北朝鮮産の夏大根麦(Hatekunmek)とエチオピア産のE.36との交雑によってえられる雑種(F
1)は,現品種のもつ補足遺伝子の作用によって幼苗致死性である。この原因を細胞学的に明らかにするために,一方の現品種,夏大根麦とF
1雑種の発芽初期における根の生長過程と,根端,第1葉,茎頂の分裂組織細胞を調べた。 種子を25℃,暗黒の条件下で発芽させると,種子浸漬後25時間まではF
1雑種と夏大根麦の根は殆んど同様な生育を示した。しかし,その後,現品種は正常に生育して80時間目に約36mmとなったが,F
1雑種は7mmで枯死した。根端の分裂組織を中央縦断面で比較したところ,75時間目に現品種は930μm,雑種は600μmの長さであった。つぎに,種子浸漬後のいろいろな時間に
3H-thymidineを2時間とりこませて,オートラジオグラフ法を用いてスライドを作成した。各固定時間のスライドについて,細胞核上に現像銀粒子が観察された細胞の出現頻度と細胞分裂指数とを記録した。 まず,根端分裂組織では,
3H-ラベル細胞は夏大根麦,F
1雑種とも種子浸漬後7時間目から現われたが,その後は,F
1雑種の場合には30時間目頃から減少し,90時間目には夏大根麦にくらべて約20%減少していた。一方,細胞分裂像は両品種ともに浸漬後12~14時間目から観察されはじめ,その後,30時間目までは同様た増加傾向を示したが,この時間以後は,夏大根麦の場合にくらべて,F
1雑種の分裂指数は低下し,浸漬後9O時間目には約35%も減少していた。浸漬後75時間目の根端中央縦断面で伸長帯の細胞の長さを測定した結果,F
1雑種では平均130μm,夏大根麦では約190μmであり,F
1雑種の細胞の伸長は約30%阻止されていると考えられた。また,子葉鞘では,細胞の伸長は約60%減少していた。これらのことから,F
1雑種では,細胞伸長のための代謝活性も低下していることがわかった。
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