心身医学
Online ISSN : 2189-5996
Print ISSN : 0385-0307
ISSN-L : 0385-0307
63 巻, 4 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
巻頭言
第63回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
教育講演
  • 赤松 和土
    2023 年 63 巻 4 号 p. 317-320
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    パーキンソン病は60歳以上では100人に約1人が発症する神経変性疾患であるが,症例の9割を占める孤発性症例は,臨床症状からその原因が多様な集団と予測され,各症例の層別化と病態解明が効果的な治療法開発に必須と考えられる.われわれはこれまでさまざまなタイプのパーキンソン病のiPS細胞の樹立・解析を進めてきたが,最近,ミトコンドリアクリアランス異常を示す家族性パーキンソン病患者由来iPS細胞より誘導した中脳特異的神経細胞を用いて320種類の化合物スクリーニングを実施し,細胞レベルでの疾患表現型と細胞脆弱性を回復させる化合物として4種類を同定することに成功した.候補化合物はショウジョウバエモデルや一部の孤発性症例の症例に対しても表現型回復効果を示した.このようにパーキンソン病においては,稀少な家族性症例由来のiPS細胞を用いた創薬が症例の大部分を占める孤発性症例に対する新規治療薬につながる可能性がある.

シンポジウム:心身医学の原点と心理職のこれからの使命
  • 原田 俊英, 中島 弘徳
    2023 年 63 巻 4 号 p. 321
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー
  • 内山 佳代子
    2023 年 63 巻 4 号 p. 322-327
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    脳神経内科では認知症や脳卒中などの疾患を対象としている.病態は身体症状に加え,認知機能の低下,心理・行動面の変化が生じる.診断の際には,血液や脳画像検査などに加えて神経心理学検査による認知機能の査定が実施され,薬物療法やリハビリテーションが導入される.経過は進行性で予後が深刻な場合や,治療法が未確立の疾患もある.2020年の公認心理師の活動報告によると,登録者の中で医療保健領域に所属する心理師は30%,そのうち脳神経内科に所属する心理師は2.7%である.脳神経内科領域の心理職の役割は神経心理学検査の実施,相談業務などである.検査場面では経過や予後への不安を聞くことも多い.検査の施行だけでなく,主訴の傾聴や情報提供をするなど,不安の低減を図り,今後の見通しがもてるような,全人的な視点に基づいた査定を心がけている.

  • 青木 絢子
    2023 年 63 巻 4 号 p. 328-331
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    周産期は命の誕生という喜びに満ちたときである一方で,さまざまな疾患や家族関係の変化などリスクを伴う期間でもある.この時期の高度で専門的な医療は,周産期母子医療センターが担っており,筆者が所属する新生児集中治療室(以下,NICU)には,早産児,低出生体重児,さまざまな疾患の新生児や乳児が入院している.保育器に入ったわが子を前にして,予期せぬ出来事が起こった戸惑いや,わが子がリスクを抱えて生まれてきた現実に圧倒され茫然としてしまう母親・家族の姿は想像に難くない.また,周産期医療の場は救命救急の場であると同時に子育ての場でもあり,その心理支援は必要不可欠である.しかし,周産期医療に従事している心理職は増加しているものの,その活動内容はまだ広くは知られていないと思われる.そこで今回NICUに勤務する心理職の活動の実際を紹介し,心身医学の原点に立ち返り心理職の職能について検討した.

  • ―治療と仕事の両立支援の分野から―
    松田 史帆
    2023 年 63 巻 4 号 p. 332-338
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    時代の変化とともに,心理士が活躍できる場面が増えていると思われる.新しい領域として,現在の所属先で取り組んでいる「治療と仕事の両立支援」について紹介し,心理士として求められる業務や役割について,これまでの経験も踏まえて報告する.

    「治療と仕事の両立支援」とは,「働く意欲や能力があっても,就業継続や休職後の職場復帰が困難な事例」に対し,治療と仕事の両立をサポートする取り組みである.筆者は看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)と協働し,心理アセスメントや心理サポートを担当している.精神疾患の患者だけでなく全疾患を対象としており,がんやあらゆる慢性疾患の方と面談している.心身医学でいう身体・心理および社会的側面といった全人的医療を必要とする疾患と同様のとらえ方や対応が求められているように感じられる.心理士としていかに主体的に動き,機能していくかが現時点でも課題と考えている.

  • 富岡 光直
    2023 年 63 巻 4 号 p. 339-343
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    現在九州大学心療内科に所属する心理士は4名おり,1名は医学部に所属し3名は病院所属である.心療内科教室には4つの研究室があり,心理士は臨床心理研究室の構成員である.病院所属の3名は院内のブレインセンターで神経心理検査も行っている.心療内科での業務には教育,研究,臨床がある.教育の対象は医学部の3~6年生と卒後の研修医,心療内科に入局した若手医師である.内容は心理検査と心理療法の講義や実習が中心である.入局した医師には,患者の病態仮説の作り方実習と面接の逐語記録の検討を行っている.研究は心理士の専門としている技法やほかの研究室(アレルギー神経生理研究室,慢性疼痛消化器研究室,内分泌研究室)と共同研究を行う.臨床に関して心理士の専門とするところは,医師と相補的な関係にある.医師にも得意とする心理療法があり,心理士にもそれがあり,持ち寄って治療にあたっている.当科の初期の治療では催眠療法による変性意識状態(ASC)がよく用いられていた.自律訓練法や芸術療法にもASCを引き起こす可能性がある.心身相関の自覚に乏しい心身症患者には,ASCを利用して抑圧や知性化が緩んだ状態での治療が有効である.入院を要するような重症の症例ではASCを利用した治療が有効であり,心理士の専門性が発揮されている.

  • ―人との出会いとつながり,支えあいから学んだもの―
    古井 由美子
    2023 年 63 巻 4 号 p. 344-349
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    1988年に病院初の心理職として医療相談室に入職し,身体科から依頼される心理検査や心理相談を担当し,そこで心身医学の原点と思われる2事例を体験した.そこでは,心身相関の視点を学び,身体疾患についての知識のなさ,心理職としての専門性の未熟さを痛感することになった.数年後,社会的に臨床心理士の知名度が上がるのに伴い,院内での職域が拡大していった.そしてさまざまな人の支えがあり,2012年に中央診療部門にこころのケアセンターが新設され,その中に臨床心理部門を設置し,全科から心理職に直接依頼できるシステムをつくった.初期から大事にしてきたことは,依頼があった患者さん一人ひとりに丁寧にかかわり,そのかかわりを通して,他職種に心理職の専門性を伝えていく作業だった.そうした患者さんやさまざまな人との出会いやつながりが,院内に心理職の居場所をつくる力となった.そのうえで,心理職の専門性や,これからの使命についても考える.

原著
  • ―患者の受診意識と感染症対策を実施した診療に関する意識からの考察―
    上村 泰德, 稲田 修士, 阪本 亮, 樋田 紫子, 梶原 都香紗, 奥見 裕邦, 名倉 美樹, 松岡 弘道, 小山 敦子
    2023 年 63 巻 4 号 p. 350-362
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:COVID-19流行下に心療内科外来を受診する患者の受診意識と感染症対策を実施した診療に関する意識,心理状態を調査し,COVID-19流行下の心療内科の診療体制を検討する. 方法:2020年5月12日~6月22日,近畿大学病院心療内科外来患者に配布した心理検査とアンケートを後方視的に調査した. 結果:有効回答は142名であり,約4割の患者が心的外傷後ストレス障害(PTSD)のハイリスク群に該当した.感染拡大下でも,約7割の患者が受診を必要と感じており,4割強の患者が通院への抵抗感を感じていなかった.感染症対策を実施した診療に関して,必要と答える患者が有意に多く,抵抗感を感じると答える患者は有意に少なかったが,患者の特徴によって差異があった. 考察:COVID-19流行下でも多くの患者が受診を必要としており,感染症対策を実施した診療は,患者の安心感につながることが示唆されたが,患者の属性や心理状態を考慮する必要がある.

  • 中川 雄真
    2023 年 63 巻 4 号 p. 363-375
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:HIV感染症の長期療養化に伴い,睡眠障害のコントロールは重要な課題である.本研究ではHIV陽性者と陰性者の睡眠障害率の差を調査するとともに,HIV陽性者の睡眠障害の評価方法,およびうつの有病率について調査することを目的とした. 方法:HIV陽性者と陰性者の睡眠障害を比較した先行研究を検索し,採用基準を満たした文献を対象にメタ解析を実施した. 結果:HIV陽性者は陰性者と比較し有意に睡眠障害の有病率が高いことが示されるとともに,うつの有病率が高いことが示された.また,ピッツバーグ睡眠質問票が最も多くの研究で使用されていた. 考察:HIV臨床においては,睡眠障害およびうつのスクリーニングと治療を視野に入れる必要があると推察した.そのため,精神科や心療内科を含めたチーム医療体制を構築することが望まれる.

連載 心身医療の伝承―若手治療者へのメッセージ
地方会抄録
feedback
Top