肩こりや腰痛は日本人の国民病といえるほど多くの患者がいる. この中には心身のストレス関連症を合併している筋筋膜性疼痛症候群の患者層も相当数いる. 近年, トリガーポイントの概念が単なるこりの点としてではなく, 筋膜に存在する過敏化した侵害受容器であることが知られてきた. トリガーポイントが多数存在して活動的となっている筋膜は, 超音波ガイド下に肥厚し白く重積して映し出される. この筋膜を注射液ではがす筋膜リリースは筋筋膜性疼痛に有効性が高く, 心身症を背景とした身体感覚の過敏性が高い場合や逆に感覚鈍麻になった症例への応用も期待できる. 心身医療での活用のために筋膜リリースの基本手技について概説する.
アサーションは自他を尊重した自己表現であり, 行動療法の伝統から生まれた概念である. 従来のアサーションの概念にはその適用場面が限定されることと, 攻撃的行動との線引きが困難であるという2つの課題が存在していた. これらの課題を解消する概念として機能的アサーションが提唱されている. 機能的アサーションとは, 人がある必要性に迫られた際に当該の課題をより効果的に達成し, かつ相手から, より適切と判断される対人コミュニケーションである. 機能的アサーションの特徴と, 機能的アサーションを実現するための方法論について議論する.
患者が標的臓器由来と考えられる症状を呈する場合, 臨床医は器質的疾患だけでなくその標的臓器の機能を明らかにする必要がある. 近年, 食道機能評価法においてhigh-resolution manometry (HRM) が開発され, 従来の検査法に比べてより詳細に食道運動を評価することが可能になった. 食道内圧検査を心身医学的に意味づけると, 心身症から単純な運動機能障害まで症例は多種多様であり, HRMデータの治療活用においても症例ごとにさまざまな工夫が必要である. 治療においては食道透視などの視覚的に理解しやすい別の検査を活用した病態の再現や, バイオフィードバック的な試みなど, 柔軟なアプローチが効を奏することも多い. 新たな知識・技術を得たうえで, 改めて一般的な技法を上手に活用した治療を再考することも重要と考えている. 本稿ではHRMを施行した症例について, 治療的アプローチも含め具体的に提示する.
心身医学の専門医は, 医学の前提である人の 「同一性」 を前提とすることを求められつつ, 個々のクライエントごとに事情が異なるという 「事例性」 にも重きを置くことが求められる. この矛盾に対応するために, 一般的な心身相関を考慮するのではなく, より効果的な心身医学の専門医だからこそできる 「セルフ・ナラティヴ」 によるアセスメントと, それぞれのクライエントの特性に合わせた 「セルフ・ナラティヴを活用した対応」 について述べた. そして, 心身医学の専門医としての立場が, 通常の医療者とは異なる矛盾を内包しているとともに, それこそが全人的援助の体現者としての存在になっていることを示した.
本稿は心身医学を専門とする医師が知っておくべき心理学について, その理論と実践を論説したものである. 米国の哲学者でフォーカシング指向心理療法を見い出したEugene Gendlinの理論より, 体験過程と追体験といった現象学的・解釈学的概念について論じ, これらの実践上のポイントをいつくか提示した. また, Gendlin理論に基づく体験過程様式およびその評定のための第三者評定尺度であるEXPスケールの概要を示し, このスケールを臨床に役立てるためのポイントを提示した. また, 今日の研究動向として, 現在開発中のEXPチェックリストおよびそれを用いたサイコセラピー・アウトカムの国際共同研究計画について言及した.
認知行動療法 (CBT) はその誕生以来約半世紀以上を経て, 大きな進歩を遂げ, わが国においても, 医療や教育, 発達支援, 福祉, 司法といったさまざまな文脈で, さまざまな疾患や問題を対象とした心理社会的治療法の第一選択肢として適用されるようになった. しかしながら, 普及とともに, CBTの原理原則が十分に理解されないまま形式的に適用することで, その効果を十分に享受できないことも見受けられる. そこで本稿では, 協働的経験主義, 行動原理といったCBTの基本概念を整理し, 心身医学の現場でCBTを実践するときの留意点を指摘した.
「心身医学を専門とする医師に知ってもらいたい精神医学」 というテーマを与えられたとき, どのような医師が 「心身医学を専門とする医師」 か迷い, それには筆者が医学部学生であった頃から今日までの心身医学との関わりが関係すると考えた. そのような混乱の中で心身医学の実践に必要な精神医学の知識を提示するとすれば, 「症状を系統的に評価する」 「心理職の役割や心理検査の意義を明確にする」 「抗うつ薬の本当の効果を知って, 適切に用いる」 などであろうか. 今後専門医制度が固まっていく中で, 何ができるのが心身医学専門医かという議論を深めていくことが不可欠である.
双極性障害は, うつ症状で発症することが多く, 初発時に単極性うつ病と鑑別することは容易ではない. しかし, その治療は後者では抗うつ薬が使われるのに対し, 前者では気分安定薬が用いられ, 抗うつ薬の併用は無効なばかりか, 気分変動を不安定化する. 双極性うつ病と単極性うつ病を鑑別する際に, Ghaemiが提唱した双極スペクトラム障害の概念は有用である. 特に双極性障害の家族歴や抗うつ薬によって惹起される軽躁・躁症状がある場合には, 発揚性パーソナリティ, 若年発症, 反復性の大うつ病エピソード, 短い大うつ病エピソード, 非定型うつ症状, 精神病性うつ病, 産後うつ病, 抗うつ薬の効果減弱, 抗うつ薬治療への非反応などの双極性障害を示唆する徴候 (bipolarity) を注意深くとらえることで, 潜在する双極性障害を見つけ出すことが可能になる.
うつ病は本来精神疾患ではあるが, 心療内科医が対応することも多い. うつ病の1割程度はのちに双極性障害と診断が変わることもあり, 心療内科医は精神科医と連携して治療対応することが望まれる. 摂食障害は心身症に含まれ身体管理は心療内科医が得意とするところかもしれないが, 精神的な対応を併せて行う必要から精神科医が対応することも多い. 心療内科医と精神科医が対応する疾患には一部重複がみられるものの, おのおのが受けてきた教育や専門性に違いがある. うつ病と摂食障害を例に挙げたが, 疾患の個別病態によりどちらの診療科の要素が強いのかは異なり, 病態によってはお互いの立ち位置を理解したうえで緊密に連携していくことが求められる.
摂食障害患者の下剤乱用は予後不良因子の1つである. 入院治療において薬剤師による下剤乱用や便秘に焦点を当てた教育的指導を実施した後, 下剤の処方量と患者の認識の変化, 退院1年後の下剤乱用量について調査した. 下剤乱用患者33名は入院時処方に比較して, 退院処方では刺激性下剤に関して有意な変化を認めなかった (p=0.435) ものの, 入院前の下剤乱用量を考慮すると刺激性下剤の総量としては減少したと推察する. 医師らと連携しながら薬剤師が教育的指導を実施したところ, 患者の排便や下剤に対するこだわり発言に変化がみられた. 追跡調査として対照群を設定し, 入院前と退院1年後の下剤の乱用量を比較した. 入院前の下剤乱用量が少ないこと (p=0.000), 薬剤師の介入 (p=0.029) は, 退院後の下剤乱用量を減少させる因子であることがわかった. 摂食障害患者に対するチーム医療において, 薬剤師の関わりは有用である.
本研究はストレスマネジメントとしての臨床動作法の有効性を子育て支援サークルにて検討することを目的とした. 36名の参加者を無作為に2つのグループに分け, 一方のグループには臨床動作法を実施し, 他方には通常行うレクリエーション (手遊びと絵本読み聞かせなど) を実施した. おのおのの実施前後で心理的ストレス反応尺度 (SRS-18) を測定した. その結果, SRS-18の下位尺度 (抑うつ・不安, 不機嫌・怒り, 無気力) およびその合計得点についてグループ (臨床動作法・レクリエーション) ×実施 (前・後) の分散分析を行ったところ, いずれの得点にも有意な交互作用がみられ, 臨床動作法を実施したグループは “抑うつ・不安”, “不機嫌・怒り”, “無気力” および合計得点が有意に低下した (いずれも, p<.001). 以上のことから臨床動作法は, 子育て支援サークルにおけるストレスマネジメント技法として有効であることが示唆された.