目的 : Surface reaction type pre-reacted glassionomer filler (S-PRGフィラー) は多種イオン徐放能を有する生体機能性材料であり, これを含む材料が象牙細管封鎖・象牙質耐酸性向上・抗菌作用などを示すことが知られている. 本研究では, 根管貼薬剤としての応用を想定して試作されたS-PRGフィラー含有歯内療法用ペースト (以下, S-PRGペースト, 松風) を対象とし, その根管壁象牙質への作用を細管封鎖作用および元素の移行の面で検討した.
材料と方法 : 牛切歯歯根を被験歯とし, 根管形成ならびに2.5%次亜塩素酸ナトリウム液および3% EDTA液による根管洗浄を施し, S-PRGペーストを根管内に注入して仮封を行った後, リン酸含有生理食塩水 (PBS) を含むガーゼ内で1週ごとに貼薬交換しながら1, 2, 3週間保管した. S-PRGペーストを適用しない試片を対照とした. 保管期間終了後, 縦断もしくは横断面試片を作製し, 走査電子顕微鏡 (SEM) により根管壁象牙質表層部の超微形態観察ならびに象牙細管封鎖率の算出を行った. また, 波長分散型マイクロアナライザー (EPMA) を用いて根管壁象牙質表層部の元素分析を行うとともに, F, Srの取り込み深さを測定した.
結果 : S-PRGペーストを作用させた根管壁象牙質表面では, Al, Sr, F, SiなどS-PRGペースト由来の元素を含む沈着物が形成されており, 象牙細管開口径の縮小や完全閉鎖が認められた. 沈着物は経時的に増加傾向を示し, 象牙細管封鎖率は2週後まで有意な増加を示した. またEPMAによる元素分析では, S-PRGペーストで処置された根管壁象牙質において, F, Srの移行が観察され, その取り込み深さは経時的増加傾向を示した.
結論 : S-PRGペーストをPBS存在下で作用させた牛歯根管壁象牙質において, 析出物の沈着と象牙細管開口部の封鎖, およびF, Srの移行が生じることが確認された.
抄録全体を表示