日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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47 巻, 2 号
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臨床経験
  • 小松 奈々, 垂野 香苗, 犬塚 真由子, 長島 稔, 佐藤 伸弘, 黒木 知明, 中村 清吾
    2022 年 47 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    2020年4月より,乳癌発症者に対する遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)診断目的のBRCA遺伝学的検査,およびBRCA陽性者に対するリスク低減乳房切除術,リスク低減卵管卵巣摘出術が保険診療となりHBOC診療の転換期を迎えた.当院における保険適用後のBRCA陽性者に対する手術症例11例の現状と課題について検討した.施行術式は,原発性乳癌の手術のみ施行した症例が5例,その他患者の状況により多彩であった.術式により手術枠の確保や術者の調整なども必要で,多科にわたる手術に対するシステム構築が今後の課題である.また,今後BRCA遺伝学的検査数はさらに増加が予測される中,癌やHBOCの診断直後である患者にとって,より短期間に最良な術式決定を行うには,乳腺外科医のみならず,婦人科医,形成外科医,遺伝カウンセラーなどの円滑な連携が重要である.

  • 太田 智之, 鶴田 好彦, 峯田 章, 北里 憲司郎, 赤星 拓, アディクリスナ ラマ, 伊古田 正憲, 村田 一平
    2022 年 47 巻 2 号 p. 90-99
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    目的:腹壁ヘルニアに対し,extended totally extraperitoneal Rives-Stoppa法(以下,eTEP RS法)を導入し,その治療成績を報告する.

    方法:2018年4月から2021年4月の期間に経験した20症例の腹壁ヘルニア患者に対し,eTEP RS法を施行しその治療成績を後方視的に調査した.

    結果:手術時間は中央値254(165~378)分,出血量は中央値20(3~80)ml,術後入院期間は中央値6(4~21)日であった.合併症は術後麻痺性腸閉塞1例,漿液腫2例を認めた.

    結語:eTEP RS法は,今後術式の定型化による手術時間の短縮や長期治療成績が課題となるが,鏡視下手術とRives-Stoppa法の利点を合わせた有用な術式であり,今後腹壁ヘルニアに対する術式選択の一つとなりえる.

症例報告
  • 鹿野 莉乃, 松本 晶, 黒河内 喬範, 入村 雄也, 仲吉 朋子, 岡本 友好, 矢野 文章, 衛藤 謙
    2022 年 47 巻 2 号 p. 100-106
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は61歳の女性.つかえ感と体重減少を主訴に他院受診し,食道癌と診断され加療目的にて当科へ転院された.精査の結果,食道扁平上皮癌LtAe,cT4a(No111-横隔膜)N2M0,cStage Ⅲと診断した.併存疾患に高度な肺拡散能低下による呼吸障害と甲状腺機能低下症を認めた.全身状態改善のため内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を施行し栄養補助を,呼吸障害に対して気管支拡張薬や抗炎症薬の投与と呼吸リハビリテーション,在宅酸素療法の導入を行った.また,甲状腺機能低下症に対しレボチロキシンNa投与し,術前化学療法として5-FU+シスプラチン+ドセタキセル療法を行い,その結果腫瘍は縮小した.手術は試験胸腔鏡下に片肺換気とし,耐術能があることを確認後,右開胸腹腔鏡補助下食道亜全摘,3領域郭清,胃管再建,頸部吻合を行った.病理所見はpT3N1M0,pStage Ⅲで化学療法の効果判定はGrade Ⅱであった.術後経過は良好で術後第49病日に退院し,その後約3年が経過したが無再発で外来通院中である.

  • 茂内 康友, 岩下 幸平
    2022 年 47 巻 2 号 p. 107-115
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    胃癌の転移再発は発見された時点で切除可能例は少なく,治療は化学療法単独になることが多く,複数回の外科的切除と化学療法を組み合わせた治療を施行された報告は稀である.症例は73歳の女性,胃癌に対して胃全摘術,D2リンパ節郭清を施行した.原発巣切除後4カ月目のCT検査で肝S7に転移再発が出現し,肝部分切除術を施行した.原発巣切徐後1年11カ月目のCT検査で右副腎転移が出現し,右副腎摘出術を施行した.病理組織診断は肝,副腎ともに胃癌転移であった.その後,肝転移の再々発と右腎静脈から下大静脈かけての腫瘍栓が出現し化学療法を施行していたが,原発巣切除後3年6カ月目に大動脈解離症により死亡した.今回,胃癌,異時性の肝転移と副腎転移に対して3度の外科的切除とガイドラインに沿った化学療法による集学的治療を施行した1例を経験した.

  • 木部 栞奈, 宇田 裕聡, 末永 雅也, 山家 豊, 竹田 直也, 白浜 功徳, 片岡 政人, 竹田 伸
    2022 年 47 巻 2 号 p. 116-123
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は28歳の男性.1週間前からの間欠的な腹痛が増悪したため,当院の救急外来を受診した.腹部造影CT検査で腸石を伴うメッケル憩室による腸閉塞を疑い緊急手術を施行した.診断的腹腔鏡で手術を開始し,回腸に腸石が充満した長径8cmのメッケル憩室を認め,憩室から脱落した腸石の一部による腸閉塞と診断した.臍部を小切開しメッケル憩室を含む小腸部分切除術を施行した.腸石の赤外線吸収スペクトラムによる解析では,胆汁酸と類似したスペクトラムが得られ真性腸石と診断した.腸石を伴うメッケル憩室は腸閉塞の原因となることがあり,安全性に配慮した適応の検討は必要であるが腹腔鏡下手術は有効な選択肢となりうる.

  • 菊地 拓也, 西居 孝文, 青松 直撥, 日月 亜紀子, 井上 透, 西口 幸雄, 前田 清
    2022 年 47 巻 2 号 p. 124-130
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は64歳男性.深部静脈血栓症評価目的のComputed Tomography(CT)で偶発的に小腸腫瘍を指摘された.消化器内科でダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行し,生検にて粘膜固有層内に拡張したリンパ管が複数観察され,小腸リンパ管腫と診断された.手術所見では回腸末端より約110cm口側回腸に10cm大の多房性囊胞性腫瘍を認め,回腸部分切除を施行した.病理組織学的には粘膜下層から腸間膜にかけて囊胞が認められた.D2-40陽性で,術前診断と同様に小腸リンパ管腫と診断された.生検を行い,病理組織学的にも小腸リンパ管腫と術前に診断した症例は非常に稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 戸口 景介, 今井 稔, 外山 和隆
    2022 年 47 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    妊娠中に発症した穿孔性急性虫垂炎に対して腹腔鏡下虫垂切除術を施行した2例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

    症例1:32歳,女性,妊娠12週.穿孔性急性虫垂炎の診断で腹腔鏡手術を施行した.虫垂は穿孔しており虫垂切除および腹腔内洗浄ドレナージを施行した.経過良好にて術後8日目に退院した.その後,妊娠39週に健常児を出産した.症例2:37歳,女性,妊娠26週.穿孔性急性虫垂炎の診断で腹腔鏡手術を施行した.虫垂は穿孔しており虫垂切除および腹腔内洗浄ドレナージを施行した.術前から切迫早産の徴候が認められたため子宮収縮抑制剤を投与した.炎症の消退と共に切迫早産の徴候も治まり術後17日目に退院した.その後,妊娠37週に健常児を出産した.妊娠中の穿孔性急性虫垂炎を開腹手術で施行した場合,腫大した子宮のため虫垂の位置確認,腹腔内の洗浄ドレナージが困難になると予想される.腹腔鏡の場合,腹腔内全体を観察できるため比較的容易となり有用な治療法であると考えられた.

  • 青木 一浩, 今井 政人, 新庄 貴文, 石井 智貴, 森 和亮, 熊野 秀俊, 日下部 崇
    2022 年 47 巻 2 号 p. 138-143
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は67歳の女性.右下腹部痛で受診し,腹部造影CTで回盲部に径30mmの腫瘤性病変を認めた.膿瘍形成性虫垂炎または虫垂粘液性腫瘍と診断し保存的治療後に腹腔鏡下回盲部切除術,D2郭清を行った.病理組織検査で虫垂根部に低分化腺癌(por2,sig)を認め,synaptophysin-A,chromogranin-A,CD56陽性像があり,Goblet cell carcinoid(GCC)を背景に発生した腺癌と診断した.虫垂先端に低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm:LAMN)を別に認め,稀な腫瘍併存例であった.大腸癌取扱い規約第8版でLAMNと分類されてからは同様の報告例は過去1例のみである.GCC,LAMNともに初診時診断は困難で,適切な切除範囲や化学療法を検討すべきであり,病理学的な希少性と併せて報告する.

  • 高柳 智保, 小林 敏樹, 前田 賢人
    2022 年 47 巻 2 号 p. 144-151
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    【背景】デスモイド腫瘍は組織学的には良性腫瘍だが浸潤性発育や局所再発をきたす良悪性境界型の腫瘍である.稀な腫瘍で特徴的な画像所見に乏しく,悪性疾患の術後は再発を否定できず術前診断に難渋することが多い.われわれが経験した大腸癌術後の腸間膜デスモイド腫瘍の2例について報告する.

    【症例1】65歳男性.上行結腸癌術後2年目のCT検査で横行結腸間膜に42mmの不整型腫瘤を認め切除術を行った.

    【症例2】70歳男性.肝転移を伴う下行結腸癌の術後1年目のCT検査で空腸間膜に14mmの腫瘤を認め切除術を行った.

    【考察】2例とも画像所見からは播種再発を否定できず手術を行った.デスモイド腫瘍の治療に関して近年は“wait and see policy”が推奨されている.一方,腹腔内発生例では生検が難しく実臨床では外科的切除が行われることが多い.本例においてもMRIのT2強調像を詳細に確認し低信号域の点在を確認することで適応となりえた.

    【結語】大腸癌術後に認めた腸間膜デスモイド腫瘍の2例を経験した.

  • 口田 脩太, 佐藤 慧, 大塚 観喜, 吉田 瑛司, 千葉 丈広, 木村 聡元, 舩渡 治
    2022 年 47 巻 2 号 p. 152-159
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    腹壁浸潤を伴う進行大腸癌は腹壁合併切除により良好な予後が期待できるが,広範囲な腹壁欠損がある場合は腹壁再建を要する.症例は74歳,男性.30年前に直腸癌に対し,腹会陰式直腸切断術を施行された.今回,人工肛門直下に腹壁浸潤を伴う大腸癌を認め,形成外科と合同で腹壁合併切除を伴う結腸部分切除術と腹壁再建を施行し,人工肛門を再造設した.大腿筋膜張筋(Tensor Fasciae Latae:TFL)皮弁と前外側大腿(Anterolateral Thigh:ALT)皮弁との連合皮弁を用いて腹壁再建を行った.病理組織学的所見はpT4b(腹壁)N0M0,pStage Ⅱcであり,断端も陰性であったため,根治切除となった.術後の皮弁血流は良好で創感染なく生着し,経過良好にて退院された.術後13カ月現在で無再発経過中である.広範囲の腹壁合併切除に対して,TFL・ALT連合皮弁を用いて腹壁再建を施行した1例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 間瀬 純一, 足立 尊仁, 井川 愛子, 佐野 文, 岡本 清尚, 白子 隆志
    2022 年 47 巻 2 号 p. 160-168
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳男性で,S状結腸癌に対してS状結腸切除術+D3リンパ節郭清を施行した.病理組織学的所見ではpT3(SS),pN0,pM0,pStage Ⅱであった.S状結腸癌術後1年6カ月にCTにて膵体尾部にring enhanceを伴う腫瘍性病変を認め,転移性膵癌もしくは原発性膵癌と判断し膵体尾部切除術+D2リンパ節郭清を行った.病理組織学的にS状結腸癌と同所見であったため膵転移と診断した.術後4年経過後,無再発生存中である.大腸癌の孤立性膵転移は比較的稀であり,十分な検討がなされていない.文献的考察を加え報告する.

  • 関 宣哉, 小田切 範晃, 樋口 佳代子
    2022 年 47 巻 2 号 p. 169-173
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.便潜血陽性の精査のために施行した下部消化管内視鏡検査で直腸腫瘍と盲腸腫瘍を認めた.生検では悪性所見は認めなかったが,腹部CTで直腸上部に盲腸と広範囲に接する約30mmの不整な壁肥厚を認め,FDG-PET/CTで同部位に強い集積を認めた.直腸癌の回盲部浸潤疑いの診断で低位前方切除術D3郭清と回盲部切除術D2郭清を施行した.術後の病理学的所見は原発性虫垂癌の直腸浸潤であった.追加治療なく術後5年経過して再発を認めず,当科でのフォローアップは終了となった.医学中央雑誌での文献検索では直腸浸潤を伴う原発性虫垂癌の報告は1例のみであった.他臓器浸潤を伴う原発性虫垂癌の術前診断は困難なことが多く,原発巣が術中に同定できない場合もある.術中所見で回盲部が他臓器と一塊となって腫瘤を形成していた場合は,虫垂癌の可能性も考慮し,リンパ節郭清を伴う根治的切除を念頭においた治療戦略を検討すべきと考えられた.

  • 佐野 智弥, 宮下 正寛, 菰田 あすか, 川口 貴士, 西村 潤也, 野沢 彰紀, 田中 宏, 上西 崇弘
    2022 年 47 巻 2 号 p. 174-180
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.71歳時,他院で慢性C型肝炎に対してインターフェロン治療によりウイルス学的著効が得られ,75歳時には横行結腸癌に対して腹腔鏡下横行結腸切除術が施行されていた.その後の経過中にCA19-9値の上昇がみられ,PET-CTで肝外側区域にFDGの異常集積を伴う腫瘤性病変が認められたため当科に紹介された.造影CTで,肝外側区域に辺縁のみが淡く濃染される4.0cm大の不整形な腫瘤が認められ,MRCPでは,左肝管に狭窄像が認められた.以上より,転移性肝癌を否定できないが,胆管浸潤を伴う肝内胆管癌と術前診断し,肝左葉切除術を施行した.切除標本で,境界不明瞭な白色調の腫瘤を認め,病理・免疫組織学的に中分化型肝内胆管癌と診断された.今回,C型肝炎のウイルス学的著効後12年経過して発生した肝内胆管癌の1切除例を経験したので報告する.

  • 安田 拓斗, 宮下 正寛, 佐野 智弥, 菰田 あすか, 川口 貴士, 西村 潤也, 野沢 彰紀, 渡辺 千絵, 田中 宏, 上西 崇弘
    2022 年 47 巻 2 号 p. 181-187
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性.検診の腹部超音波検査で肝S6に腫瘤性病変が指摘されたため,当科に紹介となった.肝炎ウイルスマーカーは陰性で,腫瘍マーカーではPIVKA-Ⅱのみが86mAU/mlと上昇していた.同腫瘤は造影CTで早期濃染,後期相でwash outされており,EOB-MRIの肝細胞相では低信号を呈していた.他には明らかな腫瘤性病変を認めず,単発の肝細胞癌と診断して手術を施行したが,術中,主腫瘍近傍に約3mm大の微小結節を認めたため,この結節を含む肝部分切除を行った.病理組織学的に,主腫瘍は中分化型肝細胞癌と診断されたが,微小結節は細胆管類似の構造であり,免疫組織学的にCK7,CK19,NCAMおよびc-kitは陽性で,特にEMAは小管腔構造の腺腔側のみ陽性であり,細胆管細胞癌と診断した.細胆管細胞癌と肝細胞癌の同時性重複癌の症例を経験したので報告する.

  • 相山 健, 杉井 沙織, 横山 良司
    2022 年 47 巻 2 号 p. 188-195
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    要旨:症例1は70歳,女性,上腹部の膨隆と痛みを主訴に近医を受診され,超音波検査で白線ヘルニアが疑われたため当院を紹介され受診した.精査にて白線ヘルニアと診断し,transabdominal preperitoneal approach(以下,TAPP)法に準じて腹腔鏡下でヘルニア門(1×10mm)を縫合閉鎖しTiLENEライトウェイトメッシュを用いて修復した.症例2は82歳,女性,上腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.CTで腹壁ヘルニアと診断され,翌日に当科を紹介され受診した.精査にて白線ヘルニアと診断し,従来通りの前方アプローチでヘルニア門(8×25mm)を縫合閉鎖しParietex meshを用いて修復した.白線ヘルニアに対する腹腔鏡下手術はその疾患自体の数が多くないこともありまだ一般的ではない.今回その非常に珍しい白線ヘルニアを2例経験し,一方はTAPP法に準じて腹腔鏡下で安全に修復しえた症例を経験したため,文献的な考察を加えて報告する.

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