日本歯科保存学雑誌
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61 巻, 4 号
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総説
原著
  • 安田 忠司, 佐藤 匠, 松下 至宏, 澁谷 俊昭
    2018 年 61 巻 4 号 p. 214-224
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 本研究は, Porphyromonas gingivalisの感染が関節リウマチ (RA) の増悪に与える影響について調べるため, RAモデルマウスとしてコラーゲン誘発関節炎モデルマウスを用いて検討した.

     材料および方法 : RAモデルマウスとして, DBA/J1マウスの8週齢を用いた. 本マウスに, エマルジョンとしてウシⅡ型コラーゲンからなる抗原液とアジュバンドを調整後, 8週齢時に1回目, 11週齢時に2回目を感作させ関節炎を惹起させた. 実験群にはP. gingivalis ATCC33277株感染群 (n=12), ならびに対照群としてcarboxy methlcellulose (CMC) 投与群 (n=12) の2群を設定した. P. gingivalisを2.5%CMCに懸濁して, 1日おきにマウスの口腔内に直接1×109CFU/mlの濃度で0.1ml投与した. 対照群は2.5%CMCを1日おきにマウスの口腔内に直接0.1ml投与した. 実験開始後から毎日, 関節炎臨床評価の経時的変化をSarkarらの方法を用いて評価した. また1週ごとに体重測定を行った. 42日目に下顎骨, 四肢の関節および血清を採取し, 以下の項目について検討した. P. gingivalisの感染を確認するために, 血清抗体価をELISAにて確認した. また, 関節リウマチの臨床マーカーであるmatrix metalloproteinase-3 (MMP-3), anti-cyclic citrullinated petide antibody (ACPA) 値をELISA法にて解析した. 下顎, 四肢のマイクロCTおよび組織学的形態を評価し, 膝関節はmatrix metalloproteinase-13 (MMP-13) 抗体を用い, 免疫組織染色を行った. 測定値は平均±標準偏差 (SD) で表し, 対照群と実験群間の有意差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用い, p値が0.05未満で有意差ありと判定した.

     結果 : 実験群においてP. gingivalisの血清抗体価は有意に増加し, 細菌感染を確認した. 実験群は対照群と比較し四肢末端の高度な発赤腫脹を認め, 関節炎臨床評価から42日後の実験群は対照群と比較し1.9倍関節炎Scoreの増加を認めた. マイクロCTによる解析では実験群において歯槽骨の骨吸収像を認め, 対照群と比較し有意に骨吸収の増加を認めた. 実験群の四肢末端の骨は腫脹, 変形および手根骨軟骨部の破壊, 膝関節表面と膝蓋骨の粗糙を呈した. また実験群のMMP-3値は, 対照群と比較し有意に増加した. 実験群のACPA活性値も, 対照群と比較し有意に増加した. 組織学的所見から, 実験群の膝関節組織は対照群と比較し高度な炎症性細胞の浸潤, 骨破壊像を認め, MMP-13による免疫染色においてパンヌスと関節半月にMMP-13陽性細胞を認めた. MMP-13陽性細胞数は対照群と比較して有意に増加した.

     結論 : 本研究により, P. gingivalisによる口腔感染がコラーゲン誘発関節炎モデルマウスの組織破壊を促進することが示唆された.

  • 山脇 勲, 田口 洋一郎, 津守 紀昌, 中田 貴也, 野口 正晧, 塩見 慧, 高橋 宰達, 上田 裕康, 大西 英一郎, 梅田 誠
    2018 年 61 巻 4 号 p. 225-234
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 歯周病のコントロールにおいてブラッシングなど機械的清掃は重要な役割を果たしているにもかかわらず, 個人によってブラッシング方法は一定しておらず, 適切に行われていないのが現状である. ブラッシング方法に左右されずに, 一定の効果を示す, バイオフィルムの制御のための新しいアプローチが必要とされる. そこでわれわれは, 歯周病菌のコントロールのための卵黄抗体 (IgY) 含有フィルムの使用により慢性歯周炎患者の口腔内環境の変化について検討した.

     材料と方法 : 本学附属病院歯周治療科に通院中の20代~70代までの男女で口腔組織に影響を及ぼす全身疾患を有せず, 1カ月以内に抗菌薬等の薬物投与を受けず, 初診時の口腔内細菌検査でPorphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticola, Prevotella intermedia, Aggregatibacter actinomycetemcomitansのうち, いずれかの歯周病原細菌が唾液中から検出された患者を被験者とした.

     研究方法として, 被験者がオボプロン含有フィルムを2週間服用, 2週間の回復期間後, 続けて2週間プラセボフィルムを服用した. 期間中は機械的なブラッシング以外のプラークコントロールを禁止とし, 歯磨きの方法と回数は被験者の日常行っている方法で継続してもらった. 唾液は各フィルム摂取の前後の計4回採取し, 唾液中歯周病原細菌数を測定した. 唾液中の歯周病原細菌は, 特異的プライマーを用いたリアルタイムPCR法による菌数測定にて行った.

     結果 : A. actinomycetemcomitansはすべての患者で検出されなかった. 歯周病原細菌数がもともと多かった重度歯周病原細菌保有群では, P. gingivalis, T. forsythia, およびT. denticolaの細菌数はIgY含有シート使用後に大きく減少した. しかし, IgY含有シート使用後のP. intermediaの細菌数は増加した. またもともと歯周病原細菌数が中等度の歯周病原細菌保有群では, P. gingivalis, T. forsythia, およびT. denticolaの細菌数は, IgY含有シート使用後にほぼ変化はなく, P. intermediaの細菌数は増加した. IgY含有フィルムは, もともと歯周病原細菌数が多い状態つまり抗体が少ない状態では効果があるが, 細菌数が少ない状態つまり抗体数が十分に存在する状態では逆に細菌数を増やす可能性がある.

     結論 : IgY含有シート使用によってP. intermedia以外の歯周病原細菌の抑制を認めたが, もともと歯周病原細菌数が少ない場合は逆に細菌数を増加させてしまう傾向を示した. つまり, 慢性歯周炎罹患患者にIgY含有シートを使用するときは, 慎重に使用することが示唆される.

  • 小正 玲子, 澤井 健司郎, 奥村 瑳恵子, 鞏 雅楠, 王 丹, 韓 嘯宇, 岩﨑 和恵, 松田 有之, 保尾 謙三, 吉川 一志, 山本 ...
    2018 年 61 巻 4 号 p. 235-240
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 近年, 前処理を必要としないセルフアドヒーシブセメントが開発, 市販され始めた. その一方で, インレー修復の術後疼痛の原因の一つとして, 歯科用セメントが練和直後に酸性を示すことが挙げられている. 接着性レジンセメントについては, 接着に必要な接着性モノマーが酸性であるため, 硬化中の酸性度が歯髄に影響を与える可能性がある. そこで今回われわれは, 接着性レジンセメントのpH値を測定し, 練和後のpHの変化について検討した.

     材料・方法 : 被験材料としてMaxcem Elite (Kerr), Clearfil SAセメントAutomix (クラレノリタケデンタル), RelyX Unicem 2 Automix (3M ESPE) を使用し, 各材料の練和方法はメーカーの指示に従った. 各試料のpH測定にはブックpH試験紙 (Advantec) を使用した. 蒸留水にて湿潤したpH試験紙を3分間反応させ, standard pH color chartを参考にし, 各試料の練和直後, 練和後5, 10分, 24, 48時間および72時間のpH値を測定した. 試料は各群3個とし, Tukeyの検定を用い統計解析を行った.

     結果 : Maxcem EliteについてのpH値は練和直後から72時間後まであまり変化がみられず, 硬化後もpHは3.0と強い酸性の値を示した. Clearfil SAセメントAutomixについては, 練和直後のpHは2.5と高い酸性を示し, 72時間後になると6.2へと上昇した. 最後に, RelyX Unicem 2 Automixについては, 練和直後のpHは2.8と強い酸性の値を示すが, 72時間後には7.4に上昇した.

     結論 : 以上の結果より, Clearfil SA セメント AutomixとRelyX Unicem 2 AutomixのpHは練和直後から10分後までは低かったが, 24時間後のpHは上昇し, 特にRelyX Unicem 2 Automixは中性に近づいた. 一方, Maxcem EliteのpHは72時間後においても上昇は少なく酸性度が低いままであった.

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