熊本県内の屠畜場で1991年に得られた1,258頭の肉豚情報を用い, 個体ごとの利益を従属変数とした重回帰分析から利益関数を導き, 最適の利益関数を各形質で偏微分して出荷日齢と屠体形質の経済価を推定した。ただし分析に用いた個々の肉豚の利益は, 生物経済モデルから求めたものである。
利益推定のための線形重回帰式において, 利益の背脂肪の厚さ (BFc) と出荷日齢 (DAY) および背脂肪3部位の変動係数 (CVBF) に対する標準偏回帰係数は相対的に大きく, 枝肉歩留 (DP) と背腰長のII (BLL) に対する標準偏回帰係数は小さく推定され, 寄与率は0.67であった。各形質と利益との間には2次の関係があり, 2次の重回帰式では, 寄与率は0.85に向上した。しかし, DPとCVBFの2次頃の偏回帰係数の符号は正で適正水準が存在しないことから, 両形質の2次項は式に含めなかった。その場合各形質の経済価 (円頭
-1) は, DAY: -86 (日
-1), DP: 128 (%
-1), BLL: -57 (cm
-1), BFc: -295 (mm
-1), CVBF: -39 (%
-1) と推定された。非線形式を線形に近似して得られたこれらの経済価は, 個体評価においては常に最適とは限らないが, 線形近似に基づく個体評価の誤差が遺伝的改良量に与える影響は, 豚の育種構造上小さいと考察された。
本方法には, 偏回帰係数が重回帰式の形や形質間の相関関係で変化するなどの欠点がある。しかし, わが国の豚の屠体形質のように, 単価が不明瞭で, かつそれが適正水準を持つ場合には本方法が有効であると思われる。
抄録全体を表示