日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
Print ISSN : 0385-7883
ISSN-L : 0385-7883
41 巻, 6 号
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
原著
  • Hiroshi Asano, Tetsuyoshi Takayama, Naomi Ogino, Hiroyuki Fukano, Yasu ...
    2017 年 41 巻 6 号 p. 891-896
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    We investigated the prediction of postoperative shock using preoperative and intraoperative factors in 176 patients who underwent surgery for colorectal perforation accompanied by diffuse peritonitis at our department from April 2007 to March 2015. Patients given catecholamines after surgery were classified as the catecholamine group, others as the non- catecholamine group. The following 11 items were investigated as predictors: age (≥ 80 years), severity of peritoneal contamination, time from the onset of abdominal pain (≥ 12 hours), presence/absence of chronic renal failure, presence/absence of steroid use, mean blood pressure (< 70 mmHg), presence/absence of systemic inflammatory response syndrome, white blood cell count (<4,000/μL), platelet count (<150,000/μL), serum total protein (<5g/dL), and sequential organ failure assessment (SOFA) score (≥ 3). Univariate analysis showed the severity of peritoneal contamination, mean blood pressure, white blood cell count, serum total protein, and the SOFA score to correlate with shock occurrence. Multivariate analysis of these 5 items revealed the mean blood pressure (odds ratio, 8.46; p=0.0003), white blood cell count (odds ratio, 4.33; p=0.0003), and serum total protein level (odds ratio, 7.51; p=0.0021) to be independent risk factors. Careful postoperative management is required because of the poor prognosis in complicated postoperative shock.

臨床経験
  • 阿部 厚憲, 永生 高広, 金沢 亮, 渋谷 一陽, 松澤 文彦, 森田 恒彦, 本間 重紀, 川村 秀樹, 武冨 紹信
    2017 年 41 巻 6 号 p. 897-901
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症は周術期に起こりえる重大な合併症の一つでありガイドラインに基づいた周術期予防が提唱されている.今回われわれは腹腔鏡補助下手術でのエノキサパリンナトリウム投与の臨床経験を報告する.

    対象と方法:対象は40歳以上の胃癌・大腸癌患者計35例.開腹手術は16例.腹腔鏡手術は19例.エノキサパリンナトリウムを術後第1病日夕より1日2回(2,000IUX 2回)皮下注射で開始し術後7病日まで投与した.

    結果:開腹群で深部静脈血栓症・肺塞栓症を1例認めた.両群間で術後Hb変化に有意差を認めず.腹腔鏡群で1例吻合部からの出血が疑われたがエノキサパリンナトリウムを中止することで止血された.

    結語:腹腔鏡手術において開腹症例と同様のエノキサパリンナトリウムを使用しているクリニカルパスを用いても合併症の発生頻度や臨床経過の違いを認めなかった.

  • 村上 昌裕, 清水 潤三, 古賀 睦人, 川端 良平, 廣田 昌紀, 能浦 真吾, 池永 雅一, 長谷川 順一
    2017 年 41 巻 6 号 p. 902-906
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下肝切除術における第1トロッカー挿入法として,Optical View法の有用性を後方視的に検討した.2008年10月から2016年4月まで,当科で肝腫瘍に対して腹腔鏡下肝切除術を行った74例のうち,過去に腹部手術歴のあった37例を対象として,Optical view法の13例(OV群)と小開腹法の24例(OP群)で手術成績を後方視的に比較した.OV群で気腹までの時間が有意に短かった(OV群;2.8±2.2分 vs OP群;5.8±5.5分,p=0.01).両群でトロッカー留置に関連する合併症はなく,ほかの患者背景や手術成績に差は認めなかった.腹部手術歴のある症例に対する腹腔鏡下肝切除術では,Optical view法による第1トロッカー挿入は有用と考えられた.

  • 百目木 泰, 増田 典弘, 芳賀 紀裕, 木村 明春, 伊藤 知和, 滝田 純子, 中島 政信, 山口 悟, 佐々木 欣郎, 加藤 広行
    2017 年 41 巻 6 号 p. 907-912
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    近年,本邦において単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術が急速に普及してきている.しかし,単孔式手術は通常の鏡視下手術と比較して鉗子同士の干渉や術野の確保が難しく手術が定型化し難い.当科では安全かつ普遍的な腹腔鏡下胆囊摘出術を目指して非鉗子型traction device EndoGrab®とneedle鉗子を用いたReduced Port Surgeryを行っている.臍部を2cmで縦切開しラッププロテクター®,E・Zアクセス®を挿入して気腹する.右側腹部からEndo Relief®を挿入する.EndoGrab®を用い胆囊を腹側へ挙上,固定する.Hemi-parallel法で剝離操作を行う.手術時間は90(中央値)分,出血量は少量,術後在院日数は4(中央値)日で周術期合併症として気胸を2例認めた.本術式の確立には,気胸の発症を克服することが安全かつ普遍的な手技を目指すうえで不可欠である.

症例報告
  • 高橋 慶太, 西川 勝則, 湯田 匡美, 松本 晶, 武山 浩, 矢永 勝彦
    2017 年 41 巻 6 号 p. 913-919
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例1,62歳男性.多発表在食道癌に対し,食道亜全摘術を施行した.病理組織学診断にてpT1b N0 M0 pStage Ⅰ 1),#101Lリンパ節に甲状腺乳頭癌の転移が認められた.食道癌手術より4カ月後に甲状腺亜全摘術を施行した.病理組織学診断にて腺腫様甲状腺腫内に一部甲状腺乳頭癌が認められた.

    症例2,59歳男性.表在食道癌ESD後の追加治療として食道亜全摘術を施行した.病理組織学診断にてpT1b N0 M0 pStage Ⅰ,#104Lリンパ節に甲状腺乳頭癌の転移が認められた.食道切除後に甲状腺精査を行ったが明らかな病変は指摘できなかった.患者と相談の上厳重フォローとしている.

    本症例は2例とも長期予後が見込まれる.本症例のように食道癌手術時の郭清リンパ節より他臓器癌の転移が発見されるケースがあることを考えると,リンパ節郭清は食道癌のstagingのみならず,他臓器重複癌の診断という観点からも重要であるといえる.

  • 大野 玲
    2017 年 41 巻 6 号 p. 920-923
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    乳腺葉状腫瘍は比較的稀な疾患であり,乳癌併発例はさらに稀である.今回われわれは乳腺悪性葉状腫瘍に非浸潤性乳管癌を同時性に併発した1例を経験したので報告する.

    患者は52歳女性.左乳房腫瘤を自覚し葉状腫瘍の診断で乳腺腫瘍摘出術を施行した.術後病理組織学的検査で悪性葉状腫瘍と診断した.この腫瘍近傍に非浸潤性乳管癌(DCIS)を認めた.切除断端にDCISの遺残の可能性があり,術後放射線照射を行い追加切除は施行しなかった.術後1年経過した現在,葉状腫瘍,乳癌いずれの再発も認めていない.乳腺葉状腫瘍には局所再発がしばしば認められ,また頻度は稀ではあるが,癌が併発することもあり得るため,十分な術後経過観察と組織学的検索が重要と考えられた.

  • 奥山 伸男, 小川 史洋, 金 直美
    2017 年 41 巻 6 号 p. 924-928
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    葉状腫瘍に非浸潤性乳管癌を合併した稀な症例を経験したので報告する.症例は74歳,女性.初診日の1週間前,右乳房に小さな腫瘤を触れ,気になり頻回にさわっていたら急に大きくなった,とのことで受診した.受診時右乳房腫瘤は境界,不鮮明で,径10cmあり,硬かった.皮膚表面は赤みをおびていた.マンモグラフィー,超音波検査,MRI,針生検をした.葉状腫瘍または,線維腺腫が考えられたので,周囲組織を含め腫瘤摘出術を行った.術後の病理検査の結果,葉状腫瘍の近くの乳腺組織に,非浸潤性乳管癌を認めた.このような乳癌の合併症例もあるので,葉状腫瘍の摘出時には注意が必要と思われる.

  • Norihito Ise, Atsushi Okuyama
    2017 年 41 巻 6 号 p. 929-934
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    We report a case of HER2-positive esophagogastric junction adenocarcinoma with multiple lung and para-aortic lymph node metastases in a 40-year-old male patient in whom surgical treatment was successful following the administration of a trastuzumab containing chemotherapy regimen. After esophageal stent placement, a chemotherapy regimen consisting of capecitabine (2,000 mg/m2/day, days 1-14), cisplatin (80 mg/m2, day 1), and trastuzumab (during the first course: 8 mg/kg, day 1; second and subsequent courses: 6 mg/kg, day 1) was administered. After six courses, the patient developed renal dysfunction, thus cisplatin was withdrawn and only capecitabine and trastuzumab were administered (every 3 weeks) thereafter. The patientʼs metastatic lesions were no longer detected on CT, and the primary tumor showed a partial response for 16 months. Subsequently, the primary tumor began to grow in size. Lung and para-aortic lymph node metastases remained invisible on FDG-PET. Total gastrectomy with D2 lymph node dissection and sampling of the para-aortic lymph nodes was performed. No complications observed after surgery. An R0 resection was achieved. The histological effect of chemotherapy was Grade 1a. Cancer cells from the regrowth of the tumor were HER2-positive. The patient is currently receiving capecitabine as adjuvant chemotherapy. A follow-up CT scan at 6 months after the operation detected no recurrence. The patient remains alive at 8 months after surgery.

  • 亀山 亨, 小田切 範晃, 加藤 博樹, 宇根 範和
    2017 年 41 巻 6 号 p. 935-940
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.2014年6月に近医で貧血を指摘され,精査加療目的に当院紹介となった.上部消化管内視鏡検査では穹隆部に粘膜下腫瘍を認め,腹部CTで肝外側区域と膵体尾部に広範囲に接する大きさ16×10×10cmの巨大な胃腫瘍を認めた.EUS-FNAを行った結果,c-kit(+)で胃GISTと診断された.PET-CTで遠隔転移を示唆する所見はなかったが,患者希望で,術前に化学療法を行う方針となり,2014年9月よりイマチニブ400mg/日の投与を開始した.化学療法開始後6カ月目のPET-CTでは,腫瘍の若干の縮小およびFDG集積の低下(SUVmax:5.6→2.7)を認めていたが,薬剤性間質性肺炎が出現したため化学療法開始後7カ月目に投薬中止し,胃全摘術を施行した.術後病理診断にて組織学的効果判定はGrade 1b,漿膜面への腫瘍の露出はみられなかった.現在術後化学療法は行わずに経過観察中である.

  • 田中 希世, 西川 和宏, 大谷 陽子, 八十島 宏行, 水谷 麻紀子, 山本 和義, 森 清, 眞能 正幸, 増田 慎三, 平尾 素宏, ...
    2017 年 41 巻 6 号 p. 941-948
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,男性.4年前,局所進行胃癌に対して術前化学療法後に胃全摘術+D2郭清を施行.pStage ⅢCで術後補助療法を行い,以後半年毎のフォローで再発所見を認めず.1カ月前に右乳房の腫瘤を自覚し,当科受診.右D領域に30mm大の腫瘤を認め,CNBで硬癌,ER(-)PgR(-)HER2(-)と診断した.他臓器に病変は認めず.部位・Biologyより典型的な男性乳癌ではないこと,既往に局所進行胃癌があることから胃癌転移の可能性も考えられた.診断治療目的に右乳房部分切除術を施行し,免疫染色を追加し腸管上皮マーカー陽性であり,胃癌の乳房部皮膚転移と診断した.

    原発性乳癌と胃癌の転移を区別することに難渋した.今後の治療内容を決定する上で原発部位の確定診断は重要であり,他に転移を認めなければ診断・治療目的の手術を考慮するべきと思われる.

  • 里吉 哲太, 青山 徹, 渥美 陽介, 風間 慶祐, 村川 正明, 山奥 公一郎, 森本 学, 塩澤 学, 吉川 貴己, 森永 聡一郎
    2017 年 41 巻 6 号 p. 949-954
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は58歳,男性.貧血精査目的に施行した上部消化管内視鏡検査で十二指腸に出血性の腫瘍を認めた.生検の結果,十二指腸Gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)の診断となった.CT検査で,十二指腸水平脚に5cm大の腫瘍を認め,下大静脈と上腸間膜静脈への浸潤が疑われた.手術単独での根治切除は困難と判断し,術前化学療法としてImatinib 400mg/日を開始した.治療3カ月後のCT検査の結果,腫瘍径が縮小し周辺臓器との境界が明瞭となり,かつ遠隔転移を認めなかった.根治切除手術の方針となり,膵頭部十二指腸切除術を行った.術後35日からImatinibの内服を再開し,術後4年たった現在もImatinib内服継続中であるが無再発生存中である.

  • 土方 陽介, 高木 融, 刑部 弘哲, 林田 康治, 星野 澄人, 三室 晶弘, 伊藤 一成, 土田 明彦
    2017 年 41 巻 6 号 p. 955-959
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳の女性,腹痛と嘔吐を主訴に来院した.腹部は膨隆し軽度の圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.CTでは肝S4に門脈ガス像,小腸の拡張と腸液の貯留を認めたが,腸管気腫像や造影不領域は認めなかった.単純性イレウスに伴う門脈ガス血症(hepatic portal venous gas:以下,HPVG)と診断し,保存的に加療をした.翌日のCTでは門脈ガス像は消失していた.イレウス管を挿入したが,イレウスが改善しなかったため,第22病日に手術を施行した.小腸に2×2cm大の管外発育型のGISTを認め,横行結腸と癒着しており,これが腸閉塞の機転と考えられた.腫瘍を含めた小腸部分切除を施行し,術後13日目に退院となった.HPVGは腸管壊死所見として手術適応と考えられてきたが,近年では軽症例や保存的加療を行った症例報告もみられるようになった.初期治療として保存的治療を選択しても,病態が経時的に変化する可能性を念頭に置いて治療に当たることが重要である.

  • 青木 茂弘, 柴沼 倫太郎, 藤塚 光晴, 守屋 智之
    2017 年 41 巻 6 号 p. 960-965
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    的確な術前診断とイレウス管挿入による減圧を行った後,緊急腹腔鏡下手術により整復治療が行えた回腸脂肪腫の1例を経験した.症例は70代女性.急激な腹痛と嘔気のため外来を受診した.右下腹部に有痛性の腫瘤を触知,腹部CT検査にて先進部は脂肪腫による回腸終末部腸重積症の診断となった.イレウス管挿入後,注腸にて整復を試みるも改善せず,発症より約12時間後に腹腔鏡下整復術,回腸部分切除術を行った.摘出された回腸には2cm大の粘膜下腫瘤がみられ,漿膜の色調変化を伴っていた.病理診断では回腸脂肪腫であった.脂肪腫による腸重積の頻度は少なくないが,的確な術前診断により緊急腹腔鏡下手術を行い,良好な経過が得られた症例の報告は少ない.文献的考察を加えて報告する.

  • 志田 陽介, 知久 毅, 橋場 隆裕, 佐野 渉, 加藤 広行, 十川 康弘
    2017 年 41 巻 6 号 p. 966-970
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は33歳女性.発熱および腹部膨満感を主訴に来院した.腹部CTにて下腹部を占拠する腹腔内膿瘍が認められた.経皮的ドレナージも考慮したが腸管損傷のリスクもあったため,まずは抗生剤加療による保存的加療を施行した.著明な縮小が得られたため退院後,下部消化管内視鏡検査を施行し虫垂癌と判明したため,回盲部切除術+D3郭清を施行した.年齢が50歳未満であることからマイクロサテライト不安定性(MSI)の検査を施行したが,マイクロサテライト安定性(MSS)であったため,リンチ症候群との関連性は認められなかった.リンパ節転移を伴っていたため,術後補助化学療法を外来にて施行している.術後3カ月経過するが,再発兆候なく経過観察中である.若年発症の虫垂癌は比較的稀であるため,若干の文献的考察も含め報告する.

  • 山内 潤身, 福山 時彦, 倉田 加奈子, 長尾 祐一, 江上 拓哉, 中島 洋, 鬼塚 幸治, 北原 光太郎, 中村 賢二, 八谷 泰孝
    2017 年 41 巻 6 号 p. 971-974
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,男性.上行結腸癌に対して当科にて腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.病理組織学的検査にて,中分化管状腺癌,tub2,pT3(SS),ly1,v0,N0,Stage Ⅱであり,腫瘍近傍の粘膜下層に一部石灰化を伴う日本住血吸虫卵を認めた.患者は日本住血吸虫の国内流行地の一つ,山梨県甲府盆地に居住歴があった.日本住血吸虫の国内での流行は終息しており,本症例も陳旧性病変と考えられた.日本住血吸虫の流行地では大腸癌の発症率が高く,本虫感染と大腸癌との関連性も示唆されている.

  • 井口 友宏, 辻田 英司, 吉田 大輔, 太田 光彦, 南 一仁, 池部 正彦, 森田 勝, 伏見 文良, 田口 健一, 藤 也寸志
    2017 年 41 巻 6 号 p. 975-980
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,女性.S状結腸癌に対し,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した(中分化型腺癌,pT3N0M0,pStage Ⅱ).術後,縫合不全・急性腹膜炎を合併し,人工肛門造設術を要した.術後9カ月目のCTで門脈右枝~末梢内腔が低吸収域として認め,門脈血栓を疑い抗凝固療法を開始した.経時的にfollowしたところ,門脈内低吸収域に変化はなく,右横隔膜下膿瘍の増大,右副腎の増大を認めた.門脈内低吸収域,右副腎腫瘤はともにFDG異常集積を認めた.明らかな肝転移は認めないものの右門脈腫瘍栓と右副腎転移を疑い,門脈切除再建併施,右副腎・右横隔膜合併拡大肝右葉切除術を施行した.病理組織学的に右副腎,門脈内腫瘤はいずれもS状結腸癌の転移として矛盾しない所見であった.

    肝実質転移を伴わない大腸癌の門脈腫瘍栓は極めて稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 松田 圭二, 塚本 充雄, 赤羽根 拓弥, 堀内 敦, 島田 竜, 端山 軍, 岡本 耕一, 土屋 剛史, 藤井 正一, 野澤 慶次郎, 橋 ...
    2017 年 41 巻 6 号 p. 981-988
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    人工肛門癌は非常に稀な疾患で報告は少ない.今回われわれは直腸S状部癌術後の人工肛門癌によるイレウスの1例を報告する.症例は54歳の男性.膀胱と回腸に浸潤した直腸S状部癌にて骨盤内臓全摘術および回腸部分切除術が施行された.術後9カ月目に人工肛門部に腫瘍がみられるようになり,CT検査で腹膜播種,リンパ節転移,腹直筋転移が認められた.さらに2カ月後に腹痛を発症し,結腸の拡張がみられた.人工肛門に癌がみられ,そのすぐ奥で狭窄が存在し,結腸イレウスを発症していた.人工肛門に発生した再発癌が化学療法によって縮小し,結腸狭窄をもたらしイレウスが発症したと考えられた.手術は横行結腸人工肛門造設術を施行した.術後2週間で化学療法を再開し,人工肛門癌は縮小した.人工肛門癌によるイレウス症例は,会議録を含めて検索したが本邦では認められなかった.

  • 菅野 優貴, 伏島 雄輔, 小川 展二, 飯野 佑一, 高草木 智史, 丸橋 恭子, 小曽根 隆, 高木 均, 篠塚 望
    2017 年 41 巻 6 号 p. 989-994
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,女性.C型肝炎治療のため通院.2013年8月に肝S3,S5の肝細胞癌を発症し,ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation;RFA)を施行した.その1年8カ月後,肝S4に8mm大の肝細胞癌が出現し,同様にRFAを施行した.しかしその後もAFPが高値であったためCT検査を施行したところ上行結腸の外側に早期濃染する直径40mm大の腫瘤性病変を認めた.肝細胞癌の転移が疑われたため手術を施行した.病理学的検査所見から肝細胞癌の転移と診断された.腫瘍部以外には顕微鏡的観察でも癌が存在する所見は認めず,孤立性の腹膜転移病変であった.肝細胞癌は他臓器癌に比べて腹膜転移が少ないとされ,また肝細胞癌の腹膜転移は浸潤傾向や瀰漫性の広がりが少なく限局した発育を示すことが多いとされている.孤立性で他に遠隔転移がなければ外科的切除により生命予後を延長する可能性があると考えられた.

  • 藤田 俊広, 曽我 直弘
    2017 年 41 巻 6 号 p. 995-1000
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,女性.発熱と右上腹部痛を主訴に来院した.腹部超音波検査,腹部CT検査を施行して,肝右葉の径11cm大の感染性肝囊胞と診断した.抗菌薬での治療を開始したが,改善を認めなかった.保存的治療の限界と判断し,第4病日に腹腔鏡下天蓋切除術を施行した.S.A.N.D.バルーンカテーテル®(八光メディカル)を使用して囊胞内容を吸引したのちに囊胞壁を牽引し,Liga sure®(コヴィディエンジャパン)を用いて,切離し天蓋部を摘出した.吸引内容は白色膿性であり,Klebsiella Pneumoniaeが検出された.経過は良好で術後第20日目に退院となった.感染性肝囊胞は比較的稀な疾患であり侵襲と根治性を考慮して保存治療,経皮経肝ドレナージ,手術などが治療として選択される.今回われわれは,超高齢者の感染性肝囊胞に対し腹腔鏡下手術を施行し良好な転帰を得ることができたため,文献的考察を加え報告する.

  • 中西 亮, 海津 貴史, 西山 亮, 田島 弘, 隈元 雄介, 渡邊 昌彦
    2017 年 41 巻 6 号 p. 1001-1006
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は44歳の男性で,9年前に多発肝囊胞を伴った常染色体優性多発性囊胞腎と診断され当院内科で経過観察されていた.徐々に腎機能の低下を認め,尿毒症症状や腹水貯留を伴うようになり血液透析の導入目的に入院となった.透析導入するも血圧低下による透析困難症を伴い,腹水貯留も改善しなかったため腹腔-静脈シャント(Denver Shunt®)を造設した.術後は腹水貯留が消失し,透析中の循環動態も安定した.術後10カ月が経過した現在,腹水の再貯留やカテーテル関連の合併症も認めていない.常染色体優性多発性囊胞腎に合併した多発性肝囊胞による難治性腹水に対し,Denver Shunt®造設の著効例は稀少であり,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 清水 将来, 小川 稔, 城田 哲哉, 小川 淳宏, 渡瀬 誠, 丹羽 英記
    2017 年 41 巻 6 号 p. 1007-1011
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は58歳男性.自動車運転中のてんかん発作により交通事故をおこし当院に搬送された.腹部造影CTで腹腔内出血を認め緊急手術となった.術中所見で横行結腸間膜損傷を認め結紮止血術を行った.可及的に腹腔内検索を行ったが,その他の臓器損傷は認めなかったため手術終了した.経過は順調であったが,術後5日目に正中創より便汁漏出を認め,CTでは腹水・遊離ガスを認め消化管穿孔と診断し緊急手術を施行した.術中所見では横行結腸の中央部に5mm程度の穿孔を認め,穿孔部を単純閉鎖しイレオストミーを造設した.来院時穿孔を疑う所見がなく,また初回手術時に腸管損傷を認めなかったことより術後合併症ではなく外傷性遅発性大腸穿孔であると考えた.経過は良好で穿孔術後6日目より経口摂取を開始し36日目に軽快退院した.鈍的腹部外傷では常に遅発性消化管穿孔の可能性を念頭に置き,腹部症状,炎症所見などの注意深い観察が必要であると考えられた.

  • 山根 貴夫, 石多 猛志, 石井 雅之, 大石 英人, 新井田 達雄, 亀岡 信悟
    2017 年 41 巻 6 号 p. 1012-1016
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.左鼠径ヘルニアの診断にて腹腔鏡下ヘルニア修復術(Totally extraperitoneal preperitoneal repair:TEP)を施行した.腹膜外腔拡張バルーン(Preperitoneal dissecting balloon:PDB)を挿入し腹腔鏡視下に腹膜前腔を拡張させたところ,拡張バルーン越しに膀胱壁の裂創とさらに尿道バルーンの露出を視認し膀胱損傷と診断された.膀胱損傷の原因は不明であったが,別症例で同様に腹膜前腔をPDBで拡張させたところPDBと尿道バルーンに挟まれて菲薄化した膀胱壁が確認された.以上から今回この菲薄化した膀胱壁の一部がさらなるPDBによる圧力により損傷した可能性もあることが推測された.TEPにてPDBで拡張剝離するときは,尿道バルーンとに挟まれた菲薄化した膀胱壁が存在している可能性があることを念頭に置く必要があると思われた.

  • 菅 淳, 瀬山 厚司, 松野 祐太朗, 末廣 祐樹, 井口 智浩, 井上 隆
    2017 年 41 巻 6 号 p. 1017-1021
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    スピーゲルヘルニアは,腹直筋外縁より発生する腹壁ヘルニアで,全腹壁ヘルニアの0.1~2%と稀な疾患である1).今回われわれは,スピーゲルヘルニアに対して,腹腔内オンレイメッシュ法による腹腔鏡下ヘルニア修復術を2ポートで施行したので報告する.症例は84歳,男性.右下腹部痛・嘔吐を主訴に来院.腹部CT上,右腹直筋外縁より小腸の脱出とイレウスの所見を認めた.右側スピーゲルヘルニア嵌頓と診断し,用手的に還納後,待機的に腹腔鏡下修復術を施行した.手術は2ポートで施行され,右腹直筋外縁のヘルニア門を中心に半吸収性デュアルフェイスメッシュを展開し,吸収性タッカーで全周性に固定した.手術時間は59分.術後経過良好で,現在のところ再発は認められない.

  • 原 仁司, 立川 伸雄, 佐藤 宏喜
    2017 年 41 巻 6 号 p. 1022-1027
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    症例は60歳代の女性.2週間前から悪寒と発熱,5日前から右下腹部の疼痛と腫脹が出現したため当院を受診した.腹部造影CT検査では,右下腹部に腹壁内まで広がる膿瘍を認め,膿瘍は盲腸と連続していた.腹壁内の膿瘍は右鼠径管に一致しており,膿瘍を伴うAmyandʼs herniaと診断し,緊急手術を施行した.術式は虫垂切除および右鼠径ヘルニア修復術とした.高度な炎症にて右鼠径管後壁は融解しており,残存した右鼠径管後壁の組織を用いてiliopubic tract法に準じて可及的に縫合閉鎖しヘルニア門修復とした.病理組織診断にて壊疽性急性虫垂炎と診断された.術後に右鼠径管内に膿瘍を合併したがドレナージにより改善した.造影CT検査にて術前診断が可能であった膿瘍を伴うAmyandʼs herniaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

トピックス
  • 東口 髙志
    2017 年 41 巻 6 号 p. 1028-1034
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

    わが国の高齢化は著しく,年々医療を必要とする高齢者は増加の一途である.これと共に,わが国の年間死亡者数をみると2012年は120万人であったが,2035年には170万人に達するとされている.この+50万人(170万人-120万人)の患者さんが安心して医療を受ける場所あるいは人生を全うする場所が存在しなくなる.このような中,わが国の栄養療法は着実に医療の基盤を担うものとしての足場を固めつつある.しかし,医療の外に目を向けると,現在の脆弱な体制ではおよそ多くの人々を支えることは困難である.そこで,注目されるのが「社会栄養学」である.すなわち,入院前に栄養状態が良好であれば,入院後のNST(nutrition support team)の負担も軽減され,外科的手術やがん治療なども合併症や副作用が回避されて予後も良好となる.したがって,高齢社会においては如何にして医療の外を固めるかが課題であり,普通の生活の中で高齢者がサルコペニアに陥らないような生活支援体制の構築が求められる.この社会栄養学を実践するツールがWAVES:We Are Very Educators for Society(地域住民への栄養学的リスク回避教育)である.社会栄養学とWAVESの概念と実践が医療の基盤を支え,私を含めた将来の高齢者がそれぞれの地域でいきいきと生き,幸せに逝ける社会の創設につながればと思う.

feedback
Top