭部癌が疑われたため当院に紹介となった.腹部ダイナミックCTにて膵頭部に約20mm大の境界不明瞭な病変を認め,上腸間膜静脈に約90度接していたが血管の変形を認めなかった.切除可能性分類がResectableの膵頭部癌(cT3cN0cM0 cStage ⅡA)と診断し,手術先行の方針とした.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(D2郭清),脾静脈合流部を含めた門脈合併切除術を施行した.脾静脈を再建する方針として,合流部から約50mmにわたり膵実質から剝離した.脾静脈を合流部で切断し,脾静脈中枢端を左腎静脈前壁に端側吻合した.血管吻合時間は24分であり,再建のために要した時間は両血管の遊離も含めて約1時間であった.術後経過は良好であり,血小板などの血球減少や血栓症は認めずに退院となった.退院後も脾腫や血球減少などの左側門脈圧亢進症の所見は認められていない.

  • 中村 雅憲, 大澤 尚志, 栂野 真吾, 青松 敬補
    2020 年 45 巻 2 号 p. 154-160
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は68歳男性.右鼠径部膨隆にて当院外来受診.右鼠径ヘルニアと診断し,2015年10月に手術を施行.全身麻酔下に腹腔鏡下手術を施行したが,ヘルニア囊と考える陥凹部分を認めなかった.右鼠径部腫瘤と診断を改め,腹壁側からのアプローチに切り替えた.精索周囲に脂肪様の黄色腫瘤を認め,精索を温存しつつ周囲脂肪組織ごと腫瘤を切除した.病理組織検査により脂肪腫と診断した.その後,2016年11月頃より再度右鼠径部膨隆を認め,2017年2月に当院外来再診.右精索脂肪腫再発と診断し,2017年3月に手術を施行.腰椎麻酔下に腹壁側よりアプローチした.精索周囲に大小様々な腫瘤を認め,右精索脂肪腫再発と診断した.精索や陰囊を温存しつつ腫瘤および周囲脂肪組織は全て摘出した.病理組織検査により高分化型脂肪肉腫と診断した.その後半年毎に定期検査をしているが,術後2年半再発は認めていない.今回われわれは精索脂肪腫摘出後に発症した精索脂肪肉腫の比較的稀な1例を経験したので報告する.

  • 吉田 公彦, 谷島 聡, 吉野 翔, 鈴木 隆, 大嶋 陽幸, 島田 英昭, 船橋 公彦
    2020 年 45 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    82歳女性.8年前から胃穹窿部が胸腔内に嵌頓する食道裂孔ヘルニアがあり,徐々に陥入する胃の増大を認めたため,腹腔鏡下に食道裂孔ヘルニア手術施行した.術後腹腔内出血を併発したが,保存的加療を行い18病日に退院した.術後6カ月して通過障害を主訴に来院,上部消化管内視鏡で食道内に迷入したメッシュが原因の通過障害を認めた.経口内視鏡を併用し,腹腔鏡下にメッシュ除去術を施行した.食道5時方向に認められたメッシュ迷入に対して3時から反時計回りに8時までメッシュを摘出した.食道壁は長軸方向に2cm開放していたため,全層縫合を行った.大網を縫合部に被覆し手術終了とした.その後,遺残メッシュによる狭窄症状を再度認めたが,上部内視鏡的に摘除を行い,その後狭窄症状は認められていない.食道裂孔ヘルニアに対するメッシュを用いた補強術は有用な方法と考えられるが,合併症としてのメッシュ迷入はその頻度は低いものの今後増加が見込まれる重要な合併症である.

  • 多賀 亮, 豊田 英治
    2020 年 45 巻 2 号 p. 168-174
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例1は70歳女性.主訴は左下腹部と右鼠径部膨隆.CT検査で,左腹直筋外縁の腹壁欠損と脂肪織脱出,右鼠径部から脂肪織脱出を認めた.左Spigelianヘルニア,右鼠径ヘルニアと診断し,腹腔鏡下でメッシュによる修復を行った.症例2は91歳女性.左下腹部痛を主訴に受診.腹部エコー検査,CT検査で,左腹直筋外縁に腹壁欠損と腸管脱出を認めた.左Spigelianヘルニアと診断し,腹腔鏡下でメッシュによる修復を行った.症例3は68歳男性.主訴は右下腹部膨隆.CT検査で,右腹直筋外縁に腹壁の菲薄化を認めた.Spigelianヘルニアと診断し,前方アプローチでメッシュによる修復を行った.いずれも手術関連合併症なく,観察期間中の再発はない.Spigelianヘルニアは稀な疾患であり,治療法が確立していない.最近ではメッシュによる修復が標準であり,さらに診断・治療の面から,腹腔鏡を用いた術式が有用と考える.

  • 船水 尚武, 中林 幸夫
    2020 年 45 巻 2 号 p. 175-179
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,女性.2年前に直腸癌(pT2N0M0 pStage Ⅰ)に対し腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行された.術後5カ月目から会陰部の膨隆を認め,痛みも伴うようになり当科を受診.来院時腹部単純CTで会陰部への腸管の脱出を認め,続発性会陰ヘルニアと診断した.腹腔鏡下にアプローチしたが腸管が骨盤に癒着しており,経会陰的にメッシュを用いて修復した.術後経過は良好で,無再発経過中である.腹会陰式直腸切断術後の会陰ヘルニアの報告は散見され,鏡視下手術,女性,および過長な腸間膜などが発生要因とされる.今回腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術後の会陰ヘルニアを経会陰的に治療した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 中西 亮, 五十嵐 一晴, 尾﨑 貴洋, 筒井 敦子, 若林 剛
    2020 年 45 巻 2 号 p. 180-184
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は73歳男性で,以前より左鼠径部の膨隆を自覚していたが,左鼠径ヘルニアとは診断されていなかった.便潜血陽性精査の目的にて下部消化管内視鏡検査を受けたところ,内視鏡抜去時に抵抗を感じ,同時に下腹部痛が増強した.左鼠径部が膨隆し,CTにてヘルニア囊内にS状結腸と内視鏡が嵌頓していた.整復を試みるも疼痛が強く,腸管損傷の可能性もあったため全身麻酔下に整復およびヘルニア根治術を行う方針とした.

    腹腔鏡手術にて開始し,腹腔内操作と体外からの圧迫により嵌頓を解除したが,S状結腸の一部に漿膜損傷を認めた.術中内視鏡では明らかな粘膜壊死を認めないため,腸管切除はせず漿膜面の損傷を直視下に修復した後に前方修復術によるヘルニア根治術を行った.下部消化管内視鏡検査中のヘルニア嵌頓を経験することは極めて稀であるが,腹腔鏡および術中内視鏡を用いることで低侵襲かつ安全に治療することができたので報告する.

  • 中本 裕紀, 横田 良一, 石川 倫啓, 山田 健司, 田口 宏一
    2020 年 45 巻 2 号 p. 185-191
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/05/24
    ジャーナル フリー

    症例は60歳男性.2年前に上行結腸癌,多発肝転移に対して腹腔鏡下回腸人工肛門造設術を施行した.術後化学療法を施行していたが全身状態の低下があり6カ月前にBSCの方針とし,同時期よりオキシコドンの経口内服を開始した.全身の関節痛を主訴に当科受診.疼痛コントロール目的に入院とした.疼痛原因としては腫瘍関連症候群によるものと考えオキシコドンの増量を行ったが,疼痛コントロールは不良であり眠気や呂律の周りにくさが出現した.他疾患併発の可能性を考慮し精査したところ,関節エコーで上腕二頭筋長頭の腱鞘滑膜炎の所見を認め,リウマチ性多発筋痛症(Polymyalgia rheumatic:PMR)Bird診断基準,ACR/EULAR分類を満たしPMRと診断した.プレドニゾロン換算量10mg/日でステロイドを開始したところ,症状の著明な改善を認めオキシコドンの減量に成功し,種々の副作用症状の消失を認めた.その後少量のステロイドを継続し病状は安定している.

    悪性腫瘍がある場合,腫瘍関連症候群かその他疾患が併発しているかの判断は難しい.オピオイドの増量だけではQOLを損ねる恐れもあり注意が必要であり,PMRなどの他疾患の併発がないか類推することが肝要と考える.

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