日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
Print ISSN : 0385-7883
ISSN-L : 0385-7883
42 巻, 6 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
原著
  • 大目 祐介, 岡部 道雄, 河本 和幸
    2017 年 42 巻 6 号 p. 905-911
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:2016年4月外側区域切除以外の腹腔鏡下系統的肝切除術が新たに保険収載された.新規に保険収載された腹腔鏡下系統的肝切除術の安全性・有用性を検証する.

    方法:2016年4月から2017年3月までに,外側区域切除を除く完全腹腔鏡下系統的肝切除術を35例に施行した.2014年4月から2017年3月までに開腹系統的肝切除術を施行した64例と比較検討した.

    結果:術中偶発症に伴う開腹移行は1例も認めなかった.対象疾患で両群間に差を認めたものの,その他患者背景に差は認めなかった.手術時間は開腹群で有意に短く(p=0.029),出血量は腹腔鏡群で有意に少なかった(p<0.001).腹腔鏡群で大きな合併症や周術期死亡は認めなかった.術後在院日数は腹腔鏡群で有意に短かった(p<0.001).

    結語:腹腔鏡下系統的肝切除は安全に施行可能で,出血量の減少や術後早期回復などの利点も多く,今後標準術式となりうる.

症例報告
  • 三瀬 昌宏, 仁尾 万里華, 東出 俊一, 米永 吉邦, 矢田 善弘, 堀田 健太, 原田 武尚, 阪本 仁, 若宮 誠, 黒澤 学
    2017 年 42 巻 6 号 p. 912-922
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は62歳女性.49歳時,乳癌(HER2 type)の診断にて乳房切除施行.術後10カ月目に出現した転移性皮膚腫瘍に対しトラスツズマブを基本とした逐次薬剤変更およびラパチニブ+カペシタビン投与を行った.術後5年目,健側乳腺・肺に転移を認め病勢は進行.ペルツズマブ+トラスツズマブ+パクリタキセル投与するも効果は一時的で,T-DM1では急激に悪化した.しかしラパチニブ+カペシタビン再投与にて病勢をコントロール.続きペルツズマブ+トラスツズマブを基本とした薬剤の再投与にて肺腫瘍は若干増大したが,皮膚転移巣および乳腺転移巣はほぼ消失した.肺腫瘍切除後,高値を示していたHER2-ECD値は正常化.その後CRを継続している.T-DM1耐性機序検索の為,HER2-ECDと転移巣でのHER2の発現状況を検討.結果,HER2 sheddingが盛んな腫瘍であることが判明し,抗HER2抗体薬と比べチロシンキナーゼ阻害剤であるラパチニブが有効であったことが示唆された.

  • 藤内 伸子, 杉谷 郁子, 大崎 昭彦, 佐伯 俊昭, 二反田 博之, 横川 秀樹, 長谷部 孝裕
    2017 年 42 巻 6 号 p. 923-929
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は44歳,女性.左乳房腫脹を主訴に来院.左B領域中心に10cm大の腫瘤と皮膚発赤を認め,一部自潰していた.針生検施行し,浸潤癌,Triple Negativeの診断であった.左局所進行乳癌T4bN3M0 Stage Ⅲcの診断で,化学療法を施行した.EC療法3コースで,皮膚発赤は消褪し腫瘤は軽度縮小したが,4コース目が延期された1週間で腫瘤は急速増大した.DTX療法へ変更したが,PDとなった.CT検査では,EC療法で縮小した腫瘤は再増大し胸壁浸潤していたが,リンパ節腫大はなく,肺・肝転移もなかった.よって治癒切除を目指し,左胸筋合併乳房切除術,胸壁部分切除,広背筋皮弁再建を施行した.術後経過は良好で,さらに左胸壁へ放射線照射を行った.局所進行乳癌の化学療法無効時は,局所制御も重要であり,切除術へ踏み切るタイミングを逃さないよう病勢を観察し,手術の準備をしておくことが大切である.

  • 松本 倫, 小村 伸朗, 毛利 貴, 小林 徹也, 田辺 義明, 矢永 勝彦
    2017 年 42 巻 6 号 p. 930-936
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は60歳代女性.2014年1月頃より嘔吐が続き,食事摂取が困難となった.その後症状増悪し当院受診となった.腹部造影CT検査で胃が反転するように縦隔内へ脱出し,上部消化管内視鏡検査では胃体部の一部が胸腔内に脱出しスコープの通過は困難であった.上部消化管造影検査では胃体部が胸腔内に脱出していた.以上より食道裂孔ヘルニアに間膜軸性軸捻転を伴うupside down stomachと診断した.内視鏡的整復は困難であり腹腔鏡下手術を施行した.食道裂孔を縫縮しメッシュによる補強後,Toupet法で噴門形成を行った.術後経過良好で第14病日に退院した.Upside down stomachは食道裂孔ヘルニアの中でも稀な病態で,本邦では41例の報告のみである.今回,われわれは腹腔鏡下手術で食道裂孔ヘルニアに間膜軸性軸捻転を伴うupside down stomachを治療しえた.文献的考察を加えて報告する.

  • 中本 裕紀, 川村 秀樹, 吉田 雅, 市川 伸樹, 大野 陽介, 本間 重紀, 若山 顕治, 横尾 英樹, 神山 俊哉, 三橋 智子, 武 ...
    2017 年 42 巻 6 号 p. 937-945
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳女性.C型慢性肝炎,慢性関節リウマチ(プレドニゾロン,セレコキシブを4年間内服),糖尿病にて当院内科通院中にAFPの上昇を認めた.精査にて重複癌(肝S2の肝細胞癌,胃体下部の胃癌)と診断した.腹腔鏡下肝外側区切除および腹腔鏡下幽門側胃切除,R-Y再建術を施行した.術後19日目に残胃潰瘍穿孔を発症し,同日緊急手術にて縫合閉鎖を施行した.再手術後9日目にY脚吻合部出血を認め,上部消化管内視鏡下にクリッピングを施行した.その翌日,Y脚吻合部の空腸盲端閉鎖部から出血し,再度内視鏡的止血術を施行した.出血部位のステープルラインには粘膜修復がみられなかった.

    長期間のステロイド,NSAIDs内服により消化性潰瘍の発生リスクが高まり残胃潰瘍穿孔,Y脚吻合部の複数回出血が続発した可能性があると考えられた.

  • 寺田 好孝, 園田 寛道, 植木 智之, 三宅 亨, 清水 智治, 谷 眞至
    2017 年 42 巻 6 号 p. 946-951
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    重症心身障害者に合併したCrohn病による回盲部膿瘍に対して腹腔鏡下回盲部切除術を行った1例を経験したので報告する.症例は,23歳女性.脳性麻痺,精神発達遅滞にて養護施設入所中であった.1カ月前より活気不良を認めたため,近医受診し,腸重積の疑いと診断され,当院へ紹介となった.入院時,腹部造影CT検査では回腸末端から上行結腸に至る壁肥厚,回盲部間膜内に膿瘍形成を疑う所見を認めた.腹腔内膿瘍に対して保存的治療による感染コントロール先行後に腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.摘出標本の肉眼的所見では,縦走潰瘍・瘻孔形成を認め,病理組織額的所見では,全層性炎症,類上皮細胞肉芽腫を認め,Crohn病の診断となった.意思疎通困難な重症心身障害者であり,診察所見も不明瞭で腹腔内膿瘍の早期診断は困難であった.保存的治療による感染コントロールを先行することにより,腹腔鏡による低侵襲・整容性にすぐれた手術が可能であった.

  • 山根 貴夫, 宮島 綾子, 八田 一葉, 藤田 俊広, 曽我 直弘, 亀岡 信悟
    2017 年 42 巻 6 号 p. 952-956
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    今回われわれは一般的な治療に効果を認めなかった下痢型の過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)を有する虫垂炎患者に対し虫垂切除を行うことによりIBSの症状が改善した2例を経験した.症例1は47歳の男性,元来1日平均10回の水様便を認める下痢型IBSであった.今回心窩部痛を主訴に受診,急性虫垂炎の診断で腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術後より1日1~2回の普通便となりIBSが改善した.症例2は42歳の女性,心窩部痛を伴う1日平均3回の軟便~水様便をきたす下痢型IBSであった.今回右下腹部痛を主訴に受診,急性虫垂炎の診断で腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術後より2日1回の普通便となりIBSが改善した.医中誌で検索しうるかぎり虫垂切除により下痢型IBSが改善した報告例はなく,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 上田 正射, 池永 雅一, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 太田 勝也, 足立 真一, 遠藤 俊治, 山田 晃正
    2017 年 42 巻 6 号 p. 957-963
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    腸間膜側に憩室が形成させる頻度は大腸憩室の全体の1~2%とされ,大腸憩室の腸間膜への穿通は比較的稀な病態である.今回,われわれは腸間膜側へ穿通した大腸憩室炎の2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.【症例1】52歳,男性.主訴は下腹部痛と発熱.下腹部痛,反跳痛を認め,腹部単純CT検査でS状結腸憩炎による腸間膜への穿通と診断し,保存的治療を開始した.症状の悪化を認めたため,第17病日にハルトマン手術を施行した.摘出標本では腸間膜内に膿瘍形成を認め,S状結腸憩室炎の腸間膜内への穿通と診断された.【症例2】55歳,女性.主訴は下腹部痛.下腹部に反跳痛,筋性防御を認め,腹部造影CT検査でS状結腸憩室炎の穿孔と診断し,緊急でハルトマン手術を施行した.摘出標本では憩室と漿膜下層から筋層を中心に広範な膿瘍形成を認め,直腸憩室炎の腸間膜内への穿通と診断した.

  • 上田 正射, 池永 雅一, 太田 勝也, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 足立 真一, 遠藤 俊治, 山内 周, 千原 剛, 山田 晃正
    2017 年 42 巻 6 号 p. 964-971
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    われわれは多発肝膿瘍を伴った下行結腸癌の一切除例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は68歳,女性で,前医で多発性肝膿瘍を併発した下行結腸癌と診断され,加療目的で当科へ転院した.腹部造影CT検査で肝両葉に多発する肝膿瘍を認め,肝外側区域には肝転移と鑑別が困難な低濃度結節を認めた.抗菌薬を行いS8の膿瘍腔に対し経皮経肝膿瘍ドレナージ,外側区域の結節より生検を施行した.生検では悪性所見は認めなかった.炎症所見が改善した後,当科初診から57日目に,腹腔鏡下結腸部分切除術(下行結腸)を施行した.病理組織所見はD,Type 1,25×20mm,tub2,pT3,pN0,sH0,sM0,sPUL0,PN0,ly1,v1,pStage Ⅱであった.術後経過は問題なく術後10日目に退院した.術後6カ月目の腹部造影CT検査で肝膿瘍は消失したが,肝S8に転移を認め,現在化学療法施行中である.多発性肝膿瘍を併発した大腸癌は,原発巣切除により肝膿瘍の改善が見込まれることから,肝転移との鑑別を厳重に検討した上で,炎症所見を改善させた後,原発巣切除を行うべきである.

  • 石毛 孔明, 里見 大介, 森嶋 友一
    2017 年 42 巻 6 号 p. 972-976
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性.血便を主訴に近医受診.近医で内視鏡を行い,S状結腸癌と診断され紹介来院した.S状結腸切除術(D3)施行.病理組織診断結果はpT2(MP),pN0,pStage Ⅰ,tub2,ly0,v0であった.退院後は,化学療法は施行せず外来経過観察となった.半年後の画像検査において,転移性肝腫瘍(S6,S7,S8)を指摘され,肝右葉切除を施行.更に肝切除1年後の画像診断においても尾状葉に転移性腫瘍を認め,尾状葉切除を施行した.2度目の肝切除後約半年の定期外来で左眼の視力低下感,霧視の訴えがあり当院眼科受診.左眼視力は1.0から0.05までの低下を認めた.臨床経過と併せS状結腸癌の左脈絡膜転移の診断となり,左眼視力はさらに悪化し医学的失明の状態に至った.直腸癌の脈絡膜転移に対する放射線治療例では視力回復は困難とされるが,自験例の場合放射線治療終了後には視力回復には至らなかったが,光覚弁や眼前手動弁までの改善に至り,QOLも僅かながら改善できた.

  • 古橋 暁, 坂口 孝宣, 森田 剛文, 菊池 寛利, 今野 弘之
    2017 年 42 巻 6 号 p. 977-984
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は59歳の男性で,甲状腺乳頭癌術後観察の腹部造影CT動脈相で脂肪肝を背景に肝S1,S7,S4,S3に濃染する腫瘤が認められた.S1腫瘤は平衡相にかけて造影効果が遷延した一方で,他3カ所の腫瘤は造影効果が減弱した.S7腫瘍は肝生検で高分化型肝細胞癌であった.拡大右葉切除兼S3部分切除では残肝容量が小さいため,S3腫瘍動脈塞栓術および両葉単回肝動注化学療法を施行後に経皮経肝門脈塞栓術を施行した.残肝容量増加を確認後,予定の肝切除を施行した.術後病理では,S1腫瘍は好酸性胞体を持つ紡錘形異型細胞が類洞様構造を呈し,免疫染色でHMB-45が陽性であったため血管筋脂肪腫と診断し,S7およびS4腫瘍はそれぞれ中分化型肝細胞癌,異型結節で,S3腫瘍は動脈塞栓術による瘢痕組織であった.慢性肝炎を背景に多血性腫瘍を認めた場合,AMLも考慮に入れる必要が考えられた.

  • 樋口 格, 中村 隆俊, 佐藤 武郎, 内藤 正規, 山梨 高広, 筒井 敦子, 渡邊 昌彦
    2017 年 42 巻 6 号 p. 985-989
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,女性.便潜血陽性を指摘され,大腸内視鏡検査で盲腸にTypeⅡ病変を認めた.生検結果はadenocarcinoma(tub1)であった.盲腸癌の診断で腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術後経過は良好で術後6病日に退院となった.術後2カ月に発熱を主訴に救急外来受診となった.腹部造影CT検査で肝S6,7,8を占拠するモザイク状のlow density areaを認め肝膿瘍と診断した.同日緊急入院となり抗菌薬での治療を開始したが改善なく経皮経肝ドレナージ(以下PTAD)を計2回施行した.穿刺液の培養検査ではKlebsiella pneumoniaeが検出された.PTAD後は解熱し炎症反応は低下したため穿刺後11日目にドレーンを抜去し,第16病日に退院となった.大腸癌による肝膿瘍の形成は,腫瘍の腸管壁破壊により腸管内細菌が経門脈性に肝に感染する経路で,悪性腫瘍の存在で免疫能の低下に加え高齢,糖尿病などの全身的因子もその要因となることが多いとされている.しかし,本症例では既往歴もなく術前の全身状態は良好で術後の合併症も認めなかった.今回,われわれは腹腔鏡下回盲部切除術後に肝膿瘍を併発した稀な症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 渡邊 充, 岡田 了祐, 一宮 博勝, 永川 裕一, 粕谷 和彦, 勝又 健次, 土田 明彦
    2017 年 42 巻 6 号 p. 990-997
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    無石胆囊炎に続発し,肝両葉に発生したSpontaneous bilomaを経験したので報告する.症例は84歳の女性.右季肋部痛にて当科に入院した.血液生化学検査とCTにて,無石胆囊炎および右肝S6に囊胞性病変の診断にて抗菌薬を投与した.その後胆囊炎所見は軽快しS6囊胞の縮小を認めたが,左肝に新たな囊胞性病変が出現したため,囊胞性病変がbilomaの疑いとなり,抗生剤の投与を継続した.しかし左肝のbilomaは増大した.手術にて胆囊摘出とbilomaのドレナージを施行した.Spontaneous biloma 46報告例を集計し,その特徴を記した.

  • 武田 正, 宇野 太, 児島 亨
    2017 年 42 巻 6 号 p. 998-1005
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は31歳女性.第2子正常分娩後に左上腹部腫瘤を自覚するようになり,精査の結果17cm大の膵粘液囊胞性腫瘍(Mucinous cystic neoplasm:以下MCN)と診断された.脾摘を伴う膵体尾部切除を施行し,病理所見は腺腫であった.術後2年経過し,再発は認めない.過去報告例を含め検討した結果,妊娠出産を契機として判明したMCNでは通常のMCNと比較して腫瘍径が大きく,悪性例も多く,破裂例も認められることから,腹腔内への粘液漏出のリスクなどを考慮すれば手術に際しては開腹によるアプローチが望ましいものと思われた.また手術のタイミングは悪性症例が含まれること,妊娠経過中に増大する可能性があること,胎児の発育にも注意を払う必要があることから悪性を疑う場合,初期であれば中絶後や妊娠中期まで待機しての早めの外科的切除,良性を疑う場合は妊娠中期や出産後の外科切除が妥当であると考えられた.

  • 松本 健司, 塚本 亮, 寺内 寿彰, 小林 健二, 篠崎 浩治
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1006-1012
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は58歳の女性.2012年9月左腎細胞癌(pT1a N0 M0 Stage Ⅰ)に対して左腎摘術を施行された.

    2015年11月,心窩部痛精査に当科外来を受診し,腹部超音波検査で胆囊壁肥厚,胆泥貯留および胆囊底部に24mm大の有茎性腫瘍を認め,急性胆囊炎,胆囊癌疑いの診断で入院となった.腫瘍性病変は造影CT検査で造影効果を認め,造影MRI検査では早期相で濃染,平衡相でも造影効果の遅延を示し,原発性胆囊癌を疑い胆囊摘出術を施行した.術中迅速病理診断では,原発性もしくは転移性胆囊癌が考えられた.切除標本病理検査所見で,腎細胞癌胆囊転移の最終病理診断となった.

    腎細胞癌異時性胆囊転単独移症は稀とされており,文献的報告は自験例を含めた25症例であった.われわれが経験した急性胆囊炎を契機に手術加療,診断に至った症例は4例のみであり,非常に稀であるため文献的考察を加えて報告する.

  • 大井 悠, 山本 諭, 赤井 隆文, 小川 雅子, 正木 幸善
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1013-1019
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は56歳の男性.上腹部痛を主訴に受診し,腹部造影CT検査で上腸間膜静脈血栓症(superior mesenteric vein thrombosis:SMVT)と診断した.腸管虚血所見や腹膜炎所見はなく,抗凝固療法による保存的治療により症状は改善し,CT検査再検で血栓の増悪なく第11病日に退院した.アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)の低下がありワルファリン内服を継続していたが,退院1カ月後に右側腹部から背部の疼痛が出現,CT検査で全身性リンパ節腫脹を認め緊急入院となった.鼠径リンパ節生検で悪性リンパ腫の診断,化学療法を行うも1カ月半後に死亡した.本症例ではAT-Ⅲの低下は軽度で,悪性リンパ腫がSMVTの発症に関与した可能性が考えられた.

    SMVTは手術の可能性から外科が診療することが多いが,治療に並行して速やかな原因疾患検索とそれに対する対策も必要である.SMVTの原因疾患として,稀ながら悪性リンパ腫も念頭におくべきと考える.

  • 板倉 弘明, 池永 雅一, 太田 勝也, 上田 正射, 高山 碩俊, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 足立 真一, 遠藤 俊治, 山田 晃正
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1020-1026
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は17歳,男性.右下腹部痛を主訴に来院した.右下腹部に著明な圧痛を認めた.体温38.8度で,血液検査所見でWBC:14,380/μl,CRP:0.23mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.腹部CT所見では,回盲部周囲に脂肪織の混濁と,複数の顕在化したリンパ節を認めた.明らかな虫垂腫大は認めなかった.腸間膜リンパ節炎の疑いに対し抗菌薬投与を開始したが改善が乏しく,急性虫垂炎が否定できなかったため,翌日に虫垂切除術を施行した.術中所見では典型的な虫垂炎の所見は認めず,病理学的検査では二次性虫垂炎が疑われた.術後5日目に右下腹部に反跳痛が再燃し,腹部CT所見で回盲部に膿瘍を認め,腸間膜リンパ節膿瘍と診断した.膿瘍ドレナージ術を施行し,抗菌薬を変更した.その後は経過良好で,ドレナージ後13日目に退院した.腸間膜リンパ節膿瘍について文献的考察を加えて報告する.

  • 武田 正, 片岡 正文, 宇野 太
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1027-1031
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    術前CTにて診断し腹腔鏡下手術を行った特発性大網捻転症の1例を経験した.自験例は66歳男性.持続する心窩部~右下腹部痛を主訴に来院した.血液検査では軽度の白血球上昇とCRPの上昇,および間接優位のビリルビン上昇を認めた.CTでは臍右上に実質臓器や腸管に比べlow densityであるが,腸間膜よりはややhigh densityなhigh-low混在した渦巻き状,同心円状の層構造を認めた.大網捻転症と診断し腹腔鏡下に壊死した大網の切除を施行した.経過良好にて術後5日目に退院した.本疾患に対する腹腔鏡下手術は確定診断と治療を同時に,安全かつ低侵襲に行うことができ,有用であると考えられた.本邦での報告症例をまとめ,文献的考察も踏まえ報告する.

  • 桒田 亜希, 赤山 幸一, 平野 利典, 小林 健, 内藤 浩之, 海氣 勇気, 原田 拓光, 立本 直邦
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1032-1037
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    患者は70歳の男性で,慢性膵炎で経過観察中,CTで主膵管の拡張を認め,主膵管型の膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)と診断され,当科紹介となった.精査後,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理検査所見で膵管内乳頭粘液性腺癌(Intraductal papillary mucinous carcinoma:IPMC)と診断した.術後化学療法としてgemicitabineおよびS-1療法を施行した.術後2年目に胸部CTで肺結節を認め,緩徐に増大するため,術後3年2カ月で肺切除を施行した.肺腫瘤は病理検査所見で膵IPMCの組織像と類似しており,IPMCの肺転移と診断した.肺切除後16カ月無再発経過中である.

  • 大西 宙, 上田 倫夫, 國崎 主税, 遠藤 格
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1038-1043
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は33歳,女性.検診の腹部エコーで膵体尾部背側に接する腫瘤を指摘された.CTで腫瘍は径4.7cmの類円形腫瘍で造影所見などから膵solid pseudopapillary neoplasmが最も疑われたため腹腔鏡下膵体尾部切除術を行う方針とした.術中所見で腫瘍は膵臓から容易に剝離可能であり後腹膜腫瘍と診断し腹腔鏡下摘出術を施行した.病理診断は神経鞘腫であった.神経鞘腫は比較的稀な腫瘍である.本腫瘍は膵臓に接していたが,安全に腹腔鏡下摘出を行いえた.本術式は本疾患のような悪性度が低い後腹膜腫瘍に対する有用な治療法になり得ると考えられた.

  • 小嶌 慶太, 池田 篤, 内藤 正規, 佐藤 武郎, 中村 隆俊, 渡邊 昌彦
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1044-1051
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は63歳女性.胸やけを主訴に近医を受診した.腹部超音波検査,腹部造影CT検査,腹部MRI検査で腸管に接する約40mm大の腹腔内腫瘤を指摘された.明らかな栄養血管を同定できなかった.また,上下部消化管精査では異常を認めなかった.診断的治療の目的で腹腔鏡下腫瘤摘出術を施行した.腫瘤は横行結腸頭側の大網内に存在した.可動性は良好で,消化管や多臓器への浸潤所見はなく大網原発の腫瘍と診断した.免疫学的検査でc-kit, CD34,S-100が陰性,Vimentin,Desminが陽性,MIB-1 level index 1%以下であり大網原発の平滑筋腫と診断した.偶発的な腹腔内腫瘤を認めた場合には,本疾患を念頭に置いた診断的治療を考慮すべきであると考える.また,術前に確定診断を得ることが困難なことから,低侵襲に観察と切除が行える腹腔鏡下手術は有用と考える.

  • 堀尾 勇規, 池内 浩基, 南部 尚子, 坂東 俊宏, 平田 晃弘, 蝶野 晃弘, 佐々木 寛文, 後藤 佳子, 廣田 誠一, 内野 基
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1052-1056
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は27歳の男性.開腹歴はないが,約3年前から腸閉塞を繰り返していた.3回の入院歴があり,いずれもlong tubeで保存的に改善していた.腸閉塞の原因精査のために当院消化器内科に紹介となり,小腸内視鏡検査を施行した.回腸に二方向の管腔を認め,メッケル憩室が腸閉塞の原因と考えられたため,当科に紹介となり,手術を施行した.回腸末端から約100cmにメッケル憩室が存在し,その先端が隣接する回腸に癒着し,loopを形成し,内ヘルニアをきたしていたことから,メッケル憩室の炎症性癒着による腸閉塞と診断した.小開腹下に憩室切除術を施行した,病理学組織学的診断は,固有筋層を有する真性憩室の像で,メッケル憩室として矛盾しない像であった.術後経過は良好であり,その後腸閉塞の再発は認めていない.今回,メッケル憩室による内ヘルニアが原因で腸閉塞を発症した1例を経験したので報告する.

  • 安田 潤, 弓場 健義, 相馬 大人, 大橋 秀一
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1057-1062
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は20代女性.6カ月前に右下腹部痛を認めたため近医を受診した.急性虫垂炎の診断で抗生剤による治療が行われ症状は軽快したが,1カ月前より右下腹部に疼痛を伴う腫瘤が触知され鼠径ヘルニアの疑いで当院へ紹介となった.腹部CT検査で腹壁膿瘍を合併した慢性虫垂炎と診断し腹腔鏡下手術を施行した.術中所見では,内膀胱上窩に陥頓した虫垂が膿瘍を形成し膀胱を圧迫していたことから,虫垂がヘルニア内容の内膀胱上窩型鼠径ヘルニアと診断し盲腸部分切除術を施行した.メッシュを用いたヘルニア門の修復は膿瘍を形成していたため行わなかった.虫垂がヘルニア内容である鼠径ヘルニアはAmyandʼs herniaと呼ばれ,中でも内膀胱上窩型のAmyandʼs herniaの報告はこれまでになく稀な病態と考えられた.本疾患の術前診断は困難であり,腹腔鏡下手術は合理的で有用な術式であると考えられた.

  • 河野 正寛, 春日 満貴子, 牧 ゆかり, 髙石 瞳, 瀬下 明良, 木山 智
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1063-1066
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代男性.左鼠径部と右側腹部の膨隆を主訴として当科外来を受診した.ヘルニア部の痛みの訴えはなかった.1.5横指大のヘルニア門を有する左鼠径ヘルニアおよび1横指大のヘルニア門を有するSpigelヘルニアの診断となり,嵌頓を疑う所見もないため予定手術となった.手術としては両者の一期的手術を行うために腹腔内到達法(以下TAPP法)を選択した.臍部にカメラポートを設置し,腹腔内を観察すると左直接鼠径ヘルニアと右側にSpigelヘルニアを認めた.また腹腔内観察にて術前に診断に至らなかった左側にもSpigelヘルニアが認められた.鼠径ヘルニアに対しては予定通りTAPP法を行い,両側Spigelヘルニアに対してはヘルニア門が小さかったため,ヘルニア門の単純閉鎖を行った.術後の経過は良好で第4病日に退院となった.今回,腹腔鏡観察により,術前に診断のつかなかったヘルニアを認識でき,治療することができた.腹腔鏡手術の際の腹腔内観察の重要性を改めて認識できた1例であり,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 沼田 幸司, 大島 貴, 利野 靖, 益田 宗孝
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1067-1071
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は77歳男性.腹部手術歴なし.腹痛・嘔吐を主訴に当院に緊急入院し,腹部単純X線写真,腹部CT検査で腸閉塞の診断となりイレウス管挿入.保存的治療で腸管は減圧され症状は改善したものの,閉塞は改善せず,腹腔鏡手術を施行.術中所見では回腸末端より約50cm口側の回腸から左内側臍ヒダに連続する索状物を認め,これをバンドとして内ヘルニアを起こし腸閉塞に至ったと考えられた.索状物の走行と肉眼所見から卵黄囊血管遺残と考えられ,小腸を検索したが明らかなMeckel憩室は認めなかった.本邦でMeckel憩室非併存の卵黄血管遺残に対し腹腔鏡手術を行った例は非常に稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 熊木 裕一, 大野 玲, 入江 宇大, 榎本 直記, 樋口 京子, 馬場 裕信, 吉野内 聡, 吉田 剛
    2017 年 42 巻 6 号 p. 1072-1075
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    患者は90歳の独居女性.認知症があり食道裂孔ヘルニアの既往は不明であった.昼食後に嘔吐した後から腹痛が出現し,訪問看護師により救急要請があり当院に救急搬送された.腹部造影CTにて縦隔内に脱出した胃を認め胃壁の欠損と縦隔内気腫を認めた.明らかな胸腔内への穿孔はなかったため,緊急開腹術を行った.縦隔内に陥入した胃を腹腔側へもどすと胃体上部前壁には2.5×1.5cmの穿孔部を認めた.食道裂孔は3横指程度開大していた,胃底部を遊離し穿孔部を縫合閉鎖した後,Nissen法1)に準じ食道裂孔ヘルニアを修復した.術後経過はおおむね良好でリハビリ目的に術後26病日に転院となった.

トピックス
feedback
Top