目的:近年,カテプシンファミリーが歯周組織の恒常性維持に対しても関与していることが明らかになりつつある.そこで本研究では,カテプシンAの歯根膜細胞の骨芽細胞への分化に対する効果と,同酵素の侵襲性歯周炎との関連について検討した.
材料および方法:歯根膜細胞の骨芽細胞分化モデルとしてマウス歯根膜細胞株(MPDL22)を用いた.最初にMPDL22におけるカテプシンAの発現をRT-PCR法ならびにウエスタンブロット法にて確認した.次にMPDL22に選択的カテプシンA活性抑制化合物エベラクトンBを添加し,カテプシンA酵素活性の測定ならびに,リアルタイムPCR法を用いた石灰化関連因子発現の計測を実施した.さらに日本人侵襲性歯周炎患者におけるカテプシンAのゲノムワイド関連解析を目的として,大阪大学歯学部附属病院を受診し侵襲性歯周炎と診断された患者のうち,本研究への参加を応諾された44名を対象としたエクソームシークエンスを実施し(大阪大学ヒトゲノム研究承認番号629-2),カテプシンAの遺伝子多型を日本人コントロール群(対照群)と比較した.
成績:MPDL22においてカテプシンAが発現していることが明らかとなった.そしてエベラクトンBがMPDL22におけるカテプシンAの酵素活性を抑制し,石灰化関連因子オステオポンチン,オステオネクチン,Ⅰ型コラーゲンの発現を減少させることを見いだした.さらにゲノムワイド関連解析を目的とした侵襲性歯周炎患者のエクソームシークエンスの結果,一塩基多型(SNP)rs181943893(54番目の塩基GがCに変異)とrs72555383(33番目の塩基GCTが欠失)において,対照群とのマイナー対立遺伝子頻度に有意差を認めた.
結論:本研究結果より,カテプシンAが歯根膜細胞の骨芽細胞への分化を促進させ,さらにカテプシンAのSNP rs181943893とrs72555383が日本人侵襲性歯周炎の疾患関連候補遺伝子の一つであることが示唆された.
目的:矯正歯科治療後,審美的・機能的観点から前歯の形態修正が必要となることがある.歯の形態修正には間接法修復と比較して低侵襲であり,高い接着強さを示すことから直接法コンポジットレジン修復が用いられることが多く,コンポジットレジン修復を前提に矯正歯科治療が行われることもある.今回,上顎両側中切歯欠損による審美・機能障害に対し,矯正歯科治療後にデジタルワークフローを活用したコンポジットインジェクションテクニックを用いて上顎両側側切歯・犬歯へ直接法コンポジットレジン修復を行い,これまでのところ良好な結果を得られているので報告する.
症例:50歳女性.上顎両側中切歯を抜去しており,上顎両側側切歯・犬歯をコンポジットレジン修復にて中切歯・側切歯に近い形態へ修正することを前提として,マルチブラケット装置を用いた矯正歯科治療が行われていた.東京医科歯科大学病院むし歯科初診時には,以下の所見が認められた.1.上顎側切歯・犬歯間は両側とも約2mmの空隙,2.上顎両側側切歯間は緊密な接触,3.上顎前歯部の審美・機能障害.口腔内スキャナーにて上下顎歯列の光学印象,咬頭嵌合位での咬合採得を行った.上顎両側側切歯・犬歯のデジタルワックスアップを行い,高精度光造形方式3Dプリンタにてワックスアップ前後の3Dプリント模型をそれぞれ出力し,切縁部にフロアブルコンポジットレジン注入用開口部を付与した透明性の高いクリアシリコーンをインデックスとして作製した.上顎両側側切歯・犬歯のエナメル質に対してリン酸エッチングを行い,2ステップ接着システムによる歯面処理を行った.クリアシリコーンを口腔内に装着し,切縁開口部からフロアブルコンポジットレジンを注入,頰舌側から各歯20秒以上光照射を行った後,クリアシリコーンを口腔内から撤去した.そして,形態修正,咬合調整,研磨を行った.
結果:6カ月経過時点において良好な予後が確認されている.
結論:本症例では,上顎複数歯の審美・機能障害に対してデジタルワックスアップを基に作製したクリアシリコーンをインデックスとして使用し,フロアブルコンポジットレジンのみの修復により良好な予後を得られた.デジタルワークフローを活用したコンポジットインジェクションテクニックにより,従来のフリーハンドのコンポジットレジン修復と比較して咬合調整が最小限ですみ,チェアタイムは大幅に短縮されることがわかった.