深部静脈血栓症(DVT)が疑われ,当院生理検査室に依頼された下肢静脈超音波検査108件のうち,新規検査80件を対象とした。患者背景,危険因子,DVTの有病率などを後ろ向きに調査した。DVTは29例(36.2%)に認められた。DVTのスクリーニングにDダイマーが推奨されているが,偽陽性が多いため,検査前確率を上げるために他検査との組み合わせの検討が求められる。
B型大動脈解離に対してエントリー閉鎖の有用性が証明され,TEVARが施行されている。中枢ランディングに問題のある症例には遠隔期の大動脈イベントを発症するリスクがある。フローズンエレファントトランクを用いた全弓部置換(TAR-FET)を遠位弓部にエントリーが存在する17例に施行。対麻痺等の合併症なく大動脈イベント回避率は5年で90%,35%の偽腔縮小率で良好なリモデリングを得た。TAR-FETは安全なB型解離の治療戦略の一つと考える。
症例は81歳,女性。大伏在静脈に対する高周波血管内焼灼術と併用して実施したVaradyタイプフックを用いたstab avulsion法による大腿部大伏在静脈部分抜去後に発生したリンパ囊腫に対し,穿刺排液後に囊腫内自己血注入療法を実施し良好な結果を得た。本法は,下肢静脈瘤術後のリンパ囊腫に対する従来の薬剤注入による硬化療法に代わる治療法の選択肢の一つとして期待できる方法であると考える。
膝窩動脈外膜囊腫は,血管の外膜や中間膜にコロイド様物質が貯留して動脈内腔の狭窄や閉塞を来す稀な疾患である。症例は53歳男性。主訴は間欠性跛行であった。左側ABIは0.38と低下していた。左膝窩動脈末梢の拍動減弱を認め,造影CTおよび下肢MRIで左膝窩動脈外膜囊腫と診断し,全身麻酔下に囊腫切除,および大伏在静脈をパッチとして用いて血管形成術を施行した。半年以上経過したが再発はなく,経過良好である。
81歳男性。急性下肢動脈閉塞症術後に仮性瘤を生じたため再入院した。大腿動脈を端々吻合で整復したが術後のリンパ瘻に感染を合併し,後に縫合部から出血した。鼠径部を回避して右総腸骨動脈–浅大腿動脈バイパス術を行ったが,バイパス術後74日目に中枢吻合部周囲の人工血管が感染した。最終的には前回の人工血管を一部利用して右鎖骨下動脈–浅大腿動脈バイパスと大網充填術を行った。その後は良好に経過し,軽快退院した。
症例は67歳男性。冠動脈バイパス術後23年の大伏在静脈グラフトの巨大真性瘤と巨大仮性瘤を認め,右房および右室の圧迫を認めたため,緊急手術を施行した。人工心肺を使用し,心拍動下に大伏在静脈グラフト瘤の切除を行った。癒着高度のため,冠動脈の剝離が困難で,再血行再建は施行しなかった。術後の循環動態は安定しており,胸部症状や心不全症状なく経過し,術32日後に自宅退院した。
12歳,男児。自転車走行中に軽トラックと衝突し,左鎖骨骨折,腕神経叢損傷,左鎖骨下動静脈損傷を認めた。活動性の出血があり小児例であるため,血行再建術の適応と判断した。左鎖骨下動脈損傷は大伏在静脈を用いて置換し,左鎖骨下静脈離断は橈側皮静脈を用いて再建した。C7, 8, Th1の引き抜き損傷は,神経剝離と左鎖骨骨折観血的整復固定術を施行した。術後,左上肢の末梢冷感は改善し,橈骨動脈の触知も良好となった。
経横隔膜アプローチによる右胃大網動脈を用いた冠血行再建は,骨切開も人工心肺も用いずに施行可能である。今回は当院での同術式10例を検討した。全例で術式を完遂し,術中の胸骨正中切開への移行や人工心肺使用はなかった。また全例で術後早期造影によるグラフト開存を確認し,手術死亡は認めなかった。本術式はPCI全盛の現在でも,PCI困難例やPCI後ステント内再狭窄例に対して有用な役割を果たす術式となり得る。