本研究では, 健康女性8名 (21.8±0.7歳) を対象に, 糖・脂質, 水・電解質代謝およびそれらの調節に関与している血漿ホルモンの動態から, 暑熱環境下における持久的運動時にスポーツ飲料または単なる水を摂取した場合の差異を明らかにしようと試みた.
直射日光下の屋外で, 60~70%VO
2max相当の主観的強度による5km走行後, 冷却 (平均9.3℃) したスポーツ飲料 (SB実験; Na21, K5, Cl16.5mEq/1, 糖質6.7%) または平均10.1℃に冷却した水 (WI実験) 500mlを摂取させ, 再び5km走らせた.尚, 2回の5km走中間に何も摂取しない対照実験 (Cont) も行った,
5km走行時心拍数 (HR) , 推定%VO
2maxおよび5km走時間は水分摂取によって影響されなかった.第1回目の5km走後の体重減少は平均0.40~0.56kgであり, 3実験間に差はなかった.Cont実験では2回目の走後にさらに体重が減少し, 安静値に比べ1.02±0.40kgの減少であった.しかし, WIおよびSB実験では2回目の走後には有意な体重減少はみられなかった.腋窩温 (Taxil) は第1回目の走後に1.08~1.29℃上昇し, 2回目の走後も安静値に比較し1.08~1.20℃の上昇であったが, 3実験間に有意差はなかった.しかし, 直腸温 (Trec) はスポーツ飲料を摂取した場合にのみ走後の回復が速やかであった.Cont実験では, 血清電解質 (sNa, sCl, sK) 濃度, 血清浸透圧 (Sosm) の上昇および血漿量 (%△PV) の減少が回復180分間にわたって持続した.WI実験の場合は, sNa, sCl, Sosmは走後60分には概ね安静値に回復したが, %△PVは回復60~180分にわたって低値が持続し, sK濃度は高値のまま推移した.一方, スポーツ飲料摂取後のsNaおよびSosmはContより低値であるが, WIに比較しやや高値傾向であった.また, %△PVは回復60分以降安静レベルに回復し, 180分時にはContおよびWI実験時の値に比較し有意に高値であった.
血糖 (BS) および乳酸 (LA) 濃度は第1回目の走後いずれも有意に上昇したが, 2回目の走後はContおよびWI実験では上昇はせず回復60分以降は安静値以下に低下した.一方, Cont実験の血清FFA濃度は2回目の走後著しく上昇し180分後まで持続したが, スポーツ飲料摂取後は速やかに低下し, ContおよびWI実験に比べ有意に低値であった.
第1回目の走後の血漿アンギオテンシンH (pAII) , アルドステロン (pAld) およびコルチゾール (pCorti) 濃度上昇には3実験間に有意差はなかったが, 水分摂取後の回復は速やかであった.Cont実験では回復期180分間にわたって高値が持続した.単なる水とスポーツ飲料を摂取した場合の血漿ホルモンの回復過程には顕著な差異はみられなかった.
尿量 (UV) やクレアチニンクリアランス (Ccr) , 尿中電解質排泄量 (ENa, EK, ECI) および尿浸透圧 (Uosm) の変化には3実験間に有意差はなかった.
暑熱環境下の運動時に水分を摂取しない場合, 血漿量減少, Sosmの上昇およびBSの低下, 血清FFAおよび血漿ホルモン濃度の上昇が運動終了後180分間にわたって持続した.一方, 単なる水とスポーツ飲料を摂取した場合の違いは, 糖・脂質代謝および血漿量の回復過程であった.すなわち, スポーツ飲料を摂取した場合には, 低血糖が防がれ, 上昇した血清FFAレベルが速やかに回復し, 尿中ケトン体の排泄は認められなかった.また, スポーツ飲料摂取後の血漿量の回復が速く, 運動終了180分後には安静レベルをやや上回った.
水・電解質代謝調節に関与する血漿ホルモンの動態からみると, 単なる水とスポーツ飲料摂取の差異は認められないが, スポーツ飲料を摂取した場合には, 血糖の低下および血清FFA濃度の上昇が抑制され, 血漿量の回復が速められることが, 示された.
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