心臓恐怖症について, 行動論の立場から分析し, 行動療法の治療技法である系統的脱感作を用い, 治療に成功した。対象は, 鹿児島大学第一内科に受診した心臓恐怖症患者17名で, 男子14名, 女子3名である。平均年齢は29歳, 平均罹病期間は2.3年, 平均フォローアップ期間は59.2ヵ月である。治療成績では, 全例完治し, 平均治療期間は2.8ヵ月であった。フォローアップにおいては, 再発および代理症は認められなかった。10名は外向性, 7名は内向性を示し, また15名は神経症ないし神経症的傾向を示した。行動論からみると, 心臓恐怖症患者においては, 何らかの刺激によって誘発された心臓病についての内的恐怖が, 条件づけならびに汎化によって, 種々の事態によっても惹起されるようになっている。すなわち, 心臓恐怖症は, 不適応的な学習である。したがって, その治療は, この心臓を中心にした条件性恐怖反応を消去することである。恐怖惹起刺激が存在する時, 惹起される恐怖反応は, これに拮抗する反応を, 同時に惹起させることによって, 減弱ないし消去される。すなわち, 惹起刺激と恐怖反応の結合を, 拮抗反応を用いて, 段階的に消去することが, 治療上大切なポイントである。筋弛緩を用いた系統的脱感作は, この意味において, 効果的な治療技法である。本研究では, 行動療法による治療期間が比較的短期間であったこと, また長期にわたるフォローアップにおいて再発ならびに代理症が認められなかったことは, 行動療法の利点であり, 臨床的応用の意義を示唆している。以上の研究成績より, 著者は, 心臓恐怖症の治療において, 系統的脱感作は非常に有効な治療技法であり, 用いらるべき治療法であると考える。
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