著者らの考案した心電図水中無線搬送記録装置を使用して, 50m, 100m, 400m水泳で, 自由型, 平泳, 背泳, バタフライの4種目につき, 国体選手および医学部学生など合計24名を被検者として, 25mプールを使用して, 水泳中の心電図を記録した。この心電図記録から水泳中の心搏週期の変動経過図を作り, 心搏週期の変動経過について考察して, 次の結論を得た。
1) 水泳中の心搏週期の変動経過は, 初期の階段状下降 (短縮) とか, 第2次下降, 第3次下降, steady stateの出現, および経過中の微細動揺の出現などに若干の時間的な差はあるが, ほとんど陸上競技の中・長距離疾走における変動経過と類似している。
2) 水泳中の心搏週期の変動経過は, スタート前後の心搏週期の変動経過によって, 次の4型に分類し得る。
第1型: スタート後, 心搏週期はゆるやかに階段状に短縮し, ほとんど動揺のないもの。
第2型: 水泳開始前に心搏週期が0.5秒程度に短縮しているにもかかわらず, 急激な下降動揺が出現するもの。
第3型: スタート直後一時心搏週期が延長し, 1~2回著明に動揺した後, ゆるやかな短縮に移行するもの。
第4型: スタート前から動揺著しく, スタート後5秒位でこれが著減し, ゆるやかな短縮に移行するもの。
3) 水泳開始直後, 心搏週期の急下降 (急短縮) , および下降 (短縮) 動揺の出現には, 運動初期の負荷の強さや開始前の心搏週期の大きさが関係する。
4) 水泳競技での心搏週期の初期下降 (初期短縮) は, 陸上競技の疾走時ほど急激ではないが, これはおそらく, 水中で立位からスタートしたため, 運動初期の負荷があまり強くなかったためであろう。
5) 50m, 100m, 400m水泳ともに, 心搏週期は第2次下降後, 一定の水準を10~20秒間保つが, この時期は, 運動初期に筋からの反射により起る抑制神経の抑制の解除によってアンバランスになった循環機能動態が, 心臓反射および促進神経の興奮によって調整され安定した状態となっだ時期であろう。
6) 自由型水泳では, 他の種目のときに比べて, スタート直後の心搏週期の急下降終点の値が最も著明に短縮しており, 一定水準の持続時間も短かく, steady stateに達する時間, およびそのときの心搏週期も最も短かい。このことから心臓への負荷が最も強いのは種目としては自由型であることが判った。
7) 水泳中に0.01~0.04秒の心搏週期の微細動揺が出現するが, これは呼吸性の変動であろう。
8) 100m, 400m水泳で, ターン時に心搏週期が一時延長するが, ターンをくりかえした後にはこの延長度は低減する。
9) 国体選手と医学部選手の間に, トレーニング効果の差が非常によく現われており, 特に循環機能調節能力, および回復能力においてトレーニング効果が著明であった。
10) 水泳は全身の激しい運動であるにかかわらず, 心搏週期の短縮が陸上競技疾走のときほど強くないのは, 水中運動であるために, 身体推進のための筋力発揮様式や水の抵抗, 浮力などの関係で, 運動が陸上のときほど激しくなく, 加うるに体温上昇率の低下, 胸腔内圧の上昇, 水圧なども影響するのであろう。
この論文の要旨は昭和36年10月第15回日本体力医学会総会 (秋田) , 昭和37年10月第16回日本体力医学会総会 (岡山) , 昭和38年10月第17回日本体力医学会総会 (山口) において口演発表した。
終りに臨み, 岡芳包教授の御指導と御校閲に深甚なる感謝を捧げるとともに, 宇都山登講師, 野田幸作博士の御助言と御鞭撻, ならびにこの研究に対して御協力を与えられた第17回国体徳島県水泳選手, および徳島大学医学部水泳部員の各位に厚く感謝の意を表する。
 抄録全体を表示