身体症状症 (身体表現性障害) の治療に難渋することは少なくないが, その要因の1つとして治療関係の問題が挙げられる. 身体症状を説明できる器質的要因を認めないにもかかわらず, 患者が身体症状の身体的原因究明と治療を期待する場合, 患者・治療者双方の期待の不一致により治療同盟の確立がしばしば困難となる. その際に有用な可能性があるのが対人関係療法である. 対人関係療法は, 対人関係と症状が相互に影響する病態に適用され, 心理教育を重視し, 現在の対人関係に取り組むことで症状の改善を目指す精神療法である. 治療関係も対人関係ととらえて, 実生活の対人関係と関連づけて治療戦略の中で扱うことができる. 対人関係療法は, 身体症状症に関する効果研究は少なく, その効果は明らかではないが, 治療関係を含む対人関係と身体症状の関連が強い場合は効果的な可能性がある.
Acceptance and commitment therapy (以下, ACT) を用いたケースでの心理教育の実践例について, 模擬事例をもとに報告した. 模擬事例としては, 医療現場での個別の心理療法の場面, その中でも心身医学的問題として過敏性腸症候群のケースを扱った. ACTの心理教育は, 随伴性と悪循環の理解を重視する点は従来の認知行動療法と共通するが, 疾患ごとのモデルや特定の症状モデルを用いることはほとんどないという点が異なる. ACTでは, クライエントが現実を体験することに重点を置くが, 並行してそれらの体験を通して体験の回避や認知的フュージョン, アクセプタンスとコミットメントという概念の理解を促進することも目的としている. したがってACTは, 他の療法に比しても心理教育的な要素を重視する心理療法ととらえることができるかもしれない.
心身症患者が心身の状態への気づきを養い, 適切な対処による心身のケアを自律的に行えることを目的にマインドフルネスを取り入れたセルフケア教室を試みた. 心理教育および注意集中力を高める瞑想をいくつか組み合わせたプログラムを施行し, その前後における唾液アミラーゼおよび心身の状態の主観的評価の結果を比較した. またマインドフルネスの特徴的観点から自由記述, 語りおよび事例を紹介した. 患者の内的リソースを活かすマインドフルネスを取り入れたセルフケア教室は, 「今ここ」 での気づきを高め, 内的体験へのかかわり方の変化が適切な対処につながることが示され, 症状改善および再発防止の可能性も示唆される. 今後さらに, 対象患者や参加時期, 動機づけ, およびプログラム内容などの検討を続けたい.
糖尿病患者は, 良好な血糖値コントロールのためにセルフケア行動 (食事療法, 運動療法, 血糖自己測定, 内服およびインスリン自己注射など) を継続していくうえで, 患者自らが生活習慣を主体的に改善することが課題となる. その妨げにも促進にもかかわる, 患者の疾病認識やセルフケア行動への自己効力感をふまえ, セルフケア行動を動機づけ, ストレス対処技能を向上させる心理行動的支援の必要性がある.
当院教育入院中の糖尿病・肥満患者を対象とした集団心理療法では, 患者同士が疾病認識を語り合い, 患者が病を引き受けてセルフケア行動に関与していけるよう動機を引き出す. また, 療養上の困難状況への対処法を患者体験談から相互に学ぶことでストレスマネジメントスキルの向上を図り, 逸脱や再発を予防しセルフケア行動の維持を目指している. 個別継続的支援が必要な患者には個人認知行動療法を提供し, より個別最適化した援助を行っている.
線維筋痛症患者の痛みに対する治療が長期化する中で, 抑うつ症状を伴う情緒不安定などの二次的症状が起こりやすい. さらに二次的症状による感情の混乱から, 一時的な性格傾向の変化が起き, さらなる痛みの増悪を引き起こすという悪循環の傾向がみられる. 本稿では, 線維筋痛症患者やその家族を対象としたアンケート調査結果からみえてきた心理教育への手がかりを中心に, 痛みの背後に隠れている二次的症状を生み出しやすいと推測される諸要因を 「可視化」 し, 心理教育的アプローチへの詳細な工夫を提案した. 心理的・教育的支援を中心とした心理臨床プログラムを導入する際には, 患者個人の考え方, 感情, 行動パターンがどのように反応し合っているのかを見い出し, 痛みによる二次的症状が起きにくい環境を整え, 生活全体を意識した心理教育的アプローチが, 痛みの再発予防や痛みの自己管理力を高めると考える.
入院患者の心理社会的な問題発生を予測できるよう, 患者が主観的にとらえている身体状態と心理社会的・実存的問題を入院早期に把握できるチェックシートを開発した. 作成後, 協力が得られた本院老年・高血圧内科において実施し, 102名からの回答を得た. 因子分析を行った結果, 「実存的自己価値」, 「主観的な心理社会的状態」, 「心身の自覚症状」 の3因子が患者にとっての主観的なストレス要因となっているという結果が得られた. 筆者らはこれまでの研究において, 心理士は医療スタッフ-患者間のより良い治療関係を促進するための患者理解をサポートしていることについて報告してきたが, 今回の取り組みは, そうした心理士の患者理解の視点を医療スタッフと共有できるツールに発展させることであった. 今後は患者と医療スタッフが協同してよりよい治療環境を作っていくためのスクリーニング票として活用できるよう検討を重ねていく.
神経因性頻尿に対する精神療法の中では, 森田的志向のカウンセリングが基本であると笠原は述べている. しかし神経因性頻尿に対する森田療法を実施した報告は今までにない. そこで今回入院森田療法により軽快した広場恐怖を伴う神経因性頻尿の1症例を報告した. 入院後約1カ月間は尿意を感じつつ生活に必要な行動を優先して動ける体験ができた. 次に患者自身に作業の負担が増えると自己決断ができず頻尿や身体症状が出現した. 入院後出現した身体症状の心性は, 頻尿の背後の対人恐怖心性と共通していると理解された. 今までは頻尿と身体症状の背後にある対人恐怖心性からさまざまな場面を回避してきたが, 入院森田療法の中で対人緊張がありつつその場面を避けずに自分の意見を言えるようになっていったことが退院後良好な経過をたどったと考えられる.