日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
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66 巻, 2 号
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誌上シンポジウム「レーザー光が拓く歯科保存治療」
原著
  • 加藤 昭人, 宮治 裕史, 金本 佑生実, 蔀 佳奈子, 岡本 一絵, 吉野 友都, 浜本 朝子, 西田 絵利香, 菅谷 勉, 田中 佐織
    2023 年 66 巻 2 号 p. 114-123
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

     目的:酸化亜鉛粉末とユージノール液を主成分とする根管充塡シーラーは,ユージノールの細胞毒性が懸念されてきたが,ペースト化による練和比率の適正化で細胞毒性の低下が期待される.本研究では,ペーストタイプのユージノール系シーラーであるキャナルスペースト(CaNP)とニシカキャナルシーラー ユージノール系 ノーマルE-N(NS)の材料特性およびラット皮下組織に埋植しての生体親和性を,粉液タイプのユージノール系シーラーであるキャナルス(CaN)と比較検討した.

     材料と方法:シーラーの硬化体を作製後,圧縮強度試験と寸法変化試験を行った.次に各シーラーの練和直後(0時間)の試料と練和後3時間および72時間経過した試料からのユージノール放出量を経時的に計測した.抗菌性試験としてシーラー硬化体にStreptococcus mutansEnterococcus faecalisを播種,24時間培養後に濁度測定した.また細胞親和性試験として,シーラー硬化体に線維芽細胞様細胞(NIH-3T3)を播種,24時間培養後にwater-soluble tetrazolium salt(WST)-8活性を評価した.さらにシーラー硬化体周囲のNIH-3T3にvinculin/F-actin二重染色を行い,蛍光顕微鏡で観察した.生体親和性評価として,ラット背部皮下にシーラー硬化体を埋植し,術後10日に試料と周囲組織を取り出しCD68免疫染色を行い,発現強度を測定した.また術後10,35日の試料周囲の炎症性細胞浸潤について,組織学的観察とスコア化して比較を行った.

     結果:CaNPはNS,CaNと比較して有意に高い圧縮強度を示し,寸法変化は同等であった.ユージノール放出量は,練和後0,3,72時間の各条件においてすべての試料で経時的に増加し,CaNPとNSの放出量は同程度であったが,CaNは他と比較して有意に多かった.濁度測定の結果,2菌種ともすべてのシーラーで濁度が低下し,CaNが最も強い濁度の低下を示した.CaNPは有意に高いWST-8活性を示し,硬化体周囲において細胞の伸展が観察された.CD68発現強度はNSで有意に高く,炎症性細胞浸潤のスコアは35日においてNSは他よりも高い値であった.

     結論:CaNPは,NSやCaNと比較して良好な生体親和性を有することが示唆された.また,NSに比較して低い起炎性を示した.

  • 滝口 尚, 黒川 雅樹, 山田 純輝, 宮本 恭介, 中島 太一, 山本 松男
    2023 年 66 巻 2 号 p. 124-130
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

     目的:徹底した歯肉縁下のプラークコントロールは,歯周炎の治療を成功に導くために必須である.近年,効率的なプラークコントロールを目的に幅広植毛歯ブラシが普及し始めている.そこで,本研究では,幅広植毛歯ブラシを用いて効果的にスクラッビング法を行う際の最適条件を検討するため,顎模型上の人工プラーク除去実験を行った.

     材料と方法:歯ブラシは,幅広植毛歯ブラシ(片先細植毛)と幅広植毛歯ブラシ(フラット毛)を用いた.プラーク除去の評価は,顎模型人工歯の歯肉縁上と歯肉縁下の人工プラークをスクラッビング法で除去し,前後の人工プラーク付着面積の変化を評価した.ブラッシングの条件は,荷重200g重,ストローク数は30回と一定にして,ブラッシングのストローク幅5mm,15mmとストローク数は毎分180回,300回として摺動試験機を用いて実験を行った.得られたデータはブラッシング前後の人工プラークの除去率を比較し,Mann-Whitney U検定と多重比較検定(Steel-Dwass test)により統計解析を行った.

     結果:幅広植毛歯ブラシのプラーク除去効果は,ブラッシングのストローク幅とストローク数に関係があり,歯肉縁上プラークでは,ストローク幅5mm,ストローク数180回で除去率18.6%に対して,ストローク幅15mm,ストローク数180回の除去率は33.5%で統計学的に有意に高かった.また,歯肉縁下プラークの除去効果をストローク幅15mm,ストローク数180回の条件下で幅広植毛歯ブラシフラット毛と比較した結果,片先細植毛の除去率は19.1%,フラット毛の除去率12.7%と統計学的に有意に高かった.

     結論:幅広植毛歯ブラシの歯肉縁上における至適ブラッシング操作は,ストローク数毎分180回,ストローク幅15mm,すなわち30往復/10秒程度のスピードが効果的であった.また歯肉縁下におけるブラッシング操作は,幅広植毛歯ブラシのフラット毛と比べて片先細植毛のほうが効果的にプラークの除去が可能なことが示唆された.

症例報告
  • 前薗 葉月, 川西 雄三, 島岡 毅, 高橋 雄介, 林 美加子
    2023 年 66 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

     緒言:骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta,以下,OI)は約2万人に1人の割合で発生する先天性疾患であり,歯科的な症状として,象牙質形成不全やそれに伴う歯髄腔の狭窄などが認められる.今回,OI患者の慢性根尖性歯周炎に罹患した下顎中切歯に対し根管治療を行う際,歯科用コーンビームCT(以下,CBCT)や歯科用実体顕微鏡(以下,マイクロスコープ)を用いた拡大視野下で施術することで,良好な治癒経過を得られた症例を報告する.

     症例:患者はOIの12歳女児.2020年2月末に菓子を食べた際に下顎前歯部に動揺および咬合痛が出現したため,大阪大学歯学部附属病院小児歯科にて下顎前歯部の固定を行い経過観察していた.受傷数日後のデンタルエックス線画像より根尖部透過像を認めたが,歯髄腔が狭窄し根管治療が困難との判断にて,固定した状態で経過観察を続けていた.症状の改善を認めないため,加療目的で6月に同院保存科を受診した.デンタルエックス線およびCBCT画像より下顎右側中切歯根尖部に透過像を認め,切端から歯根中央部まで歯髄腔の狭窄を認めた.以上より,同歯は慢性根尖性歯周炎と診断し,根管治療を行うこととした.

     マイクロスコープ下で髄腔開拡を行い,数回にわたり根管探索を進めるも,歯髄腔が見当たらず根管治療は困難を極めた.根管探索部と本来の根管の位置との関係を確認するため,再度CBCTを撮影し,探索中の部位は実際の根管より遠心および舌側に逸脱していることを確認した.その後,根管の方向を修正し本来の根管を発見したうえで根管治療を進め,最終的に12月に症状の消失を確認し,根管充塡を行った.経過良好であったため,根管充塡1カ月後にコンポジットレジン修復を行った.根管充塡後に特記すべき症状は認めず,根管充塡1年後に撮影したデンタルエックス線およびCBCT画像では,下顎右側中切歯根尖部透過像の消失を確認し,臨床症状も認めず経過良好である.

     考察および結論:OIは歯冠の破折を生じやすく,その歯科管理には注意が必要である.今回の症例では,治療が困難といわれているOI患者の根尖性歯周炎に対しても,適切な治療を行うことで良好な治癒が得られることを示した.歯髄腔がきわめて狭窄した患歯においても,適切なタイミングでのCBCT撮影やマイクロスコープの活用により,困難な根管治療を円滑に進めることができると考えられる.

  • 山本 陸矢, 礒 亮輔, 前田 祐貴, 小川 智久
    2023 年 66 巻 2 号 p. 138-146
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

     目的:仮性ポケットが生じる薬物性歯肉増殖症に対する歯周外科手術は,外斜切開による歯肉切除が一般的だが,本症例では広汎型慢性歯周炎による真性ポケットも伴っていたため,ウィドマン改良型フラップ手術の際に審美面も考慮しながら行った.しかし,術後上顎前歯部唇側面にわずかに線維性歯肉腫脹が残存したため,修正治療としてCO2レーザーを用いたところ,良好な結果が得られたため報告する.

     症例:患者は57歳女性,近医で歯槽膿漏がひどいと言われたことを主訴に来院した.既往歴として高血圧症を有しており,8年前から1日当たりアムロジピン錠5mgを服薬している.服薬当初より歯肉の腫脹を自覚していた.1カ月前から上顎右側小臼歯の歯肉が腫脹したため,近医を受診し,陶材焼付金属冠を除去後,スケーリングを行ったが,改善が認められず当院に紹介来院した.初診時には全顎的な歯肉の発赤,線維性の腫脹を認め,特に上下顎前歯部の線維性の腫脹は顕著であった.また,エックス線写真から全顎的に軽度~中等度の水平的骨吸収を認めた.以上から,広汎型慢性歯周炎ならびに薬物性歯肉増殖症と診断した.歯周基本治療を行い再評価後,真性ポケットが残存したため全顎に対し,ウィドマン改良型フラップ手術を施行した.その後,真性ポケットの大幅な改善を認めたが,上顎前歯部唇側面に線維性歯肉腫脹が残存したため審美面と清掃性を考慮し,修正治療としてCO2レーザーによる歯肉切除を行い,経過観察の後,最終補綴物を装着した.

     結論:今回,真性ポケットを伴う薬物性歯肉増殖症に対し審美的な配慮をしながら歯周外科手術を行った結果,予後は良好に経過している.今後,レーザーを用いることにより治療の選択肢が広がる可能性を示唆することができた.

  • 井上 剛, 水谷 幸嗣, 三上 理沙子, 島田 康史, 青木 章
    2023 年 66 巻 2 号 p. 147-153
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

     緒言:Er:YAGレーザーの発振波長2,940nmは水への吸収性が非常に高く,軟組織・硬組織ともに効率よく蒸散できる.特に歯肉の蒸散においてEr:YAGレーザーは周囲組織への熱の影響がきわめて少なく,臨床において歯肉切除術や小帯切除術などの軟組織治療だけでなく,歯肉色素沈着除去やメタルタトゥー除去などに応用されている.そこで,Er:YAGレーザーを用いて歯肉のメラニン除去をマイクロサージェリーで実施した症例の長期経過を報告する.

     症例:患者は29歳男性,喫煙者で1日10本の喫煙があり,歯肉の審美障害を主訴に来院した.下顎前歯部の付着歯肉に広範囲にメラニン沈着を認めた.治療の開始にあたり,まず禁煙指導を行い,そのうえで重度のメラニン色素沈着部位の歯肉蒸散に対してEr:YAGレーザーを用い手術用顕微鏡下で行うことを計画した.

     成績:禁煙指導は奏功し,喫煙習慣がない状態で処置を行った.下顎前歯部の歯肉頰移行部および歯間乳頭部に局所麻酔を行い,Er:YAGレーザー(Dentlite,HOYA ConBio)を10~30Hz,パネル出力設定80 mJ,注水下にて,2種類のコンタクトチップを用いてメラニン色素沈着部位の歯肉蒸散を行った.マイクロサージェリーとして行うことで,残存する微細な色素沈着領域をより確実に視認でき,正確で安全な処置が可能であった.歯肉縁や歯間乳頭部など術後の歯肉退縮を偶発しやすい部位においても,拡大視野下であることにより慎重な組織蒸散が容易であった.レーザー照射面には明らかな凝固変性や炭化はなく,上皮を蒸散した面には白色の結合組織の露出を認めたが,侵襲は非常に軽度なため術後の鎮痛薬や抗菌薬などの投薬は行わなかった.創面の治癒は良好かつ迅速で,術後7日には上皮化が認められた.本症例では下顎前歯部唇側のメラニン除去を3回に分けて治療を完了した.術後1年6カ月には色素沈着の再発はほとんどみられず,きわめて良好な経過であった.術後16年後には軽度から中等度の再発が生じていた.

     結論:本症例では,喫煙により歯肉に著しく沈着したメラニン色素を,Er:YAGレーザーをマイクロサージェリーにて応用することで低侵襲に処置を行うことができ,良好な治癒成績が得られた.歯肉の審美障害の治療にEr:YAGレーザーをマイクロサージェリーで使用する有効性が示唆され,中期的にも良好な経過を維持できた.

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