われわれは,観血的処置が有効であった認知症高齢者の習慣性顎関節脱臼の1例を経験した。患者は84歳女性。既往歴は右視床出血認知症,高血圧であった。2022年8月下旬,顎関節脱臼状態を認め,入所施設より精査加療目的にて当科受診となった。画像検査では両側下顎頭が関節隆起の前上方に位置しており,顎関節前方脱臼を呈していた。骨形態に明らかな異常所見は認めなかった。徒手的整復を行ったところ,整復は容易であり,2週間のサージカルガーメントによる開口制限を施設職員および家族に指示した。整復翌日に,自己にてサージカルガーメントを外し再脱臼した。再度当科を受診し徒手的整復を行った。帰施設し,同日夜間自己にてサージカルガーメントを外し,再々度脱臼をしたため,当院を救急受診したところ,経口摂取は困難で輸液管理目的にて入院となった。施設職員および家族と相談し,全身麻酔下にて10月に関節隆起切除術を施行した。術後,顎関節脱臼は認めず,経口摂取は十分可能であった。今後,高齢認知症患者の増加とともに,顎関節脱臼の患者の増加も予測されるが,治療法の選択に際しては,患者の全身状態とその病態に関する十分な診査,および社会的背景を考慮する必要がある。また,超高齢社会においてこのような患者が病院歯科を受診する機会が増加すると思われる。歯科医師が中心となり,カンファレンスを行いコメディカルと多職種連携を行うことで,早期に施設に戻れる環境を提供することができた。
目的:咀嚼機能は残存歯数に大きく依存しており,残存歯数と食事摂取状況との関係について研究が行われてきた。しかしこれらの研究では,摂取食品に関するデータは調査回答者の記憶に基づいて収集されており,客観的なものではない。したがって,自己申告による食事摂取量調査に加え,食事の画像を記録・解析することで,より正確な食事摂取量の測定が可能になると考えられる。本研究の目的は,高齢者における残存歯数と食事摂取量との関連を,自己申告による記録だけでなく,食事の画像を用いて調査することである。
方法:31名の研究参加者の残存歯数と食事摂取量を調査した。歯が20本未満の群と20本以上の群について共分散分析(ANCOVA)を行い,食事摂取量と栄養素摂取量を比較した。
結果:レチノール,ビタミンB12の摂取量は,20本以上の歯がある群で20本未満の群より有意に多かった(レチノール:0-19;216.24(301.48),20≤;627.82(716.26),p=0.01),(ビタミンB12:0-19;3.13(1.63),20≤;5.87(1.63),p<0.01)。いずれの食品類においても20本未満と20本以上の群の間に有意差はなかった。
考察:残存歯数は咀嚼能力に影響し,栄養不良を防ぐことができる。本研究では,いずれの食事群においても摂取量に有意差は認められなかった。同じ食品群であっても,個々の食品によって咀嚼の難易度は大きく異なる。硬さや性質によって食品群を細かく分類すれば,摂取量に差が生じる可能性がある。限界はあるが,本研究では栄養摂取状況を被験者の主観的な報告だけでなく,写真画像解析も行っているため,より実情に近い栄養摂取状況を反映している。