科学における再現性の危機に対して,Goodmanらによる方法・結果・推論の再現可能性の観点から,問題点と解決法について整理した.再現可能性問題への解決法としては,仮説検証を適切に行うために研究者の自由度を低める事前登録,データ・解析コード・マテリアルなどを公開するオープンサイエンス実践がある.本稿では,これらの研究実践が『BioPsychoSocial Medicine』誌においてどの程度行われているか調査を行った.その結果,臨床試験は事前登録されているが,それ以外の研究デザインでは少ないこと,データやコードを外部リポジトリや雑誌サイトで公開することは少ないことが示された.オープンサイエンス実践は研究公正に必要であり,今後の普及が期待される.
メタアナリシスとは,各研究の効果から普遍的な集団(母集団)での効果を推定するために各研究の効果を統合する統計学的手法である.メタアナリシスでは,サンプルサイズによらず各研究の結果を比較可能な形に変換した効果量(エフェクトサイズ)と呼ばれる指標を用いる.エフェクトサイズの統合は,各研究がどの程度確からしいか(標準誤差)に応じて重み付けをしてから平均する.重み付けの方法は「真の値はただ1つである」と仮定するfixed effect modelと,「真の値は幅があるもの」と考えるrandom-effects modelに分けられる.一般的にはrandom-effects modelのほうが保守的な結果になるため推奨される.
本稿では,Yangらの論文を例として,エフェクトサイズの代表であるmean differenceとstandardized mean differenceの算出方法,結果の統合方法(fixed effect modelとrandom-effects model),統計学的異質性について解説する.
多様な領域においてベイズ的な統計手法を使った研究が増えている一方で,心身医学やその関連領域である精神医学や心理学において,そうした研究は多くない.この理由として,ベイズ統計を用いることによって,どのような知見を得ることが可能かを解説した文献が少ないことが考えられる.そこで本稿においては心身医学領域においてベイズ的手法が重要な知見を与えられることをネットワーク解析と統計モデリングという2つの観点から述べたうえで,先行研究の概説を行った.また,ベイズ統計を心身医学領域の研究者が行う際に留意すべきことについての議論も行った.
近年,心理社会的介入の効果を評価するデザインとして心理学のさまざまな分野で古くから用いられてきた,Single-Case Experimental Design(SCED)が再注目されている.本稿では,SCEDが再注目される理由について,エビデンスレベルの再評価と研究手法の発展の観点から論じた.そして,統計分析手法として非重複率に基づく指標に焦点を当て,算出方法の解説をした.具体的には,PND,PEM,IRD,NAP,Tau-Uの計算方法について説明した.また,それらの解釈基準についても説明した.
本稿では,質的データの解析手法として,自然言語処理技術として発展を続けている構造的トピックモデル(Structural Topic Model:STM)を紹介する.自然言語とは人間が互いにコミュニケーションを取るための自然発生的な言語である.この自然言語をコンピュータに処理させる技術を自然言語処理という.この自然言語処理の技術の1つとしてSTMがある.STMとは,Latent Dirichlet Allocation(LDA)を用いて,トピックとしてまとめられる潜在変数に基づいて観測された単語を生成する統計的なアプローチである.STMを用いることにより,入力した文書の「意味」のまとまりをつかむことができる.実践例として,夏目漱石の『こころ』を題材にSTMを実施した結果,『こころ』で語られる時勢の遷移による価値観の変化とこの変化がもたらす「わからなさ」を浮き彫りにする結果が示された.扱うテキストの前処理など,実用上の課題はあるものの,STMの今後の臨床研究への活用が期待される.
症例は46歳,女性.突然激しい頭痛が出現したため救急搬送,脳MRI,MRAでは異常所見を認めなかった.その後も連日激しい頭痛発作を生じ,発症8日後に当院脳神経外科に入院した.連日激しい頭痛を訴え,頭を抱えて大声で叫ぶなど過剰反応と思える言動が続き,心因の関与する片頭痛の疑いで紹介となった.排便や入浴で頭痛が誘発されるという特徴から可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome:RCVS)を疑い脳MRI,MRAを再検,多発性の脳血管攣縮と後頭葉の血管性浮腫の所見を認めRCVSと診断した.Lomerizine内服など対症療法で症状は改善,神経合併症なく退院した.RCVSは発症早期に脳画像検査で異常を確認できないことが多く,診断のpitfallとなるため注意が必要である.
高齢者の身体症状症は成人に比べてデータが乏しく難治といわれている.高齢者の身体症状症あるいは身体表現性障害の症例報告をみても外来で対応できるものが大半である.しかし今回は身体症状から身の回りのことができなくなるまで悪化した高齢の身体症状症の患者に入院森田療法を実施して改善へ導くことができたので報告する.この症例が入院森田療法で改善した点については①いくつかの身体症状について身体科を受診させ状況を把握した,②高齢にかかわらず症状を抱えて作業療法に没頭できた,③治療後半で全か無かといったパターンの修正,体力に応じた活動をできるようになった,ことが挙げられる.最終的には現在の身体状況を事実として受け入れて活動できたと考えられた.これが森田療法の治療目標である,「あるがまま」といった心境といえる.