日本臨床救急医学会雑誌
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19 巻, 5 号
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会告
原著
  • 青木 大, 白川 透, 後藤 奏, 田中 秀治, 田久 浩志
    2016 年 19 巻 5 号 p. 625-630
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:家庭内で胸骨圧迫のみのバイスタンダーCPRを行う可能性が高い中高年女性を対象として,どのようなタイミングで休息をとると2分間連続して効果的な胸骨圧迫ができるのかを検討した。対象・方法:中高年女性60名をランダムに以下の3群〔連続圧迫群(n=20),10 秒休止群(n=20):30秒圧迫後に10秒休止する群,7秒休止群(n=20):30秒圧迫後に7秒休止する群〕に分けて2分間の胸骨圧迫の深度を比較検討した。結果:30秒ごとに胸骨圧迫の深度を平均すると,連続圧迫群では圧迫深度は有意に低下した。10秒休止群では胸骨圧迫の深度を保てたが,7秒休止群では圧迫深度が低下した。圧迫深度×時間で表される総和は,7秒休止群では10秒休止群と比べ有意に高値となった。結語:中高年女性が単独で連続した胸骨圧迫を行う際には,連続圧迫より30秒ごとに7秒程度の胸骨圧迫休止期間を入れる方法が,連続した圧迫の質の低下を最小限に留める可能性がある。

  • 山口 陽子, 田中 博之
    2016 年 19 巻 5 号 p. 631-638
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:反射性失神をきたした症例は救急現場で脈拍数が比較的少なく,搬入後に脈拍数/心拍数がより減少することを検証する。方法:2011年4月1日からの2年間に救急車で当院へ搬送され,意識消失をきたした症例について救急現場の脈拍数を調査した。反射性失神について,現場と病院搬入時の脈拍数/心拍数と収縮期血圧を,心電図検査を行った症例はその心拍数も調査した。また,体位性低血圧と比較した。結果:意識消失症例では,原因によって現場の脈拍数が異なっていた。反射性失神例は体位性低血圧例と比べ,現場と搬入時の脈拍数/心拍数が有意に少なかった。反射性失神例の脈拍数は搬入時に現場より有意に減少していたが,体位性低血圧例も減少の程度は同等であった。結論:意識消失をきたした症例の脈拍数が現場で比較的少なく,搬入時もしくはその後にさらなる脈拍の減少を確認できれば,反射性失神である可能性を考慮すべきと思われる。しかし,反射性失神症例において搬入時あるいはその後,脈拍数/心拍数が再度低下する機序は不明である。この「搬入後に脈拍が減少したが,血圧は低下しなかった」という現象は,今回対象となった反射性失神の多くが心抑制型であった可能性を示唆している。

  • 梅澤 耕学, 作田 翔平, 奈良 唯唯子, 中澤 美和子, 山上 浩, 大淵 尚, 福田 充宏
    2016 年 19 巻 5 号 p. 639-644
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:救急外来トリアージの質の評価は統一した方法がないのが現状である。当院の救急外来トリアージを従来の報告と比較検討し,トリアージの質の評価を行った。方法:2013年4月からの1年間の当院救急外来の受診患者を対象とし,トリアージまでの時間,アンダー・オーバートリアージ率,診察応答時間充足率,救急外来滞在時間,緊急度別入院率を求めた。結果:対象患者は36,475名であった。トリアージまでの時間は中央値5分(IQR 0-11)で,アンダートリアージ率は1.1%,オーバートリアージ率は2.0%であった。診察応答時間充足率はLevel 1が84.6%,Level 2が91.1%,Level 3が84.8%,Level 4が88.2%,Level 5が99.8%であった。救急外来滞在時間は全体で中央値1時間39分であった。緊急度別入院率はLevel 1が97.6%,Level 2が73.1%,Level 3が30.8%,Level 4が5.0%,Level 5が0.1%であった。結語:診察応答時間充足率がより緊急度の高い群で悪く,患者動線の改善が必要と考えられた。今後は統一した質の評価方法が必要である。

調査・報告
  • 久米 梢子, 岡本 博照, 久保 佑美子, 神山 麻由子, 和田 貴子
    2016 年 19 巻 5 号 p. 645-656
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    救急救命士有資格者を雇用した二次救急病院7施設の職員(医師,看護師,コメディカル,事務職員)を対象として,救急救命士有資格者の有用性・必要性の評価と彼らに行ってほしい業務について調査した。回答者481人のうち約7割の職員が救急救命士有資格者を必要で役立つと評価していた。また,彼らに行ってほしい業務として「胸骨圧迫」「救急外来でのトリアージ」「バイタルチェック」「救急車からの電話対応」「転院搬送の付き添い」が挙げられ,救急救命士有資格者の約7割以上がその業務を実際に行っていることが判明した。病院前救護で活躍する救急隊員のための資格である救急救命士であるが,その有資格者は二次救急病院でも活躍可能な人材であることが示唆された。しかし,救急救命士有資格者の不明瞭な業務内容とその存在の不明確さについて疑問視され,有資格者を活用するには業務内容の基準化や教育内容に関する議論が必要と思われる。

  • ―院内トリアージ用紙の運用と看護師判断についての調査から―
    国島 正義, 松尾 直樹, 竹田 明希子, 村尾 正樹, 今井 秀樹
    2016 年 19 巻 5 号 p. 657-663
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:院内トリアージ用紙の運用の効果と院内トリアージにおける看護師の判断の実態,および看護師の行う院内トリアージに関する問題点,改善点を明らかにすること。方法:実際に院内トリアージを行った1,382件を集計し解析を行った。また,トリアージナース18名を対象とした看護師判断の質問紙調査を行った。結果:院内トリアージでは呼吸数,および二次トリアージの記入率が低い結果となり,質問紙調査でも他の項目に比べて呼吸数と二次トリアージを必ず記入するという回答率は低かった。呼吸数の記入率に対して,看護師経験年数,体温,血圧,SpO2,および意識レベルの記入が関連しており,二次トリアージの記入率には,看護師経験年数,一次トリアージ評価,およびSpO2の記入が関連していた。結論:トリアージナースによる院内トリアージ用紙の運用では,呼吸数および二次トリアージ評価の記入率が低く,その記入率に影響する因子が明らかとなった。

  • 丸山 紀子, 吉田 孝正, 前田 晃一, 三浦 政直
    2016 年 19 巻 5 号 p. 664-669
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    救急隊のトラブルの多くは,救急隊活動中の接遇もしくはインフォームドコンセントの不足や不良が原因で発生しているのが現状である。このことから,愛知県が実施している救急救命士再教育の受講者を対象に,トラブルに対する危機管理意識を向上させることを目的としたe-ラーニング学習とトラブルの傾向を集約するためのアンケート調査を実施した。その結果,救急救命士以外でトラブル発生の危険性が高いのは,救急隊長であることがわかった。また,トラブルが発生した時点については,その約3割が傷病者に接触する前から発生していたことなど,この調査によって,救急業務にかかわるトラブルの現状とトラブルを回避するために必要な個人的および組織的な課題を導き出すことができた。

  • ―日本とネパールとの比較―
    矢野 徹宏, 伊関 千書, 伊関 憲, 田勢 長一郎
    2016 年 19 巻 5 号 p. 670-676
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:日本およびネパールの救急医の看取り場所に対する意識を明らかにし,各国における人の終末期と救急医・医療の役割を検討する。方法:2014〜15年に,福島県立医科大学附属病院救急科の医師8名と,ネパール・チャウジャリ(Chaurjhari)病院の医師10名に対し,医療現場内/ 外で死者を見る頻度や,看取り場所として病院と家庭のどちらがふさわしいと考えるか,その理由等についてインタビューを施行し,各国の医療背景を基に回答を分析した。結果:ネパールでは医療現場以外で死者を見る頻度が有意に高く,日本では医療現場で死者を見る頻度が高い傾向があった。看取り場所として,救急医は日本,ネパールとも約半数が病院がふさわしいと回答した。結論:ネパールでは終末期と医療との関係は小さいが,日本においては人の終末期と救急医を含む医療との関係が大きいと示唆された。各国の医療や社会状況が,救急医の看取り場所に対する意識に影響していた。

  • ―全国35町村の役場救急等実態調査―
    大松 健太郎, 鶴本 一成, 小川 裕雅, 坂口 真澄, 鈴木 哲司
    2016 年 19 巻 5 号 p. 677-680
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:消防非常備町村の病院前救護体制の実態を調査し,現状と課題を検討すること。対象と方法:平成24年4月1日時点で,消防非常備町村で救急業務の実施体制のない35町村を対象とし,調査紙および電話による実態調査を行った。結果:実施形態は「役場救急」が25町村(71.4%),「病院救急」が5町村(14.3%),その他(委託等)が5町村(14.3%)であった。救急救命士の乗務が2町村(5.7%),医師および看護師の乗務が11町村(31.4%)であり,22町村(62.9%)が医療資格者を乗務させていなかった。将来の施策として消防常備化を選択しない町村が21町村(60.0%)を占めた。結語:今後も消防非常備町村における病院前救護実施体制は,地方自治行政の重要な課題となることが予想され,救急救命士の雇用や民間企業の活用等の検討が必要である。

症例・事例報告
  • 鱶口 清満, 渡辺 剛史, 山上 浩
    2016 年 19 巻 5 号 p. 681-685
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    脊椎圧迫骨折は救急外来で遭遇する頻度が高い。その合併症として椎体圧潰による遅発性麻痺を起こすことはよく知られているが,脊髄硬膜外血腫の合併は報告が少ない。今回,軽微な受傷機転で発症した腰椎圧迫骨折で,受傷5時間後に撮影したMRIで脊髄硬膜外血腫を認めた症例を経験した。症例は77歳の女性で,夫と二人でソファを持ち上げた際に腰痛が出現して歩行ができないため救急搬送された。背部に叩打痛,両側腸腰筋以下は筋力低下を認めたが,腰痛のため正確な評価は困難であった。レントゲンで脊椎に明らかな骨折所見を認めなかったためMRIを施行したところ,第1腰椎新鮮圧迫骨折に加え,第10胸椎から第1腰椎にかけて急性硬膜外血腫を認めた。軽微な受傷機転の脊椎圧迫骨折でも脊髄硬膜外血腫を合併することがある。脊椎圧迫骨折において,受傷部位の疼痛以外に神経根に沿う疼痛や麻痺,膀胱直腸障害のような神経症状を伴っている場合は,脊髄硬膜外血腫の合併を疑う必要がある。

  • 山上 浩, 大淵 尚
    2016 年 19 巻 5 号 p. 686-690
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    小児の縦隔腫瘍はまれな疾患で半数以上は無症状で進行する。今回,痙攣後に心肺停止となった小児縦隔腫瘍死亡例を経験した。症例は3歳5カ月男児,既往に熱性痙攣あり。約2カ月前から朝方に咳をするようになり,1週間前ぐったりして口で呼吸していると幼稚園を早退,自宅では時々喘鳴があったが元気に過ごしていた。6時間前には公園で元気に遊び,2時間前に夕食を摂取し就寝した後,突然泣き出し,四肢強直性痙攣を生じ救急要請され,救急隊到着直後に心肺停止となった。来院時心静止で,胸部X 線では縦隔を中心とした巨大腫瘤を認め,自己心拍再開せず死亡した。死後CTと解剖の結果,T細胞リンパ芽球性リンパ腫による気管圧排による窒息と診断した。縦隔腫瘍は症状に乏しく進行し,oncologic emergencyとして急速に致死的経過をたどり得る。経過の長い咳や,咳以外に咽頭痛・鼻汁などの典型的上気道炎症状を伴わない場合は,縦隔腫瘍を鑑別に挙げ,胸部X線撮影を積極的に考慮すべきである。

  • 長谷 亘, 金井 信恭, 菊池 英豪, 木田 将量, 鈴木 博之
    2016 年 19 巻 5 号 p. 691-694
    発行日: 2016/10/31
    公開日: 2016/10/31
    ジャーナル フリー

    腸腰筋膿瘍は比較的まれな疾患とされていたが,最近では画像診断の発達に伴って報告数が増えてきている。しかし,そのなかでも巨大腸腰筋膿瘍として報告されているものは少ない。今回われわれは最大膿瘍径11×10cm,右大腰筋起始部から右大腿四頭筋近位部にかけて上下方向に約50cm広がるきわめて大きな多房性の腸腰筋膿瘍を経験した。CTガイド下で経皮的ドレナージを試みたが,カテーテル先端が隔壁にあたりドレナージ困難であったため,外科的に切開排膿術を施行して治療し得た。MRIでは腸腰筋近傍に直接的に炎症を及ぼす所見を認めず,原発性腸腰筋膿瘍と診断した。感染の原因としては,コントロール不良の糖尿病,アルコール多飲や低栄養が考えられた。

編集後記
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