新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は単なる呼吸器疾患に留まらず,全身の血管内皮細胞への感染やサイトカインストームにより,血栓症,脳卒中,心筋梗塞,不整脈などの心血管疾患を発症しやすくする。心血管疾患は基礎疾患としてCOVID-19の予後を悪化させ,診療体制にも大きな影響を与える。また,Long COVIDと呼ばれる後遺症,感染後の心血管疾患発症リスクの増加が問題である。
Vasa vasorumは大動脈外膜と大動脈中膜外側に毛細血管や静脈のネットワークを形成し,大動脈壁の構造と機能に重要な役割を担っているが,その機能障害が大動脈組織の低酸素や低栄養を助長し,大動脈中膜の変性・脆弱化,ひいては大動脈解離につながる可能性が長年にわたって議論されている。本稿では,大動脈解離の発症メカニズムにおけるvasa vasorumの役割について,過去の文献をもとに考察したい。
55歳男性。von Recklinghausen病があり,右血胸に対して緊急開胸止血術の既往がある。38°Cを超える発熱と咳嗽症状で受診し,COVID-19の診断で入院加療中であった。入院5日目に突然の背部痛を認め,呼吸不全の進行を認めた。右鎖骨下動脈の分枝の動脈瘤からの出血が原因であると考えられた。血管塞栓術を行い,止血を行なったが,その後,全身状態不良で死亡した。COVID-19感染が,von Recklinghausen病による血管病変に影響した例は稀であり,報告する。