本研究の目的は,動的荷重がハイブリッドセラミックアンレー修復の接着に及ぼす影響について検討することである.ヒト抜去健全下顎大臼歯32本に規格化MODB窩洞を形成した.その後,象牙質コーティング,印象採得,作業用模型作製後,ハイブリッドセラミックアンレーの作製・合着を行い,修復を完了した.次に,修復試料を動的荷重負荷群(+群)と非負荷群(-群)とに区分し,(+)群に対しては複合機能試験機を用いて37℃水中における16.0kgf×30万回(90回/分)の繰り返し動的荷重を負荷した.その後,各条件下における中心窩直下の髄側壁(P壁)と,近心軸側壁(A壁)に対するmicro-tensile bond strength (μ-TBS)値を測定した.データは二元配置分散分析,t検定の後に,ワイブル分析によって評価検討した.実験の結果,両窩壁へのμ-TBS値[MPa](SD)はP(+):7.94(2.20), P(-):10.53(1.60), A(+):9.56(2.16), A(-):10.12(2.44)であった.分析の結果,P壁のμ-TBS値は動的荷重の負荷によって有意(p<0.01)に低下したが,A壁のμ-TBS値は動的荷重の有無にかかわらず同等であった.また,動的荷重(-)条件下においては,P壁とA壁のμ-TBS値は同等であるものの,動的荷重(+)条件下のP値はA値に比べ有意(p<0.05)に小さいことが判明した.ワイブル係数(m値)はP(+):4.03, P(-):7.39, A(+):4.73, A(-):4.37であり,分析の結果,動的荷重の負荷はP壁における接着信頼性を有意(p<0.01)に低下させることが判明した.また動的荷重(-)条件下において,P壁はA壁に比べ有意(p<0.01)に接着信頼性に長けているものの,動的荷重(+)条件下の接着信頼性は同等となることが判明した.以上から,動的荷重因子による影響は窩壁によって異なる挙動を示し,P壁では動的荷重の負荷によってμ-TBS値・接着信頼性がともに有意に低減し,A壁ではともに影響を受けないことが明らかになった.さらに,動的荷重(-)条件下では,A壁と同等のμ-TBS値を示し接着信頼性に優れていたP壁は,動的荷重負荷の影響を受け,A壁よりμ-TBS値は有意に小さな値となり,接着信頼性においては同等となることが明らかとなった.
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