心身医学
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63 巻, 3 号
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巻頭言
第63回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
特別講演
  • 田中 典彦
    2023 年 63 巻 3 号 p. 202-207
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    移り変わりながら現れていて(無常),不変な本質をもち合わさない(無我)ものの在り方をしているのかを示したのが縁起説である.縁起とは「およそ存在するものは皆,種々の要素(条件)が相関わり合いながら生起している状態としてある」という意味である.すべては状態としてあるととらえるのが仏教の特質であるといえる.時間的因果,空間的因果など,種々の縁起理解が展開されている.

    人間(私)も縁起という在り方をしている.したがって,「人間は五蘊(条件)が相関わり合いながら生起している状態としてある」となる.種々の要素として示されたのが五蘊である.五蘊とは,色,受,想,行,識である.これらが同時に関わって現れている姿が,因縁果としての人間である.したがって「私」は五蘊仮和合とされる.そして人間に関わるすべての事象はここにおいて生じる現象である.われわれの知・情・意はすべて識に収まる.識を内観することは需要である.

教育講演
  • 木下 翔太郎, 岸本 泰士郎
    2023 年 63 巻 3 号 p. 208-216
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    多くの精神疾患は,その診断や重症度評価に有用なバイオマーカーが存在しない.このことは,診断の不一致,治療効果の判定の不分明さ,治験の失敗など,多くの問題につながっている.こうした精神科領域特有の課題解決に向けたアプローチの1つとして,デジタルテクノロジーを活用した症状モニタリング,症状定量技術,あるいは治療技術の開発が世界的に活発化している.また,COVID-19によるパンデミックは世界の精神医療に大きな影響を与えたが,その中で,遠隔医療やAIなどのデジタルヘルスも大きな存在感を示すことになった.このようなデジタルテクノロジーの活用は,精神科医療の形を変え,また新しい可能性を広げている.本稿では,筆者らの研究活動を中心に,デジタルテクノロジーを活用した精神科医療の動向やわが国における展望について論じる.

特別企画
  • ―薬物治療効果の構造的理解と「やわらかな1.5人称」という態度の治療的意義―
    中野 重行
    2023 年 63 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    いわゆる「プラセボ反応」は,構造的には自然変動・自然治癒力(N)の上にプラセボ投与に起因する「真のプラセボ反応:P」が乗っており,N+Pと表現できる.薬物治療効果は,薬物の真の効果(D)がN+Pの上に乗っており,D+N+Pと表現できる.N+Pを高めると,①治療効果が高まる,②薬物の減量が可能になる,③薬物が不要になる,ことが期待できる.医療者として目指したいコンセプト「やわらかな1.5人称」は,1人称(わたし)の立場に立ちつつも,2人称(あなた)の気持ちにも寄り添える,1人称と2人称の間を行ったり来たりできる,平均すると「1.5人称」になるような「やわらかな態度」のことである.患者を「受容」し,「共感」することを容易にするので,「信頼関係」ができて自然治癒力(N+P)が高まるので,薬物使用の有無にかかわらず,治療効果の向上が期待できる.一般の対人関係でも,コミュニケーションが円滑になり,ストレスが軽減する効果が期待できる.

シンポジウム:思春期以降の吃音患者に対する多角的アプローチ
  • 高橋 進, 菊池 良和
    2023 年 63 巻 3 号 p. 224
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー
  • 岡部 健一
    2023 年 63 巻 3 号 p. 225-228
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    本稿では一般内科医が行う吃音臨床を紹介する.筆者は自身が吃音者であり思春期以降,発語に対する不安と戦ってきた.自律訓練法や民間の吃音矯正所・連想療法・入院森田療法など思いつく限りの改善策を学生時代に試したが吃音自体を解消するものはなく,吃音の自助団体である全国言友会連絡協議会の活動の中で年月をかけて吃音では困らなくなった.内科医師として勤務しつつ2016年に念願の吃音相談外来を開設した.多くの吃音者と出会い「ありのままの自分を愛して,できないことは受け入れる」姿勢が大事だということを確信した.吃音には自分ではどうしようもない波とぶり返しがある.成人になってからではきわめて改善が困難であることから,小中学生以下ではいかに吃音を悪化させないようにするかに主眼を置くようになった.症状の程度にかかわらず社会的に困っていれば合理的配慮が受けられ,障害者手帳や年金受給も取得できる時代になってきたので,治すことばかりにとらわれず,吃音をもったままで生きていくことを勧めるようにしている.治さない,頑張らないことにシフトするとかえって吃音症状が改善することは多い.

    本稿を通じて吃音臨床に関心をもつ医師が増え,吃音患者がいつでもどこでも外来受診できる日が来ることを願っている.

  • 富里 周太
    2023 年 63 巻 3 号 p. 229-235
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    吃音は発話の非流暢性を特徴とした疾患であるが,言語症状のみではなく社交不安や吃音症状に対する予期不安が伴う.吃音と否定的な経験が対提示され,レスポンデント条件づけによって吃音に対して恐怖や不安を感じるようになると発話場面に対する回避が伴うようになり,オペラント条件づけによって不安が強化されると理解される.さらに吃音における社交不安についての認知モデルでは,予感,不安,回避,自己注目などが複雑な悪循環を形成し,問題を複雑化させている.

    対処法としてエクスポージャー,注意のトレーニングといった技法を用いた低強度認知行動療法がある.エクスポージャーとして回避しがちな発話場面に挑戦することで回避行動および社交不安の低減をはかり,注意のトレーニングとして吃音が生じるかどうかから注意を外すことで予期不安の低減をはかる.この方法によって吃音の包括的な質問紙であるOASES-Aの5段階中1段階程度の改善が得られると考えられる.

  • 菊池 良和
    2023 年 63 巻 3 号 p. 236-240
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    吃音のある人は人前で話す場面において不安や恐怖を感じる.人生の分かれ目となる入試や就職における面接などで,その不安や恐怖は大きくなる.コミュニケーションは話し手と聞き手のキャッチボールである.聞き手が変わることにより,吃音のある人の困り感は著明に軽減する.2016年に「障害者差別解消法」が施行され,大学などは合理的配慮の提供は義務とされている.入学試験および各種試験における面接・実技試験における合理的配慮の実例を紹介する.また,日本の雇用体制として,米国のジョブ型雇用と異なるメンバーシップ型雇用であり,就職活動に対して困難を感じている学生が多い.また,就職後も学生の頃にはなかった電話での仕事が増加することにより,配慮が必要になってくる.吃音症はICD-10ではF98.5に分類され,精神障害者保健福祉手帳の取得が可能である.医師だからこそできる就労支援として,障害者手帳の診断書は有効な支援法である.

原著
  • 菅原 彩子, 小原 千郷, 関口 敦, 西園マーハ 文, 鈴木 眞理
    2023 年 63 巻 3 号 p. 241-250
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    摂食障害患者の未受診や受診中断の理由や,受診していない患者の支援ニーズを把握することは喫緊の課題である.摂食障害患者の受診を促す要因の解明を目的にWeb調査を実施し,被援助志向性が受診行動に与える影響と,未受診者や受診中断者が病院受診の際に求める情報・支援を検討した.

    対象は患者264名(30.6±9.6歳),家族115名(49.5±10.8歳)であった.病型は神経性やせ症(AN)155名,神経性過食症(BN)98名,過食性障害(BED)45名,回復74名,不明7名であった.通院状況は未受診64名,受診中断143名,通院中169名,その他3名であった.患者の被援助志向性では通院状況や病型における有意差は認められなかった.未受診者では,近くの精神科・心療内科の情報へのニーズが高く,摂食障害の情報提供や専門治療へのニーズが低かった.以上より身近な医療機関の情報提供,スティグマの軽減のための啓蒙,医療体制構築の重要性が示唆された.

症例研究
  • ―本態性低血圧と反応性低血糖を有した患者の1症例―
    志和 悟子, 永田 勝太郎, 大槻 千佳, 前川 衛, 大木 和子
    2023 年 63 巻 3 号 p. 251-259
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    目的:身体因性偽神経症はフランクル(Frankl)が提唱した概念である.身体的病態が潜在しているが,精神疾患と誤認してしまうことである.本来の身体的病態を治療するか,心理的反応のみに目を奪われて向精神薬を多用するか,医師のidentityが問われ,患者の予後が大きく変わってしまう.チームでの取り組みを報告したい. 症例:30代女性.うつ病と診断されていた.本態性低血圧,反応性低血糖,橋本病があることが判明した.補剤の服用,カウンセリング,栄養指導を行った.患者は強迫性パーソナリティ障害がみられたが,それは自発性低血糖症による症状であった.チームでの包括的治療を行った結果,こだわり行動は軽減し,就職活動ができるまでに至った. 考察:チームでの取り組みは,患者の依存から自立へと向かう治療プロセスに多方面から貢献する.一貫した医療観を有する多くのチームメンバーが「そばにいる(being)」ことが最も有用であると考えられた.

連載 心身医療の伝承―若手治療者へのメッセージ
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