環境科学会誌
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30 巻, 2 号
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一般論文
  • 多島 良, 田崎 智宏
    2017 年 30 巻 2 号 p. 44-56
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    自然災害は,災害廃棄物の散乱や家屋解体に伴うアスベスト飛散等,様々な環境リスクを伴う。こうした災害環境リスクを管理する行政主体は,行政リソースが確保しにくい中で様々な災害対応業務にあたる必要がある。このとき,どこまで,どのように災害環境リスクを管理していくべきかについての,市民の考えをふまえた基本的方針は指針等で示されていない。本稿では,こうした災害環境リスクの管理方策の実施検討に役立てるため,大規模自然災害時において環境リスクを管理することに対する市民の態度とその規定因を明らかにすることを目的に,東日本大震災の被災者を対象としたwebアンケート調査を実施し,共分散構造分析等による多変量解析を行った。解析にあたっては,従来の計画行動理論を参考にしつつ,リスク管理行動の主体が行政(=他者)である点,配慮行動ではなくリスク回避行動である点,「災害時」という特異な状況における行動である点に留意し,仮説モデルを設定した。その結果,多くの市民が災害に伴う多様な環境リスクを認知していること,災害時には環境影響を許容する傾向があり,男性ならびにより健康な人の方がその傾向が強いことが示された。また,快適さの損失に係る環境リスクに対する管理の優先度は,平時と比較して災害時は大幅に下がることが分かった。一方で,健康被害を想起される環境リスクについては,災害時だから仕方なく受け入れるという気持ちにならず,管理して欲しいと考えられるものであり,特に留意すべきであることが示唆された。また,快適さに関する環境リスクについても,健康状態の悪い人は災害時には仕方がないという気持ちが働かないことから,適切な配慮が必要であることが示唆された。

2015年シンポジウム
  • 金井 亮太, 大和田 健登, 藤江 幸一, 橘 隆一, 塚本 真大, 後藤 尚弘, Udin Hasanudin
    2017 年 30 巻 2 号 p. 57-66
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    キャッサバからデンプン(タピオカ)を製造する工程で発生する残渣の活用,高濃度排水からの温室効果ガスの排出削減,エネルギーの自給促進などを併せて実現する方策として,残渣の飼料化による肉牛肥育と牛糞尿の堆肥化による農地還元,メタン発酵によるエネルギー回収などを組み込んだリサイクルシステムの構築が有効であると考えられる。このシステムをデザイン・評価するには,タピオカ工場に加えて,上記したシステムを構成する要素となる技術における炭素と窒素に係る物質フローの分析・評価が不可欠である。本研究では,スマトラ島の大小のタピオカ工場において,実測,操業条件の把握とヒアリングに基づいて,物質フローに関する下記の分析結果を得たので報告する。小規模タピオカ工場では,原料キャッサバ1 tから204 kgのタピオカが生産され,原料中有機炭素164 kgの内訳はタピオカに71.6 kg,キャッサバ搾り滓(以下,オンゴック)に40.4 kg(24.6%),排水に46.7 kg(28.5%)であった。肥育牛の体重を200 kg増加するためのオンゴック給餌量は有機炭素基準で204 kgであり,キャッサバ5 tのオンゴック量に相当する。併用する飼料を含めて,給餌中の有機炭素は371 kg,窒素は18.3 kgであり,糞尿中ではそれぞれ275 kgおよび14 kgであった。ラグーンでは原料キャッサバ1 t加工時の排水から約6.9 m3のメタンが発生すると見積もられた。大規模タピオカ工場では,原料キャッサバ1 t加工時のタピオカ生産量は190 kgであり,原料中有機炭素164 kgの行方はタピオカに66.7 kg,オンゴックに35.6 kg,排水に33.7 kgであった。この排水はパイナップル工場排水と混合されてUASB方式でのメタン発酵により,COD容積負荷が6.5 kg-COD/m3・日の条件下でメタン収率は約280 L/kg-CODであった。

  • 後藤 尚弘, 藤江 幸一, 橘 隆一, Udin Hasanudin, 塚本 真大, 金井 亮太, 大和田 健登
    2017 年 30 巻 2 号 p. 67-74
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    熱帯プランテーションは世界の食糧需要に欠かせない場であるが,いくつかの課題が明らかになっている。一つは単収が減少傾向にあるということである。地力が低下していることが主な原因であり,不耕起農法,有機物の施肥,生物多様性の確保等様々な取り組みがなされている。また,プランテーション工場から排出される大量の残渣やバイオガスの有効利用も大きな課題である。本研究ではプランテーションの物質・エネルギー収支を評価することを目的とし,プランテーションの物質収支を記述する数理モデルを提案した。モデルはプランテーション,加工工程二つのプロセスから成り立つ。物質,炭素,エネルギーを変数として各プロセス内,各プロセス間の物質・エネルギーフローを構築する。本モデルは,単収の向上,環境負荷低減,バイオマスとエネルギーの外部供給能力等に関して,各影響因子と因果ループを明らかにし,俯瞰的視点からこれらを予測する。本モデルを用いてキャッサバ工場におけるバイオガスの有効利用についての評価を実施した。結果によるとバイオガスの再利用により少なくとも60%の温室効果ガスを削減できると評価できた。

  • 三浦 季子
    2017 年 30 巻 2 号 p. 75-81
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,熱帯地域では,森林から農地への転換によって表層土壌が失われ,土壌の劣化が深刻化している。土壌微生物は物質循環などの土壌の生態系機能を担っていることから,環境変化や人為的攪乱に対する土壌微生物群集の変動を理解することは重要である。しかしながら,農業活動が土壌微生物群集にどのような影響を与えているのか明らかにされていない点が多い。本解説では,耕起や施肥などの農業活動が土壌微生物群集に与える影響に関する既存研究をまとめ,熱帯地域における持続可能な農業活動のための研究の方向性について議論したい。

  • 金子 信博, 三浦 季子, 南谷 幸雄, 荒井 見和, 藤江 幸一
    2017 年 30 巻 2 号 p. 82-87
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    熱帯林の農地への転用は,土壌有機物の減少を招き,土壌の質が劣化すると言われている。熱帯林の保全と食料生産の両立のためには,すでに農地となった土壌の劣化を防ぐ保全的な利用を改善する必要がある。農地土壌の保全管理として,耕起の抑制,有機物マルチ,輪作が有効であることが明らかにされつつある。そこで,インドネシア・スマトラ島南部のランプン州のサトウキビプランテーションにて土壌保全的な農地管理を導入し,収穫量を比較した。ここで導入した保全管理は,不耕起栽培とバガス・マルチの施用であり,それぞれの有無を組み合わせて4処理を比較した。実験開始5年目に比較したところ,処理間にサトウキビと砂糖の生産量は有意な違いは見られなかったが,砂糖の含有率は不耕起処理で有意に高かった。したがって,熱帯においても不耕起栽培とマルチの導入は,有効な保全管理の手法であることがわかった。

特集
  • 高 安荣, 中野 牧子
    2017 年 30 巻 2 号 p. 88-95
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    環境ラベルに関する先行研究としてはこれまで,ラベルの付与された製品に対する消費者の選好や購買行動を調べる研究が多数行われてきた。その一方で,企業価値の観点から環境ラベルを分析する研究は十分には行われてこなかった。このため,本研究は環境ラベルの付与された製品を生産している企業のトービンのqが,そうでない企業のトービンのqと比べて高い傾向があるか分析を行うことを目的とする。環境ラベルには多くの種類があるが,本研究は第三者認証が必要なものに焦点をあてる。分析対象は,日本の製造業に属する上場企業である。また,内生性を考慮するために,操作変数法を用いた推定を行った。その結果,第三者認証を伴う環境ラベルの付与された製品を生産している企業は,そうでない企業と比べ,トービンのqが高い傾向があることが明らかとなった。

  • 功刀 祐之, 有村 俊秀, 中静 透, 小黒 芳生
    2017 年 30 巻 2 号 p. 96-106
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    自然環境の価値を評価する手法として,主観的幸福度を用いた分析が注目されている。そこで本研究も主観的幸福度を用いて,日本に存在する自然資本が地域住民にどのように評価されているかを分析した。本研究では資本を自然資本,物的資本,人的資本,社会関係資本の4種類に分類して分析を行った。分析に使用する主観的幸福度に関するミクロデータはWebアンケートにより日本全国から収集した。また日本全国から市区町村ごとの自然資本のデータと物的資本のデータを収集し,位置情報をもとに地域住民の主観的幸福度のデータと結合して分析した。回帰分析の結果,河川や湖といった開放水域と植林地が人々の幸福度と正の相関があることが分かった。つまり,人々の幸福度を増加させるという観点から見た場合,これら自然資本を整備するような政策が望ましい。

  • 若林 雅代
    2017 年 30 巻 2 号 p. 107-120
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    日本では1997年以来,業界団体が主体的に温室効果ガス削減のための計画(自主行動計画)を策定し,生産活動における排出削減に取り組んできた。20年に及ぶ取り組みの中で,自主行動計画の効果に関する研究の蓄積は,十分とは言えない。とくに,企業単位での効果については,入手可能な情報が限られていることから,分析が進んでいない。本研究では,業界団体が自主行動計画で果たしている役割に関する所属企業による評価に対し,自主行動計画のカバー率や市場における競争状況の影響を分析した。企業数カバー率,売上規模カバー率,市場での企業の競争状態の各指標の影響を,順序選択モデルによって企業規模別に定量評価したところ,規模の小さな企業において,カバー率が高くなるほど,あるいは市場が寡占状態に近づくほど,企業は業界団体の果たす役割を高く評価する傾向にあるという結果が得られた。このことから,自主行動計画のカバー率が高い場合や,市場占有率の高い企業が存在する場合には,業界団体と中小企業との協力関係を築きやすいという示唆が得られる。分析結果は,自主行動計画の機能は業界の構造に依存すると解釈することもできる。そのような解釈が正しい場合,全ての業界・団体が自主行動計画に取り組むよう促すより,業界の特性を見極め,業界団体の働きかけがうまく機能する業界を対象として自主行動計画を活用することが適切と考えられる。

  • 矢島 猶雅, 有村 俊秀
    2017 年 30 巻 2 号 p. 121-130
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,自治体レベルの温室効果ガスの排出量削減政策が普及している。中でも,「地球温暖化対策などに係る計画書制度」(以下,計画書制度)が多くの都道府県で共通して導入されている。当該制度は,一定規模以上の事業所に対し温室効果ガス排出量削減のための具体的な計画と,その結果報告を定期的に義務づける。更に,計画もしくは報告の内容に対し,自治体が助言などを行う規定も付加されている場合が多い。このように,計画書制度は自治体レベルで事業所に排出量削減についてモニタリングと補助を行う枠組みである。しかし,制度の効果には疑問の声もある。各事業所の排出量削減の水準について罰則が存在していないのである。計画書制度において罰則と呼べるものは計画/報告の未提出や虚偽報告に対するものに限られる。すなわち,実際に排出量削減が実現するかは定かではない。そこで,本研究では計画書制度が削減効果を有するか否かについて検証を行う。具体的には,1990年度から2013年度の製造業部門の都道府県レベル集計データを用い,制度の有無による排出量の変化を計量分析した。その結果,計画書制度を導入した都道府県では,平均的に約8%から約10%製造業部門の従業者一人当たり排出量が削減されていることが示唆された。計画と報告,及び省エネ指導という枠組みが有効な可能性を示唆する結果である。

  • Mriduchhanda CHATTOPADHYAY, 有村 俊秀, 片山 東, 作道 真理, 横尾 英史
    2017 年 30 巻 2 号 p. 131-140
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    途上国の家庭内での調理に起因する室内大気汚染が問題視されている。調理時に発生する煙の健康への悪影響が報告されている。調理時に使用する燃料・エネルギー源を変えることでこの室内大気汚染を減らすことが可能であるが,途上国の多くの家庭が汚染を引き起こす伝統的な燃料の使用を続けている。家庭の燃料選択を対象とした実証研究が始まっているが,家計レベルのミクロ・データセットを用いた研究はまだ少ない。本研究はインド・西ベンガル州の68世帯を対象としたフィールド調査と収集したデータを用いた計量経済学的分析によって,インドの家計の燃料選択に影響を与える社会経済的要因を明らかにした。対象地域から無作為に抽出した家計の調理担当者を対象としてインタビュー調査を行い,薪・牛糞・石炭を「汚い燃料」,ケロシン・液化天然ガス・電力を「きれいな燃料」と定義し,データを生成した。家計の燃料選択をランダム効用モデルを用いてモデル化し,収集したデータを用いて,回帰分析を行った。ロジット・モデルを用いた最尤法による回帰分析の結果,調理が家の中で行われる家計ほど,また,燃料を無料で入手することができない家計ほど,「きれいな燃料」を選択することがわかった。加えて,「家計所得」,「回答者の年齢」,「教育水準の高さ」に関する指標と「きれいな燃料」の選択との間に正の相関が見られ,「家計の構成員数」,「最も近い市場への距離」に関する指標と「きれいな燃料」の選択との間に負の相関が見られた。これらの結果を活用し,家計の社会経済的状況に応じた室内大気汚染削減政策を立案することが求められる。

  • 武田 史郎
    2017 年 30 巻 2 号 p. 141-149
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    効率的に,つまり経済全体の削減費用を最小化する形でCO2を削減するには排出源(企業)の間で削減の限界費用を均等化させる必要がある。排出量取引においてそれを実現するには全ての部門を対象として排出枠の取引をおこなわせる必要があるが,現実の排出量取引では対象を一部の部門に限定していることが多い。本研究の第一の目的は,排出量取引の対象を一部の部門に限定することによって排出規制の効率性が実際にどの程度損なわれるかを定量的に分析することである。海外では排出量取引が主要な排出規制の手法として利用されている国が多いが,日本では排出量取引のようなトップダウン型の規制より企業の自主的な行動による削減が好まれる傾向がある。しかし,自主的な行動による削減は限界削減費用の均等化を達成するものではないため,やはり経済全体を対象とした排出量取引より効率性が劣ると考えられる。本研究の第二の目的は排出量取引と自主的な削減の効率性を比較することである。分析には日本を対象とした多部門の応用一般均衡モデルによるシミュレーションを利用している。主な分析の結果は以下の通りである。まず,排出量取引の部門を限定することで,場合によっては排出規制の効率性がかなり悪化することがわかった。特に,電力部門のみに限定するケースでは全部門を対象とするケースよりGDPや消費の減少率が2倍程度に拡大した。第二に,全部門を対象とした排出量取引と企業の自主的な削減を比較するとやはり後者の方が効率性は劣ることになった。今後,どのような手段を用いてCO2を削減していくかは重要な課題であるが,本研究の分析は部門間での限界費用の乖離につながるような仕組みを選択することで,排出規制の効率性が大きく損なわれる可能性があることを示唆している。

  • 杉野 誠, 井上 雄介
    2017 年 30 巻 2 号 p. 150-160
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    企業の社会的責任の高まりとともに,企業の環境情報開示が多く実施されている。環境情報開示には,法律で要求される場合と自主的に行われる場合とがある。実際に,開示された環境関連の情報をもとに企業の評価が行われ,その結果が公表されている。しかし,法的拘束力がある情報開示では,法律で求められる必要最低限の情報しか公表されない可能性がある。また,自主的な情報開示では,企業にとって良いものしか開示されない可能性がある。そのため,統一された項目で企業の評価が実施されなければ,開示内容に基づいた評価結果にバイアスが生まれる可能性がある。ただし,法的拘束力がある情報開示より,自主的な情報開示の方が多面的な情報が開示されるため重要である。企業が自主的な環境情報開示に取組む理由として,①環境意識が高い消費者の獲得(売上の増加),②資本コストの引き下げ,③労働者の獲得などが考えられる。環境情報開示は,これらのメリットがあると考えられるが,その反面,企業内部の情報収集,部署間の決済など費用を要する。加えて,第三者による評価が低い場合,逆効果が生じるリスクがある。本稿では,市場での評価が企業の自主的な環境情報開示を行う動機となっているのかを明らかにする。また開示された情報の第三者評価が市場によって評価されているかを明らかにする。具体的には,2010年から2013年の間のCDPレポートの公表と,CDP対象企業の株価との間に影響を関連があるかを検証する。分析の結果,情報開示を行った事実が市場に公表されても企業価値(株価)の大幅な上昇が認められなかった。

  • 森田 稔
    2017 年 30 巻 2 号 p. 161-170
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    エネルギー消費量の削減は,地球温暖化問題やエネルギー安全保障の観点から,多くの国において重要な政策課題の1つとなっている。日本では,産業部門を中心に省エネ化が進められてきたが,家庭部門でのエネルギー消費量は顕著な増加となっている。本研究では,東日本大震災以前のデータを用いて,震災以前において家庭部門での省エネ行動を促す上で経済的要因(主観的な節約金額等)が家庭での省エネ行動にどの程度の影響を持っていたのか,また正確な節約金額という情報を提示した場合の省エネ行動の実施確率の変化について分析を行った。分析結果より,多くの省エネ行動において,家庭は主観的節約金額のような経済的要因が省エネ行動を促進する効果は限定的であることが示された。さらに,実現可能な節約金額を提供した場合の効果については,ほとんど影響をもたらさないことが示された。

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