高齢者の嚥下機能は加齢により低下することが報告されている。また,誤嚥性肺炎を契機に絶食や臥床期間が生じることでサルコペニアに至り,嚥下障害が重度化するケースも散見される。サルコペニアの原因は,加齢,活動,栄養,疾患に分類されるが,いずれの場合も栄養介入と同時に運動介入が必要である。そこで,嚥下機能の低下の予防を目的とし,安静臥床時にも行える嚥下筋に対する筋力増強訓練を検討した。健常成人17名(男性10名,女性7名),平均年齢31.9±6.2歳を対象とした。測定は,開口抵抗訓練を座位と仰臥位で行ったときの舌骨上筋群および胸鎖乳突筋を表面筋電計で記録し,最大振幅値および平均振幅値を計測した。座位と仰臥位の姿勢間での最大・平均振幅値の比較には,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いた。有意水準はすべて5 %未満とした。
舌骨上筋群において最大振幅値では座位が仰臥位よりも高い値を示し,平均振幅値では仰臥位が座位よりも高い値を示したが,いずれも有意差は認めなかった。胸鎖乳突筋においては最大振幅値,平均振幅値ともに仰臥位に比べて座位が高い値を示した(p<0.05)。
仰臥位での運動は座位と比して,老嚥およびサルコペニア,さらに臥床状態の急性期症例であっても舌骨上筋群を強化できる可能性が示唆された。
高齢者の口腔機能低下と低栄養との関連が報告され,歯科診療においても高齢者の低栄養への配慮が求められている。口腔機能のなかでも,舌圧は食物摂取において重要な指標であり,栄養状態との関連が示唆されている。本研究では,歯科医療機関を外来受診した患者の舌圧と栄養状態との関連を明らかにすることを目的とした。対象者は,2018年1月から2020年12月までに,摂食嚥下リハビリテーションを専門とする歯科医療機関を外来受診した,65歳以上の初診患者151名(平均年齢80.5歳,男性95名,女性56名)とした。調査方法は,歯科医師による診療記録を基に,患者の基礎情報,最大舌圧や機能歯数のデータを収集した。また,栄養に関する項目として,低栄養のリスク評価ツールであるMini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)のスコアを収集した。解析の結果,舌圧の低下に伴いMNA-SFのスコアも段階的に低くなるという容量反応関係を認めた(傾向性のp値<0.001)。これは,性別や年齢,機能歯数などから独立した関連であった。以上の結果から,歯科診療において,患者の舌圧の経時的な変化を観察し,低栄養のリスクを早期に推測することが重要であると考えられた。舌圧の低下がみられた患者に対し,積極的な栄養介入を行うことで低栄養の予防あるいは改善がみられるか,今後の課題である。
目的:奥羽大学歯学部附属病院が行っている特別養護老人ホーム入所者への歯科訪問診療の現状について調査したので報告する。
方法:本学附属病院が歯科訪問診療を実施している特別養護老人ホーム入所者262名を対象とした。調査項目は年齢,性別,現在歯数,要介護度,経管栄養の有無,および治療内容とした。要介護度と経管栄養の有無は患者が入所している施設の記録から,その他のデータは診療録から後ろ向きに収集して統計的に解析をした。
結果:調査対象者の平均年齢は85.2±8.4歳であった。男性は50名(19.1%)で,女性は212名(80.9%)であった。要介護度は3度以下が55名(21.0%),4度が154名(58.8%),5度が53名(20.2%)であった。治療内容では,多い順に口腔衛生管理が206名(78.6%)であり,義歯調整が118名(45.0%),義歯修理が74名(28.2%)であった。口腔衛生管理を実施した206名を対象に,月ごとの実施回数と関連する要因について順序ロジスティック回帰分析を用いて解析した結果では,現在歯数(p<0.001),経鼻経管栄養の有無(p=0.014),および胃瘻の有無(p=0.002)が有意な独立変数であった。
結語:本学附属病院における特別養護老人ホームへの歯科訪問診療で最も多かったのは口腔衛生管理であった。また,月ごとの口腔衛生管理の実施回数においては現在歯数,要介護度,経管栄養が関与していた。今後は対象者数を増やし,さらに詳細な分析を実施していく予定である。