LGBTQ+と呼ばれるセクシュアルマイノリティのメンタルヘルスは損なわれやすいことがさまざまな研究で明らかになっている.筆者は主にトランスジェンダーの生活史を多数聴取しているが,メンタルヘルスの問題はLGBTQ+に共通するものがあると考えている.それは社会との間で抱える問題であり,LGBTQ+本人の中にはない.学校における種々のジェンダーの規範はトランスジェンダーを苦しめる.学校教育などの中でセクシュアリティの多様性に関して肯定的な情報の提供は乏しい一方,LBGTQ+を揶揄するような否定的な情報はさまざまな場面で繰り返され,それが問題であることもほとんど指摘されることはない.LGBTQ+の割合は20~30人に1人とされ,医療機関受診者にも多数混じっている.彼らのメンタルヘルスを守るためには,医療者が無自覚にもっているスティグマに気づく必要がある.
ジェンダークリニックにおける性同一性障害/性別違和/性別不合のチーム医療の中で,産婦人科医は,精神科医,泌尿器科医,形成外科医などとともに診療を行っている.産婦人科医は,診察や検査により生物学的性(身体の性)を確定することで診断に関わるとともに,トランス女性(MTF当事者)への女性ホルモン治療やトランス男性(FTM当事者)への子宮・卵巣の切除術(性別適合手術)を行う.さらに,性別適合手術が終了すると,戸籍の性別変更を希望した当事者が家庭裁判所に提出するための診断書作成も行う.
産婦人科医の中でも生殖医療を専門とする場合には,ホルモン療法や手術療法による妊孕性の低下への対応としての精子凍結や卵子凍結,また,第3者精子による人工授精などの生殖医療に関する説明を行うことも多い.さらには,学校の中で性教育をすることも多く,性の多様性についての講演や授業,家族形成も含めたライフプラン教育にも関与する.学校との連携に関しては,思春期の児童・生徒に対する二次性徴抑制療法の実施などの点でも産婦人科医の役割は重要である.
「何が社会的に許容されない行為や感情であり,何が異常であるか」は社会の人々が決めているものであり,時代や国によって変わっていくものである.現代社会では,分業や権力構造など強固な性別による社会構造が作られているため,その人がどちらの性別に属するのかは重要な指標として扱われる.そして,そこからはみ出すLGBT当事者は否定,拒絶される存在である.最近の社会学研究では,「男女は2つしかない」という性別観自体が社会的に構築されたものであることに焦点が置かれ,典型的な偏見構造などが明らかにされてきている.そしてLGBTはアイデンティティ化して社会集団を形成し,社会運動の結果として大きな変化を生み出している.SOGIは人権問題とされ,また各国で同性婚なども導入されつつある.こうした変化は.LGBT当事者への扱いだけではなく,ジェンダー,セクシュアリティの社会構造全体を徐々に変えていく影響をもつだろう.
性的マイノリティの若者は,うつ病などの気分障害,不安障害,心的外傷後ストレス障害,アルコールの使用と乱用,自殺念慮と自殺企図が多いことが報告されている.さらに,メンタルヘルスの悪化や自殺のリスク因子として,家族との葛藤やスティグマ,差別が挙げられる.大学生においてLGBT学生への支援の充実が望まれている現在,保健管理センターに来談したLGBT学生の事例を紹介し,大学生活における課題や支援の方向性について考察した.
本研究は,原発事故による県外避難者の生活やメンタルヘルスにおける課題を明らかにすることを目的とした.対象者は原発事故で首都圏に避難中の4,905世帯とした.調査期間は2017年10月~2018年1月であった.回収できた362部(回収率7.4%)を集計の対象とした.
調査の結果,気分・不安障害調査票(K6)得点13点以上の割合は20.2%であった.17点以上の割合は10.8%であった.ロジスティック回帰分析の結果,経済的困難「なし」群に対し,「あり」群における心理的苦痛の調整済みオッズ比は3.906と有意な正の関連を示した.自由記述の分析では,経済的な悩み・不安,仕事に関する悩み・不安,加齢に対する悩み・不安などの課題が明らかとなった.
これらの結果から,個別具体的な支援活動を強化すること,複雑に絡み合う生活課題を解決するワンストップの相談機関の設置を制度化すること,民間支援団体が新たなコミュニティ育成のために行う交流会やイベントへの公的支援を充実させる必要性が示唆された.
目的:がんの再発を繰り返した患者の主体性の回復に,情緒特性と認知特性に着目した心理社会的支援が奏効した症例を報告する. 症例:60代女性.3度目の卵巣がんの再発や手術不適応の告知に伴う苦痛,化学療法への不安から情緒的な不安定さを認めたため,カウンセリングを開始した. 経過:カウンセリング開始時,患者の主体性は後退しており,治療方針に同意できずにいたが,支持的な介入で情緒は安定し,夫に主導される形で治療方針に同意した.夫婦葛藤や化学療法の苦痛を語ったが,夫婦合同面接や患者のペースに沿った化学療法により苦痛は軽減した.また,自身の認知特性を知り対処できることが増えると,自己肯定感を得た.化学療法完遂後,維持療法への葛藤が生じたが,主体的に今後の人生を考え,維持療法の中止を決断した. 考察:患者の情緒特性と認知特性に着目した心理社会的支援は患者の主体性の回復に有効な介入の1つである可能性を考える.