日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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47 巻, 5 号
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原著
  • 森脇 義弘, 奥田 淳三, 大谷 順
    2022 年 47 巻 5 号 p. 615-621
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:胃癌では,症例減少から医療資本や診療能力の集約化が必須だが,地方辺縁地域の人口非密集地帯(医療過疎地)での地域内完結診療や適正な分散も排除できない.しかし,被集約化中小規模病院の成績提示能は低く,成績の妥当性は不明である.

    方法:医療過疎地にある当院の胃癌手術例320例の成績を検討した.

    結果:Stage Ⅰ40%,75歳以上50%,症例数/外科医数は2004年頃から低下し年間2例程度.5年生存率はStage Ⅰ94%,Ⅱ75%,Ⅲ49%,Ⅳ10%,全症例70%と,日本胃癌学会集計と同様の数値であった.非切除例は全体の12%,R1およびR2切除は切除例中13%,術後30日以内死亡は2%,90日以降在院死亡は3%,R0手術後再発37例の再発様式は肝27%,腹膜27%,リンパ節35%などであった.

    結語:典型的医療過疎地にある当院での胃癌手術の成績は標準成績と同程度で,その活動は排除すべきとは言えないと考えられた.

症例報告
  • 櫻庭 駿介, 小泉 明博, 上田 脩平, 加藤 永記, 山本 陸, 伊藤 智彰, 櫛田 知志, 櫻田 睦, 前川 博, 佐藤 浩一
    2022 年 47 巻 5 号 p. 622-629
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は73歳女性で,併存疾患としてパーキンソン病に対して内服加療が行われていた.2日前からの発熱と呼吸困難を主訴に当院へ搬送となった.胸腹部造影CT検査,上部消化管内視鏡検査で,食道潰瘍心囊穿通の診断となった.全身麻酔下での手術療法と,より侵襲の少ない治療として経皮心囊ドレナージの双方が検討された.来院時採血で高度の栄養状態不良の所見を認めたため,患者の全身状態を鑑みて,経皮心囊ドレナージを行う方針とした.経皮心囊ドレナージおよび抗生剤加療での感染巣コントロールと3週間にわたる経管栄養により,炎症反応改善と瘻孔閉鎖を認め,54病日にリハビリ目的に他院へ転院となった.自験例では,消化管手術歴や放射線治療歴および薬剤性といった食道潰瘍発症のリスクは認めず,明らかな潰瘍発症の原因は特定できなかった.

  • 藤川 馨, 柳本 喜智, 小田切 数基, 竹山 廣志, 鈴木 陽三, 能浦 真吾, 清水 潤三, 川瀬 朋乃, 堂野 恵三
    2022 年 47 巻 5 号 p. 630-635
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    肺サルコイドーシスの既往がある40歳女性.食道胃接合部癌,cT3N1と診断された.腹部大動脈周囲リンパ節にPETにてFDG集積を伴う腫大リンパ節を認め,サルコイドーシスまたは接合部癌リンパ節転移が疑われた.リンパ節転移評価目的で,腹腔鏡下噴門側胃切除 下部食道切除術 D1+郭清 食道残胃吻合に加えて腹腔鏡下#16b1 latサンプリングを行った.手術時間400分,出血量少量,周術期合併症を認めず,術後10日目に退院した.腹部大動脈周囲リンパ節はサルコイドーシスの診断で,最終診断はpT3N1M0,pStage 2Bであった.術前に腹部大動脈周囲リンパ節転移の診断に苦慮し,安全に腹腔鏡下腹部大動脈周囲リンパ節切除を行えた症例と同術式におけるわれわれの工夫について報告する.

  • 八尋 光晴, 島村 隆浩, 神谷 欣志, 白川 元昭
    2022 年 47 巻 5 号 p. 636-642
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳女性,食思不振・嘔気の精査目的の上部消化管内視鏡検査で,胃体部小彎の亜全周性3型病変を認めた.腹部造影CT検査で胃壁肥厚と全胃が軸捻転を伴いながら縦隔内に高度に脱出したupside down stomach(UDS)を呈していた.術前精査では腫瘍短径は食道裂孔ヘルニア門径よりも大きく,食道裂孔ヘルニア内に嵌まり込み非還納性となったUDSに合併した胃癌と診断して開腹幽門側胃切除術および食道裂孔縫縮術を施行した.UDSに胃癌が合併することはめずらしいが,進行胃癌では非還納性ヘルニアの可能性もあるので,UDSと胃癌の関係を考慮ながら症例ごとに手術方法と術式を選択する必要がある.

  • 岩下 幸平, 山本 訓史, 茂内 康友
    2022 年 47 巻 5 号 p. 643-647
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.2日間,継続する下血を主訴に来院した.来院時,患者の拒否で造影の同意が得られず,腹部単純CTのみ施行した.骨盤内に10cm大の腫瘤性病変を認めたが,卵巣腫瘍の診断であった.下部消化管内視鏡検査にて活動性出血は認めなかったが,上行結腸に憩室と同部位に付着する血餅を認めたため上行結腸憩室出血の診断で絶食保存加療開始となった.しかしその後下血を繰り返し,第16病日に大量下血を契機に出血性ショックとなった.出血源同定のため,同日緊急血管造影検査を施行すると,小腸枝から栄養される骨盤内の類円形濃染像を認め,小腸腫瘍の疑いで緊急開腹手術を施行した.開腹すると,小腸に12×10cmの壁外性発育型腫瘍を認め,小腸部分切除を施行した.病理組織所見ではhigh risk groupのGISTと診断した.術後4年の現在,再発なく経過している.

  • 平松 宗一郎, 王 恩, 杉本 敦史, 辻尾 元, 青松 直撥, 青松 敬補, 井上 健
    2022 年 47 巻 5 号 p. 648-652
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳男性.右鼠径部膨隆を主訴に受診した.既往は脳梗塞のみであった.腹部CT検査で右鼠径ヘルニアと診断され,同時に臍下すぐの小腸に36×33mmの充実性腫瘍を認めた.腹腔鏡下ヘルニア根治術施行後に診断・治療目的に開腹手術が施行された.術中所見は小腸間膜に弾性硬で一部小腸への浸潤をきたす腫瘍を確認し,小腸部分切除術を施行した.病理組織検査では,c-Kit陰性,S-100陰性,Desmin陰性,β-catenin強陽性であり小腸間膜原発デスモイド腫瘍と診断した.デスモイド腫瘍の発生頻度は100万人に2.4~4.3人/年と稀で,家族性大腸腺腫症や,腹部手術既往が発症に関与すると報告される.今回われわれは特に腹部手術の既往のない散発性の小腸間膜原発デスモイド腫瘍の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 柿崎 奈々子, 長尾 さやか, 榎本 俊行, 鳥羽 崇仁, 高橋 啓, 斉田 芳久
    2022 年 47 巻 5 号 p. 653-658
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery:以下LECS)は主に胃病変に対する手技であり,大腸に対するLECSの報告は少ない.今回,われわれは虫垂開口部に位置する腫瘍に対しLECSを施行した4例を報告する.症例1,43歳男性.虫垂開口部の0-Ⅰp polypに対しLECSを施行した.病理診断はTubular adenomaであった.症例2,54歳男性.虫垂切除後の遺残虫垂開口部の0-Ⅰs polypに対しLECSを施行した.病理診断はSessile serrated adenoma/polypであった.症例3,56歳女性.盲腸から虫垂開口部まで広がる0-Ⅱa病変を認め,LECSを施行した.病理診断はAdenocarcinoma,T1b,Ly1b,V1b,BD1であった.症例4,73歳女性.虫垂術後瘢痕上に側方発育型腫瘍を認め,LECSを施行した.病理診断はTubular adenomaであった.本手技は整容性だけでなく,確実なマージンかつ最少の切除範囲で腫瘍の一括切除が可能であった.

  • 呉 一眞, 丹羽 浩一郎, 齋田 将之, 坂本 一博, 関 英一郎
    2022 年 47 巻 5 号 p. 659-665
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は50歳代の女性.腹痛,腹部膨満を主訴に当院に受診した.腹部造影CT検査で回腸末端部の狭窄に伴う腸閉塞と診断した.経鼻イレウス管を留置し一旦改善したが,再度腸閉塞をきたしたため腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.病理組織学的検査所見で虫垂goblet cell adenocarcinomaと診断され,リンパ節転移の可能性も否定できないため追加腸切除を施行した.病期診断はT4b(小腸),N0,M0,ly1,v1,PM0,VM0,pStage Ⅱであった.術後14カ月のCT検査で卵巣転移,腹膜播種を指摘され,全身化学療法を行う方針となった.化学療法は五次治療まで行い,初回手術から45カ月目に癌死した.今回われわれは,虫垂goblet cell adenocarcinomaに対して追加腸切除と化学療法を施行し長期生存が得られた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 塚原 啓司, 大野 玲, 大友 真由子, 吉田 剛, 川村 雄大, 神谷 綾子, 原田 紡, 宮澤 傑, 小畑 満
    2022 年 47 巻 5 号 p. 666-669
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    患者は62歳男性.2022年2月下旬下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.左下腹部に圧痛と腹膜刺激症状を認めた.体温37.9℃,白血球12,400/mm3,CRP 6.8mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.腹部CTにてS状結腸に貫通するような線状の異物が確認できた.上腹部には遊離ガス像と骨盤内には少量の腹水も認めた.異物穿孔による腹膜炎と診断して手術を施行した.腹腔鏡で観察すると,S状結腸に穿孔部が確認でき,穿孔部から約4cm長の線状異物の先端が突き出ていた.鉗子で異物を除去して穿孔部を近傍の脂肪垂で被覆閉鎖した.異物は術後の問診で鴨の骨であることが判明した.術後経過は良好で術後10日で退院した.

  • 坂井 紘紀, 佐野 周生, 柴田 壮一郎
    2022 年 47 巻 5 号 p. 670-679
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は68歳女性.B型肝炎ウイルスキャリアに対する定期腹部超音波で肝S5に8mm大の腫瘤を指摘された.既往に子宮体癌手術,甲状腺眼症がある.肝機能障害や腫瘍マーカー上昇は認めず,造影CTならびに造影MRI検査で腫瘤は早期相で濃染,後期相でwash outを呈し,肝細胞相で低信号を示した.肝細胞癌を示唆する画像所見であったが小径であり確定はできず,診断的治療を行う方針とした.腫瘤は胆囊近傍の肝表に位置し経皮的生検が困難な一方,比較的容易に切除可能であり,腹腔鏡下に肝S5部分切除術,胆囊摘出術を施行した.合併症なく術後5日目に退院した.腫瘤は構造が保たれたリンパ濾胞の集簇により構成され,免疫染色の所見も併せ肝偽リンパ腫と診断された.肝偽リンパ腫は稀な疾患であり,肝細胞癌などの悪性腫瘍との鑑別は困難である.画像診断や生検が困難な小病変に対する腹腔鏡下肝切除は有効な診断的治療法と考えられた.

  • 小山 能徹, 二川 康郎, 池田 圭一, 阿部 恭平, 松本 倫典, 岡本 友好, 池上 徹
    2022 年 47 巻 5 号 p. 680-687
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    十二指腸乳頭括約筋機能不全(sphincter of Oddi dysfunction:SOD)は乳頭括約筋の運動障害や狭窄により胆汁と膵液の十二指腸への排出が障害され,胆道内圧が亢進して腹痛が生じる病態である.今回,内視鏡的十二指腸乳頭括約筋内圧測定(sphincter of Oddi manometry:SOM)施行前に胆道シンチグラフィにてSODと診断し,その有用性が示唆された症例を経験した.

    症例は65歳女性,右季肋部痛の訴えがあり,画像所見にて胆囊結石を認めた.有症状の胆囊結石症の診断で待機的に腹腔鏡下胆囊摘出術が施行された.術後2週間より術前と同様の右季肋部の鈍痛を認めた.各画像所見にて総胆管結石などの器質的原因は認められず,胆汁排泄能評価目的にて胆道シンチを施行した結果,乳頭レベルでの胆汁排泄遅延を認めた.SODを強く疑い,SOMを施行した結果,Oddi括約筋の収縮圧は120mmHgを超えたためSODの診断にて内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)を施行した.EST後症状は消失し,60カ月を経過した現在,症状再燃は認めていない.

    SODは器質的原因を認めない右季肋部痛を認めた場合に鑑別すべき病態であり,胆道シンチグラムはその診断に有用なモダリティと考えられた.

  • 髙橋 直規, 石川 隆壽, 堀川 大介, 山本 寛大, 栁田 尚之
    2022 年 47 巻 5 号 p. 688-692
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.両鼠径部膨隆を主訴に当院を受診.左鼠径部に臥位で還納される鶏卵大の膨隆を認め,右鼠径部に立位,臥位でも還納されず,圧迫により消退しない小指頭大の弾性軟腫瘤を認めた.CT検査上,左鼠径部で下腹壁動静脈内側から腸管の脱出を認め,右鼠径部で腹腔内と連続性のない内部低吸収の結節影を認めた.左内鼠径ヘルニア,右Nuck管水腫と診断し,膨潤法を併用したTrans-Abdominal-Pre-Peritoneal法(以下,TAPP法)による腹腔鏡下水腫切除ならびにヘルニア修復術を施行した.病理組織診断の結果,囊胞の損傷なく完全切除に至り,術後1年経過した現在も無再発経過中である.水腫の局在によってはTAPP法が非常に有用であり,膨潤法の併用は安全な水腫切除に寄与すると考えられた.

  • 上田 容子, 野見 武男, 野村 勇貴, 竹内 豪, 大森 敦仁, 長山 聡
    2022 年 47 巻 5 号 p. 693-699
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は82歳男性,左鼠経部膨隆を主訴に受診した.診察では鶏卵大の左鼠径部膨隆を認め,腹部CT(Computed Tomography)検査で左鼠経ヘルニアを指摘,その他は異常所見を認めなかった.左鼠経ヘルニアに対して経腹的腹膜前修復法(以下,TAPP)を施行する方針となった.術中,左鼠経ヘルニアとは別に,右内側臍ヒダの内側に径1cm大のヘルニア門を認め,外膀胱上窩ヘルニアと診断した.左鼠経ヘルニアと同時に外膀胱上窩ヘルニアもTAPPで治療した.外膀胱上窩ヘルニアは,術前診断が困難で,TAPPを施行した際に偶発的に発見されることもある.無症状であっても嵌頓のリスクがあるため,発見時には他の鼠経ヘルニアと同様にTAPPで治療することが望ましいと考えられた.

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