ブタ脂肪細胞の分化·増殖メカニズムを解明する試験の一環として,ブタ皮下脂肪前駆細胞株(PSPA)を用いてオクタン酸の濃度及びその添加時期が脂肪細胞分化に与える影響について検討を行った。オレイン酸を含む分化誘導培地にオクタン酸を 1μM∼5mM に調製して PSPA を刺激したところ,オクタン酸濃度が 1mM 以上になると細胞増殖の抑制及びトリグリセリド(TG)の増加が認められ,オレイン酸存在下においてもオクタン酸がブタの脂肪細胞分化に重要な因子であることが確認された。脂肪細胞分化を決定する主要な転写因子であるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR) γ2 及びCCAAT エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)αの mRNA の発現について比較した結果,両遺伝子共にオクタン酸無添加(対照区)と 3mM 区とで同様の発現量を示し,オクタン酸は転写因子の発現量に影響しないことが推察された。一方,分化マーカーである脂肪細胞特異的脂肪酸結合タンパク質,アディポネクチン及びペリリピン 1の mRNA 発現量は対照区に比べ 3mM 区において高く,増殖マーカーである増殖細胞核抗原 mRNA の発現が低いことから,細胞数と TG 量の測定結果と一致した。更に,分化誘導期間 10日間のうちオクタン酸を添加する時期を前期(0∼4日),中期(4∼8日),後期(6∼10日)及び全期(0∼10日)に分けてその効果を比較したところ,全期区が前期,中期,後期区に対して細胞数を低下及び TG 量を増加させることから,オクタン酸を常時添加するのが効果的であると推察された。また全期区に比べて短期処理区の細胞数が多く TG 量が少ないという結果から,細胞はオクタン酸が無くなると細胞増殖を再開すると共に TG 合成能が低下すると推察された。オレイン酸存在下において,1mM 以上の濃度のオクタン酸を添加し続けることにより PSPA の脂肪蓄積量を効果的に増大させることが判明した。
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