日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
63 巻, 5 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
総説
原著
  • 津谷 佳代, 保尾 謙三, 谷本 啓彰, 吉川 一志, 山本 一世
    2020 年63 巻5 号 p. 356-367
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : Minimal Intervention (MI) の概念に基づき, 齲蝕が深部にまで進行し歯髄に近接する場合, 歯髄に近接する深部象牙質を保存し, 露髄を回避する目的で暫間的間接覆髄法 (IPC) が行われる. 本研究では, Knoop硬さ測定システムであるカリオテスターを用いて象牙質試料の硬さを測定し, レジン添加型MTA配合覆髄剤が軟化象牙質へ与える影響を検討した.

     材料と方法 : 象牙質試料のエナメル質側面の硬さを測定し, 硬さが60KNH前後となったものを健全象牙質試料とした. 健全象牙質試料を松田らの方法により脱灰し, 硬さが20KNH前後となったものを軟化象牙質試料とした. 軟化象牙質試料に, 覆髄剤として従来型MTAセメントのTMR-MTAセメント, NEX MTAセメント, レジン添加型MTA配合覆髄剤としてセラカルLC, スーパーMTAペーストを貼付し, ベースセメントで被覆し, 覆髄試料とした. 作製した覆髄試料は, 湿度100%容器中で1カ月および3カ月保管後, 覆髄した象牙質のKnoop硬さを測定した. 試料数は各条件につき3試料とし, 得られた値は一元配置分散分析およびTukeyの検定にて統計解析を行った (p<0.001).

     成績 : 覆髄剤貼付後の硬さ測定の結果, TMR-MTAセメント群では1カ月後の硬さは32.8±2.7KNH, 3カ月後の硬さは33.2±0.4KNHとなった. 軟化象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意に向上した. 健全象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意に低かった. NEX MTAセメント群では1カ月後の硬さは41.1±2.3KNH, 3カ月後の硬さは41.6±4.0KNHとなった. 軟化象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意に向上した. 健全象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意に低かった. セラカルLC貼付群では1カ月後の硬さは20.1±0.5KNH, 3カ月後の硬さは27.7±4.4KNHとなった. 軟化象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さに有意差は認められなかった. 健全象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意に低かった. スーパーMTAペースト貼付群では1カ月後の硬さは56.5±5.9KNH, 3カ月後の硬さは62.0±2.5KNHとなった. 軟化象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意に向上した. 健全象牙質試料と比較して, 1カ月後および3カ月後の硬さは有意差が認められない硬さに向上した. 本実験により, レジン添加型MTA配合覆髄剤を軟化象牙質に貼付することによって, 再石灰化を促し, 軟化象牙質の硬化が認められた.

     結論 : 以上の結果により, MTAを配合したレジン添加型覆髄剤の軟化象牙質の硬化への有効性が示唆された.

  • 堀田 正人, 瀧谷 佳晃, 河野 哲
    2020 年63 巻5 号 p. 368-376
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : ジルコン粒子による噴射研削によりヒト抜去小臼歯部の小窩裂溝齲蝕の除去を行い, 3種類の噴射研削材 (アルミナ, 炭酸水素ナトリウム, 桃の種粉砕粒子) による小窩裂溝齲蝕除去と比較検討した.

     材料と方法 : 各種噴射研削材の研削能力については, ヒト抜去上顎前歯の健全エナメル質と健全象牙質の研削深さを電子線三次元粗さ解析装置により測定した. 小臼歯小窩裂溝部齲蝕除去の評価には, 齲蝕除去の指標としてDIAGNOdentと齲蝕検知液を用い, 各種噴射研削材にて着色部または齲蝕部を除去した. さらに, 除去後の最も深い窩洞の部分を歯軸に平行にかつ頰舌的に縦断した試料の窩底部をビッカース硬さ測定器にて測定し, 確認した.

     結果 : 各種噴射研削材の研削深さ (μm) は, エナメル質 (平均値), 象牙質 (平均値) ともにアルミナ (132.26, 162.03) >ジルコン (49.72, 63.09) >炭酸水素ナトリウム (7.81, 10.46) >桃の種粉砕粒子 (2.79, 5.50) の順に深さの値は小さくなった. 健全エナメル質に比べると, 健全象牙質のほうが各噴射研削材ともに研削深さはより深かった. アルミナ・ジルコン粒子においてはすべての着色または齲蝕部が除去されていた. 桃の種粉砕粒子と炭酸水素ナトリウム粒子を用いた場合は, すべての着色または齲蝕部は除去できなかった. また, アルミナ粒子では窩底部健全象牙質が過剰に研削されたが, ジルコン粒子では過剰の研削は抑えられていた.

     結論 : ジルコン粒子を用いた噴射研削によるヒト抜去小臼歯部の小窩裂溝齲蝕除去は, アルミナ粒子と同様にエナメル質を除去でき, 齲蝕部を完全に除去することが可能であった. さらにアルミナ粒子に比べて健全歯質の削除量を抑えることができた.

  • 堀田 正人, 佐野 晃, 清水 翔二郎, 石榑 大嗣, 日下部 修介, 二階堂 徹
    2020 年63 巻5 号 p. 377-384
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 機械的なプラーク除去は, 齲蝕や歯周病の予防に最も重要な役割を果たしている. 最近, 隣接面や歯肉溝内に到達しやすいようにするためにさまざまな形態の歯ブラシが開発されている. また, ブラッシング方法としてはバス法が, 軟らかめの歯ブラシを使用して歯肉縁周辺のプラークを除去する方法として有効であると考えられている. そこで本研究では, 高度テーパー加工されたフィラメントが植毛されたワイドヘッドとコンパクトヘッドの歯ブラシを用いて, ブラッシングマシンによる人工プラーク除去効果について検討した.

     材料と方法 : 使用した歯ブラシは, デンタルプロ・ブラック超コンパクト, デンタルプロ・ブラックダイヤコンパクト, デンタルプロ・ブラックダイヤワイドの3種類である. 各種歯ブラシは, 顎模型人工歯の歯肉縁上と歯肉縁下の人工プラーク除去効果をみるためにバス法に準じて使用した. 歯軸に対して45度の方向で歯ブラシヘッドの植毛中央部先端を歯肉溝に合わせて, 荷重200g, 60秒間 (190ストローク) ブラッシングを行うことで判定した. 得られたデータは, 一元配置分散分析 (ANOVA) と多重比較検定 (Scheffè) にて有意差検定 (有意水準5%) を行った.

     結果 : 使用した歯ブラシ間に, 歯肉縁下における人工プラーク除去能に有意差は認められなかった. しかし, 歯ブラシヘッドが超コンパクトのものに比べて, より大きいサイズのコンパクトとワイドは歯肉縁上の頰 (唇) 面と隣接面の人工プラーク除去能に優れていた.

     結論 : 高度テーパー加工されたフィラメントが植毛された歯ブラシは歯肉縁下に到達した. 歯ブラシヘッドを大きくすることで, さらにそのフィラメントが歯肉縁上の歯面や歯間部隣接面にも到達しやすくなることが示唆された.

  • ―大阪府堺市西区における2016年度アンケート調査―
    志倉 興紀, 志倉 敬章, 内川 竜太朗, 山本 昭夫, 富田 美穂子
    2020 年63 巻5 号 p. 385-395
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 近年, 定期歯科検診を受診する人は増加してきたが, いまだ勤労者の受診率は低い. そこで, 第3次産業勤労者の定期歯科検診への意識と口腔保健行動を調査し今後の啓蒙活動を検討した. さらに, 歯科医師が職場を訪問して実施するブラッシング指導 (TBI : Tooth Brushing Instruction) の効果を明らかにし, 保健指導の対策を考察した.

     材料と方法 : 第3次産業の勤労者を対象に業種, 年齢, 性別, 定期歯科検診受診の有無と受診しない理由, 齲蝕の有無, ブラッシングの知識・回数・時間, 補助器具 (歯間ブラシ・フロス) の使用, 定期検診を受診するためのシステムに関する要望, 8020への関心度のアンケート調査を実施し, 定期歯科検診を受診している (検診有群) こととの関連項目を検討した. また歯科定期検診を受診していない群 (検診無群) のなかから抽出した研究対象者を, ブラッシング指導をする群 (TBI群 : 11名) としない群 (コントロール群 : 10名) に分け, 半年ごとに計4回各研究対象者の職場を訪問してPCR (Plaque Control Record) 計測を実施した. そして, 両群の初回と各回のPCR値を比較することでTBIの効果を検討した.

     結果 : アンケート総配布数647枚に対して, 回答が得られたのは378枚 (回収率は58.4%) であった. また, 検診有群は107名, 検診無群は269名であり, 定期歯科検診を受診しない主な理由は 「時間がない」 であった. 定期歯科検診に関する希望のシステムは, 検診有群では 「リコールの連絡」 で, 検診無群では 「訪問による検診」 であった. 定期歯科検診を受診していることは, 年齢 (オッズ比1.61), 女性 (オッズ比1.83), 齲蝕なし (オッズ比2.24), ブラッシングの知識 (オッズ比3.62), 歯間ブラシの使用 (オッズ比2.41), フロスの使用 (オッズ比2.09) と有意な関連を示し, ほかの項目とは関連が認められなかった. 職場訪問によるPCRの結果は, TBI群では初回に対して2回目 (p<0.05), 3回目 (p<0.01), 4回目 (p<0.005) の値が有意に低下し, コントロール群においても初回に対して3回目 (p<0.05), 4回目 (p<0.01) の値は有意に低下した.

     結論 : 定期歯科検診を受診することは, 「口腔保健に関する知識」 「女性であること」 「40歳以上の年齢」 「補助器具の使用」 が強く関与していた. また, 勤務先へ出向いて実施するTBIや検査は, 口腔清掃に対する行動変容に影響力があることが明らかとなった. 今後, 40歳未満の勤労者や男性の意識改革を強化するとともに, 訪問指導をするなどの歯科医師の能動的なアプローチが重要である.

  • 杉原 俊太郎, 両⻆ 俊哉, 香西 雄介, 印南 永, 泉 雅浩, 田村 利之, 櫻井 孝, 三邉 正人
    2020 年63 巻5 号 p. 396-404
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 口内法X線撮影は鮮明な画像を得られる一方で, 全顎撮影では検査時間が長く, 患者の不快感および唾液による交叉感染のリスクもある. 本研究では, パノラマX線撮影の断層域の形状や位置を変化させて画像を再構成できるトモシンセシス法に着目し, 歯科診断における同手法の有用性を検討した.

     材料と方法 : 歯科用頭部ファントムを用いてパノラマおよび全顎口内法X線撮影を行った. パノラマX線撮影は標準位置と前後 (±10mm, ±20mm) に変位させた計5つの位置づけで撮影し, それぞれをトモシンセシス法で補正した. 標準位置で撮影したパノラマX線画像を基準として, 変位させたパノラマX線画像, トモシンセシス法で補正した画像および口内法X線画像の各3種類の画像における主観評価を20名の歯科医師が行った. 評価対象は上顎前歯部, 上顎左側臼歯部とし, おのおのの歯槽頂線の連続性, セメント-エナメル境の視認性, 歯根膜腔の判別, 根尖部付近の歯髄腔形態, 歯槽硬線の判別とした. 画像は0~4点で評価した (4 : かなり鮮明, 3 : 鮮明, 2 : 視認可, 1 : 一部不可, 0 : 全く視認不可). また, 客観評価として各位置づけ画像と補正画像に対しModulation Transfer Function (MTF) を解析した.

     成績 : 前方10mm変位撮影した画像では前歯部において, 前方20mm変位撮影では前歯部と臼歯部において補正画像の主観評価が有意に高かった (p<0.001). 補正画像と口内法画像の間に有意な差はなかった. 一方, 後方10mm変位では前歯部において, 後方20mm変位では前歯部と臼歯の一部項目において補正画像の主観評価が有意に高かった (p<0.001). 補正画像と口内法X線画像の比較では後方10mm, 20mm変位とも根尖部付近の歯髄腔形態を除いたすべての項目において口内法X線画像のほうが有意に高評価であった (p<0.001). MTF解析では後方10mm前歯部において, 補正により有意な鮮鋭度の改善を示した (p<0.0001).

     結論 : 前後に変位した位置で撮影し半影が大きな画像でも, トモシンセシス法補正により前歯部は有意に主観的診断レベルが改善した. とりわけ, 前方に大きく変位して撮影した場合は前歯部・臼歯部ともに改善が顕著であり, 口内法X線画像に劣らない良質な画像が得られることが示唆された.

  • 関谷 美貴, 前田 宗宏, 西田 太郎, 五十嵐 勝
    2020 年63 巻5 号 p. 405-413
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : Recioroc (VDW, Germany, 以下, RC) は高い根管追従性を有し, 反復回転運動により破折抵抗性が向上することから, 1本のファイルのみで根管形成が完了できるニッケルチタン製ロータリーファイルである. 本研究は, RCと, 柔軟性が向上したReciproc Blue (RC Blue) について, グライドパス形成用ReciprocファイルであるR-PILOT (RP) の併用が湾曲根管の拡大形成時の根管壁偏位および作業時間に及ぼす影響を比較検討した.

     材料と方法 : J字型透明湾曲根管模型ブロックの湾曲面を画像ファイルとしてスキャナー (GT-X970, EPSON) で撮影した後, すべての根管に対して#10 Stainless Steel K-file (MANI, 以下, KF) で穿通を確認した. 根管模型をランダムに5群 : A群 (#15 KF→#25 KF), B群 (RP→R25 RC), C群 (#15 KF→R25 RC), D群 (RP→R25 RC Blue), E群 (#15 KF→R25 RC Blue) に分け, 各25サイズまで拡大形成を行った (各群n=6). 拡大形成後, 根管模型を再度スキャナーで撮影し, 画像処理ソフト (Photoshop CS6, Adobe Systems, USA) を用いて根管形成前の画像と重ね合わせた. 計測箇所は根尖から1mm・2mm・3mm・4mmとし, 内湾側・外湾側それぞれの根管壁偏位量 (拡大形成前後の根管壁の距離) を計測した. また, 各群・各ファイルの作業時間を計測した. 計測結果は, 統計処理ソフト (SPSS Statistics version 25, IBM Japan) を用いて統計学的分析を行った.

     成績 : A群は, 根尖から1mmの位置における外湾側で他群より根管壁偏位量が大きかった. B群とC群, およびD群とE群を比較して, グライドパス形成にRPを用いた群は, 根尖から1, 2mmの位置における内湾側で, #15 KFを用いた群より根管壁偏位量が小さかった. また, B群とD群, およびC群とE群を比較して, RC Blueを用いた群はRC群より内湾側の根管壁偏位量が小さく, かつ内湾側と外湾側をほぼ均等に切削していた. 全体の作業時間は, A>E>C>B>Dの順に長い時間を要し, 手用ファイル群よりもReciorocファイルを使用した群で拡大形成時間が大幅に短縮された. B~E群において, グライドパス形成に要した時間は#15 KF>RPであり, グライドパス形成後にReciorocファイルを使用した時間はRC>RC Blueであった.

     結論 : RPとRC Blueの組合せは, 元の根管の湾曲を維持し, 作業時間を短縮した.

  • 英 將生, 木村 紗央里, 大川 一佳, 山本 雄嗣
    2020 年63 巻5 号 p. 414-424
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     緒言 : ポリエチレングリコール鎖 (PEG鎖) を有する機能性モノマー配合1ステップセルフエッチングシステムの象牙質接着性を検討するとともに, 接着強さに影響を及ぼす接着材層の弾性率について検討した.

     材料と方法 : ヒト抜去大臼歯の象牙質露出面を耐水研磨紙#600で研削し, 被着面とした. 作製した被着面を, PEG鎖を有する機能性モノマー配合1ステップセルフエッチングシステム : CFA-2.0 (CFA) およびアイゴスボンド (iGOS), 1ステップセルフエッチングシステム : クリアフィルトライエスボンドNDクイック (NDQ), 2ステップセルフエッチングシステム : クリアフィルメガボンド (MB) で接着処理し, コンポジットレジンを築盛した. 試料を37°C水中に24時間浸漬後, 試片を作製して万能試験機にて微小引張り接着試験を行った. また, 耐水研磨紙#600で研削した象牙質面に4種類の接着システムをそれぞれ被着面に塗布した後, 光照射し, この接着操作を接着材ごとに5回繰り返した. 試料を37°C水中に24時間浸漬後, 接着材表面をエタノールで清拭し, 超微小押し込み硬さ試験機で接着材の弾性率を測定した. その他, 各接着材の歯質脱灰性能を知るために象牙質接着処理面のSEM観察, 接着界面の状態を観察するためにTEM観察を行った.

     結果 : 各接着材の微小引張り接着強さの平均値は, 23.1~61.7MPaであった. CFAの接着強さはiGOSより有意に高く, NDQとは同等であった. MBと比較すると有意に低い値であった. 各接着材の弾性率の平均値は, 2.83~5.67GPaであった. CFAの弾性率は, iGOSおよびNDQより有意に高く, MBとの間には有意差がなかった. 象牙質接着処理面のSEM観察ではCFAの処理面から一部の象牙細管のみが開口する軽度な脱灰が観察された. 接着界面のTEM観察では, CFAの接着材層にはフィラーが観察され, iGOSの接着材層には観察されなかった.

     結論 : PEG鎖を有する機能性モノマー配合1ステップセルフエッチングシステムの象牙質接着性は, MDP配合1ステップセルフエッチングシステムに匹敵する接着性能を有し, 接着材の接着強さと弾性率の間には正の相関が認められた.

  • 藤巻 龍治, 鈴木 二郎, 石井 信之
    2020 年63 巻5 号 p. 425-431
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 本研究は, pH 12.2に調整した3%EDTA (以降pH 12.2 EDTA) 溶液の根管洗浄剤としての臨床応用を目的として, ヒト抜去歯根管象牙質に対する象牙質脱灰能とスミヤー層除去効果について解析した.

     方法 : pH 12.2 EDTA溶液の無機質溶解作用は, ヒト単根抜去歯10本を使用して解析した. pH 9.0の3%EDTA溶液 (スメアクリーン) を対照群として比較した. 試料は歯根を垂直割断後, 象牙質断面にスミヤー層を実験的に誘導した. 象牙質脱灰能の解析には, pH 12.2 EDTA溶液を試料に対して1~60分間経時的に作用させ, 所定時間経過後の根管象牙質表面硬さについて, 超微小押込み硬さ試験機にて, 押込み硬さ (HIT), 押込み弾性率 (EIT) を測定した. スミヤー層除去効果は, pH 12.2 EDTA溶液を経時的に作用後, 根管象牙質表面をSEMにて観察し, スミヤー層残存状態をHülsmannの方法に従って5段階法で判定した. 化学的安定性は, pH 12.2 EDTA溶液を25°C, 40°C保管群に分類し1, 6カ月間保管後にpH変動およびEDTA含有量の変化を解析した.

     結果 : 象牙質脱灰能をHIT, EITの測定によって評価した結果, いずれの測定値も作用前と比較して統計学的有意差を認めなかった. pH 12.2 EDTA溶液による根管洗浄後にスミヤー層の残存は認められず, 対照群と比較して, スミヤー層除去効果に有意差は認められなかった. さらに, 根管歯冠部, 中央部および根尖部において, 洗浄後の根管象牙質表面硬さとスミヤー層除去効果に有意差は認められなかった. pH 12.2 EDTA溶液を6カ月間保存後, いずれの保存条件においてもpHの変化, およびEDTA含有量に変化は認められなかった.

     結論 : pH 12.2 EDTA溶液は適切なスミヤー層除去効果を有し, 60分間作用後にも過剰脱灰を示さなかった. さらに, 25°C, 40°Cの保管条件で6カ月間, 色調・性状に変化は認められなかった.

症例報告
  • 片平 信弘, 稲井 紀通, 田上 順次
    2020 年63 巻5 号 p. 432-437
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 直接覆髄法は, 窩洞形成や外傷による偶発的な露髄が生じたときに行われる. 今回, 外傷による露髄を伴う前歯部破折症例に, MTAを用いた直接歯髄覆髄およびフロアブルコンポジットレジンによる破折片の接着を行い, その臨床経過を観察した.

     症例 : 患者は32歳, 女性. 外傷にて上顎右側中切歯の歯冠約1/2が水平的に破折し, 破折断面には点状露髄, 軽度の自発痛と冷水痛が認められた. 露髄面にケミカルサージェリーを行い, MTAを軽度に加圧して覆髄, 硬化を確認した後セルフエッチングプライマーにて残存歯質と破折片へ接着処理を行い, フロアブルコンポジットレジンにて接着した.

     結果 : 術後3週, 3, 6カ月に不快症状は認められず, 歯髄の生活反応が存在し, 歯冠部の審美性は維持されていた.

     結論 : 外傷歯の直接歯髄覆髄の1症例において, MTAを歯髄側に向かって加圧後, 歯質接着性材料を使用して破折片を接着させて, 微小漏洩を遮断することで良好な予後が得られた. 本法により, 歯髄保護と審美的な修復を同時に行うことができた.

  • 冨永 尚宏, 木庭 大槻, 石井 信之
    2020 年63 巻5 号 p. 438-444
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 歯根破折や歯内・歯周疾患を伴った症例は, 臨床症状と原因との関連性が不明確なために診断と治療計画の立案に苦慮する. 今回, 全顎的歯科治療および咬合回復を主訴とする患者に対して, 歯内および歯周治療を基本とした包括的治療を行い, 良好に推移した症例について報告する.

     症例 : 52歳, 女性. 口腔内の全顎的歯科治療の受診を目的に来院した. 全顎的歯科治療終了後にメインテナンスに移行後, 再度27部の咬合回復を希望した. 咬合回復時に, 27部の挺出改善と慢性化膿性根尖性歯周炎に対する感染根管治療, および37のインプラント治療を必要とした.

     第1期治療概要 : 基本治療として, 歯周治療後に感染根管治療を行った. 36の根分岐部病変は自家骨移植とEMDを応用した歯周再生療法を行った. 26は根管治療終了後, 最終補綴を考慮してクラウンレングスニング手術を行い, 歯冠長の延長およびクリアランスを確保した. 23は歯根破折のため, 抜歯後にインプラント治療を行った. 基礎治療終了後, 16-26, 46-36部の全顎的咬合再建治療を実施した. 27は根管治療の困難性や対合歯欠損に起因する歯牙挺出によるクリアランス不足から, 咬合再建は困難と考え積極的治療を実施しないことを患者に伝え, 第1期治療を終了した. その後メインテナンスに移行した.

     第2期治療概要 : メインテナンス期間中に27の咬合回復を希望したため, 感染根管治療と, 37のインプラント治療による咬合再建治療を開始した. 27は歯科用実体顕微鏡下で感染根管治療を実施後, 支台築造を行い対合のインプラントとのクリアランス確保のためクラウンレングスニング手術をしてクリアランスを確保した.

     経過 : 27の感染根管治療の経過は良好に推移し, 37インプラントは上部構造が咬合平面上に並ぶように埋入した. 上下顎歯肉の健康状態を確認後, 27, 37上部構造を作製し左側第二大臼歯までの咬合回復が完了した. 現在, メインテナンスを継続的に実施し, 治療終了から4年が経過し順調に経過している.

     結論 : 適切な術前診断と治療計画に従った治療が包括的治療において最も重要で, 最終的な咬合構築は自然に導かれると考えられる. 歯科用実体顕微鏡によって再感染根管治療, 歯冠修復および補綴治療においても精度の高い治療が可能となり, 臨床成績の向上に寄与すると考えられる.

  • 大墨 竜也, 竹中 彰治, 野杁 由一郎
    2020 年63 巻5 号 p. 445-450
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 外傷に起因すると考えられる非常に緩慢な進行かつ広範な歯根内部吸収を伴うにもかかわらず穿孔を認めなかった上顎右側中切歯に対し, 非外科的対応にて処置を行い, 良好な治療経過を得た症例を経験したので報告する.

     症例 : 40歳男性. かかりつけ歯科医院にて, 上顎右側中切歯に内部吸収を指摘され, 精査目的に当科を紹介された. 約15年前に自転車で転倒し, 前歯部を強打, 亜脱臼と思われる歯の変位があったため, 自分の手指にて整復したとのことだった. 患歯には, 処置時期は明確ではないが, 隣接面・唇面にコンポジットレジン修復を認めた. 自覚症状ならびに, 水平垂直ともに打診痛はなく, 頰側根尖相当部歯肉にsinus tractを認めた. 歯科用コーンビームCT (CBCT) による画像検査の結果, 歯髄腔は内部吸収によると思われる拡大像を呈しており, 唇側の皮質骨の膨隆および断裂を伴う根尖病変が認められた. 根管壁に穿孔は認められなかった.

     治療経過 : CBCT所見より, 根管壁に穿孔がなかったため, 通法に従い根管治療を行った. 根管内に残存した壊死歯髄などの有機質を次亜塩素酸ナトリウムで溶解除去しつつ, 手術用顕微鏡下で根尖へのアプローチを図った. 歯面処理などが到達困難と思われる根尖部根管を含めた歯髄腔の根尖側およそ1/3を, オブチュレーションによりガッタパーチャを充塡した. その上部にファイバーポストとポストレジンにて築造を行い, 口蓋側の髄腔開拡部にコンポジットレジン修復を行った.

     結論 : 症例は, 広範囲に空洞化した歯根部の脆弱化が予想され, 破折リスクも高いと考えられた. そのため, 接着性修復により機械的物性の向上を図った. CBCTの使用は, 広範囲に及ぶ内部吸収の診断と治療にきわめて有効であることが示された.

  • 大森 一弘, 河野 隆幸, 小林 寛也, 新井 英雄, 山本 直史, 高柴 正悟
    2020 年63 巻5 号 p. 451-460
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     緒言 : 歯周病原細菌の感染と歯周組織の炎症が, 妊娠に影響を与える可能性が報告されている. 今回, 不妊治療の経過が思わしくない侵襲性歯周炎患者に感染源除去の観点から専門的歯周治療を行い, 自然妊娠から正常出産にいたった症例の経過をふまえ病態を考察する.

     症例 : 33歳, 女性, 既婚 (不妊治療中). 2016年9月, 26の動揺および同部の自発痛を自覚し, かかりつけ歯科医院を受診した. 同院でエックス線検査を受けて, 重度の歯槽骨吸収があると説明された. 早期の専門的歯周治療を勧められ, 当科を紹介された. 既往歴の特記事項はなく, 不妊検査においても患者本人および夫ともに異常所見はなかった. 歯周組織検査において, probing pocket depthが4mm以上の部位の割合は49.5%, bleeding on probingは47.9%, plaque control recordは3.1%, 歯周炎症表面積 (PISA) は2,392mm2であった. エックス線検査所見では, 主訴部の26部を中心に根尖に及ぶ骨吸収像が多数存在した. 歯周病原細菌に対する血清抗体価検査および歯周ポケット内細菌DNA検査ともに, Porphyromonas gingivalisの感染が強く疑われた. 診断は広汎型侵襲性歯周炎 (ステージⅣ, グレードC), 二次性咬合性外傷とした. 治療方針として, 患者の妊娠希望に配慮して, できるかぎり早期 (1年以内) の歯周環境の改善を目指すこととした. また, 歯周外科治療が終了するまでの不妊治療を含めた妊娠活動を控える必要性について説明し, 同意を得た. 治療計画は, ①歯周基本治療 (患者教育, 抜歯, 局所抗菌療法を併用したスケーリング・ルートプレーニング, 暫間固定), ②歯周組織再生療法, ③口腔機能回復治療, ④歯周病安定期治療 (SPT) とした. 治療経過として, 歯周治療に対する宿主反応性は非常に良く, 炎症改善と歯槽骨の再生を確認した (歯周外科治療後PISA : 43mm2). 口腔機能回復治療中に自然妊娠し, 35歳時に男児を正常出産 (経膣分娩, 3,240g, 出産週数 : 38週+5日) した.

     考察および結論 : 重度のP. gingivalis感染および歯周炎症を伴う侵襲性歯周炎の罹患が, 妊娠成立に影響を及ぼす可能性が示唆された. 本症例のように不妊治療の経過が思わしくない場合には, 歯周組織を含めた口腔状態を一度精査することが望まれる.

  • 川西 雄三, 前薗 葉月, 林 美加子
    2020 年63 巻5 号 p. 461-466
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     緒言 : 樋状根は複雑な根管形態を有することが多く, 感染源の残存により治療が困難となることも多い. 今回, 慢性根尖性歯周炎に罹患した下顎左側第二大臼歯樋状根に歯科用コーンビームCT (以下, CBCT) による画像診断を基に, 歯科用実体顕微鏡 (以下, マイクロスコープ) を用いた拡大視野下で再根管治療を行い, 根管内の感染源を除去したことで良好な治癒経過を得られた症例を報告する.

     症例 : 患者は42歳男性. 約1年前から左下奥歯に鈍い痛みがあり, 嚙むと痛みが生じていた. しばらく様子をみていたが, 症状の改善を認めないため精査・加療を希望し大阪大学歯学部附属病院保存科を受診した. 下顎左側第二大臼歯に装着されているメタルインレーの適合が不良で, 打診痛および咬合痛を認めた. デンタルおよびパノラマエックス線写真, CBCTより下顎左側第二大臼歯根尖部に透過像を認め, 不良な根管充塡と, 根管内に破折ファイル様不透過像を認めた. また, 歯根形態は樋状根であり, 根尖では根管が遠心頰側へ湾曲していることを確認した. 以上より, 下顎左側第二大臼歯慢性根尖性歯周炎と診断し, 同歯の再根管治療を行うこととした. マイクロスコープ下で根管内に残存していた感染源を除去し, 根管形態に沿った形成をしたところ, 主訴の改善を認め根管充塡を行った. 経過良好であったため, 根管充塡9カ月後に全部鋳造冠にて最終補綴を行った. 根管充塡後に特記すべき症状は認めず, 根管充塡1年後に撮影したデンタルエックス線写真およびCBCTでは, 下顎左側第二大臼歯根尖部透過像の消失を認め, 臨床症状も認めず経過良好である.

     考察および結論 : 下顎第二大臼歯における樋状根の頻度は, 白人に比べアジア人で多く, 日本人では3割から6割程度と報告されている. 樋状根は, 根管口から根尖まで同一の形態であることは少なく, 分岐や合流が多いため治療に苦慮することも多い. さらに, 根管上部に比べ, 根管中央部や根尖部にアンダーカットが存在し, 感染源の残存につながることもある. 今回の症例では, 再根管治療に際して適切な髄腔開拡および根管上部の拡大を行った. さらに, 術前のCBCT画像を参考に解剖学的形態を考慮しマイクロスコープ下にて根管形態に沿った根管形成を行うことで, 感染源を除去できたことが, 良好な治癒につながったと考えられる.

  • 須藤 瑞樹
    2020 年63 巻5 号 p. 467-473
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

     目的 : 広汎型重度慢性歯周炎患者に対して, 垂直性骨欠損部位にリグロスを用いて歯周組織再生療法を行い, 上顎前歯部の審美障害および臼歯部咬合を回復させた包括的歯科治療を行った症例を報告する.

     症例 : 患者は62歳女性. 歯周病が進行したため, 専門的な治療を希望し来院した. 全顎的に多量のプラーク, 歯石の沈着を認め, 辺縁歯肉および歯間乳頭歯肉の発赤・プロービング時の出血を認めた. 4mm以上の歯周ポケットは76.3%で, 特に上顎前歯部および43には6mm以上の歯周ポケットが認められ, 広汎型慢性歯周炎Stage Ⅳ, Grade bと診断した. 17・27・24・25, 34・35・36, 46・47に欠損部があり, 17・27以外にはインプラントによる補綴がされていた. X線上では全顎的に軽度水平性骨吸収が存在し, 21・23・26に歯根破折を認め, 43遠心には垂直性の骨吸収像を認めた. 歯周基本治療後の再評価で4mm以上のポケットが残存した43・44部位には歯周外科手術を行った. 垂直性骨吸収を有する43は術前の歯周ポケット深さが5mm, 術中の骨欠損の深さは5mmで3壁性の骨欠損であったため, リグロスを用いての歯周組織再生療法を行った. 歯周組織の安定後, 最終補綴を装着し, 再評価後にSPTへ移行した.

     成績 : 現在歯周組織はPCR値を含めて安定している. 歯周組織再生療法を施行した部位はデンタルX線上で垂直性骨欠損部の骨の新生が認められ, 歯周ポケットも2mmと安定しており良好な経過が得られている. また患者は2019年6月から高血圧症によりカルシウム拮抗薬を服用しているため, 歯肉増殖症に対して注意深く観察していく必要がある. 本症例は良好な経過を経ているが, 今後も引き続き残存歯・インプラントに対してプラークコントロールを行い, 注意深いSPTが必要であると考えられる.

     結論 : 本症例では3壁性の垂直性骨欠損にリグロスを併用して, 良好な歯周組織再生を得ることができ, 現在でも長期に安定した状態を維持することができている. 歯周外科手術において, リグロスを用いた効果的な歯周組織の再生が示された1症例となった.

feedback
Top