もともと入院治療から始まり, 神経質性格という性格傾向を基盤に 「とらわれの機制」 によって発展した神経症を主な適応としてきた森田療法であるが, 今日ではその治療適応を広げている. 外来が主な治療の場となっていて, そこではこれまでの入院治療での経験から蓄積されたコンセプトが応用されている. 本稿では主に心身症, 不定愁訴への外来森田療法について事例を挙げながら解説した. 心身症, 不定愁訴の患者は, とにかく症状を何とかしてほしい, という動機で受診するが, 森田療法は症状にターゲットを絞って受診する患者に対して, 症状の内容そのものよりも症状への態度を取り上げ, 症状があっても患者が本来もっている能力を発揮し彼の願望や目標を達成できるよう助けることを目指している. 症状だけに目を向けて視野が狭くなっている状態こそが病的であるとの立場から, 患者がより広い視野を回復できるように援助していく. しかし 「今すぐ症状を取ってほしい」 と医療機関を受診する患者にとってこのようなアプローチはいきなり言われても納得しがたいため, 外来治療に導入するまでには工夫を要する.
直腸肛門の機能性障害は心療内科分野でもあまり検討されていない領域である. 主な症状としては括約不全, 肛門痛, 排便困難であるが, これらの症状は高い確率で合併する. 当院ではこれらの疾患に対して直腸肛門機能検査を行い, 病態を把握したうえで肛門機能検査を治療に応用している. 具体的には肛門内圧をモニターに表示し, 患者に見せながら括約筋の収縮弛緩訓練を行う肛門内圧バイオフィードバック (BF) 療法, シリコンバルーンを排出する排出訓練, 直腸内に留置したバルーンを用いて直腸最大耐用量の増加を図る直腸感覚訓練である. 特に機能性直腸肛門痛においてはこれら単独では不十分で心身医学的治療を含む集学的治療を要する. その治療成績の概要を示し, 症例を提示しその実際を述べる. また自己臭症にBF治療を試みた. 肛門痛, 自己臭に対する直腸肛門機能検査・治療および心身医学的治療の併用が有用であった.
心身医療は, 身体疾患を診る身体科医と, 精神疾患を診る精神科医のはざまに落ち込む患者を身体面, 精神心理面, 社会環境面から再評価し, 診断治療を円滑にする再調整の役目も担っている. 精神心理面について検討する際, 脳神経の精査は重要事項であるが, CTやMRIは形態的評価が主で, 脳機能が評価できる一般的な検査は脳波検査しかない. 脳波検査は頭皮上に電極をつけ, 微細な脳内の電気活動を記録する低侵襲の検査で, たいていの病院に導入されている. てんかん, 意識障害, そして脳死判定の際は必ず施行され, 「脳が正常に動いているのか」 をみる検査である. そのため, 患者に起こっている事象が, 脳機能の問題なのか, 心理面の問題なのか見分けることができる. 老年期うつ病かせん妄か血管性てんかんか, 認知症なのか判別困難な場合や, パニック障害かてんかん発作なのかの鑑別にも有用となる場合がある. ここでは, 心身医療における脳波検査の活用法について論ずる.
摂食障害 (ED) の臨床において, ときに治療者は患者の治療への抵抗や治療拒否に遭遇する. これは, EDの病態を考慮すると起こりうる問題であるが, 身体的に重症であるにもかかわらず一切の栄養療法を拒否する患者を前にすると, 治療者は絶望感や焦りを感じることもしばしばである. 第2回日本心身医学関連学会合同集会のシンポジウムでは, 治療拒否が強いため抑制下での栄養補給を余儀なくされ, 心理療法導入にも難渋した神経性やせ症 (AN) の30代女性例を報告した.
では, こうした患者に対して, 治療者はどのように治療戦略を立て, 患者の治療意欲向上へと導けばよいのだろうか.
本稿では, こうした遷延化したAN患者の特徴について自験例を紹介し, 治療戦略について考察を加える.
低体重の摂食障害患者の入院治療・身体管理はとても困難なことが多く, 治療者としてさまざまな技量を問われる. 特に低体重患者の治療開始の契機は緊急入院のことが多く, 外来で治療契約をした予定入院とは異なり, 治療契約を結べないまますぐに治療を開始すべき状況が多い. 入院の必要性を説明しても同意が得られないことも多く, 医療保護入院という選択肢がない心療内科では, 入院までに時間や労力を要することもある. 家族の力を借りたり, 家族に入院後こそ命の危険性があることを十分に説明する必要がある. 低体重であれば身体合併症が重篤になりやすい. 小さな変化でも対応が遅れると重症化しやすいので, 主に看護師と密な情報交換をしつつチームとして治療を進めていく. 病態把握をしつつ家族とも協力しながら, 医学的に必要な治療の部分と, 本人に選んでもらう部分とを両方作るなどの柔軟性も大事である. 治療意欲をどう高め維持するかも工夫を要する.
飢餓状態にある摂食障害患者の生命を救うためには, 入院による厳格な身体管理が不可欠だが, 患者の病識欠如や治療抵抗により入院導入に苦労することも多い. 精神科医療機関では医療保護入院といった法律に基づく非自発的な治療介入も可能だが, その適応基準は明確でなく, 患者の重症度や患者と家族の考え方, 家庭背景や経済状況などさまざまな条件を満たす必要がある. また, 入院後も治療環境上の制限や隔離や身体的拘束などの治療措置には, 医療倫理的配慮だけでなく治療全体への影響についても慎重に検討しなければならない. さらに, 精神科にとって不慣れな身体管理が重荷になることも多く, 内科などと連携して治療が行える総合病院精神科であっても, 摂食障害に併発する独特な身体的問題への対処は容易でなく, 疾患全体の理解と経験が必要となる. 本稿では総合病院精神科である当院での治療経験を踏まえ, 精神と身体への適切な治療介入について検討する.
神経性やせ症の治療において極度にやせているにもかかわらず, 食事を拒否する場合は難しさを覚える. 極度のやせと体重減少に関連した低血糖に代表されるような身体疾患の併発や廃用症候群, 食事開始に関連する再栄養症候群の存在は長期のリハビリテーションを必要とし, 治療期間が大幅に延長する. 身体合併症などのため, 他の医療機関から転院してくる場合は良好な治療関係を確立する前に入院治療をせざるを得ない. 神経性やせ症患者が 「やせ」 の外套を脱ぐために, 医療者として何ができるだろうかなど, 自問自答しながら神経性やせ症の治療をしている. 患者の多くは体重を減らすことに意味を見い出し, 「やせ」 の外套を脱ぐことに不安と恐怖を覚えている. 目標体重の設定は大切であるが, ここにこだわり過ぎると治療が膠着する場合もある. その場合は, 生活を維持することができることを目標とするなどの工夫や, 自己慈愛を得るための方策を話し合うことが必要である.
過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) は児童・思春期の代表的な機能性消化管疾患であるが, その実態については不明な点も多い. IBSは心理的ストレスの影響を受けやすく, 患者の心理社会的背景を理解することは適切な治療介入につながると考えられる. 児童・思春期のIBS患者の特徴を明らかにすることを目的に, 岡山大学病院小児科を受診したIBS患者のうち発症が18歳以下であった69例の性別や併存疾患などの特徴について検討を行った. 男性35例, 女性34例で, 59例は不登校状態にあり, 外出困難をきたしている症例もあった. 併存疾患として起立性調節障害やアレルギー性疾患を有する症例が多く, 24例が自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder : ASD) の診断を受けていた. ASDの感覚過敏やこだわりが強いという特性が, 症状の遷延や訴えの増加につながる可能性があり, 発達特性に留意して診療を行うことが必要であると考えられた. また男性に外出困難を伴う症例を多く認め, このような症例では特に, 環境調整や心理療法を含めた対応が有効だった.
本研究では, P-Fスタディを用いて, 併存疾患の背景に存在する診断閾下の自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder : ASD) のアセスメント可能性について検討した. P-Fスタディの量的分析の結果, 閾下ASD群は非ASD臨床群に比して評定不能のU反応が多く認められた. 質的分析では, 閾下ASD群のU反応において, 「対処困難」 「状況承認」 「自己本位」 「状況誤認」 の4つの特徴が, 全24場面に対する回答内容において, 「過度な他責」 「共感に乏しい自己主張」 「状況に不適当な発言」 「違和感のある語用」 の4つの特徴が認められた. また, 閾下ASD群は非ASD臨床群に比して, U反応の 「状況誤認」, 回答内容の 「状況に不適当な発言」 「違和感のある語用」 が多く認められた. P-Fスタディには, 診断閾下のASD者が有する一見しただけでは表面化しにくい対人交流の課題が反映されやすい可能性があり, 二次的な症状の背景にある診断閾下のASDの把握に有用であると考えられる.