日本外科系連合学会誌
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47 巻, 1 号
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原著
  • 内山 美緒, 木村 百合香, 小林 一女, 明石 定子, 前田 康子
    2022 年 47 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    【目的】世界各国の外科医を対象とした「外科医の産休・育休とキャリア形成の現状に関する調査」の結果を分析し,外科医の産休・育休やキャリア形成に関しわが国が取り組むべき課題について考察した.【方法】回答者はsmartsurvey.co.ukにアクセスし子供の有無別・キャリア別の質問票に回答した.109名の日本人外科医(研修医:27名,専門医/指導医:82名)の回答を分析し,産休・育休に関する現状や子供のケアなどに関して検討した.【結果】日本では,育児中の外科系研修医の割合が7.4%と有意に低く,育休制度があるものの育休取得率が低かった.また育児と外科医のキャリア形成の両立が困難であると考えている医師の割合が有意に高かった.【結語】外科医の育休取得や育児期間中のキャリア形成を推進するために,ICTの活用,労働環境の見直し,勤務体制の多様化や家庭内の男女共同参画に取り組むべきだと考える.

臨床経験
  • 廣澤 貴志, 金子 直征, 小林 照忠, 佐藤 純, 舟山 裕士
    2022 年 47 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    対象は,2012年10月から2020年6月までに尿膜管遺残症の診断で腹腔鏡下尿膜管摘除術を受けた19例(男性15例,女性4例,平均年齢は27.3歳).尿膜管遺残症の分類は,全例で尿膜管臍瘻であった.右もしくは左側腹部に頭尾方向に3ポートを留置し,膀胱近傍から臍にかけて正中臍靭帯を剝離し,体表からの臍切開創から尿膜管を含む正中臍靭帯を摘出した.臍形成術を行い,腹膜閉鎖は行わなかった.手術時間は平均79.8分で,出血量は少量であった.摘出標本は全例で病理学的に良性であった.術後平均入院期間は4日で,ドレナージにて改善した軽度の創部感染を1例認めた以外は合併症を認めず,再発例も認めなかった.

    尿膜管遺残症に対する腹腔鏡手術は,低侵襲で社会復帰も早く優れた術式であるが,若年者に多く発症するため整容面やドレナージ期間の社会的制限も十分考慮すべきである.

症例報告
  • 野原 茂男, 鈴木 将臣, 湯澤 浩之, 冨松 裕明
    2022 年 47 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は35歳男性.生後2カ月目に右鼠径ヘルニア嵌頓による小腸穿孔を発症し,鼠径ヘルニア根治術および回腸人工肛門造設術を施行された.術後2カ月で人工肛門閉鎖術を行われた際に,回腸吻合部の減圧目的にチューブ虫垂瘻が造設された.数カ月後にチューブは外来で抜去され,虫垂瘻は自然閉鎖した.34歳時に瘻孔閉鎖部皮膚の腫脹を認めたため,他院で切開排膿術が施行された.その後,創部からの便汁漏出を認めたために当院紹介となった.瘻孔造影で創部から虫垂および結腸が造影され,虫垂皮膚瘻と診断した.保存治療での自然閉鎖は困難であると考え,腹腔鏡下虫垂切除術および瘻孔皮膚切除術を施行した.チューブ虫垂瘻が自然閉鎖後に再開通した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 本庄 優衣, 五代 天偉, 大沼 静音, 利野 靖, 益田 宗孝, 山本 裕司
    2022 年 47 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は19歳,男性.5日間続く腹痛にて当院救急搬送となった.腹部造影CT検査にて腸重積を認め,下部消化管内視鏡検査と注腸造影ではS状結腸に閉塞所見を認め,整復施行.整復後の腹部造影CT検査,腹部MRI検査では虫垂内部に液体貯留を認め,下部消化管内視鏡検査では虫垂開口部に粘膜下腫瘍様の隆起を認めた.虫垂粘液性腫瘍の診断で腹腔鏡補助下盲腸切除術を施行した.病理診断は,低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm:以下LAMN)であった.LAMNは,大腸癌取扱い規約第8版において新たに分類された腫瘍であり,治療の原則は外科的治療であるが,切除術式に関しては明確な基準はない.LAMNは切除後でも腹膜偽粘液腫へ移行する可能性があり経過観察が必要である.50歳以上の成人に多く,若年者では稀であるため,若年者における術式や観察期間の構築も望まれる.

  • 岩﨑 喜実, 一色 雄裕, 大和 万里子, 臺 勇一, 永井 健, 上田 和光
    2022 年 47 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は75歳女性.肛門痛を主訴に当院を受診し,直腸診にて肛門縁から2cmに腫瘤を触知した.下部消化管内視鏡検査で直腸前壁を中心に膣内と交通する不整形腫瘍を認め,生検でびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断した.腹部CTでは直腸前壁から膣子宮頸部に約10cmの境界不明瞭な腫瘍を認めた.腫瘍出血に伴う貧血と直腸膣瘻による会陰部汚染と尿路感染があり,化学療法導入が困難と判断し,骨盤内臓器全摘術を先行治療した.術後4カ月で再発ありR-THP-CVP療法を導入するも,術後8カ月で永眠された.骨盤内臓器全摘術によって出血と尿路感染の制御効果があったと考えられた.

  • 畑 太悟, 野尻 卓也, 飯田 智憲, 薄葉 輝之, 吉田 和彦, 矢永 勝彦, 池上 徹
    2022 年 47 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
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    症例は48歳女性.生理不順を主訴に当院婦人科受診,肝腫瘍を指摘された.入院時身体所見は腹部に腫瘤を触知するも圧痛なし.HBs-Ag陰性,HCV-Ab陰性で,腫瘍マーカーはCA19-9のみ軽度上昇していた.腹部CT検査では肝外側区域に境界明瞭な14cm大の単発性腫瘍を認めた.内部は多血性で,不均一に造影され,複数の発達した肝静脈にドレナージされていた.消化管には明らかな悪性所見は認めなかった.以上より,肝血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)を最も疑ったが,悪性腫瘍が否定できないことと破裂の可能性を考慮し肝左葉切除術を施行した.術後の病理組織学所見ならびに免疫組織化学所見よりperivascular epithelioid cell tumor(PEComa)と診断した.肝PEComaは稀な腫瘍であり,その悪性度評価,治療法には現状では一定の見解はない.文献的考察を加えて報告する.

  • 川口 貴士, 宮下 正寛, 佐野 智哉, 菰田 あすか, 西村 潤也, 野沢 彰紀, 上西 崇弘
    2022 年 47 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は53歳男性.30歳時にC型肝炎が指摘されインターフェロン治療が行われたが無効であった.50歳時,明らかな腫瘤性病変が認められないため直接作用型抗ウィルス薬(direct-acting antiviral:DAA)治療を施行し,HCV-RNAは消失した.以降,約3カ月毎の超音波検査で経過観察されていたが,SVR達成から1年7カ月後,肝外側区域に15mm大の腫瘤性病変が指摘された.同腫瘤は,ソナゾイド造影超音波検査で早期濃染され,Kupffer相では欠損像として認められた.肝細胞癌と術前診断し,腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行したが,病理免疫組織学的検査で肝内胆管癌と診断された.術後経過は良好であり,術10日目に退院となった.術後1年が経過した現在,再発なく経過している.

  • 相山 健, 岩口 佳史, 市原 真, 横山 良司
    2022 年 47 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
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    肝エキノコックス症は本邦では主に北海道でみられる多包条虫Echinococcus multilocularisによる肝の寄生虫性囊胞性疾患であるが,悪性疾患の経過観察中に新規の肝エキノコックス症を経験することは極めて稀である.今回われわれは,乳癌術後9年目に発症した肝囊胞性病変に対して肝切除を施行し,結果的に肝エキノコックス症であった示唆に富む症例を経験したため,反省を込めつつ文献的考察を加えて報告する.症例は70歳,女性.61歳時に右乳癌で治療を受け,術後7年目のCTで肝S3に7mm大の類円形の囊胞性肝腫瘍を認めたが,肝囊胞と判断され経過観察となっていた.しかし,術後9年目のCTにて上記病変が10mmへと増大したため転移などの悪性疾患が疑われ肝切除を施行した.病理結果は肝エキノコックス症であった.術後アルベンダゾールの内服は追加していないが,術後3年が経過した現在も再発は認めていない.

  • 浦岡 未央, 船水 尚武, 新恵 幹也, 宇都宮 健, 田村 圭, 坂元 克考, 小川 晃平, 北澤 理子, 高田 泰次
    2022 年 47 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
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    症例は67歳女性で,前医で定期健診目的にCT検査を行ったところ縦隔・腹腔内リンパ節腫大を指摘され,当院紹介となった.FDG-PET検査で縦隔・腹腔内リンパ節と脾のびまん性FDG集積を認め,血清IL-2受容体高値であったため脾悪性リンパ腫が疑われ,腹腔鏡下脾臓摘出術を施行された.切除標本では,脾臓は12cmと腫大しており,脾臓内に明らかな腫瘤はみられなかった.病理組織学的検査では,巨細胞を伴う類上皮細胞の集簇を認め,脾サルコイドーシスと診断された.脾サルコイドーシスは脾臓内に単発,もしくは多発結節を認めることが多く,悪性リンパ腫との鑑別が難しい.今回われわれは,術前に悪性リンパ腫と術前診断したが,病理学的所見により脾サルコイドーシスと診断された1例を経験した.本症例のように,画像上明らかな結節や巨大脾腫を伴わずに脾内に病変を認めることは稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 福永 奈津, 早稲田 正博, 岡本 成亮, 筋師 健, 前田 知世, 佐藤 良平, 鈴木 哲太郎
    2022 年 47 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性.腹痛を主訴に来院した.CTで腹腔内遊離ガスとS状結腸の壁肥厚を認め,S状結腸癌の穿孔に伴う汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.開腹所見ではS状結腸に腫瘤を認め,子宮底部後壁に強固に癒着していた.子宮底部前壁には10mm大の穿孔を認め,子宮内腔に膿汁が充満していた.S状結腸癌の子宮浸潤に伴う子宮留膿腫穿孔と診断し,ハルトマン手術と子宮摘出術および腹腔洗浄ドレナージ術を行った.病理所見ではS状結腸に漿膜面に露出する高分化型腺癌を認めた.子宮壁は浸潤した癌組織により全層が置換され,炎症細胞に浸潤されていた.術後集学的治療を行い全身状態は改善した.術後2年を経過した現在,無再発生存中である.本病態は,他臓器浸潤を伴う進行癌により生じた急性重症感染症であり,患者の状態に応じた適切な治療選択を行うことが肝要であると考えられた.

  • 三浦 聡美, 伊藤 橋司, 竹村 信行, 三原 史規, 出口 勝也, 清松 知充, 國土 典宏
    2022 年 47 巻 1 号 p. 66-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は70歳男性.アルコール性肝硬変を背景とした肝細胞癌に対し経皮的ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation;以下,RFAと略記)を計4回施行された.S8病変に対して最終RFAを行った9カ月後,咳嗽および右上腹部痛を主訴に当院に搬送された.来院時,炎症反応の上昇,X線画像・CT画像では右上腹部に拡張した小腸と胸水を伴う右下肺浸潤影を認めた.右横隔膜下の肝表にも拡張した小腸を認めたが,Chilaiditi症候群と判断された.イレウスおよび肺炎の診断で加療したが症状の改善なく,入院6日目に38℃の発熱と炎症反応の上昇を認めた.再検した造影CTでは,Chilaiditi症候群と考えられた小腸は右横隔膜上に位置しており,壁造影効果の減弱を認め,RFA後横隔膜ヘルニアの嵌頓と考えられた.緊急で腹腔鏡下イレウス解除術を行い,壊死小腸切除および横隔膜ヘルニアの修復術を行った.経横隔膜的なRFA施行後の横隔膜ヘルニア嵌頓についての報告は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 中川 真理, 大城 泰平, 渡辺 晶子, 竹内 瑞葵, 野田 大地, 名取 健, 松尾 亮太
    2022 年 47 巻 1 号 p. 76-79
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性.胃潰瘍穿孔に対する開腹手術歴あり,上腹部に腹壁瘢痕ヘルニアを認めていたが,歩行困難,無症状のため往診医のもと経過観察されていた.2018年に咳嗽を契機に腹痛を生じ,救急搬送となった.往診医診察時の収縮期血圧40mmHgと低かったことから,出血性ショックを疑いCT検査を行った.単純CT検査では肝表面,網囊腔に液体貯留を認め,腹腔内出血と判断した.造影CT検査では左胃動脈の狭小化,腹部血管造影では同部位の途絶を認めた.左胃動脈の損傷による出血,一時的な止血状態と判断しコイル塞栓術を施行した.早期にバイタルの安定が得られたため,緊急止血術,ヘルニア修復術は行わず,保存的に治療を行い第13病日に退院となった.無症候性の腹壁瘢痕ヘルニアは積極的な手術適応とならないことが多いが,巨大腹壁瘢痕ヘルニアには緊急対応を必要とする続発症を伴うこともあるため,積極的な治療介入も選択肢の一つとなることが示唆された.

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