わが国にはプライマリ・ケア関連の3つの学会が設立された. 開業医が中心になった日本プライマリ・ケア学会, 米国家庭医療教師協会にならった家庭医の育成を目指した日本家庭医療学会, 病院における総合診療機能を担う日本総合診療医学会の3学会である. 2007年からこれら3学会の合併問題について議論を始めた. 次世代型プライマリ・ケア医の養成を重要な共通課題として 「小異を捨てて大同につく」 ことを目指した. 2010年4月から 「日本プライマリ・ケア連合学会」 として新たなスタートを切った. その目的を 「人々が健康的な生活を営むことができるように, 地域住民とのつながりを大切にした, 継続的で包括的な保健・医療・福祉の実践, および学術活動を行う」 とした. 2011年3月にはプライマリ・ケア関連の学会として初めて日本医学会加入を認められた. 新しい専門医制度にも19番目の基本領域として 「総合診療専門医」 が認められている.
プライマリ・ケアにおける全人的医療の中核として, 心身医学のbio-psycho-socio-ethicalなアプローチは重要だが, 近年の疲弊した医療現場では十分な対応が困難なため, 心身医学の知識とスキルに関する以下のような啓発を当地区では行っている. また, 最新の情報技術を利用した多施設・多職種連携のもとで, 心身症に限らず不定愁訴やひきこもりなどの病態に対しても, 情報共有や共同対応による多面的で重層的なアプローチを実践している. ①生活環境の詳細な観察による心身相関の解明, ②ポジティブハロー効果やプラセボ効果を活用, ③ラポールを日々再認識しカタルシス効果も利用, ④一般心理療法をもとに長期に患者に寄り添う, ⑤迅速なトラブル解決から, 病態の早期改善を図る, ⑥森田療法的アプローチによる不安などの受け入れをサポート, ⑦マニュアルどおりではなく臨機応変な認知療法的アプローチ, ⑧非指示的カウンセリングにより精神的成長と人格的変容を目指す, ⑨治療的自己を磨き, evidence-based medicineとnarrative-based medicineを同時に行う.
市井のクリニックにおけるプライマリ・ケアの実践において, 新たに加えた独自の心身医学的手法が診療内容にどのように影響を及ぼしているか, 総括した. 診療内容を向上させるために特別に考慮したのは, 傾聴・共感表現・寛ぎの診療空間・コメディカル・スタッフの資質開発・箱庭療法と自律訓練法の改変適用・非栄養学的食事療法などである. 開業後3年を経過して, 有効であったものを記述的に表現すると, 「治療的自我」 をもった人を非医療者の中から見い出しスタッフに加えること, 診察時に患者さんが満足感を得られるためにはインセンティブが欠かせないこと, 受診の満足感が疾患を寛解に導くこと, などであった. 医療実践は本質的には契約業務であってサービス業とは対極的な性格をもつが, 筆者の経験では医療の世界においても経済学・経営学と類似した手法が一定の成果を収めるという事実もあり, これは筆者にとっては世界観・人生観の変容を迫るものであった.
関西医科大学附属病院総合診療科は同大学心療内科学講座に属し, 心療内科医が総合診療外来を担当していることが特色である. 卒前・卒後教育として医学生, 初期研修医に心身医学を教育し, 総合診療科の現場でどのように活用しているかを伝えている. プライマリ・ケア医療者に心身医学について教育・啓発し, 基本的な心身医学的アプローチ (basic psychosomatic approach) を修得してもらうことは, 臨床医が一次救命処置 (BLS), 二次救命処置 (ACLS) を修得しておくことと類似している. 新専門医制度では基本領域に新たに総合診療専門医が加わる予定であるが, 今後のわが国の医療を支えていく総合診療医に心身医学の基礎を発信していく絶好の機会ととらえられる. 本稿では当科の現状と取り組んでいる卒前・卒後教育およびプライマリ・ケア領域への発信について報告する.
プライマリ・ケアと心身医学には, 「全人的医療」 を目指すという患者への診療姿勢, 「ヘルスプロモーション」, 「メンタルヘルスケア」 など, 共通して重視している側面がある. プライマリ・ケアにおける心身医学の役割を考察することは, 心身医学のあり方を見つめなおし, 今後の心身医学の啓蒙と発展への助力となると考える. また漠然とした認識ではなく, 必要な学習項目を挙げて, プライマリ・ケアと心身医学の共通点と相違点を整理することで, 心身医学が重視しているプライマリ・ケアに必要な理論体系についても考察する.
漢方は東洋の人間観である身心一如を重視する心療内科となじみが深く, 重要な治療手段と位置づけられている. 関西医科大学附属病院における3カ月間の外来処方を分析すると, 漢方薬の26.0%を心療内科が処方していた. 次いで女性診療科 (10.9%), 消化器外科 (6.5%), 総合診療科 (5.8%) の処方数が多かった. 外来患者1人あたりの処方数では心療内科が0.63と最も多く, 続いて総合診療科 (0.15), 精神神経科 (0.12) が比較的多かった. 方剤の種類も心療内科が最多で, 総合診療科とともに多種類の方剤がまんべんなく使われていた. 一方, 精神神経科, 消化器外科は少数の方剤を多数使用する傾向があった. 卒前教育では3学年の講義50コマのうち8コマを東洋医学に割り当てている. 卒後教育では当講座主催のセミナーと複数科からなる世話人会による研究会をそれぞれ年1回, 初心者向けのセミナーを年2回開催している.
近年, 心身症およびストレス関連疾患に対する漢方薬を用いた症例報告やエビデンスレポートが増えており, 漢方治療への心療内科医の関心は高まりつつある. しかし臨床上, 漢方薬はいまだエビデンスに基づく使用や代替補完的薬物治療の枠を出ておらず, 心身医学療法としての漢方治療について論じられた機会はきわめて少ない. 筆者は, 心身医学的に漢方治療を運用していく場合, 以下のようなメリットがあるものと考えている. ①四診を通した治療関係の強化・円滑化, ②生体反応修飾剤 (biological response modifier : BRM) としての効用, ③言語的・心理的アプローチが困難な症例にも身体面からのアプローチが可能, ④向精神薬の減量サポートに有用, ⑤従来の心身医学的アプローチとの併用による治療効果の相乗作用. 本稿では, 症例提示とともにこれら5つのメリットに触れながら, 心身医学療法としての漢方治療について概説してみたい.
鹿児島大学では, 漢方医学に対して臨床, 研究, 教育それぞれの分野においてさまざまな取り組みを行っている. 臨床の面では, 2012年に鹿児島大学病院に漢方診療センターを設立し, 心身医療科, 産婦人科, 歯科が連携し, 漢方診療センターで連携した漢方治療を行い, 各科をつなぐ横軸としての機能を担っている. また, 教育の面ではproblem based learning (PBL) およびシミュレーション教育を取り入れ, 腹診シミュレーターを用いた腹診ワークショップ, 舌診ワークショップ, 生薬の煎じ体験などを取り入れている. 研究においては, がん性悪液質に対する六君子湯の効果および作用メカニズムの解明を中心に, 研究を進めている. 本稿では, 鹿児島大学で行ってきた漢方医学の発展に向けての取り組みについて述べる.
摂食障害症例は歯科的合併症を発症し, う蝕の多発などを認めることはまれではない. そこで摂食障害患者87例を対象として, う蝕経験と, 発症要因の一端を明らかにすることを目的とした調査研究を行った. 方法は対象のう蝕経験指数 (DMFT) を平成23年歯科疾患実態調査の結果と比較し分類した, 多数群と少数群間で口腔内状況や日常習慣などについての比較を行った. 結果は多数群が有意に多く, 多数群少数群間では罹患歴, ブラッシング回数, 歯垢の残存量では有意差が認められず, 過食, 自己誘発性嘔吐や, 酸蝕の進行程度, アメやガムなどの日常摂取の有無によって有意差が認められ, これらがう蝕経験を上昇させていた. 対象のう蝕発症は基本的な予防処置の不足によるものより, 摂食障害症状に大きく関連していた. これにより摂食障害症例に対しては通常の口腔衛生指導だけではなく, 摂食障害症状を視野に入れ, 他科との綿密な連携のもと対応する必要があるといえる.
副腎皮質機能低下症は食欲不振, 悪心・嘔吐, 易疲労感など非特異的症状を呈することが多く, うつ病との鑑別が難しい. うつ病を疑われ心療内科に紹介され, 下垂体性副腎皮質機能低下症と判明した3例を報告する. 症例1 : 59歳男性 : 特に誘因なく悪心嘔吐が出現し体重が6カ月で18kg減少, 抑うつ気分や倦怠感がみられた. 一般血液検査, 内視鏡検査, 腹部CTにて異常なしとして紹介された. 低血糖・低ナトリウム血症のほか, cortisol 1.03μg/dl, ACTH<5.0pg/mlと低値, ACTH単独欠損症と判明した. 症例2 : 77歳男性 : 愛犬の死後に抑うつ気分や腰下肢痛が出現, 一般血液検査や腰部X線で異常なく紹介された. cortisol 4.21μg/dl, ACTH 5.7pg/mlと低値, 脳MRIでRathke囊胞を認め, 続発性副腎皮質機能低下症と診断した. 症例3 : 47歳男性 : 東日本大震災で被害を受け悪心嘔吐や倦怠感が出現, 抑うつ気分がみられ一般血液検査で異常なしとして紹介された. cortisol<0.8μg/dl, ACTH<2.0pg/mlと低値, 部分的下垂体機能低下症と甲状腺機能亢進症の合併と判明した. 心療内科において非特異的な身体症状や抑うつ気分を呈する患者には, 一般検査で異常がなくとも副腎皮質機能低下症とうつ病を早期に鑑別すべく副腎皮質機能検査が推奨される.