本研究では,抗酸化成分(ゴマリグナン類およびビタミンE)を有するゴマに着目し,すりゴマの給与が肥育後期豚の発育と肉質に及ぼす影響を調査するため2つの実験を実施した。実験1では,LWD豚12頭を6頭ずつ(去勢3頭·雌3頭)2区に分け,対照区飼料(トウモロコシ80%含有)およびすりゴマ区飼料(トウモロコシ77%,すりゴマ3%含有)を給与して,体重66kgから114kgまでの肥育試験を行った。実験2では,LWD豚12頭を6頭ずつ(去勢3頭·雌3頭)2区に分け,対照区飼料(トウモロコシ40%,飼料用玄米40%含有)およびすりゴマ区飼料(トウモロコシ37%,飼料用玄米40%,すりゴマ3%含有)を給与して,体重64kgから110kgまでの肥育試験を行った。実験1,2共に,飼育期間中の増体や飼料摂取量に有意な差は認められなかった。と畜解体後に胸最長筋を採取し,豚肉の理化学特性の分析を行ったところ,実験1,2共にすりゴマ区の豚において背部内層脂肪中のリノール酸の割合が有意に高くなり(P<0.05),γ-トコフェロール量が増加した(P<0.05)。また実験1では,すりゴマを給与した全頭の豚で,背部内層脂肪にゴマリグナン類(セサミンおよびセサモリン)が蓄積していた。飼料用玄米40%を飼料に配合した実験2では,去勢雄において,背部内層脂肪にセサミン·セサモリンが蓄積していた。また,胸最長筋のスライスを約一週間冷蔵保存し,背部内層脂肪のTBARS値を経時的に測定したところ,実験1,2共に処理区間内で有意な差は認められなかった。以上から,3%のすりゴマの給与によって豚肉の脂質酸化の抑制は認められなかったが,背部内層脂肪の脂肪酸組成が変化し,ゴマ由来の抗酸化物質が蓄積することが明らかになった。また,飼料用玄米配合飼料にゴマを配合した場合においても同様の結果が得られた。
沖縄県の在来豚であるアグーは,西洋系品種の普及により一時期,絶滅の危機に瀕していたものの,肉質に優れていることが評価され,ブランド豚として注目を集めている。しかしながら,その肉質についての知見は少ない。そこで,本研究では,アグーの品種特性を明らかにするため,アグー16頭(雌6頭,去勢10頭)と国内で広く用いられている三元交雑種(LWD)(デュロック種雄×F1交雑種雌;ランドレース×大ヨークシャー)18頭(雌9頭,去勢9頭)を110 kgまで肥育し,発育,枝肉形質および肉質について調査を行った。発育と枝肉形質に関連する項目については,一日増体量,枝肉歩留りおよびロース面積は,アグーがLWDよりも有意に低かったのに対し,背脂肪厚はアグーが有意に厚かった。肉質に関連する項目については,加熱前の保水性は,アグーがLWDよりも有意に劣ったのに対し,加熱時の保水性を示す加熱損失率は,アグーが有意に優れていた。さらに,筋肉内脂肪含量と圧搾肉汁率もアグーがLWDよりも有意に高かった。背脂肪内層の脂肪酸組成において,アグーはLWDと比べて,一価不飽和脂肪酸含量が有意に高く,多価不飽和肪酸は有意に低かった。さらにアグーの脂肪融点は,LWDよりも有意に低かった。これらの結果から,アグーは国内で広く用いられているLWDと比べて発育や産肉量は劣るものの,特徴的な肉質を持つことが明らかとなった。
妊娠後期から授乳期の母豚および娩出子豚へのコラーゲンケーシング残さ(以下「ケーシング」)給与による分娩時成績,子豚の発育,産肉および血清成分への影響について検討した。デュロック種(D種)を交配し,市販飼料のみを給与したランドレース種と大ヨークシャー種の交雑母豚から娩出された子豚を対照区,同じくD種を交配し,分娩予定1ヶ月前から離乳時(21日齢)まで市販飼料に外付けでケーシングを5%添加した飼料を給与した同種母豚から娩出された子豚を試験区とした。対照区では哺乳期から肥育期まで各市販飼料を,試験区では市販飼料に外付けでケーシングを5%添加した飼料をそれぞれ給与して体重約115kgまで調査を行った。分娩時の産子数や生存産子割合,生時体重,哺乳期および離乳期の一日平均増体量(DG),子豚期および肥育期のDGおよび飼料要求率,枝肉成績,胸最長筋の加熱損失,剪断力価およびヒドロキシプロリン量,胸最長筋の官能検査結果には両区間に差はなかった。血清成分では,対照区に比べ試験区で子豚期のアルブミンが有意に低値を示し,肥育期の総タンパク質が低い傾向を示した。また,子豚期および肥育期のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼと肥育期のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は対照区に比べ試験区で有意に低値を示し,子豚期のALTも対照区に比べ試験区で低い傾向が見られた。さらに子豚期の中性脂肪とHDLコレステロール,肥育期の中性脂肪と総コレステロールは対照区に比べ試験区で有意に低値を示し,子豚期の総コレステロールは対照区に比べ試験区で低い傾向を示した。筋肉間脂肪の脂肪酸組成は両区間で大きな差はなかった。以上の結果から,ケーシングは血清中の脂質成分や肝機能に係る酵素に影響を及ぼすものの,外付け5%程度の添加であれば,母豚の分娩時成績や子豚の発育,産肉には影響を及ぼさないことが確認された。