目的:バルクフィルコンポジットレジン(以下,バルクフィルレジン)は従来の光硬化型コンポジットレジンと比較して光透過性を向上させることで,光照射の到達しにくい深い窩洞でも重合可能であることが報告されている.口腔内においてコンポジットレジンは吸水による機械的性質の低下や経時的に着色が生じることが報告されている.しかし,バルクフィルレジンの吸水性と着色に関する報告は少ない.
本研究ではバルクフィルレジンの吸水性が着色に及ぼす影響について4種類の市販の材料を用いて評価した.
材料と方法:本研究ではGRACEFIL Bulk Flo(ジーシー),Sonic Fill 2(Kerr),Tetric N-Ceram Bulk Fill(Ivoclar Vivadent),およびBEAUTIFIL Bulk Flow(松風)の4種類のバルクフィルレジンを用いた.実験用試験片の作製に際しては,直径15.0mm,厚さ1.0mmの円形をしたステンレス製の金型にバルクフィルレジンを塡塞し,両面から90秒ずつ光照射を行うことで重合させた.その後,耐水研磨紙の#1000で研磨し,37℃の水中で24時間保管したものを実験用試験片とした.
試験片は,JIS6514:2013に準じた吸水試験を行った.各試験片はデシケーターを用いて乾燥させた後,蒸留水に7日間浸漬し,質量を測定した(n=5).試験片を再び乾燥させて質量を測定し,吸水量を算出した.さらに,試験片を37℃に設定した恒温器中で7日間,赤ワインに浸漬して保管し,赤ワインへの浸漬前後の色調を分光光度計(CM-3610d,コニカミノルタ)で測定した.着色による色差は1976CIEL*a*b*(ΔE*ab)とCIEDE2000(ΔE00)を用いて数値化した(n=5).吸水試験で得られた値および色差はバルクフィルレジンの違いで一元配置分散分析を行った.グループ間の有意差についてはTukey’s multiple comparison testを用いて,有意水準0.05の条件で検証した.また,Pearsonの積率相関係数を用いてバルクフィルレジンの吸水量と色差の相関関係を分析した.
結果:吸水試験と色差の測定の結果,GRACEFIL Bulk FloがSonic Fill 2,Tetric N-Ceram Bulk FillおよびBEAUTIFIL Bulk Flowに比較して有意に低い吸水量と色差(ΔE*ab,ΔE00)を認め,BEAUTIFIL Bulk Flowでは吸水量とΔE*abにおいて他条件より有意に高い値を認めた.色差においては,すべてのバルクフィルレジンが視覚的に変色を認識されたと考えられる値を超えていた(ΔE*ab>3.3,ΔE00>2.3).さらに,吸水量と色差の間には正の相関関係が認められた(p<0.001).
結論:バルクフィルレジンにより吸水性と着色は材料間で有意に異なる.また,吸水量と着色後の色差ΔE*abおよびΔE00との間に強い正の相関関係が認められた.バルクフィルレジンの吸水性は着色に及ぼす重要な因子である.
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