わが国における摂食障害患者の入院治療の適応,治療の実際,退院の判断基準,退院後の外来治療へのつなぎ方などの治療プログラムは,摂食障害を専門としている各治療施設においても異なる.さらにその後の経過についての発表も少なく,有効な入院治療についても明らかでない.そこでこのパネルディスカッションでは,これらの点について検討することをテーマとした.まず司会の石川俊男先生が,平成14年度に年間31名以上の摂食障害(ED)患者を診たと答えた全国79施設の入院治療に関する実態調査の結果を報告した.EDの平均入院日数は66.6日で,神経性食欲不振症(AN)が77.5日,神経性大食症(BN)は56.9日であった.なお精神科ではANが84.2日,BNが67.4日で,一般科ではそれぞれ64.3日,37.3日であった.入院期間について,長すぎると答えたのは精神科で19.4%,一般科では8.0%に過ぎず,多くは入院日数が現状もしくは現状以上必要と答えていた.そして入院の適応として,(1)身体状況の改善,(2)精神,心理療法の施行,(3)精神症状の改善,(4)環境調整などが挙げられた.以上のことから,EDの入院治療についてANで90日近く,BNで50日近い期間が必要であることが強調された.次いでEDを専門としている代表的5施設のパネリストが各施設の現況を報告した.鶴ヶ野しのぶ先生は,東京大学心療内科の新病棟での入院治療の実態について報告された.総合外来を窓口にしており,この2年間に100名入院し,その平均在院日数は38.5日(中央値は30.5日)と短く,入院時の病態に応じた達成可能な治療目標を挙げることの重要性について述べられた.現在の医療経済事情を考えての新しい取り組みである.瀧井正人先生は,AN62例に対して,入院による行動療法を用いた認知行動療法の治療成績を報告された.そして入院期間が長くなっても体重回復の重要性を強調された.しかし,現在の医療経済的状況は,これを許さない情勢にあり,入院治療について中途半端にならざるをえない危惧を吐露された.関口敦先生は,国府台病院に入院した患者の実態について報告された.診療記録より,入院患者を(1)緊急入院,(2)検査,休息,体験入院,(3)治療目的入院の3群に分け,病型,在院日数,短期予後などについて比較検討された.そしてEDの入院治療において,病型ごとによる治療目的を明確にした治療契約を結ぶことの重要性を述べられた.永田利彦先生は,外来治療を中心に治療に対する動機づけとその強化を図り,治療意欲が高まった時点で,入院治療により行動療法や認知行動療法を短期間(1〜3カ月間)施行し,その後の追跡調査結果を報告した.さらにED患者の治療において,各病態に応じて救急病院や内科系病院,精神病院への短期間の入院治療と,その後専門医につなげる治療ネットワーク構築の必要性を述べられた.鈴木健二先生は,アルコール依存症患者の入院治療モデルをBN患者に応用した入院治療プログラムを8週間42名の患者に実施し,1年後の追跡調査をした.その結果,対象患者が慢性の難治例であるにもかかわらず29%が回復していることを報告した.そしてED患者においても作業所の有益性が強調された.今後このパネルディスカッションを契機に,ED患者の入院治療の位置づけ,最適な治療環境や治療法が明らかになることが望まれる.
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