日本歯科保存学雑誌
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60 巻, 6 号
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ミニレビュー
原著
  • 松田 康裕, 奥山 克史, 山本 洋子, 大木 彩子, KHATUN Morsheda Mosammat, 佐野 英彦, 斎藤 隆史
    2017 年 60 巻 6 号 p. 273-281
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 象牙質知覚過敏症に対してさまざまなフッ化物含有知覚過敏抑制材がすでに臨床応用されており, それによる脱灰抑制効果も期待されている. また高齢化社会への変化に伴って根面う蝕が増加しており, 根面う蝕に対する予防法および治療方法の確立も求められている. そこで, 今回は脱灰処理をした象牙質にフッ化物含有知覚過敏抑制材を塗布し, 歯質へのフッ素の取り込みと脱灰抑制効果について, PIGE/PIXEと自動pHサイクル装置を用いて検討を行った.

     材料と方法 : フッ化物含有知覚過敏抑制材として, MSコートF (MS), MSコートHySブロックジェル (HS) とCTx2 Varnish (FV) を使用した. 観察試料は, ヒト抜去大臼歯を7本使用し (n=7), 37°Cの脱灰溶液 (0.2mol/l乳酸, 3.0mmol/l CaCl2, 1.8mmol/l KH2PO4, pH 4.5, 2%カルボキシメチルセルロースナトリウム) を用いて72時間脱灰した後に, それぞれ頰舌的・近遠心的に切断して4分割した. 分割試料は歯面のCEJを挟んで約3mmの幅を残して, スティッキーワックスで約1mmの厚さになるように被覆した. 各歯の3分割試料にMS, HS, FVそれぞれの材料を塗布し, 残りの1分割試料は材料を塗布しないコントロール (CONT) とした. 37°Cの脱イオン水中に24時間浸漬後, 塗布部位が含まれるように歯軸に平行に切断し, 厚さ約300μmに調整し試料を作製した. 象牙質表層に取り込まれたフッ素はIn-air μPIXE/PIGEを用いて測定を行った. その後, 材料を塗布した面を除き, すべての歯面をスティッキーワックスで被覆して, Single-section試料とした. これまでの報告と同様に, 自動pHサイクル装置を用いて脱灰負荷試験を行った. 各試料のTransverse Microradiography (TMR) を, 実験開始前, pHサイクル2週後に撮影し, 得られた画像からCEJに近接した象牙質の脱灰量の変化を検討した. 2週後におけるIntegrated Mineral Loss (IML) の増加量 (ΔIML) について, Games-Howelの多重比較検定 (p<0.05) を用いて統計解析を行った.

     結果 : フッ素の取り込みでは, CONTと比較してすべての試料使用群でフッ素取り込み量の増加傾向が認められたが, なかでもHS群では有意に増加していた. ΔIMLによる脱灰抑制効果の分析では, CONTと比較してHS・FV群で有意に抑制効果が認められたが, MS群では有意差はなかった.

     考察 : 今回の結果から, 脱灰処理を行った象牙質に使用した3種類のフッ化物含有知覚過敏抑制材からフッ素が取り込まれる傾向が認められた. また, それらのフッ素によって象牙質の脱灰が抑制されることが示された. これらの結果から, フッ化物含有知覚過敏抑制材の根面う蝕予防材としての有効性が示唆された.

  • 北迫 勇一, 高垣 智博, 池田 正臣, 田上 順次
    2017 年 60 巻 6 号 p. 282-288
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 酸蝕症の疫学調査から歯間清掃に関するアンケート調査結果を抽出し, 各世代における歯間清掃用具 (デンタルフロスおよび歯間ブラシ) の使用頻度について, 歯間清掃を始めた動機づけ要因も含め比較検討を試みた.

     材料と方法 : 本研究趣旨に同意が得られた被験者1,108名のうち, アンケートに対しすべて回答した969名分 (15~89歳, 平均年齢48.4歳, 男性494名, 女性475名) を対象として, 酸蝕症の疫学調査における口腔衛生状況に関する質問事項として, デンタルフロスおよび歯間ブラシの使用有無 (有の場合はその頻度 : 常時または時々) ならびに歯間清掃を始めた動機づけ要因について調査した. 被験者全員を, 10~20代, 30代, 40代, 50代, 60代および70~80代の6世代に分類し, 同アンケート結果の世代間における比較検討を試みた.

     結果 : 全世代における歯間清掃用具の使用頻度は, デンタルフロスの常時使用が30%, 歯間ブラシでの常時使用が28%であった. また, 各世代における同使用頻度について 「常時+時々」 と 「未使用」 を比較した場合, デンタルフロスでは60代が40代を除くほかの世代に比べその使用頻度が高く, 歯間ブラシでは50~80代が10~40代に比べその使用頻度が高かった (p<0.05). また, 同使用頻度について 「常時」 と 「時々+未使用」 を比較した場合は, デンタルフロスでは60代が10~30代に比べ 「常時」 使用している割合が高く, 歯間ブラシでは50~80代が10~40代に比べ 「常時」 使用している割合が高かった (p<0.05). さらに, 歯間清掃を始めた動機づけ要因は, 30代を除くすべての世代において歯科医院からの推奨で開始したと回答する割合が半数以上を占め, 30代ではその割合が低かった (p<0.05).

     結論 : 歯間清掃用具の使用頻度は, デンタルフロスで世代間の明確な差を認めなかったのに対し, 歯間ブラシは年齢が増すごとに明らかに使用頻度が増加する傾向を示した. 歯間清掃を始めた動機づけとして, 多くの世代において 「歯科医院からの推奨」 が寄与していることが示唆された.

  • ―光干渉断層画像法 (OCT) による評価―
    五條堀 眞由美, 黒川 弘康, 名倉 侑子, 石井 亮, 飯野 正義, 村山 良介, 辻本 暁正, 髙見澤 俊樹, 宮崎 真至
    2017 年 60 巻 6 号 p. 289-298
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 異なるエッチングモードで歯面処理した際のフィッシャーシーラントの窩壁適合性について, 光干渉断層画像法 (OCT) を用いて評価した.

     材料と方法 : 供試シーラントとしてクリンプロシーラントを, 歯面処理材として35%リン酸水溶液であるスコッチボンドユニバーサルエッチャントあるいはセルフエッチアドヒーシブであるスコッチボンドユニバーサルを使用した. ウシ下顎前歯歯冠部唇側面に直径2mm, 深さ1mmのエナメル質窩洞あるいは象牙質に達する深さ2mmの規格窩洞を形成した. 製造者指示に従って, 規格窩洞にそれぞれの歯面処理を行った後, シーラントを塡塞, 20秒間照射を行った. これらの試片を, 37°C精製水中に24時間保管後, 5°C~60°Cを1サイクルとしたサーマルサイクルを50,000回施した. OCTを用いて, サーマルサイクル前後の試片についてシーラントと歯質の窩壁適合性を観察した. また, 歯質の表層から深層にわたる反射光分布の信号強度グラフをA-scan modeから得ることで解析し, これを考察資料とした.

     成績 : OCT観察の結果から, セルフエッチアドヒーシブ条件では, サーマルサイクル負荷にかかわらずOCT画像に変化は認められなかった. 一方, リン酸エッチング条件ではサーマルサイクル負荷前後で, OCT画像に変化が観察された. また, 信号強度グラフの解析結果からは, セルフエッチアドヒーシブ条件ではエナメルおよび象牙質ともにサーマルサイクル負荷前後のピーク信号強度に有意差は認められなかったものの, リン酸エッチング条件ではいずれの歯質においてもサーマルサイクル負荷前後のピーク信号強度に有意差が認められた.

     結論 : フィッシャーシーラント塡塞時の歯面処理法としてセルフエッチング処理は, リン酸エッチング処理に比較して良好な窩壁適合性を示すことが判明した.

  • 八幡 祥生, 浦羽 真太郎, 高林 正行, 坂上 斉, 鈴木 規元, 宮﨑 隆
    2017 年 60 巻 6 号 p. 299-305
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 本研究では, 昭和大学歯科病院歯内治療科で使用され, 廃棄されたニッケルチタン (以下, NiTi) ファイルの器具破折率と廃棄理由について調査し, 臨床使用による器具破折の詳細を明らかにすることを目的とした.

     材料と方法 : 2012年4月から2015年3月までの3年間を調査期間とし, 臨床使用の後, 廃棄されたすべてのNiTiファイルを調査対象とした. NiTiファイル (エンドウェーブ, モリタ) は, 先端径0.35mmの0.06と0.04テーパー, 先端径0.30mmの0.06と0.04テーパー, 先端径0.25mmの0.06と0.04テーパー, および先端径0.20mmの0.06テーパーの7種類を用いた. 廃棄されたNiTiファイルは, 8回使用後に変形なし, 器具破折または塑性変形のいずれかに分類した. 器具破折または塑性変形を認めたNiTiファイルは, 廃棄時の臨床使用回数を合わせて記録した.

     以上の計測から, 全NiTiファイルと各サイズの器具破折率を求めた. サイズ間による廃棄理由の相違についてはχ2検定を, 器具破折と塑性変形にいたる使用回数の比較についてはKaplan-Meier法およびLogrank試験を用い, 統計学的解析を行った (α=0.05).

     成績 : 調査期間内に廃棄されたNiTiファイルは647本であり, サイズ間における廃棄理由について統計学的有意差を認めた (p<0.05). 器具破折は26本に認められ, すべての廃棄ファイルに占める器具破折率は4.0%だった. 26本の破折のうち, 17本を先端径0.35mm, 0.06テーパーが占めた. また使用回数に関しては, 5回使用以降の器具破折が半数以上を占めた. 一方で, 初回使用時にも5本の器具破折を認めた. 器具破折にいたる平均使用回数と塑性変形にいたる平均使用回数 (±標準偏差) はそれぞれ, 4.3±2.2, 3.8±12.4回であり, それぞれの廃棄理由と, その廃棄にいたる使用回数の間に統計学的有意差は認めなかった (p=0.60).

     結論 : 本研究におけるNiTiファイルの器具破折率は, 4.0%だった. 破折器具は比較的太いサイズのNiTiファイルで生じやすいことが示唆された. NiTiファイル使用時には折れやすいサイズや使用回数を認識し, 細心の注意を払う必要がある.

  • ―ショックトリートメントおよびフラッシングの併用効果―
    中野 雅子, 高尾 亞由子, 前田 伸子, 細矢 哲康
    2017 年 60 巻 6 号 p. 306-312
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 鶴見大学歯学部附属病院では歯科用チェアユニット (以下, ユニット) の汚染対策として, ユニット給水管路 (以下, DUWL) の化学的洗浄としてショックトリートメントを行ってきた. 本研究の目的は, DUWLのユニット部材に影響が少なく, 短時間の1回処理で効果が高く, かつ持続性を有する洗浄液を検索することである. また, フラッシング操作の重要性についても再考する.

     材料と方法 : ショックトリートメントの洗浄液として, 500ppmならびに10,000ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液 (NaClO) および微酸性次亜塩素酸水 (SAW) を用いた. ユニット部材への洗浄液の影響を検索するために, 各被験洗浄液へ真鍮円板を浸漬し, 表面性状の変化を観察した. DUWLの洗浄効果は, ショックトリートメント直後から1, 2, 4, 6, 10週 (一部は3, 7週) まで, 休診日翌日の使用前およびフラッシング後にユニット水を採取し, 遊離残留塩素濃度と従属栄養細菌数の測定を継続した. また, ショックトリートメント前における滞留水の遊離残留塩素濃度と従属栄養細菌数を測定した.

     結果 : 真鍮円板を洗浄液に半浸漬した場合, 気相-液相界面の変色が一部円板に認められた. DUWLにおいて, ショックトリートメント実施前の滞留水の遊離残留塩素濃度は, すべてのユニットで水道法第22条に基づく水道法施工規則で定められた下限0.1ppm未満であった. フラッシングによって回復するものの, 基準値に戻るまでフラッシングを繰り返す必要のあるユニットもあった. 滞留水の遊離残留塩素濃度と従属栄養細菌数には, 有意に負の相関性が認められた. 滞留水に比べフラッシング後のユニット水では, 遊離残留塩素濃度の有意な上昇および菌数の対数値の有意な減少を示した. 500ppmならびに10,000ppm NaClOによるショックトリートメントを実施し, 遊離残留塩素濃度が水道水質管理目標値上限の1ppmを下回るまでフラッシングした後のユニット水からは, 従属栄養細菌は検出されなかった. すべてのユニットで洗浄2週後には, 滞留水の従属栄養細菌数が水道水質管理目標値上限2,000CFU/mlを超過した. フラッシング後のユニット水が2,000CFU/mlを上回ったのは, SAWの3週, 500ppm NaClOの7週であった. 10,000ppm NaClOで洗浄した場合は, 10週まで2,000CFU/ml以下であったが, 浸漬実験では真鍮への影響が大きいと思われた.

     結論 : 歯科用チェアユニット給水管路のショックトリートメントに有用な洗浄液は, 真鍮への影響が小さい500ppm NaClOであることが示唆された. またフラッシングは, 従属栄養細菌数の減少に有効である.

  • 岩佐 一弘, 小正 玲子, 吉川 一志, 合田 征司, 山本 一世
    2017 年 60 巻 6 号 p. 313-319
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 歯髄は常時, 物理・化学的刺激の下, 歯を維持するために象牙質への栄養補給, 修復象牙質の形成などの役割を果たしている. 可逆性歯髄炎は原因を除去することにより正常な歯髄に回復しうるため, 歯髄に存在する細胞における炎症の進行過程や発症機序を解明することは歯髄の保存のために重要であると考える. 歯髄炎の多くは, 齲蝕の進行により象牙質深部に侵入した細菌による感染症であるため, 自然免疫に関するレセプターによって認識され, 炎症反応が惹起される. また, 刺激を受けた歯髄組織では細胞外マトリックス分解酵素であるmatrix metalloproteinases (MMPs) が産生され, 歯髄組織を破壊し病態が進行する. Receptor interacting protein 2 (RIP2) はNucleotide-binding oligomerization domein protein (NOD) 1と関連しており, 免疫系において重要な役割を果たしている. c-Jun N-terminal kinase (JNK) は, 種々の酵素産生に関与していることが報告されている. 今回, 細菌のペプチドグリカンの構造の一部であるD-glutamy-meso-diaminopimelicacid (iE-DAP) に対する自然免疫レセプターであるNOD1に着目し, ヒト歯髄由来線維芽細胞におけるiE-DAP刺激によるMMP-3産生およびそのシグナル伝達経路を検討した.

     方法 : 本研究に参加同意を得た患者の抜去歯 (大歯医倫110910号) より歯髄組織を採取・培養し, 3~10世代目をヒト歯髄由来線維芽細胞として本研究に使用した. ヒト歯髄由来線維芽細胞を24 well plateに5.0×105 cells/wellになるよう播種し, 24時間培養後, iE-DAPを0, 5, 10, 20, 50μg/ml加え, 刺激を行った. 刺激終了後, 上清中のMMP-3の産生をWestern Blottingにて検討した. 次にRIP2阻害剤であるGefitinibを0.5, 1, 5, 10, 15, 20μmol/l加え, 同時にiE-DAP刺激を行い, 上清中のMMP-3の産生をWestern Blottingにて検討した. ヒト歯髄由来線維芽細胞を同様に播種し, iE-DAP 10μg/mlを各タイムコースで加え, JNKのリン酸化についてWestern Blottingにて検討した. また, JNK阻害剤であるAS601245, SP600125を30, 70, 110nmol/l加え, 同時にiE-DAP刺激を行い, 上清中のMMP-3の産生をWestern Blottingにて検討した.

     結果 :

     1) ヒト歯髄由来線維芽細胞におけるiE-DAP刺激において, MMP-3の産生は濃度依存的に増強した.

     2) iE-DAP刺激によって産生が増強したMMP-3は, RIP2阻害剤であるGefitinibにより産生が抑制された.

     3) ヒト歯髄由来線維芽細胞におけるiE-DAP刺激において, JNKのリン酸化は経時的に変化した.

     4) iE-DAP刺激によって産生が増強したMMP-3はJNK阻害剤であるAS601245, SP600125を加えることで抑制された.

     結論 : 以上より, ヒト歯髄由来線維芽細胞においてiE-DAP刺激によるMMP-3の産生にRIP2, JNKの関与が示唆された.

症例報告
  • 高橋 惇哉, 吉成 伸夫, 高田 匡基, 新村 弘子, 唐澤 基央, 高橋 晋平, 山田 一尋, 各務 秀明, 篠原 淳, 田口 明, 國松 ...
    2017 年 60 巻 6 号 p. 320-331
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/09
    ジャーナル フリー

     目的 : 歯周病と歯列不正は両病態の悪化に双方が関連しており, 口腔内環境の長期安定, 種々のトラブルに対する再発予防のためにも, 炎症のコントロールのみならず咬合の安定化と咬合力の分散といった力のコントロールが必須と考えられる.

     症例 : 初診時47歳男性で, 全顎的な歯肉腫脹感を主訴に松本歯科大学病院歯周病科に来科した. 下顎骨の過成長による骨格性下顎前突症を伴う, 広汎型中等度慢性歯周炎の診断下, 歯周基本治療後に外科的矯正治療を施行し, 反対咬合を改善した.

     結論 : その後インプラント, 補綴治療により歯周組織の環境改善と歯列の連続性が獲得され, 良好な結果を得ることができた. 今回, 骨格性下顎前突症を伴う広汎型中等度慢性歯周炎にチームアプローチにより包括治療を行った症例を報告する.

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