日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
66 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
誌上シンポジウム「う蝕治療のネクストステージ―う蝕治療の最前線―」
原著
  • 菅井 琳太朗, 小林 幹宏, 新妻 由衣子, 水上 裕敬, 真鍋 厚史
    2023 年 66 巻 5 号 p. 263-270
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

     目的:バルクフィルコンポジットレジン(以下,バルクフィルレジン)は従来の光硬化型コンポジットレジンと比較して光透過性を向上させることで,光照射の到達しにくい深い窩洞でも重合可能であることが報告されている.口腔内においてコンポジットレジンは吸水による機械的性質の低下や経時的に着色が生じることが報告されている.しかし,バルクフィルレジンの吸水性と着色に関する報告は少ない.

     本研究ではバルクフィルレジンの吸水性が着色に及ぼす影響について4種類の市販の材料を用いて評価した.

     材料と方法:本研究ではGRACEFIL Bulk Flo(ジーシー),Sonic Fill 2(Kerr),Tetric N-Ceram Bulk Fill(Ivoclar Vivadent),およびBEAUTIFIL Bulk Flow(松風)の4種類のバルクフィルレジンを用いた.実験用試験片の作製に際しては,直径15.0mm,厚さ1.0mmの円形をしたステンレス製の金型にバルクフィルレジンを塡塞し,両面から90秒ずつ光照射を行うことで重合させた.その後,耐水研磨紙の#1000で研磨し,37℃の水中で24時間保管したものを実験用試験片とした.

     試験片は,JIS6514:2013に準じた吸水試験を行った.各試験片はデシケーターを用いて乾燥させた後,蒸留水に7日間浸漬し,質量を測定した(n=5).試験片を再び乾燥させて質量を測定し,吸水量を算出した.さらに,試験片を37℃に設定した恒温器中で7日間,赤ワインに浸漬して保管し,赤ワインへの浸漬前後の色調を分光光度計(CM-3610d,コニカミノルタ)で測定した.着色による色差は1976CIELab(ΔEab)とCIEDE2000(ΔE00)を用いて数値化した(n=5).吸水試験で得られた値および色差はバルクフィルレジンの違いで一元配置分散分析を行った.グループ間の有意差についてはTukey’s multiple comparison testを用いて,有意水準0.05の条件で検証した.また,Pearsonの積率相関係数を用いてバルクフィルレジンの吸水量と色差の相関関係を分析した.

     結果:吸水試験と色差の測定の結果,GRACEFIL Bulk FloがSonic Fill 2,Tetric N-Ceram Bulk FillおよびBEAUTIFIL Bulk Flowに比較して有意に低い吸水量と色差(ΔEab,ΔE00)を認め,BEAUTIFIL Bulk Flowでは吸水量とΔEabにおいて他条件より有意に高い値を認めた.色差においては,すべてのバルクフィルレジンが視覚的に変色を認識されたと考えられる値を超えていた(ΔEab>3.3,ΔE00>2.3).さらに,吸水量と色差の間には正の相関関係が認められた(p<0.001).

     結論:バルクフィルレジンにより吸水性と着色は材料間で有意に異なる.また,吸水量と着色後の色差ΔEabおよびΔE00との間に強い正の相関関係が認められた.バルクフィルレジンの吸水性は着色に及ぼす重要な因子である.

  • 新妻 由衣子, 小林 幹宏, 菅井 琳太朗, 長谷川 正剛, 真鍋 厚史
    2023 年 66 巻 5 号 p. 271-282
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

     目的:昭和大学歯学部第3,4学年に実施している保存修復学基礎実習において「口腔内スキャナーを用いたCAD/CAMインレー修復実習」を受講した学生に対し,アンケート調査を実施し,本実習の教育効果と今後の課題を検討した.

     材料と方法:2019年度から2022年度の歯学部第3,4学年において,実習を受講した学生を対象としたアンケート調査を収集し評価した.

     アンケートは選択式と自由記述式で行った.以下にアンケートの質問内容を記す.1.デジタルデンティストリーに対する関心がありますか,2.本実習の学習効果について,3.口腔内スキャナーを用いたCAD/CAMインレー修復について理解が深まりましたか,4.本実習の内容の難易度について,5.最も興味深かったステップはどれですか,6.最も難しかったステップはどれですか,7.印象材を用いる従来の印象採得と比較して,口腔内スキャナーを用いる印象採得をどのように評価しますか,8.将来,歯科医師としてCAD/CAMシステムを用いた診療を実践したいですか,9.今後もCAD/CAMシステムを用いた実習を受講したいですか,10.本実習について意見・感想を自由に記入してください.

     結果:アンケート調査の結果は以下のとおりであった.

     1.約6割の学生が「非常に関心がある」「関心がある」と回答した.2.「十分ある」「多少ある」と回答した学生が2019年度と2020年度は約5割を下回り,2021年度と2022年度は約9割であった.3.「かなり深まった」「深まった」と回答した学生が2020年度は約7割で,それ以外の年度は9割を超えた.4.「非常に難しい」「難しい」と回答した学生が2019年度と2020年度は4割以下で2021年度と2022年度は約8割前後であった.5.年度によってばらつきがあった.6.すべての年度で窩洞形成が最も難しいという結果であった.7.5割以上の学生が「非常に簡単」「簡単」と回答した.8.8割以上の学生が「ぜひ行いたい」「多少行いたい」と回答した.9.8割以上の学生が「十分思う」「多少思う」と回答した.

     結論:口腔内スキャナーを用いたCAD/CAMインレー修復実習において,アンケート調査を実施した結果,2022年度では約9割の学生が本実習は教育効果があると回答した.一方,デジタル機器の不足やインストラクターの質と数など課題も明らかとなった.しかし,学生は将来歯科医師としてCAD/CAMシステムを用いた診療を実践したいと期待し,さらなる学びを希望していることも示唆された.

  • 佐古 亮, 原田 (中里) 晴香, 石束 (鈴木) 穗, 北山 えり, 丹沢 聖子, 淺井 知宏, 古澤 成博
    2023 年 66 巻 5 号 p. 283-289
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

     目的:ラバーダム防湿は,制腐的な処置を行うために患歯を口腔内から隔離する方法として広く用いられている.その隔離性能が高いと考えられている一方,ラバーダムシートと患歯歯面の適合不良部から漏洩するリスクも指摘されている.近年,さまざまなラバーダムシートが登場しているが,シートごとの特性による術野隔離性能を比較した研究は少ない.本研究では,ラバーダム防湿時に用いるシートの種類による術野からの漏洩量の違いと,漏洩を生じた場合にその影響を減少させる方法の検討を行うことを目的とした.

     材料と方法:ラバーダムシートの適合不良部からの漏洩量を検出するために,人工歯を装着した顎模型に対して,素材や厚みの異なる4種類のラバーダムシートを用いてラバーダム防湿を行った.ラバーダム防湿を装着した歯に向けてエアタービンで注水した後,クランプ下に固定していたロールワッテの重量を精密はかりにて測定し,実験操作前後の重さを比較した.また,漏洩の改善法を検討するために,ラバーダム防湿後に患歯歯頸部全周に辺縁封鎖材(コーキング材)を応用し,前述の方法と同様にロールワッテの重量変化を測定した.

     結果:ラバーダムシートの種類で漏洩量を比較した結果,NLB群(薄いノンラテックスシート群)のみ漏洩によるコットンロール重量の有意な増加を認めた.また,実験後のLB群,LG群(ラテックスシート群)では,穿孔部辺縁を起始点とする偶発的裂開を認めた.ラバーダム防湿に辺縁封鎖材を加えた実験では,いずれの群においても有意な重量の増加は認めなかった.

     結論:ラバーダム防湿を行う際の漏洩は,ラバーダムシートの穿孔部辺縁の裂開にかかわらず生じ,辺縁封鎖材の使用によって改善できる可能性が示唆された.

  • 水上 裕敬, 小林 幹宏, 新妻 由衣子, 菅井 琳太朗, 杉崎 順平, 真鍋 厚史
    2023 年 66 巻 5 号 p. 290-300
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

     目的:光重合型フロアブルコンポジットレジン(以下,FRC)は機械的強度の向上,流動性の多様化に伴い広く臨床で使用されている.一方,コンポジットレジン(RC)は吸水により機械的強度が低下し,マトリックスレジンの物性の低下がRCの物性の低下に大きく影響することは明らかにされているが,FRCの長期水中浸漬の影響に関する報告はほとんどない.そこで,本研究はマトリックスレジンの組成が異なる6種類の市販されているFRCを用いて,蒸留水に1日と1年水中浸漬後の曲げ強さと曲げ弾性率を比較,検討した.また,長期水中浸漬前後の試験片の表面を観察し,FRC表層の変化について走査電子顕微鏡(以下,SEM)で観察した.

     材料と方法:実験材料には,マトリックスレジンの主要組成がBis-GMAのFiltek Supreme Ultra Flow(FSU),ESTELITE UNIVERSAL FLOW Super Low(EUF),Clearfil Majesty ES Flow Super Low(CME),Beautifil Flow Plus X F00(BFP)と,Bis-MEPPのGRACEFIL ZeroFlo(GZF),また,UDMAのMI FIL(MIF)を金型(25×2×2mm)とカバーガラスを用いて光重合後,耐水研磨紙#1000にて研磨し各試験片(n=5)を作製した.37℃の蒸留水中で保管し,1日と1年間浸漬後,クロスヘッドスピード1mm/minで3点曲げ試験を行い,曲げ強さと曲げ弾性率を測定した.得られた値は二元配置分散分析およびTukey testを用いて有意水準5%にて統計処理を行った.また,すべての条件の試験片についてSEMで表面性状を観察した.

     結果:二元配置分散分析およびTukey testの統計処理の結果,1日水中保管後の曲げ強さはGZF,MIFが他のFRCに比較して有意に高い値を示した(p<0.05).一方,BFPが有意に低い曲げ強さを示した(p<0.05).1年水中保管後の曲げ強さはGZFで他のFRCに比較して有意に高い値を示し,BFPが有意に低い曲げ強さを示した(p<0.05).1日と1年水中浸漬後での低下率はGZFが−5.0%,BFPが+28.4%であった.各FRCの1日と1年水中浸漬後ではMIF,EUFおよびBFPに有意差を認めたが(p<0.05),その他のFRCでは有意な差は認められなかった.曲げ弾性率について二元配置分散分析の結果,FRCの条件および水中保管の条件,また,2つの因子間の相互作用において有意な差を認めなかった(p>0.05).SEM画像より,GZFの1日と1年水中浸漬後の試験片を比較すると,表面の変化はほとんど認めなかった.他のFRCではレジンマトリックスから剝離し,脱落した像を認めた.

     結論:本研究で用いたFRCのなかでBis-MEPPを主成分とするGZFは,1年水中浸漬後の曲げ強さが最も高い値を示した.FRCのマトリックスレジンの組成は,長期水中浸漬後の機械的強度に影響を与える要因の一つである可能性がある.

feedback
Top