冠動脈の動脈硬化プラークが破綻すると血栓が形成され,急激な管腔閉塞により心筋梗塞や不安定狭心症の原因となる。血栓形成には,血小板と血液凝固系の両方が関与する。血液凝固因子は,血管構成細胞のプロテアーゼ活性型受容体の活性化を介して血管の炎症にも関与する。最近の臨床試験で直接経口抗凝固薬は,抗血小板薬との併用により動脈硬化疾患の二次予防に有効であった。この効果には抗炎症作用も寄与している可能性がある。
われわれは,大動脈解離で重要とされる炎症応答の解析を行った。ヒト解離組織ではマクロファージと平滑筋細胞で代表的な炎症シグナル分子であるSTAT3が活性化していた。マウス解離モデルの解析から,マクロファージSTAT3は解離を増悪させ,平滑筋細胞STAT3は解離を抑制することが示された。解離病態において,STAT3による炎症応答は組織破壊と組織保護という2面性を持つと考えられた。
人工血管感染に対して施行した胸部大動脈(上行部分弓部・下行),腹部大動脈に対する浅大腿静脈導管を用いた再建手術3症例について報告する。上行部分弓部再置換した1例は人工心肺離脱後に中枢吻合部からの出血が制御困難で術翌日に死亡確認となった。胸部下行,腹部大動脈に対する再置換例は各々独歩退院した。胸部下行大動脈以下では,長さ等の制約はあるが自家静脈で作製した導管を用いる本法は有用であると考えられた。