日本歯科保存学雑誌
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52 巻, 4 号
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総説
原著
  • 尾関 伸明, 川合 里絵, 田中 毅, 石塚 恭子, 中田 和彦, 中村 洋
    原稿種別: 原著
    2009 年 52 巻 4 号 p. 319-329
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    近年,歯科領域において失われたエナメル質,象牙質などの歯質や,歯そのものの再生を治療目的とする再生療法の開発が期待されている.興味深いことに,歯髄前駆体細胞あるいは歯髄幹細胞などが象牙質の再生に関与することが示唆されている.したがって,幹細胞を用いた細胞導入の治療法が,従来のう蝕治療法や覆髄法に代わる有効な手段となる可能性がある.これまでにわれわれは,ヒト骨格筋組織から確立したα7 integrin陽性筋芽細胞が幹細胞の特徴である自己複製能と,骨芽細胞や脂肪細胞への多分化能を有したヒト骨格筋幹細胞であることを報告した.そこで本研究では,このα7 integrin陽性筋芽細胞を用いた象牙質の再生を目的に,象牙芽細胞への分化のメカニズムについて基礎的検討を行った.フローサイトメーターを用いて分取したα7 integrin陽性筋芽細胞をhanging drop法を用いて胚葉体様の細胞塊にした後,レチノイン酸(RA)存在下で3日間,浮遊培養させ,その後,ゼラチン上に細胞を播種し,bone morphogenetic protein-4(BMP-4)存在下で7日間,培養を行い,象牙芽細胞への分化誘導を行った.そして,形態学的な観察と硬組織形成能に加え,象牙質に特異的なマーカー(dentin sialophosphoprotein(DSPP):象牙質シアロリンタンパク,dentin sialoprotein(DSP):象牙質シアロタンパク)について,遺伝子発現と免疫染色法を用いて検索を行った.さらに,象牙芽細胞分化誘導前後の細胞表層タンパクintegrinの発現変化をフローサイトメーターを用いて観察し,ラミニン-1,-2とコラーゲンタイプIといった,細胞外マトリックスに対する細胞接着能と運動能について解析を行った.RAとBMP-4を用いた象牙芽細胞への分化誘導により,著明なDSPPの発現が遺伝子レベルで観察された.さらに,明瞭な形態学的変化とDSP陽性細胞の観察に加えて,硬組織形成能が認められた.また,象牙芽細胞への分化誘導により,α7 integrin陽性筋芽細胞にはα1 integrinとαVβ3 integrinの強い発現が観察され,コラーゲンタイプIに対して強い接着能と運動能を有することが明らかになった.これらの結果から,ヒト骨格筋組織から確立したα7 integrin陽性筋芽細胞は,RAとBMP-4により象牙芽細胞様細胞に分化するヒト骨格筋幹細胞であることが明らかになり,この幹細胞を用いた細胞導入の治療法が,従来のう蝕治療法や覆髄法に代わる新規な手段となる可能性が示唆された.さらに,この象牙芽細胞様細胞はコラーゲンタイプIに対して強い接着能と運動能を有し,この分化過程においてα1 integrinとαVβ3 integrinが関与することが示唆された.なお本研究は,カリフォルニア大学サンフランシスコ校生命倫理規定と愛知学院大学歯学部倫理委員会の認可の下行われた.
  • 大熊 一豊, 伊藤 修一, 塚本 尚弘, 斎藤 隆史
    原稿種別: 原著
    2009 年 52 巻 4 号 p. 330-339
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    近年,保存修復学分野において,ミニマルインターベンション(MI)の概念の普及とともに接着性修復材料の開発が著しく進展した.従来から,「浸透性」「接着性」や「破壊強度」に重点をおいた接着性材料の開発が進んできたが,最近ではこれらの視点に加え,フッ素化合物や抗菌性モノマー配合による抗う蝕性等の「機能性」を付与した材料の開発が進んでいる.しかし依然,一部の接着性修復材料では修復物の脱落や二次う蝕等の不快事項が発生している.これまでに,歯面処理後の脱灰象牙質コラーゲンにボンディング材が浸透しないナノスペースが存在し,経時的に露出コラーゲンおよびそれに接するボンディング材の加水分解が起こり,接着界面の崩壊が引き起こされることが報告されている.そこで,象牙質再石灰化誘導活性を有するレジンモノマーを配合した修復材料を用いてナノスペースを石灰化物で封鎖することにより,修復材料の耐久性を向上させることができると考え,新規にレジンモノマーを開発し,接着システムに導入するという着想にいたった.本研究では,象牙質再石灰化を目的として新規に開発したモノマー(カルシウム含有レジンモノマーCMETおよびCMEP)のin vitro石灰化誘導能について,モデル脱灰象牙質基質の石灰化能と比較・検討した.また,新規開発モノマーを配合した4-META/MMA-TBBレジンを試作し,微小引張り試験によって象牙質に対する接着強さの検討を行った.さらに,走査電子顕微鏡(SEM)で接着界面を観察し,新規開発モノマー配合の影響に関して検討を行った.以上の実験から,次の結果が得られた. 1.in vitro石灰化誘導実験系において,新規開発モノマーCMETがモデル脱灰象牙質基質(PV)よりすみやかにハイドロキシアパタイトを誘導した. 2.微小引張り試験において,新規開発モノマーCMETとCMEPの配合率がそれぞれ5%と10%のときに,コントロールの4-META/MMA-TBBレジンと同等の高い接着強さを示した.配合率が上昇するに従って接着強さが有意に低下した. 3.象牙質接着界面SEM観察において,30,50,70%CMET配合レジンの象牙質接着界面には多孔質な欠陥構造が認められ,さらにレジンタグの形成が不完全な像が認められた.これらの結果から,基材となる4-META/MMA-TBBレジンに石灰化誘導活性を有するカルシウム含有レジンモノマーCMETを配合しても,エッチングした脱灰象牙質の接着が可能であることが示唆された.さらに,4-META/MMA-TBBレジンに配合するCMETの至適濃度は10%であることが明らかになった.
  • 今井 啓全, 千葉 有, 木村 裕一, 釜田 朗, 佐々木 重夫, 山崎 信夫, 天野 義和
    原稿種別: 原著
    2009 年 52 巻 4 号 p. 340-347
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は,臨床的に広く根管充填用シーラーとして使用されているキャナルス®(以後,CaNと略す)と,糊剤根管充填剤として使用されているビタペックス®(以後,VPと略す)の2種類を用いてマウス免疫系細胞への傷害作用について検討することである.雄性C3H/HeN系マウスの脾臓由来リンパ球を使用して,CaNとVPの各量(0.05〜0.25ml/well)をプレート中に共存,または根管充填剤浸漬液の原液,10,100倍希釈を分注し,DNAの合成能を調べるため3H-チミジン(以後,3H-TdRと略す)の取り込みを測定した.また細胞死を調べるためヨウ化プロピジウムまたはアポトーシスを調べるためアネキシンVで染色後,フローサイトメトリーで分析した.次に根管充填剤浸漬液をマウス腹腔内に注射して滲出した細胞を用いて,FITC-抗Thy-1.2抗体(Tリンパ球),またはFITC-抗μ抗体(Bリンパ球)でリンパ球の構成を調べた.統計処理はStudentのt検定を用い,危険率1%で判定した.CaNまたはVPを各量共存させると,リンパ球への3H-TdRの取り込みは有意に強く抑制された.コンカナバリンAで活性化したリンパ球への根管充填剤浸漬液による3H-TdRの取り込みに対する影響では,CaN浸漬液の原液と10倍希釈において有意に抑制したが,VP浸漬液では原液のみに抑制作用が認められた.CaN浸漬液を作用させヨウ化プロピジウムにより染色されたリンパ球は,直後から少し増加が認められ,増加は12,24,48時間後まで続いた.また,CaN浸漬液を作用させアネキシンVにより染色されたリンパ球は,12時間後で特に増加が認められ,24時間後ではかなり減弱して認められた.腹腔内滲出細胞におけるリンパ球の分析では,培地のみで誘導されたリンパ球の割合と比較して,根管充填剤浸漬液により誘導されたリンパ球ではTリンパ球が増加傾向にあり,Bリンパ球は減少傾向にあった.以上の結果より,本研究で使用した根管充填剤はマウス免疫系細胞に対して傷害作用があることが示唆された.
  • 鞍立 桃子, 重谷 佳見, 韓 臨麟, 興地 隆史
    原稿種別: 原著
    2009 年 52 巻 4 号 p. 348-354
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    Mineral trioxide aggregate(MTA)からのカルシウムイオンの溶出は,本材の生物学的作用の発現に深く関与すると思われる一方で,物性の低下を招く性質とも考えられる.そこで本研究では,MTAからのカルシウムイオン溶出過程で生じる構造・組成変化の実態を追究することを目的として,本材を蒸留水中に浸漬した場合に表層部で生じる各種元素の分布状況の変化を経時的に分析した.メーカー指示どおりに混和したMTA(Pro-Root®MTA,white)を37℃,湿度100%で24時間保管後,蒸留水中に7,4日あるいは28日間浸漬した.なお,非浸漬の試料を対照とした.次いで,試料割断面におけるCa,Si,Al,Biの分布を波長分散型電子線マイクロアナライザー(EPMA)により観察した.一部の試料については,試料表面(蒸留水との接触面)のEPMAによる元素分析を併せて行った.その結果,MTA表層部に比較的境界明瞭なCa低濃度層(以下,カルシウム溶脱層)が形成され,経時的に拡大することが観察された.さらに,MTAの表面に主として炭酸カルシウムで構成される析出物の形成がみられた.一方,SiおよびAlはカルシウム溶脱層内に析出物によると思われる高濃度層を形成した.以上より,水中浸漬されたMTAの表層部にカルシウム溶脱層の形成が確認されたが,その形成過程は構成成分の喪失へと一方的に進行するものではなく,表面における炭酸カルシウムの析出やカルシウム溶脱層内でのSi,Alの集積が並行して生じることが示された.
  • 前田 英史, 友清 淳, 藤井 慎介, 島 一也, 和田 尚久, 門野内 聡, 堀 清美, 中野 嗣久, 吉嶺 嘉人, 赤峰 昭文
    原稿種別: 原著
    2009 年 52 巻 4 号 p. 355-362
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    Mineral trioxide aggregate(MTA)は90年代初頭に歯内治療用修復材として開発・報告された.以来,優れた生体適合性を有していることが明らかになり,直接覆髄,根管または分岐部穿孔,逆充填,Apexificationなどへの応用例において,その表面に硬組織を伝導し,その結果MTAによって修復された部位の周囲組織の再生を促す働きがあることが報告されている.しかしながら,MTAが歯根膜組織に及ぼす影響については不明な点が多いことから,本研究では,ヒト歯根膜線維芽細胞(HPLF)を用いて,MTAへの付着,およびMTAがHPLFの増殖ならびに分化に及ぼす影響へのカルシウムの関与について検討することを目的とした.直径9mm,厚さ1mmのMTA discを作製し,2名の患者から提供された2種のHPLFとの共培養を行った.培養24時間後には,HPLFはMTAの表面形状が粗な面ならびに平滑な面の双方に,同様の接着傾向を示した.またMTAとの共培養において,播種するHPLFの細胞数の違いによる増殖能への影響について検討した結果,低い細胞密度で播種した場合には,培養7日間で細胞数はほとんど増加せず,増殖が制限されていたが,高密度で播種した場合には,MTAを含まないコントロールと同等の細胞増殖を示した.MTAと4週間培養したHPLFは,MTA周囲において石灰化が促進する傾向が観察された.また,HPLFを5mmol/l CaCl2を添加した培地中で4日間培養した結果,オステオポンチン(OPN)ならびにオステオカルシン(OCN)mRNAの発現が促進し,さらに4週間後には石灰化像が観察された.これらの結果から,MTAはHPLFに対して細胞親和性を有しており,さらにHPLFの骨芽細胞/セメント芽細胞様分化を促進する働きをもち,これにはMTAから溶出するカルシウムが関与している可能性が示唆された.
  • 小澤 寿子, 中野 雅子, 新井 高, 前田 伸子, 斎藤 一郎
    原稿種別: 原著
    2009 年 52 巻 4 号 p. 363-369
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    歯科ユニット給水系(DUWS)からタービンやシリンジなどを介して流出する水は,多くの微生物に汚染され,水回路チューブ内表面に形成されたバイオフィルムにより,多くの細菌数が検出されることが報告されている.米国においては歯科ユニット給水系の水質基準として,Centers for Disease Control and Preventionが500CFU/ml以下を推奨し,American Dental Associationでは200CFU/ml以下を基準としている.しかしながら,日本では水質基準は提示されていない.われわれは,2003年に鶴見大学歯学部附属病院内の17台の歯科用ユニット水について微生物による汚染状況調査を行った.さらにDUWS用洗浄剤の選択,洗浄剤の安全性確認,洗浄消毒方法を検討した.次いで,「ショックトリートメント」(DUWSチューブ内のバイオフィルムを除去する化学的洗浄方法)を2004年より実践した.このショックトリートメントとは,診療終了後にDUWS用洗浄液をDUWS内に流入し,洗浄液を満たして一晩放置する.翌日診療開始前に洗浄液を通常のフラッシングの要領で排出する.これを連続して3日間繰り返し行う.ショックトリートメント実施前には,フィルターや逆流防止装置などの設置の有無にかかわらず,全ユニットから2.4×102〜6.1×104CFU/mlの微生物が検出された.またフラッシングにより汚染度は減少したが,フラッシング後もなお汚染が確認されたユニットもあった.ショックトリートメントを実施した後に同様な微生物による汚染状況調査を行った結果では,DUWSの水の汚染は著しく改善していた.しかしながら,DUWS水回路流入元へのコックの取付けや流入装置の準備,詰まりや水漏れに対する対策が必要であった.また定期的に洗浄消毒を繰り返す必要があることがわかったため,現在も引き続きショックトリートメントを実施中である.
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