プライマリ医療には心身医学的な問題が数多くあり, 心身両面からのケアが必要とされている. プライマリ・ケア領域において心身医学の知識やスキルを活かすことができるが, 残念ながら心身医学が浸透しているとはいえない.
総合診療部門に来院される初診患者の25〜35%は専門診療科が定まらない機能的疾患で, 心身症に該当する割合が高い. 従来の診療では対応に難渋されることも多いが, 当科では心身医学的な視点で関わることで, 早期に診断・治療が行われ, 終結に至る症例も少なくない. 「不定愁訴群」 といわれてきたこのような疾患群は, 近年, 医学的に説明困難な身体症状 (medically unexplained symptoms : MUS), 機能性身体症候群 (functional somatic syndromes : FSS) と表現されるようになっている. 本稿ではFSSを中心に心身医学との関連を述べる.
名著『心身医学』出版後半世紀以上が経ち, 心身医学分野で扱う内科的疾患は, 薬剤や検査法などの技術的発展も重なり, 大きく様変わりしている. 消化器疾患についてつぶさにみていくと, 胃病変では消化性潰瘍から機能性ディスペプシアへ中心が移っているが, 病態仮説として粘膜の微小炎症とストレス, さらにヘリコバクター・ピロリ菌, さらに代謝疾患などの慢性疾患の合併などにより, ヘリコバクター・ピロリ関連ディスペプシアや胃麻痺などの病態も脚光を浴びつつある. また食道病変でも胃食道逆流症において, 難治性疾患として逆流性食道知覚過敏や機能性胸焼け, さらに機能性食道病変の指標の1つであるシカゴ分類によりアカラシア以外に, いくつかの機能性病変が定義づけされている. 一方下部消化管病変では, 潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患から, 過敏性腸症候群や機能性下痢, 機能性便秘, さらに骨盤底筋群の機能不全による, 協調不全性排便や骨盤底機能障害など泌尿生殖器系とも関連した病変が指摘されている. 今後心身医学分野で, どういった疾患が取り扱われるべきか, その傾向を探る.
・慢性咳嗽, 慢性呼吸苦の訴えに対し, まずbiologicalな病態の鑑別を入念に行う.
・咳喘息などの慢性咳嗽患者では一般の気管支喘息患者よりも抑うつ・不安といったpsychologicalな因子の関与が大きいことが示唆されている.
・肺気腫などの慢性呼吸苦に対してはpsychologicalおよびsocialな問題の評価が重要である.
・Bio-psycho-socialといった視点で問題評価を行うことが, 慢性咳嗽や慢性呼吸苦のコントロールにおいて非常に重要である.
循環器領域の疾患, 病態はほとんどが心身症に含まれる. 高血圧が循環器系心身症の代表であるが, 本稿では高血圧以外の虚血性心疾患と心不全を取り上げ, その心身医学的側面について簡潔に述べる. 虚血性心疾患については心身医学的発症メカニズムと心理社会的問題, 関係性の課題について述べる. また包括的心臓リハビリテーションの重要性とチーム医療におけるよきファシリテーターとしての医師の役割について述べる. 心不全については基礎疾患や併存疾患の多様性と臨床経過の特徴を述べ, おのおのの進展ステージにおける全人的アプローチの重要性について述べる. 心不全の診療, とりわけその終末期緩和医療の現場から発せられたキュアとケアのニーズに端を発し, 今や循環器心身医療は大きな広がりをみせている.
7 holy diseases以降に重要になってきた内分泌・代謝領域の心身症における心身医学的研究の知見について紹介した.
糖尿病では発症や経過に影響するさまざまな心理社会的要因が明らかとなっている. また, 心身医学的アプローチとしては, うつ病合併例では抗うつ薬が有効なほか, エンパワーメント, アクセプタンス&コミットメントセラピー, 解決志向アプローチ, コーチング, ナラティブ・アプローチなどが有用である. クッシング症候群ではうつ病との鑑別がしばしば問題となる (偽性クッシング症候群). また, Soninoらの一連の研究は, 下垂体性のクッシング病の心身症的側面を示唆している. 摂食障害はDSM-5によると, 神経性無食欲症, 神経性大食症, むちゃ食い障害に分けられ, 現在最も有効なエビデンスのある心理療法は認知行動療法である. 肥満症患者の心理的特徴は, ①低い自己評価, ②困難な問題を回避する傾向, ③すべての欲求や衝動に対する自己コントロールが不良という3つにまとめられ, 必ず減量に加えてストレスマネジメントや認知行動療法などの心身医学的アプローチが必要である.
関節リウマチを含むリウマチ膠原病疾患患者は健常人と比較して, うつ病, 不安障害などの発症率が高いことが報告されている.
乾癬性関節炎, 全身性エリテマトーデス, 血管炎症候群については, 副腎皮質ステロイド, 免疫抑制剤, 生物学的製剤などを組み合わせた集学的治療によって原疾患の治療成績が向上した. 同時に合併するうつ病も改善することが示された.
しかし, 原疾患の再燃への不安, 薬剤副作用への不安, 倦怠感, 活力の低下, 緊張, 焦燥など原疾患との関連が否定できない愁訴に対しては, 心身医学的アプローチが必要になる.
シェーグレン症候群, 線維筋痛症については, 原疾患をコントロールする確立された治療法がない. そのため, 原疾患が緩徐ではあるものの進行することに対する不安感, 薬剤が効きにくい慢性疼痛, 倦怠感などの愁訴については, 心身医学的アプローチが重要である.
サイコネフロロジーとは腎臓病学と心身医学・精神医学・心理学・看護学などとの共通する部分を扱う学問である. サイコネフロロジーで扱う領域は①慢性腎臓病患者の精神的ケア, ②腎代替療法に関わるスタッフのメンタルヘルス, ③慢性腎臓病患者の腎代替療法に関わる意思決定支援, ④非がん患者の緩和ケア, ⑤精神疾患や精神症状をもつ慢性腎臓病患者の診療などがある. 慢性腎臓病は, その経過に心理社会的な因子が強く関連する心身症としての側面をもち, 心身医学的アプローチが有用である. 慢性腎臓病患者が腎代替療法に至る背景には 「対象喪失」 の心理がある. さらには抑うつや不安, 治療のノンアドヒアランスなどに至ることもあり, 慢性腎臓病の診療全体を通じて継続した関わりができる心療内科医の存在が, 今後ますます期待される.
日本の一般女性における摂食障害の認識を明らかにすることを目的に, 病名の認知度と摂食障害に関する誤解や偏見に関するWEBアンケートを実施し, メディアからの情報入手が誤解・偏見に与える影響を検討した.
回答者は4,107名の女性で, 平均年齢は27.0±7.4歳であった. 摂食障害を 「よく知っている」 が17.7%, 「ある程度知っている」 が43.5%, 「病名を聞いたことあるが, 症状などはよく知らない」 が27.8%, 「病名も聞いたことがない」 が6.5%であった. 病名の認知度は高い順から 「うつ病」 > 「拒食症」 ≒ 「過食症」 > 「子宮頸がん」 > 「摂食障害」 > 「統合失調症」 であった. 全般的にメディアからの情報入手が多いほうが摂食障害に対する誤解や偏見が少ない傾向にあったが, 摂食障害は 「ダイエットが一番の原因である」 「母親の育て方が原因である」 とする項目については, 特定のメディアからの情報入手があるほうが, そうであると考える人が多かった.