症例は11歳女児.1歳時に乳腺炎の既往あり.今回,右乳房の乳腺炎症状にて近医乳腺クリニック受診.膿瘍穿刺2回と抗菌薬投薬を行うも症状悪化したため当科紹介となった.右乳房全体の発赤と緊満感と強い自発痛を認め,USでは右乳房上半分を占める広範な膿瘍とその内部に2cm大の腫瘤様低エコーを認めた.同日,全身麻酔下に緊急膿瘍ドレナージ術を行った.右傍乳輪に約4cm切開を加えると,膿汁とともに灰白色の腫瘤が排出された.皮膚所見では,右乳房中央に生下時より存在する母斑を認めた.その母斑は約2mmの黒褐色小母斑が多数(100〜120個)集簇し,各々は面皰を形成しており,面皰母斑と診断した.膿瘍腔より排出された腫瘤の病理診断は,epidermal cyst様の角化壊死物であった.面皰母斑由来の角化物によって重症化したと考えられる小児乳腺膿瘍の1例を報告する.
症例は59歳女性.5カ月前,転倒し体を捻り左肋骨骨折と診断された.2カ月前,左季肋部痛を認めCT検査で左第7~10肋骨骨折,左外傷性横隔膜ヘルニアを認めた.1カ月前より呼吸苦出現し,2日前腹痛を認め外来受診した.CT検査で胸腔内に横行結腸が脱出し横隔膜ヘルニアと診断された.手術拒否したため経過観察となったが,再度腹痛が出現しCT検査でヘルニア嵌頓を疑い緊急手術となった.腹腔鏡下で行い,ヘルニア囊内の横行結腸,大網を腹腔内へ整復しヘルニア門を縫合閉鎖しメッシュで補強した.外傷性横隔膜ヘルニア嵌頓に対し腹腔鏡下ヘルニア修復術が有用であった症例を経験したので報告する.
症例は78歳,男性.食道癌(pT1b,N3,M0,pStage Ⅲ)に対し6年前に腹腔鏡補助下胸部食道亜全摘を他院で施行された.嘔吐に伴う誤嚥性肺炎で当院に入院した際のCTにて胃管拡張を認め,消化管透視では胃管流出部での閉塞を認めた.上部消化管内視鏡検査で幽門輪よりすぐ肛門側の十二指腸に強い屈曲を認め,内視鏡的バルーン拡張術を2回施行したが十分な治療効果が得られなかったため開腹手術を行った.手術所見では食道裂孔周囲に強固な癒着があり,これが通過障害の原因と判断した.癒着剝離後の術中造影でも通過障害は改善しなかったため,Roux-en-Y法による胃管空腸バイパス術を施行した.術後,経口摂取再開後も通過障害による嘔吐症状は認めず,経過良好にて術後33日目に退院した.食道切除胃管再建術後の遅発性合併症としての胃管内容排泄障害は稀で,保存的治療が無効な場合の標準術式は確立されていないが,胃管空腸バイパス術は消化液逆流の懸念がなく有用な選択肢と考える.
70歳代,男性.腎臓と脾臓間に約5cm大の腫瘤のため近医から紹介となった.胃体上部に易出血性の2型腫瘍を認め,生検・免疫染色から胃神経内分泌細胞癌と診断し,胃全摘術およびD2リンパ節郭清を施行した.一部脾動脈浸潤の疑いがあり,膵尾部および脾臓を追加切除した.病理結果で,腫瘍細胞は大型で核分裂像や壊死が目立ち,Synaptophysin(+),Chromogranin A(+),Ki-67 70%であり,大細胞型の胃神経内分泌細胞癌と診断した.膵臓への直接浸潤の所見はなく,最終診断はT3,N0,M0 fStage ⅡAだった.通常の胃癌同様の術後補助化学療法(S-1)を行い,術後24カ月間無再発生存中である.胃神経内分泌細胞癌は胃小細胞癌と同義として扱われ予後不良とされていた.2010年の胃癌取扱い規約第14版以降,大細胞型と小細胞型に分類され,その後本邦では9例の報告があった.平均生存期間18カ月以上であり,大細胞型は小細胞型と比較し予後良好であることが示唆された.
【背景】術後リンパ漏は多くは絶食や脂肪制限などで治癒するが,一部で難治性リンパ漏も存在する.今回,われわれが経験した胃癌術後難治性リンパ漏に対してオクトレオチドが奏効した症例について報告する.【症例】65歳男性.胃癌 cT4aN3aM1(LYM:No.16)に対してS-1+Oxaliplatin(SOX)+Trastuzumab療法を5コース導入し,conversion目的で腹腔鏡下胃全摘術,R-Y再建,D2+No.16郭清を施行した.術後6日目に食事開始後,ドレーン排液が3,800ml/日まで増加した.性状は淡黄色透明,トリグリセリド49mg/dlと正常値で,蛋白含有量(T-Chol)が71mg/dlと高く,肝性リンパ漏が考えられた.絶食後も排液が多く難治性リンパ漏と判断し,院内倫理委員会の承認を得てオクトレオチドの持続皮下投与を1週間行ったところ排液は120ml/日まで減少した.術後20日目に食事を開始し,術後22日目にドレーンを抜去した.【結語】胃癌術後の難治性リンパ漏に対してオクトレオチドが奏効した症例を経験したので報告する.
患者は67歳男性.2020年8月ふらつき感,黒色便を主訴に当院外科を受診した.Hb 4.7g/dlと著明な貧血を認めた.右上腹部に巨大な腹腔内腫瘤を認めCTにて十二指腸水平脚原発GISTと診断した.十二指腸下行脚を温存して,腫瘍を含めた十二指腸水平脚を分節切除した.再建法として十二指腸憩室化手術を行った.術後経過は良好で術後10日で退院した.腫瘍の大きさは11×8×6cmであり病理組織学的診断でも十二指腸原発GISTであった.
70歳,女性.1カ月続く右下腹部痛を主訴に当院を受診した.虫垂粘液産生腫瘍と虫垂憩室の併存と診断し,腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査で虫垂真性憩室と低異型度虫垂粘液腫瘍(Low-grade appendiceal mucinous neoplasm,以下LAMN)の併存と診断された.
LAMNは比較的稀な腫瘍で,しばしば虫垂仮性憩室を合併することがあるが,虫垂真性憩室と併存した例は報告されたことがない.文献的考察を加えて報告する.
症例は33歳,女性.妊娠11週3日.腹痛を主訴に当院を受診し,精査の結果虫垂炎と診断された.器官形成期であったため,手術療法は避け,保存的治療を行った.一旦軽快するも,妊娠14週4日に症状が再燃し,当院を受診した.血液検査では白血球数 11,700/mm3 CRP 1.14mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.腹部MRI検査で,子宮右側に内腔が拡散強調像で高信号の多房性腫瘤を認め,腹部造影CT検査では子宮右腹側に境界不明瞭な腫瘤を認めた.右卵巣には炎症所見を認めなかったことから,急性虫垂炎と診断し,緊急手術を施行した.手術は脊椎麻酔で行い,傍腹直筋切開で虫垂切除術を行った.術後経過は良好で,術後5日目に退院となった.切除標本の病理所見では,虫垂体部の広範囲に子宮内膜症組織を認めた.内膜症組織では,妊娠に関連して起こったと思われる間質細胞の脱落膜変化を認めた.今回われわれは,妊娠を契機に虫垂炎を誘発した,虫垂子宮内膜症の1例を経験した.妊娠を契機に虫垂炎を発症した虫垂子宮内膜症の報告は非常に少なく,今後さらなる症例の蓄積が望まれる.
症例は83歳男性,10年前に肝細胞癌に対し右葉切除術,横隔膜合併切除術が施行された.4年前に右肺の結節影を指摘されCTガイド下肺生検で肝細胞癌の肺転移と診断され放射線治療が施行された.2年前に便潜血反応陽性となり下部消化管内視鏡検査が行われ,盲腸に粘膜下腫瘍が見つかり経過観察されていた.今回,下血を主訴に当院救急外来へ搬送され,緊急で下部消化管内視鏡検査を施行したところ盲腸粘膜下腫瘍からの出血が疑われた.出血コントロール目的に開腹回盲部切除術D3郭清施行,切除標本の病理組織検査から肝細胞癌盲腸転移と診断した.術後8カ月生存した.肝細胞癌の消化管への転移は稀であり文献的考察をあわせ報告する.
症例は59歳男性.2019年2月より非B非C型肝細胞癌に対し肝動注化学塞栓療法を3回施行し,ラジオ波焼灼術を3回施行し,その後再発なく経過していた.2021年3月に貧血を契機に,上部消化管内視鏡を施行し,胃体中部大彎に1型病変を指摘され,生検で低分化型腺癌の診断を得た.また同時に,胸部中部食道に粘膜下層以遠への浸潤を疑う表在癌も指摘され,生検で中分化型扁平上皮癌の診断となった.胃癌指摘前よりAFPレクチン3分画の急峻な上昇傾向がみられたため,肝細胞癌再発の可能性と治療の侵襲度を考慮し,食道癌は切除対象とせず,まずは出血が続く胃癌のみを切除する方針とした.2021年5月に開腹幽門側胃切除術を施行し,術後経過は良好で第8病日に退院した.最終病理組織診断は肝細胞癌胃転移と診断した.また,術後に測定したAFPレクチン3分画は急激に低下していた.今回,肝細胞癌の胃転移の1例を経験したので自験例に若干の文献的考察を交えて報告する.
受診時は軽症急性胆囊炎であったが,急激な臨床経過および検査所見の変化を認め急性気腫性胆囊炎と診断され治療された報告は少ない.
症例は82歳男性,突然の右季肋部痛を主訴に当院を受診した.腹部所見,血液検査および画像検査所見から軽症急性胆囊炎と診断されたが,手術リスクが高かったので抗菌薬にて治療を開始した.治療開始後症状は改善したが,入院3日目に38℃の発熱,右季肋部痛の増悪および炎症反応の亢進を認めDIC-CTを施行し,限局性腹膜炎を伴う急性気腫性胆囊炎と診断された.心筋梗塞後のバイアスピリン内服および血糖コントロール不良のためPTGBDを施行した.腹部および炎症所見の改善後,胆囊亜全摘術を施行し,経過良好で術後14日目に退院となった.
症例は74歳の男性.70歳時に膵体部癌に対して,膵体尾部切除術を施行した.病理結果でpT2N0M0(pStage IB)の診断となり術後補助療法として,S1の内服を半年間行った.術後26カ月目に右肺に小結節が出現し,フォローされていたが増大傾向を認め,術後31カ月目に診断,および治療目的で胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.病理結果は腺癌であり,また胸腔内洗浄細胞診も陽性であった.免疫染色により膵癌の再発であることが判明した.その後,補助療法としてGnP療法を行った.3コース施行後nal-IRI+5-FU/l-LV療法に変更し,12コース施行した.今回われわれは膵癌術後の孤立性肺転移に対して切除と補助化学療法により,無再発長期生存中である症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
50歳代,女性.妊娠歴なし.子宮筋腫のため30歳代に子宮筋腫核出術,40歳代に子宮全摘術の既往あり.左上腹部痛を主訴に受診し,精査の結果,CTで左側腹部に最大径10cmの腫瘤性病変を認めたが,前年のCTで横行結腸憩室炎と胆石症以外,特記所見はなかった.急速に増大する腫瘍性病変に対して手術の方針となった.単発の腫瘍性病変は可動性良好であり下行結腸の結腸垂と連続し,腫瘍の一部は後腹膜に癒着していたが腫瘍損傷することなく摘出した.病理結果で紡錘形核および卵円形核をもつ異型細胞と腫瘍壊死,核分裂像を認めた.免疫染色でdesmin,α-SMAが陽性だった.細胞異型が良性の範疇を超えており,最終的には平滑筋肉腫,子宮筋腫術後の腹膜播種性平滑筋腫症の悪性転化と診断した.腹膜播種性平滑筋腫症は,子宮筋腫を代表とする平滑筋腫が播種性に再発する病態で,悪性転化した報告は少ない.腹膜播種性平滑筋腫症で悪性転化した症例を経験したので報告する.