近年の脂肪組織の生物学の進歩により, 脂肪組織は従来考えられていたような余剰エネルギーを貯蔵するための単純な臓器ではなく, エネルギー状態の変化に伴うエネルギー出納・代謝とアディポカインの分泌などの機能により全身の代謝制御を担う, より複雑な臓器であることが明らかとなってきた。インスリンは, 脂肪組織の機能制御の多くの局面で中心的な役割を担うことから, 脂肪組織におけるインスリン感受性は, 全身の代謝制御に関わる重要な因子と考えられている。本稿では, PDK1をはじめとするインスリンシグナル分子の組織特異的遺伝子改変マウスを用いた最近の研究から明らかとなってきた白色脂肪細胞による代謝調節メカニズムの新たな知見を中心に概説する。
サルコペニアは加齢に伴う骨格筋量および筋力の低下を特徴とし, 糖尿病, 肥満, 心血管疾患, 慢性腎臓病 (CKD), 慢性閉塞性肺疾患 (COPD) などの生活習慣病と密接に関連する。これらの疾患は, インスリン抵抗性, 慢性炎症, ホルモン異常などを介してサルコペニアの発症・進行を促進する。近年, サルコペニアの病態解明が進みつつあり, 特に生活習慣病との相互作用が注目されている。本総説では, サルコペニアと生活習慣病の関係を概説し, そのメカニズムに関する知見を紹介する。
肥満とそれによって誘導される代謝疾患の病態の理解は, 従来インスリンやその他のホルモンの作用の視点が中心であった。一方, 肥満の肝臓で見られる糖新生・脂質合成の同時亢進は糖尿病・脂肪肝に直結する重要な分子基盤であるが, 単純なインスリン抵抗性では説明がつかず, 我々の理解に未解決の部分が残されていることを暗示していた。転写抑制因子C-terminal binding protein 2 (CtBP2) はNAD (H) を収容すると活性化する代謝産物センサー分子であることが知られていたが, 我々の検討でCtBP2はこうした肥満病態に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。肥満病態で増加する脂肪酸CoAによって不活性化され, 肝臓では健常では糖新生・脂質合成を抑制しているが, 肥満病態ではこの機構が破綻, 糖尿病・脂肪肝発症を誘導する。肥満病態では膵β細胞は経時的に機能が低下するが, この分子基盤にもCtBP2は関与, 広くCtBP2は肥満病態に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。本稿ではCtBP2を介しながら代謝の視点から肥満病態を考察してみたい。
心血管疾患の発症そして治療における食事の影響は重要である。近年, 冠動脈疾患予防におけるLDL-Cの目標値の設定が注目され, より強力に低下させることが推奨されるようになってきた。日本のガイドラインでは二次予防では100 mg/dL未満もしくは70 mg/dL未満であるが, 欧米では55 mg/dL未満が勧められるようになった。遺伝性あるいは薬物療法の有無に関わらず, 食事療法は重要である。実際に, 薬物療法下でも目標値に到達していても, コレステロールや脂肪 (特に, 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸) の摂取が多くなれば, LDL-Cで10‐20%の変動は起こる。食事では, 適正な総エネルギー摂取量と脂肪エネルギー比率, 飽和脂肪酸やコレステロールの摂取に注意することが大切である。減塩した日本食パターンは脂質代謝を改善し, 動脈硬化性疾患予防に有用と考えられる。
健康な男性54名 (20‐59歳) を対象に, 朝食として米飯和食 (試験食) とパン食 (対照食) をそれぞれ外食, 内食で2週間継続摂取するクロスオーバーオープン試験を実施した。摂取期間の前後は2週間の欠食でウオッシュアウトした。試験食のタンパク質量は22‐28 gで1日に必要なタンパク質の1/3程度とした。対照食のタンパク質量は11‐12 gで, 食事全体の熱量は両者同等程度とした。両群に対し, Rapid Visual Information Processing (RVIP), Digital Vigilance Testにより脳の認知機能の評価と課題実施中の大脳の背外側前頭前野の血行動態を測定した。続けてAlternative Uses Taskで創造性を評価した。その結果, いずれの食事もRVIPの正答率を有意に向上させたが, 課題中の脳血流量の増加は試験食でのみ認められ, 認知能力の向上と脳の活性化が示唆された。心拍数は試験食群で高く, 全身の血流が改善したことを示唆した。これらの結果は, 米飯をベースとした和食の朝食が認知機能および生理機能に有益であることを示唆している。
我々は, これまでに, 卵白中に含まれる「リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素」 (L-PGDS) が, アレルゲンであることを報告した。また, トリL-PGDSの高感度定量法を開発し, 鶏の系統やその他の因子によって, その含有量に差があることを報告した。L-PGDSはプロスタグランジン (PG) H2をPGD2に変換する酵素であり, トリL-PGDSが活性を示すことは報告されているものの, その安定性や消化性については明らかでない。本研究においては, トリL-PGDSのペプシン, トリプシンに対する消化性, ならびに消化による酵素活性への影響について明らかにすることを目的に行った。その結果, トリL-PGDSをペプシンにより30分間消化を行っても, そのほとんどは未消化で活性が残ること, 30分間のペプシン消化後に続けてトリプシン消化を120分間行うと, その活性は検出感度以下となることを明らかにした。
食塩を用いずに大豆を発酵させた無塩大豆発酵食品の摂食が高血圧自然発症ラット (Spontaneously Hypertensive Rat: SHR) の血圧上昇に与える影響を検討した。対照飼料および無塩大豆発酵食品を2.5%, 5%, 10%含む飼料をSHR/Izmに10週間摂食させた。すべての群で実験期間中に顕著な血圧上昇を認めた。無塩大豆発酵食品を摂食したSHR/Izmの収縮期血圧は, 開始3週間時点で対照群と比較して有意に低値を示した。拡張期血圧も, 開始9週間時点までにすべての無塩大豆発酵食品摂食群が対照群と比較して低値を示した。この無塩大豆発酵食品の血圧上昇抑制作用には明確な用量依存性を認めず, 血清生化学検査でも群間で有意差が生じた項目は無かった。以上の結果から, 少なくとも2.5%の無塩大豆発酵食品を含む飼料の摂食がSHR/Izmの血圧上昇を減弱することが示され, 高血圧に対する無塩大豆発酵食品摂食の潜在的な有用性が示唆された。
日本栄養・食糧学会誌第78巻第2号95-105ページ (2025) 「時間栄養学の視点で考える栄養管理:高齢者の朝食のたんぱく質の質に着目した疫学研究より」 (増冨裕文) の論文において, 文献が一部重複していたため (71番と72番) 下記のとおり訂正する。
・103ページの文献72番を削除し, 以降の文献番号を繰り上げる。
・99-100ページの論文中引用論文番号も同様に72番以降を繰り上げる。
J-STAGE (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/78/2/78_95/_article/-char/ja) では訂正後の論文を掲載している。