床, 毛あしの短, 中, 長の諸carpetの上で30~120分の起立或いは歩行を行った場合の2, 3の生理的変化を20才代の未婚の女性19名について実験した。そのうち13名は舞踊等の体育運動を現に行っている体育科学生であり, 6名は特に運動をしていないもの達であった。得られた結果は次の通りである。
1) 起立時下腿容積の床条件のちがいの影響は, 日常運動をしているか否かにより, やや相違する点があった。即ち非運動群では床及び毛足の長い場合, 増加傾向が強かったが, 運動者群では床の場合のみ増加した。毛あしの短いcarpet及び中等度のcarpetの場合は両群ともに殆んど変化がなかった。
2) 歩行時下腿容積の床条件のちがいの影響は, 運動群では毛あしが長い場合, 中等度の場合の減少率が強かったが, 非運動群では毛あしの長い場合と床の場合の減少率が大であった。
3) 足頸囲及び下腿囲に対しては両群とも起立時増加傾向, 歩行時減少傾向がみられたが, 一般に非運動群の方が影響が大きい。ただし立位の場合の差は有意でないが, 歩行時では毛あしの長い時は下腿囲に, 床及び中等度の毛あしの場合は足頸囲にと, それぞれ1%をこえる変化が非運動群のみにみられ, 運動群ではすべて1%以内であった。
4) 接地足蹠面積は床条件のちがいによって有意の変化を示さなかった。
5) Flicker値は起立時は床の場合, 歩行時は毛足の長いcarpetの場合にのみ低下した。
6) 起立時の足背皮膚温は床の場合最大の低下を示し, 毛あしの長さが増加するに従って変化が少くなった。
7) 歩行時の足背皮膚温も最高の低下を示したのは床の場合であり, ついで毛あしの短い場合, 長い場合であり, 中等度の場合その変化が最も少なかった。
8) 起立時の身体動揺度及び修正頻度は, 床及び毛あしの長いものの方が大きかった。
9) 歩行時の身体動揺度は毛あしの短い場合及び中等度の場合に大きかったが, 修正頻度では床のみで大きく, carpet使用時はいずれも小さかった。
10) 血糖及び乳酸も床条件のちがいによりやや異った消長を示したが, いずれも正常値の範囲内であった。
11) 長軸足穹窿は起立時は床及び毛あしの短い場合, 歩行時は床の場合に変化が大きかったが, 中等度毛あしの場合の変化が最小であった。
12) 前足部の幅は起立時が床, 歩行時で毛あしの短い場合にやや変化が大きかった。
13) エネルギー代謝率変化は床及び毛あしの短い場合が最大, 毛あしの長い場合がこれに次ぎ, 中等度の場合最小であった。
14) 自覚的な不快感, 疲労感からでは, 運動者群では毛あし中等度の場合, 非運動者群では毛あしの短い場合が快適であった。
15) 以上の諸結果から, 起立及び歩行時を問わず, 毛あしの中等度の場合が比較的に疲労の少い床条件であると考えられたが, 運動経験の有無, 体力・年令等の如何により, 毛あしの短いものが好適となる場合もあり得るものと推定された。
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