本研究はラットの自由運動の持久性トレーニングとしての効果を評価するために行った。
7週齢オスWistar系ラット48匹 (平均体重145g) を非運動群と自由運動群に分類した。13および17週齢でそれぞれの群のラットを断頭にて殺し採血し, 心筋, 骨格筋, 副腎を採取した。自由運動のトレーニング効果を評価するため各週齢にて心筋, 骨格筋のSDH活性を測定し, 自由運動が及ぼすストレスの影響をみるため副腎カテコラミン濃度を測定した。また, 血中の中性脂肪, 総コレステロールの濃度も分析した。
自由運動ラットの1日当りの平均走行距離は実験開始後1週間で1km/口前後であり, 第4週目にはピークを示し, 7~8km/口であった。以後走行距離は加齢とともに徐々に減少し, 17週齢における走行距離は約4km/日であった。平均体重は13週齢においては非運動群の412gに対し, 自由運動群は328g (P<0.05) と低かったが, 17週齢では非運動群438g, 自由運動群408gと両群間で有意な差は観察さたなかった。
心筋のSDH活性は13, 17週齢の非運動群, 自由運動群とも約19μmoles/9/minであった。ヒラメ筋のSDH活性はいずれの群も約5.5μmoles/9/minであった。また, 腓腹筋赤色部分のSDH活性は非運動群において13, 17週齢でそれぞれ
6.81, 6.92μmoles/g/minであり, 自由運動群のそれはいずれの週齢においても約12%非運動群より高い活性を示したが有意な差ではなかった。腓腹筋白色部分のSDH活性は非運動群において13, 17週齢でそれぞれ2.00, 1.82μmoles/g/minであり, 自由運動群のそれは13週齢で8%, 17週齢では18%非運動群より高い活性を示したが有意な差はみられなかった。
血清巾性脂肪濃度は13週齢において非運動群が92mg/dlに対し自由運動群は56mg/dl (P<0.01) であり, 17週齢ではそれぞれ105, 73mg/d1 (P<0.05) といずれの週齢においても自由運動群の値が顕著に低かった。血清総コレステロール濃度は13週齢では両群間に有意な差はみられなかったが, 17週齢では非運動群が85mg/dlに対し自由運動群はその87% (P<0.05) で有意な差が観察された。
副腎中のカテコラミン濃度は13週齢においては非運動群が530μ/g湿重量に対し自由運動群では626μ9/9湿重量 (P<0.05) と顕著な差が観察されたが, 17週齢では13週齢とは逆に非運動群が754μg/g湿重量に対し, 自由運動群はその92%と低い値であった。
以上の結果はラットの自由運動トレーニングは動物用トレッドミルによる強制運動トレーニングのように骨格筋SDH活性を顕著に増加させるほど強いものではなく, むしろゆるやかな持久性トレーニングであるが, 中性脂肪, 総コレステロールのような血中脂質濃度の改善には効果的であることが明らかになった。また, 自由運動ラットの副腎カテコラミン濃度はトレーニング開始後4週間目あたりの自由運動量が多い時期には非運動ラットに比べて高いが, 10週間のトレーニングによって比較的運動量が減少する時期には非運動群に比べて低くなることから, 10週間程度の自由運動はラットに対してそれほど強いストレスにはなっていないものと考えられる。
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