高齢ケアハウス入居者の歩行に関連する体力的, 社会的要因を把握することを目的として, 1994年に開設された高齢ケアハウス (兵庫県) 内の女性入居者53名 (78.9±0.9歳) を対象として, 一週間単位の歩行歩数量を2回測定し (9月上旬と10月上旬) , さらに, 歩行に関連する要因として, 歩行速度, 歩幅, 階段登行時間 (15段) を測定した.また, 同時に, 被検者の体格及び生理的諸機能 (身長, 体重, BMI, 安静時心拍数, 階段登行直後心拍数) を測定した.本研究の主な結果を以下に示す.
1.加齢性の変化を認め, 加齢とともに低下する傾向が認められた.ことに, 歩行速度, 歩幅及び階段登行時間 (15段) など筋力や神経の協応性に関わる動作について, 統計学的に有意差が認められた.
2.従属変数を総歩行歩数 (1週間) とし, 他の測定項目を独立変数とした重回帰分析の結果, 総歩行歩数 (1週間) には, 健康度自己評価, 階段登行時間 (15段) , 及び年齢の関与が明らかとなった.3.歩行に関わる要因について, 歩行歩数上位群 (25%) と下位群 (25%) とを比較した場合, 歩行速度は, 上位群が, 1.0±0.1m/秒, 下位群は, 0.7±0.1m/秒であり, 上位群の方が下位群に比して早く, また歩幅は, 上位群で53.2±2.4cm, 下位群は, 38.8±3.0cmであり, 上位群の方が下位群より広いことが認められた.さらに, 階段登行時間 (15段) についても上位群の9.9±1.4秒, 下位群, 23.5±3.6秒と, 明らかに上位群の方が下位群に比して短い時間で到達していることが判明した.
4.各曜日別に歩行歩数量を比較したところ, 総歩行歩数上位群 (25%) の木曜日に, 他の曜日と比較して, 少ない歩行歩数であることが判明した.この結果には, ケアハウス付近の大型店舗ストアーの定休日が同じく木曜日であることから, 歩行歩数には, 買い物行動など社会性の要因によっても規定されていることが明らかとなった.
5.入居者の外出行動には, 大型店舗ストアー (全体の約40%) の他, 病院関係へ出かける入居者が全体の約25%を占めることが認められ, 上記ストアー外出頻度を含めると, 全体の約65%強が, ほぼ同じ所へ定期的に出かけていることが明らかとなった.このことは, 入居者の外出は, その目的が比較的一致していることを示唆している.
以上の結果から, 高齢ケアハウス入居者の歩行に関わる体力的要因は, 一般の高齢者と同様に, 加齢とともに低下する傾向にあることが認められた.また, 歩行歩数には, 体力的要因として, 階段登行時間及び自己の健康意識が関与していることが示された.さらに, 入居者の歩行歩数と外出状況の関係より, ケアハウスの立地環境が歩行行動に関与していることが明らかとなった.このことは, 歩行歩数の調査がケアハウスの立地の評価の条件等にも重要な示唆を与えうる可能性のあることを示している.
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