最も虚弱な患者群であり多くの問題とニーズを抱えている在宅高齢者のケアは多職種チームで行う必要がある. アセスメントがより包括的となり, そのあとの効果的なマネジメント (ケアプラン作成からサービス提供へ) につながるからだ. 包括的高齢者評価とはすなわち多職種チームアプローチである. 筆者は高齢者ケアの目的を 「余命×QOLの最大化」 と定義し, さまざまな取り組みを行って, ベストな 「老いのサポートケア」 を提供できるチームづくりを目指している. そしてその視線の先には 「高齢者ケアに秀でたコミュニティ (地域)」 がある.
老年期の抑うつ状態の鑑別, 老年期うつ病の特徴, 老年期うつ病の環境的要因と心理的要因, 老年期うつ病の治療を解説した. 老年期の抑うつ状態ではせん妄, 認知症, うつ病の鑑別が重要である. 老年期うつ病の特徴として身体的愁訴が多い, 不安焦燥が前面に立つことなどを挙げた. 老年期うつ病の発症要因では自身の退職や子どもの独立といった環境的要因と, 配偶者との死別, 老化に伴う精神的・肉体的な衰えなどの心理的要因があることを指摘した. 老年期うつ病の治療では森田療法の考え方に基づいた養生の視点を解説し回復の程度によりアドバイスが異なることを述べた. 老年期うつ病と診断しても経過の中で認知症へ変化したり, ときにせん妄を呈したりするので, 老年期の抑うつ状態の鑑別を念頭に置くことが重要である.
老年期の幻覚, 妄想は認知症または認知症状と同様に重要な症状である. なぜなら認知症状と幻覚・妄想の両者の関係を正確にとらえて幻覚・妄想の鑑別を行うことでより適切な治療方針を立てられる場面が多々あるからである. 鑑別にあたり脳疾患も含めた身体疾患との関連の有無, 内服中の薬剤の影響の有無, 心理的環境的ストレスの影響の有無について検討することは重要であるが, 複数の要因が混合していることが多いため, どの要因がどの程度影響を与えているか考えていくことは重要である. 治療にあたり抗精神病薬を使用するときは, 過剰な鎮静や錐体外路症状の出現に注意し, なるべく少量から開始することが望ましい.
パーキンソン病 (Parkinson’s disease : PD), 認知症を伴うパーキンソン病 (PD with dementia : PDD), レビー小体型認知症 (dementia with Lewy bodies : DLB) は, Lewy小体を病理学的特徴とするすべての病態を包括する疾患概念であるレビー小体病 (Lewy body disease : LBD) という1つの疾患スペクトラムでとらえることができる.
DLBのパーキンソニズムは, PDDと比較して静止時振戦や左右差が少ない. 処理速度, 視空間認知機能, 遂行機能, 注意機能などの認知機能障害はDLBのほうがより大きい. 病理学的に, DLBのほうがAlzheimer病理の併存が多く, またPDDの黒質の神経細胞脱落はDLBより高度なことが報告されている.
研究などで用いられる操作的な基準として, 認知症がパーキンソニズムに先行した場合DLB, パーキンソニズムが認知症に1年以上先行した場合PDDとする指摘もある. しかし, DLBとPDDの間に本質的な違いがあるという証拠はない.
高齢PDの特徴とDLBを中心に概説したい.
本稿では, 老年期の身体表現性障害や説明困難な身体症状 (老年期MUS) の特徴に基づいた病型分類を示した. 老年期MUSはその臨床経過から, 一過性の身体化, すなわち適切な身体診察と検査などの評価で患者が安心を得られれば速やかに症状が落ち着く一群, 心気不安型, すなわち不安が強まり症状が遷延しているが環境調整や薬物治療で数カ月~半年程度で改善が見込める一群, 強迫型, すなわち認知症もなく活動性の高い高齢者が, 身体的な衰えに伴い各種症状を呈する一群, 症状固定型の4つに分類できる. 老年期MUSへのアプローチとして, 1. 本人の解釈モデルを聴取, 2. 本人の不安に応じた検査や説明によって保証, 3. 身体症状に対する対症療法をしながら経過をみる, 4. 自律神経の働きを整える方向で指導 (生活リズムなど), 5. 症状中心の生活から患者本来の生活へと患者の焦点を移していく, 6. 患者が治療の主役であることを常に意識する, が推奨される.
私設相談室で取り扱う老年期の来談者を通して, 老年期の心理的特性, その理解, 対応について論じた.
特徴的なことは, 彼らの訴えは, 単一ではなく, 現実的問題のうえに身体症状や, 不安, うつ状態などの精神症状を併せもつことが多いことである. また, その内面には老年期に普遍的にみられる身体的, 心理的, 環境的な喪失の問題が存在していた. これらを解決していく過程で, 来談者たちには, 喪失を受容するというのみならず, 積極的に再構築していこうとする傾向もみられた.
今日の老年期の人々への理解にはその個別性や多様性を尊重することが重要である.
高齢者が抱える問題の1つにサルコペニアがあり, リハビリテーション (リハビリ) の効果が期待されている. サルコペニアに対しては, たんぱく質の適切な摂取, レジスタンス運動を含んだ運動プログラム, 低負荷であっても高反復回数実施し, トータルの運動量を増やすことなどが重要であると考えられている. 入院患者に対しては, これらを組み合わせた適切なリハビリの提供はもちろんだが, 患者が自主的に運動を実施できるよう支援することも大切である. 患者の自主性を育むことがトータルの運動量確保につながり, よりよいリハビリ結果をもたらすと考える. 本稿は前半でサルコペニアに関する知見を, 後半では当院での運動量確保, 自主性向上のための工夫を紹介する.
過敏性腸症候群 (IBS) では, 腹部症状に関連する思考, 感情, 身体感覚などを回避する患者が多いことから, アクセプタンス & コミットメント・セラピー (ACT) の有用性が示唆されている. そこで, ACTの治療標的である体験の回避が, 消化器症状に関連した不安や腹痛頻度および腹満感頻度に及ぼす影響について検討する. 方法 : 便秘を自覚する女性244名 (IBSのRome Ⅲ診断基準を満たした128名を含む) に対して, 腹痛頻度および腹満感頻度, 体験の回避 (AAQ-Ⅱ), 消化器症状に関連した不安 (VSI-J), 抑うつ気分・不安気分 (DAMS) に関する質問紙調査を実施した. 結果 : 構造方程式モデリングの結果, 体験の回避が消化器症状に関連した不安に対して正の影響 (0.30) を示した. さらに, 消化器症状に関連した不安と腹痛頻度および腹満感頻度には有意な正のパス係数 (0.55) が示された (Χ2=1.13, df=2, p=0.57, GFI=0.998, AGFI=0.988, RMSEA=0.000). 結論 : 体験の回避は消化器症状に関連した不安を介して, 腹痛頻度および腹満感頻度に影響を及ぼすことが示された.