本研究では,CO
2レーザー照射にナノハイドロキシアパタイトを併用した歯根象牙質面のアパタイトコーティングに関する検討を行った.まず,試作ナノハイドロキシアパタイト(Pentax Newceramics)とハイドロキシアパタイト(和光純薬)の超微細構造を,SEM,TEMにより観察した.また,結晶構造の分析を,X線回折装置および赤外分光分析装置により行った.形態学的観察により,いずれのアパタイトもクラスター構造を呈し,ナノハイドロキシアパタイトのクラスターはナノサイズであった.また,微小XRD図形やFT-IRスペクトルの測定により,ナノハイドロキシアパタイトの結晶性はハイドロキシアパタイトと全く同一のものであった.次に,ナノハイドロキシアパタイトを塗布した象牙質面におけるCO
2レーザー照射の影響を検索する目的で,アパタイトペーストの熔融性,熔融したアパタイトの結晶構造変化ならびに象牙質面への熔着性について検討した.ヒト抜去小臼歯歯根に#2000仕上げの平坦面を調製し,10%クエン酸で10秒間処理した後,ハイドロキシアパタイトペースト,あるいはナノハイドロキシアパタイトペーストを処理面に塗布した.次いで,CO
2レーザー(Panalas CO5Σ,パナソニックヘルスケア)をRPTモード,0.5秒,3パルスの条件下で3W(34.3J/cm
2),2W(24.2J/cm
2),または1W(14.1J/cm
2)の各出力で照射した.その後,照射面を非蒸着,湿潤下でSEM観察し,顕微FT-IRを用いて結晶の組成分析を行った.さらに,これらの試料を,5,10,20,30分間超音波洗浄し,SEMにて熔着アパタイトの残留の様相を検討した.象牙質面の処理法により5つの実験群が設置された.すなわち,ナノHAP群(クエン酸/ナノハイドロキシアパタイト/レーザー),HAP群(クエン酸/ハイドロキシアパタイト/レーザー),L群(レーザー),C群(クエン酸),および無処理群である.形態学的観察によると,ナノHAP群では象牙細管の封鎖が認められ,また照射エネルギーによってはアパタイトが象牙質に熔着していることが判明した.一方,分析化学的検討によると,ナノHAP群とHAP群の結晶性はほぼ同一で,L群,無処理群,およびC群の結晶化度はこの順で低くなることが明らかとなった.本研究により,特にナノハイドロキシアパタイトを併用した象牙質面に対するCO
2レーザー照射は,たとえは高齢者の歯によくみられる露出歯根の象牙質におけるアパタイトコーティングに非常に有効であることが判明した.
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