日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
Print ISSN : 0385-7883
ISSN-L : 0385-7883
45 巻, 6 号
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臨床経験
  • 小山 能徹, 又井 一雄, 中瀬古 裕一, 山崎 哲資
    2020 年 45 巻 6 号 p. 699-703
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    直腸脱に対する手術は,直腸脱患者の多くが高齢者であり,何らかの合併症を有することが多く,以前より経会陰的手術が経腹的手術よりも選択される傾向にあった.

    しかし,その根治性は経腹的手術の方が高く,近年では腹腔鏡下直腸固定術が比較的多くの施設で選択される傾向にある.

    2012年より直腸脱症例の腹腔鏡下直腸固定術が保険適応になり,低侵襲で根治性の高い直腸固定術の提供が各地で行われているが,統一された手術手技,適応の確立は未だなされていない.今回当院で経験した27例の腹腔鏡下直腸固定術27例について文献的考察を加えて報告する.

症例報告
  • 柳垣 充, 田部井 功, 萩原 慎, 星野 真人, 佐久田 斉, 古川 良幸
    2020 年 45 巻 6 号 p. 704-709
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    腺腫様甲状腺腫に合併し診断に難渋した縦隔内迷入甲状腺腫の1例を報告する.

    症例は,43歳,男性.頸部腫脹,頸部痛を主訴に近医を受診した.頸部超音波検査で最大径33mmと腫大した甲状腺左葉腫瘤を認め,穿刺吸引細胞診でclass Ⅱであったが,腫瘍の大きさと症状を考慮し,手術目的に当院紹介となった.造影CT検査では甲状腺左葉の腫瘤に加え,縦隔内に石灰化を伴う6cm大の腫瘤性病変を認めた.甲状腺腫および縦隔腫瘍の診断で,縦隔内の腫瘤を含めた甲状腺左葉切除術,上皮小体自家移植術を施行した.術後病理組織検査では,腺腫様甲状腺腫と異所性甲状腺の診断であった.術後5日に合併症なく軽快退院となった.

    縦隔内甲状腺腫のうち,甲状腺と連続性がないものは迷入甲状腺腫と分類される.超音波検査のみでは診断しえなかった縦隔内迷入甲状腺腫と腺腫様甲状腺腫の手術症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 野坂 涼子, 吉田 和彦, 武山 浩, 川瀬 和美
    2020 年 45 巻 6 号 p. 710-714
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    授乳中の母体の乳腺炎は日常的に経験するが,新生児でもときに乳腺炎を発症する症例がある.今回,われわれは生後28日目に発症したMRSA新生児乳腺膿瘍の1例を経験した.左乳房乳輪下膿瘍に対するドレナージに加え,膿汁培養でmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が原因菌として判明し,適切な抗菌薬を使用することで局所感染症にとどまり,重症化を防ぐことができた.感染経路は明らかでないが,本症例は臍炎に続発した乳腺炎であり,不顕性感染したMRSAが臍部から伝播した可能性が第一に考慮される.

  • 杉森 志穂, 明石 諭, 藤井 智美, 中井 登紀子, 山田 行重
    2020 年 45 巻 6 号 p. 715-720
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は50歳男性.左乳頭外側に約2cm大の柔らかい腫瘤を自覚し受診した.乳腺超音波検査で内部に充実成分を伴った多房性の囊胞性病変を認めた.充実成分に血流シグナルを認めたため,腫瘍性病変を疑い確定診断目的に摘出生検を施行した.病理所見では拡張乳管内に低乳頭状の異型上皮細胞の増殖を認め,免疫染色で非浸潤性乳管癌と診断した.左乳房切除術を施行したが,癌の遺残を認めなかった.腋窩郭清は行わなかった.男性乳癌は全乳癌の1%程度とされ,非浸潤性乳管癌はそのなかの4.8~7.0%を占める稀な疾患である.検索しえた本邦報告例に自験例を加えた38例の特徴を検討した.女性の非浸潤性乳管癌と比較して囊胞内癌の割合が高く,診断には超音波検査が有用である.細胞診や針生検の正診率は低いため,男性乳腺に囊胞性病変を認めた場合は本疾患を念頭に置き摘出生検などで病理診断を確定する必要があると考える.

  • 新堰 佳世子, 髙橋 雅哉, 伊藤 可奈子
    2020 年 45 巻 6 号 p. 721-729
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例1は68歳,女性.右乳癌,両側大腿骨含めた多発骨転移,肺肝転移,癌性リンパ管症の診断で化学療法後,内分泌療法とゾレドロン酸を開始した.開始5年5カ月後に転倒して右大腿骨転子下骨折を発症し,他院にて人工骨頭置換術を行った.さらに1年後に左股関節痛が出現し緩和照射を行うも改善せず,精査で非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture:AFF)と診断した.ゾレドロン酸を中止し髄内釘固定を行った.

    症例2は58歳,女性.右乳癌T2N0M0Stage ⅡAに対して右乳房切除+腋窩リンパ節郭清後,薬物療法を施行した.術後1年6カ月に肋骨転移をきたし,ゾレドロン酸を開始した.開始9年後に出現した右大腿部痛精査で両側AFFと診断した.ゾレドロン酸を中止し,髄内釘固定を行った.

    乳癌骨転移治療中に鼠径・大腿部痛を生じた際,ゾレドロン酸を長期使用している場合は骨転移による疼痛以外にAFFを念頭に置く必要がある.

  • 伊藤 俊一, 高橋 豊, 河合 陽介
    2020 年 45 巻 6 号 p. 730-737
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は48歳女性.右季肋部の違和感を主訴に前医受診.腹部超音波検査および腹部MRI検査を施行し,肝腫瘍の診断で当院紹介となった.アルコールは機会飲酒程度,HBs抗原,HBs抗体,HCV抗体,腫瘍マーカーは陰性であった.腹部造影CTおよびMRI検査で,肝右葉に造影早期より不均一な造影効果を伴う境界明瞭な約9cmの腫瘤性病変を認めた.原発性肝腫瘍もしくは肝外性腫瘍の診断で手術の方針とした.術中所見で腫瘍摘出+横隔膜部分切除+肝部分切除+胆囊摘出術とした.摘出標本は13cm×9cm大で,小囊胞状変性や一部出血を伴う黄白色の充実性腫瘍であった.病理所見では線維組織の増生および“pattern-less pattern”を認め,また,免疫染色の結果から右横隔膜部腹膜に発生した悪性孤立性線維性腫瘍と診断した.術後経過良好で,第9病日に退院とした.現在術後約8カ月経過しているが,補助療法なく明らかな再発は認めない.

  • 横井 亮磨, 畑中 勇治, 山田 成寿, 加藤 浩樹
    2020 年 45 巻 6 号 p. 738-744
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.呼吸苦と全身浮腫を主訴に受診した.胸腹部CTで全胃・横行結腸・小腸・膵体部が縦隔内に脱出しupside down stomachを呈する複合型食道裂孔ヘルニアを認めた.脱出臓器により心臓が右側へ圧排され心不全・呼吸不全へ至っていたものの,周術期リスクが高いと判断し保存的に心不全をコントロールした後,待機的に腹腔鏡補助下食道裂孔ヘルニア修復術を行った.食道から胃穹窿部が縦隔内へ高度に滑脱しヘルニア囊最深部で強固に癒着していたが,腹腔鏡下に注意深く剝離し還納した.しかし膵臓の還納は不完全であり,膵損傷や再発のリスクを考慮し開腹して食道裂孔縫縮,メッシュ留置,Toupet噴門形成術を行った.高度な滑脱と癒着を伴う複合型食道裂孔ヘルニアであり開腹が必要となったものの,腹腔鏡下に良好な視野で縦隔内の剝離を行うことで開胸手術を避けることができ良好な経過を得られた.

  • 桐山 俊弥, 白子 隆志, 洞口 岳, 井川 愛子, 佐野 文, 足立 尊仁
    2020 年 45 巻 6 号 p. 745-753
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性,S状結腸癌で低位前方切除術を施行した.病理診断はpStage ⅢAであった.術後1年2カ月に肝S7に経時的に増大する腫瘤が出現したが経過観察となった.術後1年10カ月に右肺S6に腫瘤が出現し,肺転移と判断し,Capecitabine+Oxaliplatin+Bevacizumab療法を5クール施行した.腫瘤の縮小や新規病変の出現はなく同時切除可能と判断し,術後2年7カ月に経横隔膜的アプローチで肝肺同時切除を施行した.手術は第10肋間開胸の胸腔鏡補助下で行い,まず肺S6の部分切除を施行した.肝腫瘍は経横隔膜的に部分切除した.病理診断では,肺腫瘍は非角化型扁平上皮癌,肝腫瘍は高分化型肝細胞癌であった.本症例は大腸癌転移ではなかったが,安全かつ低侵襲な手術が可能であった.横隔膜に近接する小さな病変では,本術式は選択肢になると考えられた.

  • 髙橋 優太, 田中 則光, 岡田 尚大, 東原 朋諒, コルビン ヒュー俊佑, 松田 直樹, 橋田 真輔
    2020 年 45 巻 6 号 p. 754-758
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は36歳女性.検診の上部消化管内視鏡検査で胃粘膜下腫瘍を指摘され経過観察されていたが,徐々に心窩部痛が出現してきたため,精査加療目的に当院を受診した.当院での上部消化管内視鏡検査では胃体中部大彎に径20mmの粘膜下腫瘍を認めた.超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引生検を施行したが,上皮や間質組織が採取されておらず確定診断は得られなかった.径20mmを超え,有症状のため,診断を兼ねて外科的切除の方針とした.腹腔鏡下に胃局所切除術を施行した.病理組織学的検査では,漿膜面に突出する径16mmと径8mmの囊胞性病変を認め,囊胞内腔の一部に胃底腺を含む胃粘膜組織を認めた.囊胞周囲には胃の固有筋層から連続する平滑筋層を伴っていた.以上の所見より,胃重複症と診断された.成人における胃重複症の切除例は比較的少なく,文献的考察を加えて報告する.

  • 今村 宏輝, 木戸上 真也
    2020 年 45 巻 6 号 p. 759-763
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性.貧血の精査にて胃噴門部後壁に進行胃癌を認め,手術目的に当院を受診した.高齢,併存症を考慮し縮小手術として開腹噴門側胃切除術,D1+リンパ節郭清,ダブルトラクト法再建を行い,腸瘻造設を併施した.手術時間は481分,出血量は880mlであった.術後は炎症反応が遷延し,術後6日目にCRPの異常高値を認めた.腹部CTにて門脈ガスを指摘されたが,発熱や腹部症状は認めず,腸管壊死を示唆する所見を認めなかったため,保存的加療を行った.その後,門脈ガスは消退し,炎症反応も改善した.術後14日目に経口摂取を再開し,術後26日目に軽快退院した.門脈ガス血症は従来,手術の絶対適応と考えられてきたが,近年は保存加療により治癒した症例報告が散見される.今回われわれは,胃癌術後に発症した門脈ガス血症に対し,保存加療により治癒しえた1例を経験したために文献的考察を加えて報告する.

  • 大野 玲, 村瀬 秀明, 吉野内 聡, 樋口 京子, 鈴木 悠太, 吉田 剛, 林 久美子, 上田 吉宏, 小畑 満
    2020 年 45 巻 6 号 p. 764-768
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    患者は他院で胃癌と診断されていた70歳の男性.早朝吐血を主訴に当院救急外来に搬送された.検査の結果,胃十二指腸動脈末梢の仮性動脈瘤が破裂したことによる出血が原因と診断した.胃癌は膵頭十二指腸,横行結腸間膜に浸潤していたものの,遠隔転移なく緊急膵頭十二指腸切除術と結腸右半切除術を施行した.術後胆管空腸吻合部の縫合不全を認めたが保存的に軽快した.病理組織学的診断はU,全周性,5型,100×147mm,adenocarcinoma(tub2>por2),pT4b(十二指腸,膵臓),INFb,Ly1,V1,pN3c(13/40),pStage Ⅲcであった.

  • 後藤 亜也奈, 棚橋 利行, 安福 至, 今井 健晴, 今井 寿, 田中 善宏, 松橋 延壽, 高橋 孝夫, 山口 和也, 吉田 和弘
    2020 年 45 巻 6 号 p. 769-776
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は32歳女性,妊娠25週に血性嘔吐を契機に近医受診.精査にてbulkyなリンパ節転移を伴う局所進行胃癌と診断され,加療目的に当院受診.妊娠週数や化学療法が胎児に及ぼす影響を考慮し,可能な限り胎内での発育を確保したく,S-1/DTX療法後に分娩の方針とした.2コース施行後の妊娠35週に2,374gの女児を経腟分娩した.計5コース施行後のCTにて原発巣およびリンパ節の縮小を認め,出産から11週後に胃全摘術(D2+No.10),脾臓摘出術,Roux-en Y法再建を施行した.ypT3N1M0,Stage ⅡB,組織学的化学療法効果はGrade 2であり,現在術後補助化学療法施行中である.妊娠中の胃癌合併は極めて稀で,予後不良である.また妊娠中の化学療法は,妊娠週数や胎児・母体への影響を考慮する必要がある.今回われわれは妊娠中に安全に化学療法を施行した1例を経験し,文献的考察をふまえ報告する.

  • 大橋 浩一郎, 濵田 哲宏, 中尾 英一郎, 大原 重保, 宇多 優吾, 村上 幹樹, 児島 正道, 西野 雅行, 山崎 純也, 岡田 敏弘
    2020 年 45 巻 6 号 p. 777-785
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    急性上腸間膜動脈閉塞症に対して大量腸管切除を施行し救命できたとしても長期予後は依然不良である.本症に対して手術を施行した3例を呈示する.症例1:74歳女性.壊死小腸を大量切除,残存小腸は空腸約40cm,回腸約10cmであり吻合.術後重篤な合併症はなく経過観察中である.症例2:75歳男性.小腸ほぼ全域と上行結腸の一部が壊死しており同腸管を切除,空腸瘻および上行結腸の粘液瘻を造設(残存空腸15cm).術後にカテーテル感染を認めたが一旦退院.空腸瘻は閉鎖したが,尿路感染・敗血症などで入退院を繰り返し術後807病日に死亡.症例3:83歳男性.小腸ほぼ全域および上行結腸の一部が壊死しており同部を切除し空腸瘻を造設(残存空腸40cm).術後はポート感染・敗血症などを併発し術後465病日に死亡.本症に対する大量腸管切除後は,短腸症候群による水分栄養管理や感染制御など長期間の包括的治療が必須と考えられた.

  • 吉澤 奈央, 田邊 麻美, 山口 浩和, 上西 紀夫
    2020 年 45 巻 6 号 p. 786-791
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は16歳,女性.食後の下腹部痛で来院.腹部造影CT検査で食物残渣(以下,食残)で拡張したMeckel憩室がみられ,その口側の腸管にも食残が貯留し腸閉塞であった.Meckel憩室の肛門側小腸に拡張はなかった.絞扼,壊死所見がないため保存的に経過をみたところ,腸閉塞は改善した.これまでも腹痛の既往があったことから待機的に腹腔鏡下Meckel憩室切除を行った.手術所見で憩室周囲の索状物,癒着および潰瘍などの炎症所見は認めず,初診時の腸閉塞は食餌性イレウスであったと考えられた.Meckel憩室に起因する食餌性イレウスは比較的稀であり報告する.

  • 村瀬 秀明, 大野 玲, 鈴木 祐太, 林 久美子, 西野 将司, 樋口 京子, 吉野内 聡, 上田 吉宏, 吉田 剛, 小畑 満
    2020 年 45 巻 6 号 p. 792-799
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳男性.突然の腹痛を主訴に近医を受診し,整腸薬を処方されたが,改善せず2日後に当院を紹介受診した.造影CTにて右下腹部の小腸間膜に約7cm大の多房性囊胞状腫瘤を認めた.2日後に腹痛は消失した.腹部MRIでは腫瘤は下腹部正中に移動しており,T2強調画像で高信号を呈していた.小腸間膜リンパ管奇形を疑い,待機的手術を予定したが,退院後7日目に同様の腹痛にて再入院した.造影CTでは腫瘤は左下腹部に移動していた.翌日には腹痛は消失したが,短期間で腹痛が再燃する可能性が高く,また捻転の増悪による腸管虚血,腸管壊死の危険性も危惧されたため,手術の方針とした.小腸間膜内に黄白色の柔らかな多房性囊胞状腫瘤を認めた.一部小腸に接していたため,小腸部分切除を施行した.病理組織学的にも小腸間膜リンパ管奇形と診断した.現在まで術後約3年再発なく外来経過観察中である.

  • 貝崎 亮二, 井上 透, 高塚 聡, 塚本 忠司
    2020 年 45 巻 6 号 p. 800-806
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は,46歳,女性.右卵巣囊腫の診断で手術を施行したところ,両側卵巣は正常で盲腸に腫瘤を認めた.精査目的に当科紹介となった.腹部MRIおよびCT検査では,骨盤腔右側に約50mm大の囊胞性病変を指摘された.下部消化管内視鏡検査では,盲腸前方に壁外圧排所見があり粘膜下腫瘍が疑われた.腹腔鏡下に観察したところ,盲腸に腫瘍を認め,周囲との癒着はみられなかった.後腹膜から授動後体外へ引き出し,回盲部切除を行った.摘出標本では腫瘍は50×55mm大で弾性軟であった.病理組織的学診断の結果は,内部にケラチン物質を充満した単房性の囊胞性腫瘍で,腫瘍内面には皮膚附属器を伴わない表皮が認められ,epidermoid cystと診断された.盲腸内腔とは交通を認めなかった.

    epidermoid cystの報告例は散見するが,盲腸に発生した報告例は非常に稀である.今回,盲腸epidermoid cystの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 矢野 佳子, 平林 邦昭, 木野 茂生
    2020 年 45 巻 6 号 p. 807-816
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性.遷延する発熱と体重減少を主訴に近医受診.腹部超音波にて右腹部に腫瘤を指摘され,当院紹介受診となった.来院時,37℃台の発熱とCRPの上昇を認めたが,腹部症状の訴えはなかった.腹部CTにて上行結腸に7cm大の造影効果を伴う腫瘤を認めた.大腸内視鏡検査では,上行結腸に巨大な粘膜下腫瘍を認め,生検を施行するも質的診断は困難であった.抗生剤にても解熱せず,他に感染のfocusは認めず,右半結腸切除術を施行した.術後はすみやかに解熱し,炎症反応は正常化した.病理検査では,炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(Inflammatory myofibroblastic tumor:IMT)と診断した.IMTは筋線維芽細胞の増殖と炎症細胞の浸潤が著明な腫瘍で,肺が好発部位であるが大腸原発は稀である.今回われわれは,上行結腸のIMTを経験したので,自験例も含め本邦ならびに海外報告例54例を検討した.

  • 宮原 智, 高橋 佑典, 三代 雅明, 三宅 正和, 俊山 礼志, 浜川 卓也, 酒井 健司, 西川 和宏, 宮本 敦史, 加藤 健志, 平 ...
    2020 年 45 巻 6 号 p. 817-824
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は46歳男性.腹痛,嘔気を主訴に前医を受診し,腸閉塞に対する加療目的に当院紹介受診.CTで上行結腸に腫瘤を認め,上行結腸癌に伴う腸閉塞と診断.イレウス管留置により症状は改善したが,留置後8日目に急激な左上腹部痛と限局的な圧痛,筋性防御を認め,イレウス管の排液が血性に変化した.CTにて空腸に腸重積を認め,同日緊急手術を行った.術中所見では,Treitz靭帯より約70cmの空腸が約30cmにわたり肛門側へ重積していた.腸重積の原因となるような腫瘍性病変は認めず,イレウス管が誘因になったと考えられた.腸管の色調不良を認め腸管虚血が疑われたため,同部位を切除した.また上行結腸癌に対する結腸右半切除術を併施した.成人の腸重積症の原因の多くは消化管の腫瘤性病変であり,イレウス管が原因とされるものは比較的稀である.今回,われわれはイレウス管が原因と考えられる腸重積の1例を経験したので報告する.

  • 藤川 馨, 能浦 真吾, 鈴木 陽三, 谷田 司, 竹山 廣志, 野口 幸藏, 広田 将司, 清水 潤三, 今村 博司, 堂野 恵三
    2020 年 45 巻 6 号 p. 825-829
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    10mm未満の直腸神経内分泌腫瘍(NEN)のリンパ節転移率は低率であるが,微小病変でもリンパ節転移を認める例も報告されており治療戦略は確立されていない.今回,リンパ節転移を伴った9mmの直腸神経内分泌腫瘍G1の1例を経験した.症例は70歳男性,大腸内視鏡検査にて直腸Rb部に小指頭大の粘膜下腫瘤を指摘された.腫瘤は頂部に陥凹を伴っており,生検にてNEN G1の診断となった.腹部CT検査にて10mm大のリンパ節腫大を指摘され腹腔鏡下低位前方切除術(D2郭清)を施行した.病理所見では最大径9mmで深達度はSMであった.核分裂像数は2/2mm2未満でKi-67 指数は3%未満とNEN G1であったがly1とリンパ管侵襲陽性であった.腸管傍リンパ節(251)にて3/7とリンパ節転移陽性を認めた.本症例のように微小病変であっても治療方針の決定には画像評価を行うことが必要と考えられた.

  • 關口 奈緒子, 池永 雅一, 池上 真理子, 家出 清継, 上田 正射, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 谷田 司, 松山 仁, 山田 晃正
    2020 年 45 巻 6 号 p. 830-835
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性.自慰目的で肛門から瓜を挿入し,排出困難となり当院を受診した.腹部単純CTで16×7cm大の瓜を直腸RS付近に認め,腸管穿孔所見は認めなかった.摘出の際に腸管損傷の可能性を考え,全身麻酔下での摘出を試みた.全身麻酔下,砕石位で手術を開始した.肛門括約筋の弛緩は得られたが肛門内に異物は確認できず,下腹部圧排で瓜の頂部をわずかに確認できた.ミュゾー鉗子で把持を試みるも困難であり,子宮筋腫用のミオームボーラーを瓜に挿入し,下腹部の圧排と牽引で摘出を試みた.しかし,瓜は脆弱でミオームボーラー挿入部が砕けるため,別角度からもう1本挿入することで力を分散し脆弱性を補うことで腹部圧迫を併用し摘出に成功した.直腸異物は多種多様の異物が報告されており,摘出方法の工夫が必要である.今回直腸異物(瓜)に対して,異物の大きさと摘出器具の特徴を術前に綿密に確認することで安全に摘出しえた症例を経験した.

  • 柳垣 充, 恩田 真二, 羽村 凌雅, 堀内 尭, 白井 祥睦, 春木 孝一郎, 古川 賢英, 塩崎 弘憲, 後町 武志, 池上 徹
    2020 年 45 巻 6 号 p. 836-841
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    先天性胆道拡張症の経過観察中に低分化型胆管癌を発症した症例を経験した.症例は初診時63歳の男性で,左背部痛の精査で行ったCT検査で胆道拡張を指摘された.MRCP,ERCPを行い,先天性胆道拡張症(戸谷分類Ⅳ-A型),膵・胆管合流異常と診断した.手術を勧めたが,患者が希望せず経過観察とした.総胆管結石を認め内視鏡的胆管ステントを挿入したが,胆管ステントに起因すると思われる膵炎を発症し,胆管ステントは抜去した.その後,画像検査で肝門部領域胆管に腫瘍を認めた.胆管癌が疑われ手術の方針とし,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理所見は肝門部領域胆管癌,低分化型であった.術後補助療法でS-1を投与していたが,術後6カ月で肝転移,腹腔動脈周囲リンパ節転移を認めた.ゲムシタビン+シスプラチン投与を開始したが,治療効果に乏しく術後1年6カ月後に癌死した.先天性胆道拡張症の手術時期を考慮する上で重要な症例と思われたので報告する.

  • 塚本 忠司, 枝川 永二郎, 堀 高明, 貝崎 亮二, 高塚 聡, 福島 裕子
    2020 年 45 巻 6 号 p. 842-848
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性.心窩部痛,嘔吐,下痢を主訴に当院受診.腹部単純CTで小腸の部分的拡張と膵体部腫瘤を認めたため入院となった.2日後に施行された造影CTでは小腸の拡張は軽減しており,壁肥厚と腸間膜浮腫の残存を認めたが,明らかな腫瘤性病変は認められなかった.その後,腸管の拡張は消失し,膵体部癌の診断のもと開腹したところ,膵体部癌とともに空腸腫瘍を認め,膵体尾部切除・門脈合併切除術および空腸部分切除術を施行した.切除標本の病理組織検査で膵体部癌およびその空腸転移と診断された.術後6カ月間S1による補助化学療法を行ったが,術8カ月後に局所再発による閉塞性黄疸を認め,胆管内に金属ステントを留置した.その後Gemcitabine+nab-PTXによる化学療法を術施行したが,術17カ月後に腫瘍性DICにより死亡した. 全経過を通じて,肝転移,肺転移などの遠隔転移や播種性病変は認めず,小腸や大腸の通過障害をきたすこともなかった.

  • 森田 覚, 城崎 浩司, 宇田川 大輔, 成松 裕之, 谷 紀幸, 林 浩二
    2020 年 45 巻 6 号 p. 849-854
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は34歳男性で,上腹部痛を契機に当院を受診した.上腹部正中に鶏卵大の圧痛を伴う膨隆を認めた.CTで上腹部正中白線に約20mmの裂孔と脱出する大網を認め,白線ヘルニアと診断した.手術中,上腹部正中白線にヘルニア門を認め,同部より大網が脱出していた.鏡視下でこれを引き出し,嵌頓を解除後,IPOM(Intraperitoneal onlay mesh)に準じメッシュを腹腔側より固定し修復した.白線ヘルニアに対する腹腔鏡手術は,近年増加傾向にあるが短期・長期成績について一定の見解が得られていない.しかしながら,白線ヘルニアの再発率,一定の頻度で存在する多発症例,整容性を鑑みると腹腔鏡手術への期待は大きい.今回われわれは,Bard Ventralight ST with Echo2を用いて腹腔鏡下に修復した白線ヘルニアの1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

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