大学ボート部学生の合宿練習において運動負荷による無機質代謝の変動を尿中無機質排泄および血清無機質量の変動から検討した。
大学4年の男子ボート部員6名 (うち選手は5名) を被験者とし, 6月から7月にかけて運動量を異にする2週間つつの練習期間即ち, 通学平常期 (I) , 通学合宿期 (II) , 強化合宿期 (III) の3期につき隔週ごとに連続する各3日間, 2時間ごとに全尿を採取, また各期1回2日目の昼休時に採血した。各期における練習時間 (運動量もほぼ平行すると考える) はI期はとくになく軽い体操程度, II期は朝夕2時間づつ1日4時間, III期は1日3回午前2回午後1回で計5時間30分である。測定項目は尿では尿量, pH, ドナジオ反応, クレアチニン, Na, K, P, Ca, Mg, 血清ではNa, K, P, Ca, Mg, 測定法はNa, Kは炎光法, Pは比色法, Ca, Mgは原子吸光法によった。
〔A〕尿量および尿中物質の期別変動
(1) pHは一定な変動がなかった。ドナジオ反応値は全体的にII, III期で高くなる傾向をみた。
(2) 尿量は有意な変動はないが水分代謝の面からは発汗による影響を考えるとII, III期と増大しているとみられる。クレアチニンはIII期で増大する傾向を示した。
(3) Naは有意な変動はないが発汗による排泄を考えると総排泄量はII, III期でかなりの増大と思われる。K, PはII, III期で増大し, Ca, MgはIII期で有意な増大を示した。Caは汗中の排泄を考えればII期でも総排泄量は増大し, III期ではかなり多量な増大と思われる。
(4) Na/K比はII, III期と小さくなる。Naの再吸収, Kの排泄促進については副腎皮質の機能亢進がうかがわれる。
〔B〕血清無機質量の期別変動
NaはII, III期で有意に低下しかなりの低値を示した。KはII, III期と有意に増大し, Na/K比は小さくなる。運動負荷による血漿遊離Kの増大とNaの置換的細胞内移行による細胞内外間でのNa, Kの分布の変動, Naの汗中への排泄増が考えられる。PはII, III期で増大しとくにII期の増大が有意である。Ca, Mg, はIII期で高まる傾向が見られた。Caの増大は副甲状腺の機能亢進をうかがわせる。P, Caの変動には運動負荷によるもののほかに紫外線照射による影響も考えられる。
〔C〕尿量および尿中物質排泄の日内変動
(1) 尿量はII, III期で各練習後ないし練習時に排泄増大があり, 運動負荷の影響が知られる。クレアチニンはII期で尿量と平行した二峯性のパターンがみられた。
(2) Na, K, Ca, Mgでは練習後ないし練習時に排泄増がみられ, 運動負荷の影響が知られる。排泄増は第1回目 (午前) の練習の2時間以後および2, 3回目 (午後) の練習時にみられた。Na, Kは第1回目の練習後の排出増加が顕著であり, また睡眠時の低下が著しい。Ca, MgはNa, Kに比して排泄増に時間的に1時期の遅れがみられ, またNa, Kと対照的に2, 3回目の練習時の排泄増大が大きくなっている。また睡眠時の低下はNa, K程大きなものではない。Mgは睡眠時にもCaにみるような排泄量の低下を示さない。
(3) Pは8-16時の排泄低下, 睡眠時での増大の傾向は3期に共通しているが, 運動負荷によるパターンの変動がみられた。II, III期とも1回目の練習後にはとくに顕著な高まりは示さないがI期に比して相対的に8-12時での排泄増が認められる。一方夕刻の練習時には著明な排泄増大のピークがみれる。
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