心身医学
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58 巻, 3 号
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巻頭言
第58回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
講演
  • 平井 啓
    2018 年 58 巻 3 号 p. 231-236
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    サイコオンコロジーはがん患者の全人的医療, すなわちBio-Psycho-Social Modelに基づく実践と研究を行う分野として発展してきた.

    Bio-Psycho-Social Modelの一つの具体的な実践例として, がん医療における包括的アセスメントが挙げられる. 包括的アセスメントは, 患者の問題を, ①身体症状, ②精神症状, ③社会・経済的問題, ④心理的問題, ⑤実存的問題の順番にアセスメントしていくフレームワークである. 本稿では, この包括的アセスメントの考え方についてBio-Psycho-Social Modelの観点から解説し, さらにこの中でも特に心の問題を扱う専門家が役割を担うことになる精神症状のアセスメントと心理的問題のアセスメントの具体的な方法について示した. 最後に, 今後のBio-Psycho-Social Modelを発展させるための課題についてその方向性の提示を行った.

  • 浅香 正博
    2018 年 58 巻 3 号 p. 237-241
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    2011年暮れに日本消化器病学会, 日本消化器内視鏡学会および日本ヘリコバクター学会の理事長名で慢性胃炎への保険適用拡大を公知申請にて行ってほしい旨の要望書を厚生労働大臣宛に提出した結果, 2013年2月21日に慢性胃炎 (ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎) の除菌療法への保険適用がなされた.

    今回の保険適用には, ピロリ菌の診断だけではなく胃炎の診断も内視鏡を使用して行うべきという厚生労働省の意向が反映されている. 保険適用以後は除菌療法の頻度は急速に増加すると推測されているが, 内視鏡検査の頻度も同時に増加することは明白である. 今回の慢性胃炎への除菌の保険適用によって保険を使用した内視鏡検診ともいえる状況が作り出されてきた. ピロリ菌の除菌とその後の継続的な内視鏡検査によって, 胃がんの発生が減少し, 発生したとしても早期のうちに発見可能となるので, 胃がん関連死は劇的に減少していくと考えられる. 実際, 2016年の胃がん死亡者数は保険適用前から9.2%の減少を示した. 40年にわたって年間約5万人が死亡している胃がん死亡者数の減少は, ピロリ菌除菌の慢性胃炎への保険適用の効果以外には考えられない.

    このような胃がん撲滅計画が実行できるのは, 早期胃がんの診断, 内視鏡治療が世界で最も進んでいるわが国だけである. WHOのがん研究機関 (IARC) は2014年ピロリ菌除菌の胃がん抑制効果を正式に認め, 世界各国にピロリ菌除菌による胃がん予防を各国ごとに行うよう勧告した. 同時にわが国が胃がん撲滅政策において最も進んだ国であることも認めてくれた. わが国が2020年の東京オリンピック開幕までに胃がん関連死を30%減少させることはこの会議での国際公約であり, どうしても実現させなければならない重要事項である.

企画シンポジウム特集/行動医学の新しい展開:臨床から健康増進へ
  • 野村 忍, 竹内 武昭
    2018 年 58 巻 3 号 p. 242
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
  • 小田原 幸, 坪井 康次
    2018 年 58 巻 3 号 p. 243-247
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    行動医学は, 健康と疾病に関する心理・社会学的, 行動科学的および医学生物学的研究を進め, これらの知見を統合のうえ, 疾病の予防, 病因の解明, 診断, 治療およびリハビリテーションに適用することを目的とする学際的医学といわれている. その代表的な介入方法である行動変容技法は, 複雑ないくつもの要素から構成され, 同一の行動変容テクニックが異なるラベルで報告されている. そのため, 行動医学的介入の再現性や臨床現場での適用性, システマティックレビューを通じた知見の統合が困難になっている. 本稿では, 行動変容技法をはじめ, 行動医学が社会の健康増進にどう活かせるか考えることを目的とした.

  • 久我原 明朗
    2018 年 58 巻 3 号 p. 248-254
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    糖尿病をはじめとする生活習慣病の診療では, 長期間にわたって療養行動を管理するため, 本人の自発的な意欲を引き出すことが大切になる. 合併症のリスクや怖さを伝えるような陰性刺激は, 短期間での行動変容を引き起こすことはあっても, 長期間は持続しない. 臨床現場では 「やる気がない」, 「病識がない」 という抽象的なレッテルを貼り, 叱責したり, 説得したりすることで再度奮起を促そうとするものの, 患者の気分を害したり, 治療意欲は低下し, 結果的に治療の中断を引き起こすこともある. 行動療法では, 行動を刺激と反応の連鎖として具体的に観察していき, 自発的な行動を起こしやすい環境を整え, 援助するもので, 生活習慣病の診療での活用が期待できる. また, 行動科学を基礎にもつ臨床コーチングや動機づけ面接を意識した関わり方や, 3分程度の比較的短時間の診療の中でどのように実践していくかについて, 当院での取り組みを紹介したい.

  • 栗林 勝, 月間 紗也
    2018 年 58 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    昨今, 企業・法人は, 従業員の健康維持増進および生産性の向上を目的に健康経営を推進している. 各企業の取り組みでは, ①従業員の意識改革に向けた教育, ②健康行動を起こしやすい, または続けやすくするための環境調整, ③健康行動への意識を高めるような心理的アプローチなど, さまざまな工夫がされていることがうかがえる. 取り組みの効果検証がされた2つの事例においては, 参加中の効果は明らかであるが, 参加率や行動の継続などに課題を抱えていた. 会社全体としての取り組みとするためには参加への動機づけや, 健康行動の継続において工夫が必要であり, それには行動科学との連携が重要な要素であると考えられる. 今後行動科学との連携により, 企業での健康増進活動がより拡大していくことが期待される.

  • ―ワーク・エンゲイジメントに注目した組織と個人の活性化―
    島津 明人
    2018 年 58 巻 3 号 p. 261-266
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    産業構造の変化, 働き方の変化, 情報技術の進歩など従業員や組織を取り巻く社会経済状況が大きく変化している. こうした変化に伴い, 従業員はこれまでよりも健康で, 「かつ」, いきいきと働くことが必要になってきた. 本稿は健康の増進と生産性の向上を両立させる鍵概念としてワーク・エンゲイジメントに注目する. 最初に, ワーク・エンゲイジメントが, 活力, 熱意, 没頭から構成される概念であることを定義したうえで, ワーク・エンゲイジメントの先行要因と結果を統合した 「仕事の要求度-資源モデル」 を紹介した. 次に, 行動医学の視点からワーク・エンゲイジメントを高めるための方策について言及した.

症例研究
  • 古井 由美子
    2018 年 58 巻 3 号 p. 267-273
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    当院では生体腎移植のレシピエント・ドナーに術前・術後・1年後に個別心理相談を行っている. 生体腎移植は, 双方にとって手術という身体的に危機的なイベントであるが, 同時にさまざまな葛藤や不安など心理的な負担も高い. そして家族内で行われるため, 「家族が潜在的にもっている問題が移植手術に表れやすい」 と春木 (2006) は述べている. 1年後の心理相談においては, その多くは両者の関係がより緊密に変化していたが, 今回家族力動が大きく変化した事例を経験したため, その事例を提示して考察を行った. レシピエントは仕事に関心が高く家族内の出来事に関与していなかったが, ドナーである妻が移植後に体調を崩したことで, 家族と向き合うようになり, 相互交流が活発に変化した. このように家族内で行われる生体腎移植においては, 何らかの家族力動の変化が起きており, 家族力動の視点をもった継続的なメンタルケアを行うことが重要であると思われた.

  • 小杉 孝子, 松田 能宣, 所 昭宏
    2018 年 58 巻 3 号 p. 274-281
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー

    はじめに : がんの日常臨床において私たちは, 病勢に関わらず心穏やかに過ごす患者を経験する. 今回, 過酷かつ急激な病状変化をきたした2事例を, レジリエンスの視点から考察を加え報告する. 事例1 : 60歳代男性. 小細胞肺がん. 胸椎転移から両下肢, 左上肢不全麻痺が出現したが, 医療者に対しては, 腰の低い態度と笑顔に加え 「ありがとう」 の感謝の言葉を多く口にしていた. 化学療法三次治療で部分寛解中に治療中断を決断し在宅療養移行後死亡した. 事例2 : 40歳代男性. 肺腺がんで手術後, 胃がん併発. 治療中, 脳転移と腫瘍の胸髄圧迫で両下肢麻痺が出現するが, 周囲に対して比較的多弁でポジティブな冗談をたびたび口にしながら, 母親の介護負担に配慮し, 在宅調整中であった. 考察 : 病状が進行し自立性低下の現実に対峙しつつ, 適応的心理的反応を示した2事例であった. 周囲との調和に配慮した感謝の中で自己決定する過程には, レジリエンスの存在が示唆された. 症状マネジメントと並行して, 重要他者とのつながりを物語る心理過程と心理面接の経験が, 個人の能力としてのレジリエンスへの刺激となり, 状況受容と行動変容に影響した可能性があると考えられる.

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地方会抄録
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